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第6章 これからの活動に向けて
第158話 ギルドと受付嬢と嫁候補
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今日は朝から大忙しだった。王城へ向かうというのに、ティナさんが起きないのだ。相変わらずの平常運転である。
「ティナさーん、起きてくださいよー」
「あと……5分……」
「ティナ、早く起きて」
「あと……10分……」
(延びてる……)
「はぁぁ……面倒くさいので、起きないなら置いていくから。それじゃあ、ニーナさん、ご飯食べに行こうか?」
「……ま、待って!!」
ティナは、ケビンの置いていく発言に、すぐさま覚醒してベッドから飛び起きるのであった。
「やれば出来るんだから、普通に起きればいいのに」
その後、3人は食卓に向かいニコニコとしたサラに出迎えられ、どうやらティナの表情を見ただけで、中々起きてこなかったのを察したらしく、色々と突っ込まれて揶揄われるのだった。
朝食を終えて少しすると馬車の準備が整い、ケビンたちは、王都にある別宅へと出発した。
「朝から行っても公務があるでしょうから、登城するのはお昼ご飯を食べてからにしようかしら」
「それがいいね」
「それならもう少し寝れたかも……」
「ティナ、いくら客扱いを受けていても、それは失礼」
「ふふっ、いいのよ。手のかかる妹ができたみたいで楽しいわ」
「ティナさんって、相手に慣れてしまうと地が出てくるよね。最初はあんなにビクついていたのに」
「神経が図太い」
「ちょ、ニーナ!」
「ニーナさんも、気楽にしてていいのよ? 将来はケビンのお嫁さんになるんだから、もう家族みたいなものよ」
「お気遣いありがとうございます」
「まだまだ硬いわね。もっと柔らかくてもいいのに」
「ティナさんとニーナさんは対照的だからね。手のかかる姉さんとしっかり者のお姉ちゃんって感じで」
「なっ!? ケビン君まで! 私だってやる時はやるのよ!」
「常日頃からそうあるべき」
「まぁ、それはそれでティナさんらしくないから、面白みに欠けるんだけど」
「酷いわよ。2人して私を虐めるなんて」
「ふふふっ、楽しいわね。ケビンと2人で過ごしていた時とは、また違う楽しさがあるわ」
そのまま談笑を繰り広げながら、馬車は別宅へと到着した。リビングでくつろぎながらどう暇を潰そうかと思っていたら、ティナさんが王都のギルドにクエストを見に行こうと誘ってきた。
「ギルドにですか?」
「そうよ。王都支部は大きいから、クエストも沢山あるはずよ」
「いいのがあっても、午後から予定があるから受けれませんよ?」
「それでも暇つぶしにはなるわ。もしかしたら、近場でいいのがあるかもしれないし」
「ニーナさんはどう思います?」
「敵情視察、要確認」
ニーナは以前にケビンがケンであった頃、王都の受付嬢からお世話になっていたことを聞いており、ティナとは違ってそのことを忘れずにいたのだった。
「敵情視察って言っても、王都近辺の魔物を狩りに行けるとも限らないし」
ニーナの言った言葉を、間違った方向に解釈したケビンは、普通に返してしまった。
「とにかく、行くだけ行ってみましょうよ」
サラにギルドへ行ってくる旨を伝えると、ケビンたちは街中へと向かう。
出しなに「サーシャさんによろしくね」と言われたが、知り合いだったのだろうかと思いつつもケビンは自宅を後にした。
やがてギルドへ到着して中へ入ると、ケビンたちは冒険者たちから視線を浴びせられることになる。
「これって絡まれるパターンですかね? ガキが、美女2人連れてるんじゃねぇとか」
「もう、ケビン君ったら美女だなんて……」
「ケビン君なら瞬殺だよ。問題ない」
しかし、冒険者たちはヒソヒソと話しているだけで、全く絡まれるような雰囲気がなかったので、ケビンは不思議に思いつつも2階へと上がって行った。
掲示板に近寄ろうとすると、冒険者たちが慌てて端へと避けて、花道の如き道ができあがる。
「これって異常よね?」
「かなり」
「何なんだろうね」
不思議な状況に疑問を抱きつつも、ケビンは掲示板の依頼内容に目を通す。
「結構、色んな魔物がいますね」
「ワイバーンとか戦ってみたいわ」
「空にいるから面倒くさいよ」
「魔法で撃ち落とす」
「サイクロプスとかもあるわね」
「如何にも怪力自慢って感じだね」
「アリゲーターって何かしら?」
「見た感じワニ型の魔物だと思うよ。河川付近に棲息してるんじゃない?」
そんな会話をしていると、ふと後ろから声をかけられた。
「もしかして……ケン君?……」
振り返るとそこには、1人の受付嬢が立っていた。
「ケン君!」
いきなり勢いよく抱きつかれるが、2つの膨らみに包み込まれて、ケビンはタジタジとなってしまう。
「戻ってきてたのね。心配してたんだよ? 記憶をなくしてたって聞いていたから」
サーシャは、ケビンを包み込みつつ見下ろしながら尋ねると、ケビンは膨らみから顔を出し、見上げながら答える。
「サーシャさん、久しぶりですね。元気にしてましたか?」
「私は元気よ。ケン君はどうなの? 頭痛は相変わらずあるの?」
「俺も元気ですよ。頭痛は思い出そうとすると再発しますね。でも、母さんに会ってから一部は思い出せました」
「よかったね。それならケビン君の方がいいかな?」
「どうして俺の名前を?」
ケビンは、サーシャに名前を教えてなかったので、なぜ知っているのかと、ふと疑問に思ってしまい尋ねた。
「ケビン君が保養地に旅立った後に、サラ様がここに来られたのよ。ケビン君の情報を手に入れるために」
「そうだったんですか。何かご迷惑をかけてませんでしたか?」
「初めてサラ様の威圧を受けたわ。さすが伝説の冒険者よね。誰も動くことができなかったから」
「申し訳ありません。後で母さんには、きつく言っておきますので」
「いいのよ。意図的に情報を伏せた、私が悪いんだし」
「冒険者のプライバシーを守るためでは?」
「違うのよ。当時、ケビン君のことを嗅ぎ回っている人たちがいるって聞いて、家族が探してたとは知らずに、ケビン君のことを守ろうとして情報を明かさなかったの。その後に、誤解は解けてお茶に誘われたりしたんだけどね」
「あぁ、それで出かける前に、サーシャさんによろしくって言ってたんですね」
ここにきてようやく自宅からの出しなに、サラの言った言葉の意味が理解できた。
「あー……ゴホンっ!」
あからさまにわざとらしい咳払いに視線を向けると、ティナとニーナがジト目でケビンたちを見ていた。
「中々に熱い抱擁ね」
「まるで恋人同士」
その言葉を聞いたサーシャは、自分が今何をしているのか改めて意識してしまい、バッとケビンから離れるのだった。
「と、とにかく元気そうでよかったわ」
サーシャは慌てて取り繕うも、ティナたちのジト目は留まるところを知らない。
周りの冒険者もその様子を見ており、あちこちでヒソヒソと話をしていた。
(俺のサーシャちゃんがぁ……)
(あいつ……半年前ぐらいにいたルーキーだろ?)
(美女2人に、サーシャちゃんまで……)
(神は死んだ……)
(あの子カワイイ!)
(私もハグしたいなぁ……)
周りが好き勝手言ってる中で、ティナはサーシャに尋ねる。
「貴女がサーシャさんね。ケビン君から、良くしてもらったって聞いているわ」
「ライバル出現」
「あの、貴女たちは?」
「私はティナよ。ケビン君の嫁候補!」
「私はニーナ。同じく嫁候補!」
自信満々に答える2人に、ケビンは慌てて止めに入る。
「ちょ、ちょっと、2人とも何言ってんの!」
「自己紹介よ。普通でしょ?」
「普通」
「いや、自己紹介はいいけど、言ってる内容が、普通じゃないよね!?」
「「違うの?」」
「冒険者なら、ランクとか職種とか言うよね!?」
「私はAランク冒険者、弓術士よ」
「同じくAランク冒険者、魔術師」
2人の突拍子もない内容の自己紹介に、サーシャは唖然としていたが、見過ごせないことを言っていたので、ケビンに尋ねることにした。
「ケビン君、本当なの?」
「2人は、本当にAランク冒険者ですよ」
「そこじゃない」
「紛れもなく弓術士と魔術師ですよ」
「そこでもない」
「……ん? ……他に何かあります?」
「嫁候補の部分よ」
「あぁ、はい。一応」
ケビンの答えに反応したのは、サーシャではなくティナたちだった。
「一応って何よ! 一応って!」
「事実であり真実」
「ちょっと2人は黙ってて。話が進まない」
ケビンは、2人が混じると話が脱線してしまうので黙るように伝えると、ティナたちはシュンとなって黙るのであった。
「ケビン君、保養地で何してたの?」
サーシャが、瞳の笑っていない迫力のある笑顔で、ケビンを問い詰めた。
「え……記憶によれば、温泉に入ってましたけど?」
「ふーん、ケビン君は、温泉に入るだけで嫁候補が出来ちゃうんだ?」
「それはなんと言いますか、旅の成り行きですね」
「へぇー旅の成り行きで、嫁候補が出来ちゃうんだ?」
「えぇと、……何か怒ってます?」
「別に怒ってないわよ? 私が心配している間に、ケビン君が嫁候補を引っ掛けていたとしても、私は全然怒ってないわよ?」
「はぁぁ……怒ってますよね? ご心配かけていたのにすみません」
「いいのよ、別に……ケビン君が、どこの誰を嫁候補にしようと、嫁候補じゃない私には、関係ないわよね?」
ここまで言われてしまえば、いくらケビンでも察することができた。要は、ティナとニーナにサーシャが嫉妬しているのだ。
「わかりました。サーシャさんさえ良ければ、嫁候補になってくれませんか? まだ結婚することはできませんが」
「……いいの?」
思いもよらぬケビンからの提案に、サーシャはキョトンとしながらも聞き返していた。
「悪ければ言いませんよ。一生に関わることですよ?」
「私、意外と嫉妬深くて面倒くさい女よ?」
「それは今話しててわかりましたから。許容範囲ですよ。超えたら文句の1つも言いますけどね」
「……嘘じゃない?」
「本当ですよ。あまり執拗いと面倒くさいから取り消しますよ?」
「それは、ヤダ!」
「それならいいですね? これからも末永くよろしくお願いします」
「――ッ! ありがとう、大好きよ!」
サーシャはケビンに抱きつくと、ありのままの気持ちを伝えた。一連の状況を見ていた周りの冒険者からは拍手が巻き起こり、中には涙する男の冒険者や歯を食いしばる者までいた。
そんな中、騒ぎを聞き付けたギルドマスターである、カーバインが奥からやって来た。
「一体何の騒ぎだ?」
カーバインが辺りを見回すと、騒ぎの発生源であるケビンたちを、取り囲むように冒険者たちが周りに居たので、原因の特定が難なく可能であった。
「おい、サーシャ。朝から堂々とよくやるもんだな」
「ギ、ギルドマスター!」
思いもよらぬ人物の登場で、サーシャは現実に引き戻される。
「あ、カーバインさん。ご無沙汰しています。タミアはいい所でしたよ」
ケビンは特に現状を気にした風でもなく、平常運転で挨拶を済ませた。
「おお、ケンか。懐かしいな」
「一応、記憶の一部が戻ったので、今後はケビンでお願いします」
「そいつは良かったな。で、何の騒ぎだ? ケビンが原因であるのは見てわかるが」
「あぁ、それは俺がサーシャさんに、プロポーズしたからですよ」
「……は?」
カーバインは、突拍子もないことをケビンから伝えられ、唖然とするしかなかった。
「まだ、結婚はしませんけど。嫁候補という位置づけです」
「……はぁ……お前にはいつも驚かされるな」
「まぁ、成り行きでそうなってしまったんですけど」
「で、本来の目的はクエストか?」
「そうですね。午後から予定があるので、近場で何かいいのがあれば、受けようかと思いまして」
「確か、Cランクだったか?」
「いえ、今はAランクです」
「えっ!? ケビン君、Aランクになったの!?」
サーシャの発した言葉に、周りの冒険者たちは騒然とした。
「お前……あんなに、規格外になりたくないって言っておきながら、Aランクに上がったのかよ」
「あぁ、それはケンの時の話ですよね。ランクが上がったのは、交易都市の一件が終わった時に、母さんの計らいで受付嬢が手続きしてくれたんですよ」
「交易都市って……もしかしてアレやったのはお前か?」
「俺じゃなくて母さんですね。俺を闇ギルドの討伐対象にしたのが耳に入ったらしく、拷問されながら粛正されてましたから」
「よりにもよって、お前を討伐対象か……逆鱗どころの騒ぎじゃないぞ。よくあいつらは死なずに済んだな」
カーバインは、交易都市のギルドマスターと受付嬢の悪事が表沙汰となり退職したことは知っていたが、現場で起きていた詳細までは知らなかったのだ。
「母さんを見た時に記憶が戻って、俺が止めてから犯罪奴隷に落としましたので。その時に、口が災いして2人とも腕を1本失いましたけどね。あれで、鉱山労働ができるのか疑問ですけど」
「腕1本で命が助かれば儲けもんだろう。本来なら死んでるぞ」
「それよりも、何か手頃なクエストとかありませんか?」
「クエスト関連なら、未だお前に抱きついている、サーシャに探してもらえ」
その言葉に、今まで黙ってたティナとニーナが、ここぞとばかりに口を挟んでくる。
「そーよ! 貴女、いつまでケビン君に抱きついているのよ!」
「ズルい」
「いや、何故か不思議と離れたくない感覚に囚われていまして」
そう言ってもなお、離れようとしないサーシャであった。それから、2人を宥めつつクエストを物色してみるが、近場で狩れるようなAランククエストがなく、喋りこんでいる間に時間も経っていたので、王都見物をしながら自宅に帰ることになったのだった。
「ティナさーん、起きてくださいよー」
「あと……5分……」
「ティナ、早く起きて」
「あと……10分……」
(延びてる……)
「はぁぁ……面倒くさいので、起きないなら置いていくから。それじゃあ、ニーナさん、ご飯食べに行こうか?」
「……ま、待って!!」
ティナは、ケビンの置いていく発言に、すぐさま覚醒してベッドから飛び起きるのであった。
「やれば出来るんだから、普通に起きればいいのに」
その後、3人は食卓に向かいニコニコとしたサラに出迎えられ、どうやらティナの表情を見ただけで、中々起きてこなかったのを察したらしく、色々と突っ込まれて揶揄われるのだった。
朝食を終えて少しすると馬車の準備が整い、ケビンたちは、王都にある別宅へと出発した。
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「ふふっ、いいのよ。手のかかる妹ができたみたいで楽しいわ」
「ティナさんって、相手に慣れてしまうと地が出てくるよね。最初はあんなにビクついていたのに」
「神経が図太い」
「ちょ、ニーナ!」
「ニーナさんも、気楽にしてていいのよ? 将来はケビンのお嫁さんになるんだから、もう家族みたいなものよ」
「お気遣いありがとうございます」
「まだまだ硬いわね。もっと柔らかくてもいいのに」
「ティナさんとニーナさんは対照的だからね。手のかかる姉さんとしっかり者のお姉ちゃんって感じで」
「なっ!? ケビン君まで! 私だってやる時はやるのよ!」
「常日頃からそうあるべき」
「まぁ、それはそれでティナさんらしくないから、面白みに欠けるんだけど」
「酷いわよ。2人して私を虐めるなんて」
「ふふふっ、楽しいわね。ケビンと2人で過ごしていた時とは、また違う楽しさがあるわ」
そのまま談笑を繰り広げながら、馬車は別宅へと到着した。リビングでくつろぎながらどう暇を潰そうかと思っていたら、ティナさんが王都のギルドにクエストを見に行こうと誘ってきた。
「ギルドにですか?」
「そうよ。王都支部は大きいから、クエストも沢山あるはずよ」
「いいのがあっても、午後から予定があるから受けれませんよ?」
「それでも暇つぶしにはなるわ。もしかしたら、近場でいいのがあるかもしれないし」
「ニーナさんはどう思います?」
「敵情視察、要確認」
ニーナは以前にケビンがケンであった頃、王都の受付嬢からお世話になっていたことを聞いており、ティナとは違ってそのことを忘れずにいたのだった。
「敵情視察って言っても、王都近辺の魔物を狩りに行けるとも限らないし」
ニーナの言った言葉を、間違った方向に解釈したケビンは、普通に返してしまった。
「とにかく、行くだけ行ってみましょうよ」
サラにギルドへ行ってくる旨を伝えると、ケビンたちは街中へと向かう。
出しなに「サーシャさんによろしくね」と言われたが、知り合いだったのだろうかと思いつつもケビンは自宅を後にした。
やがてギルドへ到着して中へ入ると、ケビンたちは冒険者たちから視線を浴びせられることになる。
「これって絡まれるパターンですかね? ガキが、美女2人連れてるんじゃねぇとか」
「もう、ケビン君ったら美女だなんて……」
「ケビン君なら瞬殺だよ。問題ない」
しかし、冒険者たちはヒソヒソと話しているだけで、全く絡まれるような雰囲気がなかったので、ケビンは不思議に思いつつも2階へと上がって行った。
掲示板に近寄ろうとすると、冒険者たちが慌てて端へと避けて、花道の如き道ができあがる。
「これって異常よね?」
「かなり」
「何なんだろうね」
不思議な状況に疑問を抱きつつも、ケビンは掲示板の依頼内容に目を通す。
「結構、色んな魔物がいますね」
「ワイバーンとか戦ってみたいわ」
「空にいるから面倒くさいよ」
「魔法で撃ち落とす」
「サイクロプスとかもあるわね」
「如何にも怪力自慢って感じだね」
「アリゲーターって何かしら?」
「見た感じワニ型の魔物だと思うよ。河川付近に棲息してるんじゃない?」
そんな会話をしていると、ふと後ろから声をかけられた。
「もしかして……ケン君?……」
振り返るとそこには、1人の受付嬢が立っていた。
「ケン君!」
いきなり勢いよく抱きつかれるが、2つの膨らみに包み込まれて、ケビンはタジタジとなってしまう。
「戻ってきてたのね。心配してたんだよ? 記憶をなくしてたって聞いていたから」
サーシャは、ケビンを包み込みつつ見下ろしながら尋ねると、ケビンは膨らみから顔を出し、見上げながら答える。
「サーシャさん、久しぶりですね。元気にしてましたか?」
「私は元気よ。ケン君はどうなの? 頭痛は相変わらずあるの?」
「俺も元気ですよ。頭痛は思い出そうとすると再発しますね。でも、母さんに会ってから一部は思い出せました」
「よかったね。それならケビン君の方がいいかな?」
「どうして俺の名前を?」
ケビンは、サーシャに名前を教えてなかったので、なぜ知っているのかと、ふと疑問に思ってしまい尋ねた。
「ケビン君が保養地に旅立った後に、サラ様がここに来られたのよ。ケビン君の情報を手に入れるために」
「そうだったんですか。何かご迷惑をかけてませんでしたか?」
「初めてサラ様の威圧を受けたわ。さすが伝説の冒険者よね。誰も動くことができなかったから」
「申し訳ありません。後で母さんには、きつく言っておきますので」
「いいのよ。意図的に情報を伏せた、私が悪いんだし」
「冒険者のプライバシーを守るためでは?」
「違うのよ。当時、ケビン君のことを嗅ぎ回っている人たちがいるって聞いて、家族が探してたとは知らずに、ケビン君のことを守ろうとして情報を明かさなかったの。その後に、誤解は解けてお茶に誘われたりしたんだけどね」
「あぁ、それで出かける前に、サーシャさんによろしくって言ってたんですね」
ここにきてようやく自宅からの出しなに、サラの言った言葉の意味が理解できた。
「あー……ゴホンっ!」
あからさまにわざとらしい咳払いに視線を向けると、ティナとニーナがジト目でケビンたちを見ていた。
「中々に熱い抱擁ね」
「まるで恋人同士」
その言葉を聞いたサーシャは、自分が今何をしているのか改めて意識してしまい、バッとケビンから離れるのだった。
「と、とにかく元気そうでよかったわ」
サーシャは慌てて取り繕うも、ティナたちのジト目は留まるところを知らない。
周りの冒険者もその様子を見ており、あちこちでヒソヒソと話をしていた。
(俺のサーシャちゃんがぁ……)
(あいつ……半年前ぐらいにいたルーキーだろ?)
(美女2人に、サーシャちゃんまで……)
(神は死んだ……)
(あの子カワイイ!)
(私もハグしたいなぁ……)
周りが好き勝手言ってる中で、ティナはサーシャに尋ねる。
「貴女がサーシャさんね。ケビン君から、良くしてもらったって聞いているわ」
「ライバル出現」
「あの、貴女たちは?」
「私はティナよ。ケビン君の嫁候補!」
「私はニーナ。同じく嫁候補!」
自信満々に答える2人に、ケビンは慌てて止めに入る。
「ちょ、ちょっと、2人とも何言ってんの!」
「自己紹介よ。普通でしょ?」
「普通」
「いや、自己紹介はいいけど、言ってる内容が、普通じゃないよね!?」
「「違うの?」」
「冒険者なら、ランクとか職種とか言うよね!?」
「私はAランク冒険者、弓術士よ」
「同じくAランク冒険者、魔術師」
2人の突拍子もない内容の自己紹介に、サーシャは唖然としていたが、見過ごせないことを言っていたので、ケビンに尋ねることにした。
「ケビン君、本当なの?」
「2人は、本当にAランク冒険者ですよ」
「そこじゃない」
「紛れもなく弓術士と魔術師ですよ」
「そこでもない」
「……ん? ……他に何かあります?」
「嫁候補の部分よ」
「あぁ、はい。一応」
ケビンの答えに反応したのは、サーシャではなくティナたちだった。
「一応って何よ! 一応って!」
「事実であり真実」
「ちょっと2人は黙ってて。話が進まない」
ケビンは、2人が混じると話が脱線してしまうので黙るように伝えると、ティナたちはシュンとなって黙るのであった。
「ケビン君、保養地で何してたの?」
サーシャが、瞳の笑っていない迫力のある笑顔で、ケビンを問い詰めた。
「え……記憶によれば、温泉に入ってましたけど?」
「ふーん、ケビン君は、温泉に入るだけで嫁候補が出来ちゃうんだ?」
「それはなんと言いますか、旅の成り行きですね」
「へぇー旅の成り行きで、嫁候補が出来ちゃうんだ?」
「えぇと、……何か怒ってます?」
「別に怒ってないわよ? 私が心配している間に、ケビン君が嫁候補を引っ掛けていたとしても、私は全然怒ってないわよ?」
「はぁぁ……怒ってますよね? ご心配かけていたのにすみません」
「いいのよ、別に……ケビン君が、どこの誰を嫁候補にしようと、嫁候補じゃない私には、関係ないわよね?」
ここまで言われてしまえば、いくらケビンでも察することができた。要は、ティナとニーナにサーシャが嫉妬しているのだ。
「わかりました。サーシャさんさえ良ければ、嫁候補になってくれませんか? まだ結婚することはできませんが」
「……いいの?」
思いもよらぬケビンからの提案に、サーシャはキョトンとしながらも聞き返していた。
「悪ければ言いませんよ。一生に関わることですよ?」
「私、意外と嫉妬深くて面倒くさい女よ?」
「それは今話しててわかりましたから。許容範囲ですよ。超えたら文句の1つも言いますけどね」
「……嘘じゃない?」
「本当ですよ。あまり執拗いと面倒くさいから取り消しますよ?」
「それは、ヤダ!」
「それならいいですね? これからも末永くよろしくお願いします」
「――ッ! ありがとう、大好きよ!」
サーシャはケビンに抱きつくと、ありのままの気持ちを伝えた。一連の状況を見ていた周りの冒険者からは拍手が巻き起こり、中には涙する男の冒険者や歯を食いしばる者までいた。
そんな中、騒ぎを聞き付けたギルドマスターである、カーバインが奥からやって来た。
「一体何の騒ぎだ?」
カーバインが辺りを見回すと、騒ぎの発生源であるケビンたちを、取り囲むように冒険者たちが周りに居たので、原因の特定が難なく可能であった。
「おい、サーシャ。朝から堂々とよくやるもんだな」
「ギ、ギルドマスター!」
思いもよらぬ人物の登場で、サーシャは現実に引き戻される。
「あ、カーバインさん。ご無沙汰しています。タミアはいい所でしたよ」
ケビンは特に現状を気にした風でもなく、平常運転で挨拶を済ませた。
「おお、ケンか。懐かしいな」
「一応、記憶の一部が戻ったので、今後はケビンでお願いします」
「そいつは良かったな。で、何の騒ぎだ? ケビンが原因であるのは見てわかるが」
「あぁ、それは俺がサーシャさんに、プロポーズしたからですよ」
「……は?」
カーバインは、突拍子もないことをケビンから伝えられ、唖然とするしかなかった。
「まだ、結婚はしませんけど。嫁候補という位置づけです」
「……はぁ……お前にはいつも驚かされるな」
「まぁ、成り行きでそうなってしまったんですけど」
「で、本来の目的はクエストか?」
「そうですね。午後から予定があるので、近場で何かいいのがあれば、受けようかと思いまして」
「確か、Cランクだったか?」
「いえ、今はAランクです」
「えっ!? ケビン君、Aランクになったの!?」
サーシャの発した言葉に、周りの冒険者たちは騒然とした。
「お前……あんなに、規格外になりたくないって言っておきながら、Aランクに上がったのかよ」
「あぁ、それはケンの時の話ですよね。ランクが上がったのは、交易都市の一件が終わった時に、母さんの計らいで受付嬢が手続きしてくれたんですよ」
「交易都市って……もしかしてアレやったのはお前か?」
「俺じゃなくて母さんですね。俺を闇ギルドの討伐対象にしたのが耳に入ったらしく、拷問されながら粛正されてましたから」
「よりにもよって、お前を討伐対象か……逆鱗どころの騒ぎじゃないぞ。よくあいつらは死なずに済んだな」
カーバインは、交易都市のギルドマスターと受付嬢の悪事が表沙汰となり退職したことは知っていたが、現場で起きていた詳細までは知らなかったのだ。
「母さんを見た時に記憶が戻って、俺が止めてから犯罪奴隷に落としましたので。その時に、口が災いして2人とも腕を1本失いましたけどね。あれで、鉱山労働ができるのか疑問ですけど」
「腕1本で命が助かれば儲けもんだろう。本来なら死んでるぞ」
「それよりも、何か手頃なクエストとかありませんか?」
「クエスト関連なら、未だお前に抱きついている、サーシャに探してもらえ」
その言葉に、今まで黙ってたティナとニーナが、ここぞとばかりに口を挟んでくる。
「そーよ! 貴女、いつまでケビン君に抱きついているのよ!」
「ズルい」
「いや、何故か不思議と離れたくない感覚に囚われていまして」
そう言ってもなお、離れようとしないサーシャであった。それから、2人を宥めつつクエストを物色してみるが、近場で狩れるようなAランククエストがなく、喋りこんでいる間に時間も経っていたので、王都見物をしながら自宅に帰ることになったのだった。
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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