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第5章 交易都市ソレイユ

第130話 2人の想い②

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 薪拾いを終えた私たちは、野営場へと戻ってきた。テントはすでに出来上がっていたようだ。やはり4人用は大きい。

 それから、焚き火があるはずであろう場所に視線を向けると、竈が出来ていたので、いつもとは違うありえない光景に、私たちは驚いた。

 ロイドに確認したら、どうやらケンが作ったらしい。すぐさま私はケンにその方法を聞いた。

「ケン、どうやって竈を作った?」

「魔法でちょいちょいっと作りました」

「教えて」

「ニーナさんは、【土】属性持ちでしたね。ここだと、ロイドさんの料理の邪魔になりますので、あちらに移動しましょう」

 そう言ってケンは、少し離れた場所へと向かったので、私は後をついて行く。ちょいちょいって言ってたから、私にもすぐに出来るだろうと、この時は思っていた。

「まず、ニーナさん。こんな感じに土壁を作れますか?」

 ケンがやって見せたのは、《アースウォール》の極小バージョンだった。詠唱は? 魔法名は? 今、何も言わずにやったよね? どういうこと?

 ケンへ早速問いただすと、特にこれと言った詠唱はなく、魔法であって魔法でないらしい。

 うん、全く意味がわからない……

 ケン曰く、魔力を使うので魔法だが、使用時に決まった詠唱がないから、先程のように言った“魔法であって魔法でない”という回答に、行きつくのだそうだ。

 哲学的だ……

「そもそも作製した竈はですね、詠唱がない理由として、攻撃にも防御にも使えず、誰もこんな魔法は作ってないというのが現実です。あえて言うなら、料理用の魔法ですからね。生活魔法とも言えますね」

 生活魔法……? そんな魔法は聞いたことがない。

「誰も作ってないなら、何故ケンは使える?」

「それが魔法だからです」

「難しい……」

「とりあえずやってみましょう。まずはこの地面に、魔力を流し込んでみて下さい」

「魔力を流し込む?」

 相変わらず難しいことを言う。

「ロイドさんに聞いたんですけど、魔導具だって魔力を流し込むものがあるでしょう? あの要領でやればいいんですよ」

 確かにあるけど……あまり魔導具は使ったことがないし、あれは魔石があるから出来ているだけで、何もない地面に、魔力を流し込むなんてどうすればいいのよ。

「やっぱり難しい……」

「つかぬことをお聞きしますが、【魔力操作】っていうスキルは持っていますか? 言いたくなければ別にいいですよ」

「ケンになら教えても問題ない。ちなみに持っていない」

「ないんですね。それは困りましたね……」

「ケンは持ってる?」

「俺は持ってますよ。細かい作業には必須ですから」

「ズルい」

 ケンは、なんでそんなに色々と出来るのだろうか? 剣術は凄いし、魔法に関しても凄い。ズルいことのオンパレードだ。

「とりあえずニーナさんは、【魔力操作】を身につけれるようにしましょう。あるのとないのとでは、魔法1つとってもかなりの差が出ますから」

「そんなに違う?」

「【魔力操作】があると、スキルレベルにもよりますが、同じ初級魔法でも、魔力を込めて威力を上げ消費するMPが増加したり、逆に魔力を抑えて威力を下げ消費するMPが減少したりします。慣れるとMPの消費を抑えた状態で威力の調整が出来たりもします」

 それはいいことを聞いた。魔術師にとってMPは生命線だ。節約できるようになるなら節約したい。

「やり方教えて」

「まず、自分の中にある魔力は、感じ取れますか?」

 自分の中にある魔力……?

「魔法をどんどん使っていると、感覚的にあとどれだけ使えるか、わかったりしたことってないですか?」

「ある」

「それはMPの残量が、感覚的にわかるということです。それと似た感覚を意識して、意図的に魔力を感じてみてください」

 似た感覚を意識して……ん、これかな? なんかある気がする……

「わかった」

「それがMPのタンクです。魔法は、そのタンクから無意識に魔力を吸い出して使っています」

「なるほど」

「今度はそのタンクから、体中に魔力が流れているのがわかりますか?」

「体中に?」

「そうです。魔力を使い果たすと倦怠感が現れ、体を動かすのも億劫になったりしませんでしたか?」

「なった」

「それはタンクの中身が少なくなって疲れたのと、体中に巡っていた魔力が少なくなったことで起こる現象です。魔法使いは基本的に、戦闘において近接戦闘職みたいに体力を使うようなことはしません。ソロでもない限りは。それなのに、近接戦闘職みたいに疲れ果てて、体を動かしたくなくなるのは、魔力を消費してしまって、体中に流れている量が減ってしまったからなんです」

 なんともわかりやすい。

「近接戦闘職は体力を、魔法使いは魔力をそれぞれ消耗し、同じような疲れ方をするので、体力と魔力は切っても切れない関係にあります。両方に適性がある場合は、練度次第ですが満遍なく使うので、人よりも疲れにくくなります」

「どうして?」

「考えても見てください。ニーナさんが両方に適性があったとして、魔法を唱えながら、剣戟を交わしますか? やろうと思えば出来なくもないですけど、慌ただしくなりますよね?」

「確かに慌ただしい」

「魔法を唱えている時は極力動かず、魔法を使わない時は近接をする。つまり、静と動が別れているわけです。近接をして疲れたら動かず休み、消費した体力を回復させるため魔法で攻撃する。逆に魔法で魔力を消費したら、消費した魔力を回復させるため近接で時間を稼ぐ。ゆえに、人よりも疲れにくくなるんです」

「敵は待ってくれない」

「そうですね。だから、練度次第になるわけです。俺みたいなオールラウンダーは練度を上げないと、器用貧乏になるだけで、ソロではやっていけないんですよ。まぁ、話は逸れましたが、魔力が体中を巡っていることは理解してもらえましたか?」

「バッチリ。ケン、先生になれる」

「それならニーナさんは、記念すべき生徒1号ですね」

 生徒1号……初めての生徒。なんか響きがいい……

「それでまずは、この体中を巡っている魔力が、わかるようになってください。これがわかるようになると、次の段階へ移りますので頑張ってくださいね」

「頑張る!」

 それから私は試行錯誤しながら、体中に流れる魔力を感じ取ろうと頑張った。だけど、中々上手く感じ取れない。こんなことを、難なくやってのけているケンはやっぱり凄い。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ロイドが、夕食の準備が出来たと知らせてきたので、私たちは竈の周りを囲み、夕食を摂ることにした。

 夕食が終わると、ガルフたちはそそくさとテントへ入りこんで休んだ。ケン君がこんな早い時間から寝ることを不思議がっていたが、野営をする以上、見張りの時間帯とかが関係してくるので、いつでも寝れるようにするのが基本だと教えた。

 ケン君が気配探知を使っているおかげで、見張りは楽な仕事へと早変わりし世間話に傾倒した。

 ケン君は、自分がいるから見張りの人数が、多くなっていることに気づいてた。元々私たちだけなら1人配置だからだ。

 ケン君が慣れてきたらそうなるだろうけど、ケン君だけは、1人配置にならないことを伝えると、残念がっていた。

「ケン1人だと、何かあっても1人でやりそうで危ない。」

「あはは……理解されすぎてバレてますね」

「もう、ケン君が強いのはわかるけど、パーティーなんだから、1人でやっちゃダメだよ」

「パーティーは助け合い」

 ニーナはいいことを言う。これからは少しでも私たちを頼って欲しい。今まで1人でやっていたから、すぐに頼るのは難しいだろうけど。

 そんな話をしていると、初めてケン君と会った時のことを思い出した。あの時は、まさか一緒に旅をするとは思わなかった。

 今思えば、思い切ったことを宣言してしまった。ケン君からしてみれば、初めて会った人から母親と嫁宣言されたんだものね。

 普通に考えたらドン引きよね。ケン君の境遇を聞いて、同情していた部分は確かにあったと思う。何もなければ、礼儀正しい感じのいい子で終わっていたもの。

 だけど、私は後悔なんてしてない。始まりは同情的な部分もあったかも知れないけど、今では純粋にケン君が好きだから。

 そんな私の告白にニーナも続いた。ニーナは最近アピールするようになってきたから、ケン君が気になっていたのか疑問を口にした。

「そういえば、ニーナさんはいつ好きになったんですか?」

「ケンの初討伐のとき。剣術がカッコよかった。毒マジロに魔法を使った時は完全に堕ちた」

 あの時は、確かにカッコよかったなぁ。剣術のときは全く姿を追えなかったけど、魔法はちゃんと見れたからよかったわ。

 だけど、魔法に関しても、詠唱を省略して発動させたのよねぇ。ニーナが反則とか言ってるけど、確かにあれは反則よねぇ。

 魔法使い相手だと、詠唱している相手に向かって、どんどん魔法が放てるもの。

「そのうちニーナさんも出来ますよ」

「頑張る!」

 ふふっ、ニーナったらケン君に言われたからって、張り切っちゃって。結局、見張りの間は、世間話をして終わってしまった。

 ケン君が、ガルフたちを起こして引継ぎしている間に、私たちはテントへと入っていった。
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