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第4章 新たなる旅立ち
第119話 息子が絡むと見境ない
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――時は遡り
ケンが保養地への旅を満喫している頃、カロトバウン家本宅では、サラがソファでくつろぎつつも暇を持て余していた。
(コンコン)
「入っていいわよ」
ドアが開いて中へと入室したのは、メイド長であるカレンだった。
「奥様、別宅のマイケルから連絡が届きました」
「そう。何か進展があったのかしら?」
「王都内での聞き込みと捜索の結果、保護されている可能性が低くなりました。それとアイン様からの情報で、ケビン様はもしかしたら隠蔽のスキルを持っているのではないか? とのことです」
「それなら持っているわよ。恐らくかなりの練度だから常時使っていたら、たとえあなたたちでも、見つけられないかもしれないわ」
「知っておられたのですか?」
カレンは、ケビンがそのスキルを持っているのを、サラが知っていたのなら、事前に教えて欲しかったこともあり、つい聞き返してしまった。
「そうね。それを知ったのは誘拐事件があった時よ。ケビンの口から聞いたから確実な情報ね。それに、シーラも知っているはずよ。一緒に行動してたから。あとは探知系スキルも持っているわよ。こっちもかなりの練度ね。」
さらに明かされる事実に、カレンは驚愕した。気配を隠蔽されながら探知を使われたら、自分たちにはもう打つ手がないからだ。
「そんなに気にしなくてもいいわ。私だって近くまで行かないと、わからないぐらいだから。それに、探知系は使わないんじゃないかしら。別に私たちから、逃げているわけではないのだから」
「わかりました。マイケルにはそのように伝えておきます」
「報告はそれだけかしら?」
「もう1点。これは聞き込みをしていく内に、わかったことなんですが……ケビン様らしき人物を見たとの情報がありました」
「それは僥倖ね」
ここにきて、ようやく手がかりが掴めたかもしれないことに、サラは安堵するのであった。
「しかし、私たちが姿を確認したわけではなく、その姿を見た者によれば、あくまでも“そのような子供であった気がする”とのことで、未だ確証を持てず、推測の域を出ませんが……今までで1番の有力情報だと思います」
「どういった情報なのか、聞かせてちょうだい」
カレンは居住まいを正し、語りだした。
「聞き込みをした者のうち、冒険者からの情報で、“ここ最近は見かけてないが2、3回くらいは、ギルドにスラム育ちじゃない子供がいた”とのことです」
「冒険者ギルドに?」
「はい。それから他の冒険者にも聞き込みをしたところ、その子供は、子供らしからぬ強さで、初日でDランク、その後Cランクへ上がったそうです」
「その子供は、ほぼ間違いなくケビンのような気もするわね。あの子の強さならそのくらい楽勝でしょうから」
「私たちも最初はそう思いましたが、現段階でケビン様は記憶をなくしておられ、果たしてそのような状態で、以前ほどの強さを発揮できているのか? という点で、未だ確信には至っておりません」
「確かにそうね」
サラは、ケビンが記憶のない状態で、戦闘を行えるかどうか黙考するが、記憶をどこまでなくしているのかわからない以上、考えても答えは出ないと思い、頭を切り替えることにした。
「その子供の情報は、他にないのかしら?」
「その子供が使っていたとされる宿屋へ赴きましたが、既に引き払ったあとで、現在は、冒険者たちに行き先を知らないか、あたっているところです」
「困ったわねぇ。そうなると、もう王都にはいない可能性が高いわね」
「私もそのように感じております」
「問題はその子供がケビンであるのか? もしケビンであるのなら、何処へ向かったのか? この2点に絞られてくるわね」
「では、そこに焦点を絞り捜索を続けるよう、マイケルに伝えたいと思います」
カレンの言葉に、サラが意を決したように伝える。
「待ちなさい。私自ら冒険者ギルドに向かうわ」
「奥様自らですか?」
「貴女たちでは使用人の域を出ないから、接触できる人も限られてくるわ。こと冒険者ギルドに関しては、私の方がいいでしょう。短期間でランクアップしているのなら、必ずと言っていいほど、ギルドマスターが関与しているのだし。急いで馬車の準備をしてちょうだい」
「かしこまりました」
それから数時間後、本宅を出発したサラは別宅へと到着していた。それから華美なドレスではなく、動きやすい軽装に着替え、そこからは歩いて冒険者ギルドに向かっていた。
スイングドアに手をかけ中へと入ると、冒険者たちから注目を集める。ギルドに不釣り合いな女性が入ってきたことで、冒険者たちの関心を引いてしまったのだ。
「ここも変わってないわねぇ」
独りごちるサラに対し、声をかける冒険者がいた。
「よう、姉ちゃん。ここはあんたが来るような場所じゃないぜ。悪いこと言わねぇから、さっさと帰んな」
「あらあらあら。私をお姉さん扱いしてくれるの? 貴方は見かけによらずいい人なのね」
何を隠そう声をかけたのは、ケンが初日に声をかけられた大柄で、いかにもな感じの冒険者だった。
見た目は凄く悪そうだが、中身は真逆なとてもいい人ではあるが、見た目のせいで損をしているのだった。
「褒め言葉は受け取っておくが、帰った方がいいぞ」
「ご親切にありがとう。でもギルドに用事があるから、帰るわけにはいかないわ」
「用事があるなら仕方ねぇが、せいぜい気をつけるんだな」
そう言い残し、冒険者は手を引いた。最初の1回は注意するが、あとは自己責任であると割り切っているのだ。
サラはそのまま階段を上がり、2階へと足を運んだ。受付へ行こうとすると、後ろからまたもや声をかけられる。
「よう、ここはあんたが来るような場所じゃないぜ。それともワイルドな男でも漁りに来たのか? なんなら俺たちが相手をするぜ」
サラが振り返ると、そこには、ニヤニヤといやらしい顔をした3人組がいた。
「男は結構よ。間に合っているもの」
「まぁ、そう言わずに俺たちと遊ぼうや。一晩中可愛がってやるからよ。なんなら一晩と言わずに、これからずっと飽きるまで相手してやってもいいんだぜ」
「そうそう、俺たちが優しく相手してやるからよ」
「気持ちいいことしようや」
三者三様で卑猥な言葉を並べる男たちに対して、サラは溜息をつきつつも答える。
「相変わらず、貴方たちみたいなゲスがいるのね。三下臭が半端ないわよ?」
「人が下手に出てりゃあ、つけ上がりやがって。いいからこっち来いよ!」
男がサラの腕をつかもうとしたら、サラが身をかわしたため、空を切って掴めなかった。
「貴方みたいなゲスの汚れた手で、私を触らないでくださる? せっかくのお洋服が腐るわ」
周りの冒険者たちはいつものことなのか、そのうち誰か止めるだろうと大して気にもしなかった。
「なんだと、クソアマ! お前ら取り囲んで捕まえるぞ!」
3人組がサラを取り囲んで捕まえようとして、さすがにマズいと思ったのか、周りの冒険者たちが動こうとしたとき、サラはどこから取り出したのか、右手に持つ扇子で男の鳩尾を突いた。
「はとぅー!」
男は発した言葉と共にくの字に曲がり、2階フロアからギルド入口側の壁へと一直線に飛んでいった。そして壁に激突後、2階の高さから1階のフロアへと落下する。
「へぶんっ!」
残りの2人組は目が点になり、飛んで行った仲間の方を見ていた。
ギルド内はシンと静寂に包み込まれた。1階はいきなり落ちてきた冒険者に呆然となり、2階は見事に飛んで行った冒険者に呆然として。
少しすると、飛んでいった男に駆け寄る1階フロアの冒険者たち。2階フロアに至っては、未だ静まり返ってる。
「まだやるのかしら? 一晩中相手してくれるのよね?」
その呼びかけに対し残りの2人組は、『ギギギ』と壊れかけの機械のような音が聞こえてきそうな感じで、ゆっくりとサラに顔を向ける。
「確か……飽きるまで、とも言っていたわね」
その言葉に命の危険を感じ取り、勢いよく首を横に振る2人組。
「なら、もう行っていいかしら?」
今度は勢いよく縦に首を振る。見後なシンクロ率を見せる2人組は、サラが立ち去ると、慌てて1階の仲間のところへと駆けつけた。
サラはそのまま受付へと向かうと、受付嬢から声をかけられる。
「ようこそ、冒険者ギルド王都支部へ。どの様なご要件ですか?」
「あら、意外と冷静ね。慣れてるのかしら?」
「あの3人組は、前にも同じ問題を起こしましたので」
そう言った受付嬢は、当時を思い出したのか笑みをこぼした。
「何か楽しいことでも思い出したのかしら?」
「すみません、失礼しました。あの時も同じように撃退されたんです。あまりにも似すぎていて、思い出してしまいました」
「前にも女性から倒されたの? 学習能力がないわねぇ」
「いえ、その時は小さな男の子でした。それで、ご要件は何でしょうか?」
「――!」
サラは、受付嬢のその言葉を聞き逃さなかった。もしかしたら、カレンの報告した子供かもしれないからだ。
「その小さな男の子に関することよ。ギルドマスターに、取り次いで頂けるかしら」
受付嬢はここ最近、ケンのことを嗅ぎまわっている者たちがいると、冒険者伝いに聞いており、目の前の女性のことを怪しんだ。
「すみませんが、素性の知れない方を、ギルドマスターに会わせるわけにはいきません」
「そういえばまだ名乗ってなかったわね。私はサラ・カロトバウン、カロトバウン男爵家の者よ。それで、ギルドマスターに、取り次いで頂けるのかしら?」
「大変失礼だとは思いますが、何か証明するものをお持ちでしょうか?」
「思いのほか、教育が行き届いているのね。それにしても困ったわねぇ……証明するものなんて持ち歩いていないわ」
特に困っているふうでもない女性を見て、受付嬢はさらに訝しむのであった。
ギルドマスターに取り次ぐだけなら、名前を聞いた時点で窺いを立てるぐらいのことは可能なのだが、女性の要件がケンに関することだったので、折れるわけにもいかなかった。
「それではお取り次ぎできません。お引き取りを」
「意外と融通が効かないのねぇ。実力行使をしてもいいかしら? 取り次げないのであれば、出てきてもらうしかないのよね」
サラから不穏当な発言が漏れ出たことに、ギルド嬢は注意を促す。周りにいるものたちも、ただならぬ雰囲気に状況を見守っている。
「先程のを拝見して、それなりの実力がおありなのはわかりますが、ここはギルド内ですので、控えた方が身のためと思いますよ? ここにいる冒険者たちを敵に回すことになりますので」
段々と雲行きが怪しくなりつつある中、冒険者たちはいつでも動けるようにと身構えていた。
「ふふっ。仕方ないわね」
サラが発した言葉に諦めてくれたと思い、受付嬢たちと冒険者たちは安堵した。冒険者たちも寄って集って、女性を取り押さえたくはなかったのだ。
しかし、その考えが間違いであったと、すぐに気づかされることとなった。
「さぁ、何人耐えられるかしら?」
その言葉と同時に、絶対零度の威圧が解き放たれた。ギルド建物内を覆い尽くす威圧に、辺りは騒然とした。
「な……何を……」
「実力行使に出ると言ったでしょ? それにしても、貴女は中々耐えているわね。もう少し強めにいきましょうか?」
サラから言われた言葉に、周りのものが、今よりも威圧が強くなるのかと戦慄する。
「いくわよ?」
更に強くなった威圧があたりを覆い尽くし、冒険者たちは、立つことができずに膝をついた。
「貴女の頼みの綱である冒険者たちは、誰も動けないみたいよ? これでは、敵にすらなりえないわね。どうするの?」
「……くっ……」
「こうなるんだったら、最初からギルドマスターに取り次いだ方が、良かったんじゃないかしら? 貴女の対応で、周りの者たちは迷惑を被っているのよ? 途中までは、受付としての対応は立派だったけれど、取り付く島もなくなるのはいただけないわ。名乗ったのだし、ギルドマスターに会うかどうかくらいは、聞きに行った方が良かったのじゃないかしら」
淡々と述べていくサラに、受付嬢はなすすべがなかった。サラの言った通り、冒険者たちは誰も動ける状態にない。
「さて、取り次ぐの? 次がないの? 今となっては、どちらでもいいのだけれど。このまま奥まで行けばいいだけですから」
そこに1人の男が、奥の通路から壁伝いにやってくる。
「……そこまでに……してくれ」
サラが視線を向けると、額から汗を流しつつも、こちらへやってくる男に気づいた。
「あら? 貴方は確か……あの時いた冒険者かしら?」
「い……威圧を……解いてくれ。俺が……ギルド……マスターだ」
「あの時の再現でもしようかしら? 男に二言はないのよね?」
「ない……」
その瞬間、威圧が解かれた。周りの者は安堵の息を漏らし、みな思い思いに腰を落ち着かせて、状況を見守ることにした。
「それで、【瞬光のサラ】が一体何の用で来たんだ?」
周りの者たちがホッとしたのも束の間、ギルドマスターが発した言葉に、またもや騒然とする。
目の前にいる女性が、知る人ぞ知る伝説の冒険者だと言うのだ。先程まで対応していたギルド嬢も、驚愕に目を見開いた。
「聞きたいことがあって来たのだけれど、そこの受付嬢に拒否されたのよ」
「聞きたいこと?」
「ここ最近で、特に目立っている、小さな男の子のことよ」
「あぁ、それなら申し訳ない。俺がサーシャに、気にかけるよう言ったからな。守るために拒否したんだろ、許してやってくれ」
「そうなの?」
サラからの突然の言葉に、ビクッと体を震わせたが、サーシャは心を落ち着かせて答えた。
「はい、その通りです。ギルドマスターから気にかけるように言われ、ここ最近、嗅ぎまわっている人たちがいるとの情報を手に入れましたので、あのような態度を取ってしまいました。【瞬光のサラ】様とは知らず、大変失礼を致しました」
「わかったわ。では、静かに話せるところはないかしら?」
「ギルド長室があるから、そこで話そう。ついてきてくれ」
「サーシャさんだっけ? 貴女もいらっしゃい」
「私もですか?」
「そうよ」
サーシャは視線で、ギルドマスターに窺う。
「サラ殿が言っているんだ。同席して構わない。それに、あの子と関わりが深かっただろ? 無関係ってわけでもないしな」
それから3人はギルド長室に向かうと、3人が立ち去った現場では、伝説の冒険者に出会えたことを、みんな喜んでいた。
威圧されて被害を被ったことなど、既に頭の中にはないようであった。
ケンが保養地への旅を満喫している頃、カロトバウン家本宅では、サラがソファでくつろぎつつも暇を持て余していた。
(コンコン)
「入っていいわよ」
ドアが開いて中へと入室したのは、メイド長であるカレンだった。
「奥様、別宅のマイケルから連絡が届きました」
「そう。何か進展があったのかしら?」
「王都内での聞き込みと捜索の結果、保護されている可能性が低くなりました。それとアイン様からの情報で、ケビン様はもしかしたら隠蔽のスキルを持っているのではないか? とのことです」
「それなら持っているわよ。恐らくかなりの練度だから常時使っていたら、たとえあなたたちでも、見つけられないかもしれないわ」
「知っておられたのですか?」
カレンは、ケビンがそのスキルを持っているのを、サラが知っていたのなら、事前に教えて欲しかったこともあり、つい聞き返してしまった。
「そうね。それを知ったのは誘拐事件があった時よ。ケビンの口から聞いたから確実な情報ね。それに、シーラも知っているはずよ。一緒に行動してたから。あとは探知系スキルも持っているわよ。こっちもかなりの練度ね。」
さらに明かされる事実に、カレンは驚愕した。気配を隠蔽されながら探知を使われたら、自分たちにはもう打つ手がないからだ。
「そんなに気にしなくてもいいわ。私だって近くまで行かないと、わからないぐらいだから。それに、探知系は使わないんじゃないかしら。別に私たちから、逃げているわけではないのだから」
「わかりました。マイケルにはそのように伝えておきます」
「報告はそれだけかしら?」
「もう1点。これは聞き込みをしていく内に、わかったことなんですが……ケビン様らしき人物を見たとの情報がありました」
「それは僥倖ね」
ここにきて、ようやく手がかりが掴めたかもしれないことに、サラは安堵するのであった。
「しかし、私たちが姿を確認したわけではなく、その姿を見た者によれば、あくまでも“そのような子供であった気がする”とのことで、未だ確証を持てず、推測の域を出ませんが……今までで1番の有力情報だと思います」
「どういった情報なのか、聞かせてちょうだい」
カレンは居住まいを正し、語りだした。
「聞き込みをした者のうち、冒険者からの情報で、“ここ最近は見かけてないが2、3回くらいは、ギルドにスラム育ちじゃない子供がいた”とのことです」
「冒険者ギルドに?」
「はい。それから他の冒険者にも聞き込みをしたところ、その子供は、子供らしからぬ強さで、初日でDランク、その後Cランクへ上がったそうです」
「その子供は、ほぼ間違いなくケビンのような気もするわね。あの子の強さならそのくらい楽勝でしょうから」
「私たちも最初はそう思いましたが、現段階でケビン様は記憶をなくしておられ、果たしてそのような状態で、以前ほどの強さを発揮できているのか? という点で、未だ確信には至っておりません」
「確かにそうね」
サラは、ケビンが記憶のない状態で、戦闘を行えるかどうか黙考するが、記憶をどこまでなくしているのかわからない以上、考えても答えは出ないと思い、頭を切り替えることにした。
「その子供の情報は、他にないのかしら?」
「その子供が使っていたとされる宿屋へ赴きましたが、既に引き払ったあとで、現在は、冒険者たちに行き先を知らないか、あたっているところです」
「困ったわねぇ。そうなると、もう王都にはいない可能性が高いわね」
「私もそのように感じております」
「問題はその子供がケビンであるのか? もしケビンであるのなら、何処へ向かったのか? この2点に絞られてくるわね」
「では、そこに焦点を絞り捜索を続けるよう、マイケルに伝えたいと思います」
カレンの言葉に、サラが意を決したように伝える。
「待ちなさい。私自ら冒険者ギルドに向かうわ」
「奥様自らですか?」
「貴女たちでは使用人の域を出ないから、接触できる人も限られてくるわ。こと冒険者ギルドに関しては、私の方がいいでしょう。短期間でランクアップしているのなら、必ずと言っていいほど、ギルドマスターが関与しているのだし。急いで馬車の準備をしてちょうだい」
「かしこまりました」
それから数時間後、本宅を出発したサラは別宅へと到着していた。それから華美なドレスではなく、動きやすい軽装に着替え、そこからは歩いて冒険者ギルドに向かっていた。
スイングドアに手をかけ中へと入ると、冒険者たちから注目を集める。ギルドに不釣り合いな女性が入ってきたことで、冒険者たちの関心を引いてしまったのだ。
「ここも変わってないわねぇ」
独りごちるサラに対し、声をかける冒険者がいた。
「よう、姉ちゃん。ここはあんたが来るような場所じゃないぜ。悪いこと言わねぇから、さっさと帰んな」
「あらあらあら。私をお姉さん扱いしてくれるの? 貴方は見かけによらずいい人なのね」
何を隠そう声をかけたのは、ケンが初日に声をかけられた大柄で、いかにもな感じの冒険者だった。
見た目は凄く悪そうだが、中身は真逆なとてもいい人ではあるが、見た目のせいで損をしているのだった。
「褒め言葉は受け取っておくが、帰った方がいいぞ」
「ご親切にありがとう。でもギルドに用事があるから、帰るわけにはいかないわ」
「用事があるなら仕方ねぇが、せいぜい気をつけるんだな」
そう言い残し、冒険者は手を引いた。最初の1回は注意するが、あとは自己責任であると割り切っているのだ。
サラはそのまま階段を上がり、2階へと足を運んだ。受付へ行こうとすると、後ろからまたもや声をかけられる。
「よう、ここはあんたが来るような場所じゃないぜ。それともワイルドな男でも漁りに来たのか? なんなら俺たちが相手をするぜ」
サラが振り返ると、そこには、ニヤニヤといやらしい顔をした3人組がいた。
「男は結構よ。間に合っているもの」
「まぁ、そう言わずに俺たちと遊ぼうや。一晩中可愛がってやるからよ。なんなら一晩と言わずに、これからずっと飽きるまで相手してやってもいいんだぜ」
「そうそう、俺たちが優しく相手してやるからよ」
「気持ちいいことしようや」
三者三様で卑猥な言葉を並べる男たちに対して、サラは溜息をつきつつも答える。
「相変わらず、貴方たちみたいなゲスがいるのね。三下臭が半端ないわよ?」
「人が下手に出てりゃあ、つけ上がりやがって。いいからこっち来いよ!」
男がサラの腕をつかもうとしたら、サラが身をかわしたため、空を切って掴めなかった。
「貴方みたいなゲスの汚れた手で、私を触らないでくださる? せっかくのお洋服が腐るわ」
周りの冒険者たちはいつものことなのか、そのうち誰か止めるだろうと大して気にもしなかった。
「なんだと、クソアマ! お前ら取り囲んで捕まえるぞ!」
3人組がサラを取り囲んで捕まえようとして、さすがにマズいと思ったのか、周りの冒険者たちが動こうとしたとき、サラはどこから取り出したのか、右手に持つ扇子で男の鳩尾を突いた。
「はとぅー!」
男は発した言葉と共にくの字に曲がり、2階フロアからギルド入口側の壁へと一直線に飛んでいった。そして壁に激突後、2階の高さから1階のフロアへと落下する。
「へぶんっ!」
残りの2人組は目が点になり、飛んで行った仲間の方を見ていた。
ギルド内はシンと静寂に包み込まれた。1階はいきなり落ちてきた冒険者に呆然となり、2階は見事に飛んで行った冒険者に呆然として。
少しすると、飛んでいった男に駆け寄る1階フロアの冒険者たち。2階フロアに至っては、未だ静まり返ってる。
「まだやるのかしら? 一晩中相手してくれるのよね?」
その呼びかけに対し残りの2人組は、『ギギギ』と壊れかけの機械のような音が聞こえてきそうな感じで、ゆっくりとサラに顔を向ける。
「確か……飽きるまで、とも言っていたわね」
その言葉に命の危険を感じ取り、勢いよく首を横に振る2人組。
「なら、もう行っていいかしら?」
今度は勢いよく縦に首を振る。見後なシンクロ率を見せる2人組は、サラが立ち去ると、慌てて1階の仲間のところへと駆けつけた。
サラはそのまま受付へと向かうと、受付嬢から声をかけられる。
「ようこそ、冒険者ギルド王都支部へ。どの様なご要件ですか?」
「あら、意外と冷静ね。慣れてるのかしら?」
「あの3人組は、前にも同じ問題を起こしましたので」
そう言った受付嬢は、当時を思い出したのか笑みをこぼした。
「何か楽しいことでも思い出したのかしら?」
「すみません、失礼しました。あの時も同じように撃退されたんです。あまりにも似すぎていて、思い出してしまいました」
「前にも女性から倒されたの? 学習能力がないわねぇ」
「いえ、その時は小さな男の子でした。それで、ご要件は何でしょうか?」
「――!」
サラは、受付嬢のその言葉を聞き逃さなかった。もしかしたら、カレンの報告した子供かもしれないからだ。
「その小さな男の子に関することよ。ギルドマスターに、取り次いで頂けるかしら」
受付嬢はここ最近、ケンのことを嗅ぎまわっている者たちがいると、冒険者伝いに聞いており、目の前の女性のことを怪しんだ。
「すみませんが、素性の知れない方を、ギルドマスターに会わせるわけにはいきません」
「そういえばまだ名乗ってなかったわね。私はサラ・カロトバウン、カロトバウン男爵家の者よ。それで、ギルドマスターに、取り次いで頂けるのかしら?」
「大変失礼だとは思いますが、何か証明するものをお持ちでしょうか?」
「思いのほか、教育が行き届いているのね。それにしても困ったわねぇ……証明するものなんて持ち歩いていないわ」
特に困っているふうでもない女性を見て、受付嬢はさらに訝しむのであった。
ギルドマスターに取り次ぐだけなら、名前を聞いた時点で窺いを立てるぐらいのことは可能なのだが、女性の要件がケンに関することだったので、折れるわけにもいかなかった。
「それではお取り次ぎできません。お引き取りを」
「意外と融通が効かないのねぇ。実力行使をしてもいいかしら? 取り次げないのであれば、出てきてもらうしかないのよね」
サラから不穏当な発言が漏れ出たことに、ギルド嬢は注意を促す。周りにいるものたちも、ただならぬ雰囲気に状況を見守っている。
「先程のを拝見して、それなりの実力がおありなのはわかりますが、ここはギルド内ですので、控えた方が身のためと思いますよ? ここにいる冒険者たちを敵に回すことになりますので」
段々と雲行きが怪しくなりつつある中、冒険者たちはいつでも動けるようにと身構えていた。
「ふふっ。仕方ないわね」
サラが発した言葉に諦めてくれたと思い、受付嬢たちと冒険者たちは安堵した。冒険者たちも寄って集って、女性を取り押さえたくはなかったのだ。
しかし、その考えが間違いであったと、すぐに気づかされることとなった。
「さぁ、何人耐えられるかしら?」
その言葉と同時に、絶対零度の威圧が解き放たれた。ギルド建物内を覆い尽くす威圧に、辺りは騒然とした。
「な……何を……」
「実力行使に出ると言ったでしょ? それにしても、貴女は中々耐えているわね。もう少し強めにいきましょうか?」
サラから言われた言葉に、周りのものが、今よりも威圧が強くなるのかと戦慄する。
「いくわよ?」
更に強くなった威圧があたりを覆い尽くし、冒険者たちは、立つことができずに膝をついた。
「貴女の頼みの綱である冒険者たちは、誰も動けないみたいよ? これでは、敵にすらなりえないわね。どうするの?」
「……くっ……」
「こうなるんだったら、最初からギルドマスターに取り次いだ方が、良かったんじゃないかしら? 貴女の対応で、周りの者たちは迷惑を被っているのよ? 途中までは、受付としての対応は立派だったけれど、取り付く島もなくなるのはいただけないわ。名乗ったのだし、ギルドマスターに会うかどうかくらいは、聞きに行った方が良かったのじゃないかしら」
淡々と述べていくサラに、受付嬢はなすすべがなかった。サラの言った通り、冒険者たちは誰も動ける状態にない。
「さて、取り次ぐの? 次がないの? 今となっては、どちらでもいいのだけれど。このまま奥まで行けばいいだけですから」
そこに1人の男が、奥の通路から壁伝いにやってくる。
「……そこまでに……してくれ」
サラが視線を向けると、額から汗を流しつつも、こちらへやってくる男に気づいた。
「あら? 貴方は確か……あの時いた冒険者かしら?」
「い……威圧を……解いてくれ。俺が……ギルド……マスターだ」
「あの時の再現でもしようかしら? 男に二言はないのよね?」
「ない……」
その瞬間、威圧が解かれた。周りの者は安堵の息を漏らし、みな思い思いに腰を落ち着かせて、状況を見守ることにした。
「それで、【瞬光のサラ】が一体何の用で来たんだ?」
周りの者たちがホッとしたのも束の間、ギルドマスターが発した言葉に、またもや騒然とする。
目の前にいる女性が、知る人ぞ知る伝説の冒険者だと言うのだ。先程まで対応していたギルド嬢も、驚愕に目を見開いた。
「聞きたいことがあって来たのだけれど、そこの受付嬢に拒否されたのよ」
「聞きたいこと?」
「ここ最近で、特に目立っている、小さな男の子のことよ」
「あぁ、それなら申し訳ない。俺がサーシャに、気にかけるよう言ったからな。守るために拒否したんだろ、許してやってくれ」
「そうなの?」
サラからの突然の言葉に、ビクッと体を震わせたが、サーシャは心を落ち着かせて答えた。
「はい、その通りです。ギルドマスターから気にかけるように言われ、ここ最近、嗅ぎまわっている人たちがいるとの情報を手に入れましたので、あのような態度を取ってしまいました。【瞬光のサラ】様とは知らず、大変失礼を致しました」
「わかったわ。では、静かに話せるところはないかしら?」
「ギルド長室があるから、そこで話そう。ついてきてくれ」
「サーシャさんだっけ? 貴女もいらっしゃい」
「私もですか?」
「そうよ」
サーシャは視線で、ギルドマスターに窺う。
「サラ殿が言っているんだ。同席して構わない。それに、あの子と関わりが深かっただろ? 無関係ってわけでもないしな」
それから3人はギルド長室に向かうと、3人が立ち去った現場では、伝説の冒険者に出会えたことを、みんな喜んでいた。
威圧されて被害を被ったことなど、既に頭の中にはないようであった。
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武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
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といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
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フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
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朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
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帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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