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第3章 王立フェブリア学院 ~ 2年生編 ~

第72話 ストレス発散?

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 駆けつけてきた中でも、一際ガタイのいい男が仲間に声を掛ける。

「おい、こいつが例のガキか?」

「こいつで間違いありません。気配探知を使えて、尾行していた事を知っていたようです」

 今までデカい態度で襲ってきていた自称冒険者が答えた。

「ほう、気配探知が使えるのか。中々にやるな小僧」

「お前に褒められても、嬉しくないぞ。どうせなら美女を連れてこいよ」

「口も使えるようだな。出る杭は打たれるぞ? 早死したくなければ大人しく着いてくるんだな」

 今までの下っ端とは違い、軽口にも乗らず堂々とした佇まいだった。

「お前がこの中じゃ、1番強そうだな」

「相手の力量が測れるか。鍛えれば強くなりそうだが、俺らに目をつけられたのが運の尽きだな」

 ぶっちゃけ鑑定でステータス見たから、言ったんだけどね。別に測ったつもりはないよ?

「その言葉はそのまま返すよ。俺に手を出したのがお前らの運の尽きだ。あと、でかい口叩くなら相手の力量くらいわかれよ」

「くっくっくっ。面白いガキだ。あくまで大人しく着いてくる気はないんだな?」

「当たり前だろ。何で俺より弱い奴に従わなきゃいけない」

「なら仕方がない。お前ら遊んでやれ」

 その言葉が聞こえるや否や、周りにいたゴロツキ共が一斉に襲いかかってきた。というか、武器ぐらい持てよ。

「学習能力のない奴らだな」

 攻撃を躱しつつグーパンを手加減しながら撃ち込んでいく。一気に終わらせたら、折角のストレス発散が終わってしまうからだ。

「お前、何者だ?」

 余りの予想外な展開に、ガタイのいい男が聞いてくる。

「知りたきゃ、俺を倒すんだな」

「それしかないか……お前ら武器を使って構わん。多少の傷が残るのは仕方がない、頭には俺から報告する」

 男がそう言い放つと、周りにいた奴らは武器を構え始める。リーダー格の男を除くと14人か……

「今更、後悔しても遅いからな、血の気の多い部下共だから、かなり痛い思いをするぞ」

(さて、どうしたものか……殺っちゃっていいかな?)

『戦争!! 戦争!! 戦争!!』

「よろしい ならば戦争だ」

 瞬時に1番近くにいた敵の傍に移動すると、手加減なしの腹パンをキメる。

「ぐふぉっ!」

 男は血反吐を吐きながら倒れ込むが、獲物は使わせてもらうために、一時的にいただいておく。

「まず、1人目」

 何が起きたのかわからない奴らは、呆然と立ち尽くし隙だらけになった。それから周りにいる5人ほどを一気に斬り伏せる。

「これで、6人目だ。お前を除くと残り8人だな」

 手下共が漸く我に返り驚愕するが、何をどうしたらいいのかがわからず、只々恐れるだけであった。

「お前ら、相手は一人だ! 怯むんじゃねえ!」

 リーダー格の男が檄を飛ばすが、誰も動けないでいた。

「いいのか? 隙だらけだぞ?」

 震えながら武器を持っていた残りの奴らも片付け、剣についていた血を払う。辺りには先程まで意気揚々と、武器を構えていた奴らで埋め尽くされていた。

「さぁ、残るのはお前だけだ。たっぷりと楽しませてくれよ」

「た、頼む、見逃してくれ……俺は命令されただけなんだ」

「さっきまでの態度とはえらい違いだな。上から目線の物言いはどうした? 出る杭は打たれるのだろ? さぁ、打ちにこいよ」

「さっきのは間違いだ。あんたがここまで強いなんて知らなかったんだ」

「知らなかったじゃ済まされない世界で生きてきたんだろ? 今更、言い逃れするなよ。見苦しいぞ」

 こんなに隙を晒しているのに、さっきから全然襲ってこようともしない。興ざめだな……

「やる気がないならもういい」

 男はその言葉に見逃して貰えると思い、安堵の表情を浮かべたのだが、次の瞬間、視界に映ったのは自分の体だった。

 そこで男の意識はなくなり、永遠に目を覚ますことがなくなった。

「さて、帰るとするか」

 ケビンは、終わったとばかりに奪った剣を投げ捨てて、剣呑な雰囲気を和らげて、一言こぼすのであった。

『お疲れ様です。明日からはストーカーに、悩まされる事もなくなりそうですね』

『そうだな』

 ストレス発散が不完全燃焼となり、それによるストレスをさらに抱え込む事になるケビンだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


――街外れの倉庫

 手下が誰もいない倉庫内では、一人で酒を飲む男の姿があった。

(ガチャ)

 扉を開ける音に、漸く部下たちが帰ってきたのかと思って視線を向けると、そこには一人の男が立っていた。

「てめえか……何の用だ? 今はガキを攫うのに動いている最中だぞ」

「その事で1つ、君がまだ知らないだろう情報を、教えようと思ってね」

「あぁ? 俺様が知らない情報だぁ?」

「どうする? 聞くかい?」

「さっさと言いやがれ! その為に来たんだろうが!」

「仕方ないね。その傲慢な態度は目に余るが、教えてあげるよ」

「ちっ!」

 さっさと情報を寄越さない男に苛立ちを顕にするが、その男相手に苛立っても無駄な事が分かっているので、何とも言いようのない苛立ちになるのだった。

「君の部下たち、全員死んだよ」

「は?」

 余りにも突拍子のない内容に、男は思わず間の抜けた顔で、聞き返してしまっていた。

「はははっ、君のその顔が見れただけでも、教えに来た甲斐があるよ」

「ふざけんな! さっきガキを攫いに行ったばかりだぞ。今頃、ガキを攫ってる最中だ」

「君は一体誰の恨みを買ったんだい? 今はスラム街の入口で死体が転がってるって、街中が騒ぎになってるよ」

「恨みなんざ買いすぎて見当もつかねえよ。それは、確かな情報なんだろうな?」

「当たり前だろ? 野次馬に紛れて見てきたんだから。確かに君の部下たちだったよ」

「仮にもBランク冒険者の混じった奴らだぞ。犯人は誰だ? 冒険者か?」

「それは、不明らしい。誰も怪しい人影を見なかったそうだ。人気のない路地裏での出来事だからね。犯人もよくあんな場所に誘い出せたもんだよ」

 問題はそこじゃない……今後の計画に支障が出るってことだ。これ以上は攫ったガキを増やせない。計画の変更が余儀なくされた。

「まぁ、伝える事は伝えたし、私はもう帰ることにするよ。計画は、仕方ないけど変更するしかないだろうね」

「くそっ! あと少しで目標人数まで達したのに。犯人の奴は許さねぇ。計画の邪魔をしやがって!」

「犯人が誰かもわからない状況じゃ無理だろうね。それじゃあ、帰るとするよ。後日、また集まって計画を練り直すとしよう」

 男は何事もなかったかの様に、入口から出て行く。残された方の男は計画を邪魔された挙句、変更せざるを得ない状況に、今まで以上に苛立ちを感じ、独り言ちるのであった。

「何処の誰だかは知らねぇが、俺様に喧嘩売った事を後悔させてやる」
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