70 / 661
第2章 王立フェブリア学院 ~ 1年生編 ~
第66話 日常
しおりを挟む
闘技大会も無事に終わり、学院もいつもと変わらぬ日常へと戻っていった。ケビンも相変わらずダラダラと過ごし変わらぬ日常を満喫しようとしていたのだが、変わったことが1つだけあった。
「それでは、午前の授業はここまでです」
チャイムがなるとジュディさんから終了の言葉が出る。この言葉と同時にケビンは隠蔽系スキルをフル稼働させた。
その瞬間、クラスの誰からも認識されず安全を確保したかに思えたが、いつもの如く徒労に終わるのだった。
(ガラッ)
教室のドアを開け放ち現れたのは、何を隠そうケビンの姉であるシーラだった。その後方には付き添いのターニャもいた。
「ケビン、お昼ご飯を食べるわよ」
そう言い放ち教室内に入って来るが、当の本人は逃げるためにコソコソと背を低くして見つからないように移動を開始していた。
「シーラ、ケビン君はいないようですわよ」
「いや、いるわ! お姉ちゃんセンサーがビンビンに感じているもの」
「何ですのそれは? ケビン君が絡むとなると貴女の威厳も無きに等しいですわね」
「そんなものそこら辺の魔物にでも食わせておけばいいのよ」
そう言って教室を見渡すシーラに対して、是が非でも見つかりたくないケビンは息を潜ませつつ移動を開始するのだった。
あと少しでドアに差し掛かろうとした瞬間、謎のお姉ちゃんセンサーにキャッチされてしまう。
「いたわっ! ケビン、お昼に行くわよ」
何故だ!? 何故いつも発見されてしまう? 隠蔽系スキルは確かに機能しているはずだ。現にターニャさんには効いていた。
「や、やあ、姉さん。今日も来たの?」
見つかってしまえば大して意味のないスキルは解除して、ケビンはシーラに受け答えする。いきなりドア近くに現れたケビンに周りは吃驚するのだが今構っている暇はケビンにはない。
「あら、ケビン君はそんな所にいましたの? 気づきませんでしたわ」
「その反応が正常なんですよ、ターニャさん。隠蔽系スキル全開なのに見つけられる方がおかしいんです」
「貴方も大変ですのね」
「お互い苦労しますね」
1人の人間に振り回されるという境遇を共感し、仲間意識が自然と芽生える2人なのであった。
「なに2人でわかりあってるのよ。ほら、行くわよ」
「ちなみに拒否権は?」
「え? ケビンはお姉ちゃんと一緒にいたくないの?」
ケビンから言われた言葉でシーラは今にも泣きだしそうな顔である。だが心を鬼にして言うしかないとケビンは決意する。
「偶には1人になりたいことだってあるし、ゆっくり過ごしたいから」
「う……」
「う?」
「うわーん。ケビンに嫌われたぁ」
ターニャに抱きつき泣き始めるシーラにその光景を見てたじろぐケビン。周りからはヒソヒソと話し声まで聞こえてくる。
(おい、あの氷帝が泣いているぞ)
(完全無敗の女帝が負けた……だと!?)
(氷帝を泣かすなんて、ケビン君は何者なの?)
「はぁ、仕方ないですわね。とりあえずケビン君、お昼に行きますわよ」
「あ、はい。ターニャさん」
(何者なんだ!? あの氷帝を負かしたケビン君を従えているぞ)
(彼女が真の支配者なのか!?)
(お姉さま……ぽっ)
若干1名変なのが混じっていたが、その場に留まっていては何を言われ続けるかわかったものではないので、ケビンはターニャの提案に素直に従ったのだが裏目に出たようだ。
1人ぐずるシーラを引き連れて、ケビンたちは教室を後にする。
「ぐすっ……」
「いい加減泣きやみなさいな。ケビン君が困っているでしょう」
「だって、ケビンが拒否するって……」
「仕方ないですわね。ケビン君、手を繋いで下さるかしら」
そう言われたので、俺はターニャさんの手を握る。
「いや、私じゃないですわ」
ん? 違ったのか? ターニャさんの顔を見上げてみるが違うらしい。
(なんていう破壊力なのかしら。首を傾げてそんな無垢な目で見られてはたまりませんわ。シーラが没頭するのも頷けますわね)
「ま、まぁ、この手はそのままでいいですわ。反対の手でシーラの手を握って下さる?」
そういうことか……反対の手で今度は姉さんの手を握る。すると、ピクっと反応したので声をかけてみる。
「姉さん、もう泣き止んだ?」
ケビンの問いに、満面の笑みでシーラが答える。
「ケビンの愛で私復活!!」
(いや、愛はないけど……)
「本当に手のかかる人ですわね。それじゃあお昼に行きますわよ」
「ねぇ……ターニャはどうしてケビンと手を繋いでいるの?」
「た、たまたまですわ」
「俺から繋いだんだよ。姉さんだって繋いでいるだろ。仲間外れは良くない」
「ケビンが言うなら仕方ないわね」
(ふぅ、何とか誤魔化せましたわ。まさか、ケビン君の上目遣いにキュンとしたなんて口が裂けても言えませんわね)
それから3人はカフェテリアへと向かうのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
3人が立ち去ったあとの通路では……
(今日もケビン君とお話ができなかった……)
柱の陰から1人の女性が様子を窺いながら、3人のやり取りを見ていた。何を隠そうクリス本人である。
傍から見たらただの変質者と疑われる勢いだが、学院の制服を着ているおかげで変な人がいるなぁぐらいにしか思われていなかった。
氷帝がいつも会いに来ているので、クリスは中々ケビンに声が掛けられないでいた。ケビン自体は既にクリスが来ているのは気配察知で理解していたが、面倒なので気づかないふりを続けていた。
そんなことも露知らずここのところは毎日通っているが、柱の陰から見守る程度で終わっていた。
本人にとっては至って真面目なのだが、周りにいるのは初等部の1年である。
後に《柱女》と不名誉な渾名が、クリスに対してついたとかつかなかったとか。この時のクリスはまだ知らない……
「それでは、午前の授業はここまでです」
チャイムがなるとジュディさんから終了の言葉が出る。この言葉と同時にケビンは隠蔽系スキルをフル稼働させた。
その瞬間、クラスの誰からも認識されず安全を確保したかに思えたが、いつもの如く徒労に終わるのだった。
(ガラッ)
教室のドアを開け放ち現れたのは、何を隠そうケビンの姉であるシーラだった。その後方には付き添いのターニャもいた。
「ケビン、お昼ご飯を食べるわよ」
そう言い放ち教室内に入って来るが、当の本人は逃げるためにコソコソと背を低くして見つからないように移動を開始していた。
「シーラ、ケビン君はいないようですわよ」
「いや、いるわ! お姉ちゃんセンサーがビンビンに感じているもの」
「何ですのそれは? ケビン君が絡むとなると貴女の威厳も無きに等しいですわね」
「そんなものそこら辺の魔物にでも食わせておけばいいのよ」
そう言って教室を見渡すシーラに対して、是が非でも見つかりたくないケビンは息を潜ませつつ移動を開始するのだった。
あと少しでドアに差し掛かろうとした瞬間、謎のお姉ちゃんセンサーにキャッチされてしまう。
「いたわっ! ケビン、お昼に行くわよ」
何故だ!? 何故いつも発見されてしまう? 隠蔽系スキルは確かに機能しているはずだ。現にターニャさんには効いていた。
「や、やあ、姉さん。今日も来たの?」
見つかってしまえば大して意味のないスキルは解除して、ケビンはシーラに受け答えする。いきなりドア近くに現れたケビンに周りは吃驚するのだが今構っている暇はケビンにはない。
「あら、ケビン君はそんな所にいましたの? 気づきませんでしたわ」
「その反応が正常なんですよ、ターニャさん。隠蔽系スキル全開なのに見つけられる方がおかしいんです」
「貴方も大変ですのね」
「お互い苦労しますね」
1人の人間に振り回されるという境遇を共感し、仲間意識が自然と芽生える2人なのであった。
「なに2人でわかりあってるのよ。ほら、行くわよ」
「ちなみに拒否権は?」
「え? ケビンはお姉ちゃんと一緒にいたくないの?」
ケビンから言われた言葉でシーラは今にも泣きだしそうな顔である。だが心を鬼にして言うしかないとケビンは決意する。
「偶には1人になりたいことだってあるし、ゆっくり過ごしたいから」
「う……」
「う?」
「うわーん。ケビンに嫌われたぁ」
ターニャに抱きつき泣き始めるシーラにその光景を見てたじろぐケビン。周りからはヒソヒソと話し声まで聞こえてくる。
(おい、あの氷帝が泣いているぞ)
(完全無敗の女帝が負けた……だと!?)
(氷帝を泣かすなんて、ケビン君は何者なの?)
「はぁ、仕方ないですわね。とりあえずケビン君、お昼に行きますわよ」
「あ、はい。ターニャさん」
(何者なんだ!? あの氷帝を負かしたケビン君を従えているぞ)
(彼女が真の支配者なのか!?)
(お姉さま……ぽっ)
若干1名変なのが混じっていたが、その場に留まっていては何を言われ続けるかわかったものではないので、ケビンはターニャの提案に素直に従ったのだが裏目に出たようだ。
1人ぐずるシーラを引き連れて、ケビンたちは教室を後にする。
「ぐすっ……」
「いい加減泣きやみなさいな。ケビン君が困っているでしょう」
「だって、ケビンが拒否するって……」
「仕方ないですわね。ケビン君、手を繋いで下さるかしら」
そう言われたので、俺はターニャさんの手を握る。
「いや、私じゃないですわ」
ん? 違ったのか? ターニャさんの顔を見上げてみるが違うらしい。
(なんていう破壊力なのかしら。首を傾げてそんな無垢な目で見られてはたまりませんわ。シーラが没頭するのも頷けますわね)
「ま、まぁ、この手はそのままでいいですわ。反対の手でシーラの手を握って下さる?」
そういうことか……反対の手で今度は姉さんの手を握る。すると、ピクっと反応したので声をかけてみる。
「姉さん、もう泣き止んだ?」
ケビンの問いに、満面の笑みでシーラが答える。
「ケビンの愛で私復活!!」
(いや、愛はないけど……)
「本当に手のかかる人ですわね。それじゃあお昼に行きますわよ」
「ねぇ……ターニャはどうしてケビンと手を繋いでいるの?」
「た、たまたまですわ」
「俺から繋いだんだよ。姉さんだって繋いでいるだろ。仲間外れは良くない」
「ケビンが言うなら仕方ないわね」
(ふぅ、何とか誤魔化せましたわ。まさか、ケビン君の上目遣いにキュンとしたなんて口が裂けても言えませんわね)
それから3人はカフェテリアへと向かうのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
3人が立ち去ったあとの通路では……
(今日もケビン君とお話ができなかった……)
柱の陰から1人の女性が様子を窺いながら、3人のやり取りを見ていた。何を隠そうクリス本人である。
傍から見たらただの変質者と疑われる勢いだが、学院の制服を着ているおかげで変な人がいるなぁぐらいにしか思われていなかった。
氷帝がいつも会いに来ているので、クリスは中々ケビンに声が掛けられないでいた。ケビン自体は既にクリスが来ているのは気配察知で理解していたが、面倒なので気づかないふりを続けていた。
そんなことも露知らずここのところは毎日通っているが、柱の陰から見守る程度で終わっていた。
本人にとっては至って真面目なのだが、周りにいるのは初等部の1年である。
後に《柱女》と不名誉な渾名が、クリスに対してついたとかつかなかったとか。この時のクリスはまだ知らない……
6
お気に入りに追加
5,277
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる