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第2章 王立フェブリア学院 ~ 1年生編 ~

第62話 闘技大会 ~代表戦~ ⑤

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 一気に覚醒したケビンが視線を向ける先で、シーラは優しく微笑みながらケビンへ声をかける。

「おはよう、ケビン。よく眠れたかしら?」

「ね、姉さん……何故ここに?」

「貴方に会うためよ? ダメだった?」

「いや、ダメじゃないけど……」

「それにね、まだ代表戦が終わってないのよ」

「えっ? カトレアがサドンデスに出て勝ってるはずじゃ……」

「どの子?」

「そこの女の子」

 そう言って何気なくケビンが指差した先には、いつもケビンの傍らにいる女子生徒が呆然としていたのだった。

 それを見た瞬間、シーラは凍えるような威圧を女の子に向けるがその余波は周囲にまで及んだ。

 指向性を持たせた威圧の余波は、近くにいる代表選手はもちろんのこと観客席のギャラリーにまで及ぶ。シーラの友達はというと気丈にも耐えてみせていた。

 そのような中でカトレアは腰を抜かしガクガクと震えるばかりだった。失神もせずによく頑張っている方だと思われる。

「貴女がカトレアね。何故サドンデス戦に出ないのかしら? おかげで私は気持ちよく寝ているケビンを起こす羽目になったのよ」

「あ……あ……」

 あまりの威圧に上手く喋れることもできずに公開処刑の様な惨状で皆が見守る中、この中で唯一動ける者がシーラへと近づく。

 その光景に再び外野は驚くのだった。氷帝の威圧の余波を浴びながらも平然としているからだ。

「姉さん。それくらいにしといたらどう?」

「あら、ケビン。もういいの? 貴方の作戦を邪魔したのでしょう?」

「邪魔はしてないよ。作戦なんて教えてないし」

「そうなの?」

「そうだよ。だから威圧を解いて。周りの人に迷惑かけちゃダメでしょ」

「わかったわ。ケビンが言うなら」

 その瞬間、威圧は解かれ全員安堵の息を吐くのだが、同時にケビンへ心の中で突っ込むのだった。

『『『お前が言うなよ!』』』

 ツッコミをいれた者たちは、氷帝の逆鱗に触れたくなく心の中で叫ぶのが精一杯であった。

「で、現状はサドンデス戦ってこと?」

「そうよ。あの女が出ればいいのよね?」

「んー……無理だね。姉さんにやられて戦える状態じゃないよ」

「なら、ケビンが出るの?」

「仕方ないね。そうするしかなさそうだし」

 寝起きのストレッチをしながらリングへと向かうケビンに、シーラが応援の声をかける。

「ケビン、頑張ってね。お姉ちゃんはここで応援するから」

 それに対してリングへ上がりながらケビンは答えるのだった。

「うーん……いくら姉さんが応援しても本気は出さないよ」

 ケビンの言葉に対して、試合用の結界のおかげで大して被害を受けていなかったEクラスの代表選手が気を取り直して反論する。

「舐められたもんだな。手を抜いて俺に勝てるとでも? Fクラスの分際で」

「まぁね。審判さん、Fクラスの代表選手は俺ですので進行をよろしくお願いします」

「あぁ、分かった。それよりも君、武器は持たないのかね?」

「必要ないし、徒手空拳のままでいいですよ」

「ふざけやがって。ボコボコにしてやるよ」

「それでは、サドンデス戦……始め!」

 合図とともに対戦相手が駆け出してケビンに詰めよろうとするが、怒りのまま突っ込んだ選手の行動は失敗に終わってしまう。

「舐めたことを後悔しろ、雑魚がっ!」

 その選手は駆け出した勢いのまま剣を振り下ろそうとしたが、先にケビンから足をかけられてしまい、勢いも相まってそのまま顔面スライディングを成功させる。

「うわぁ……顔面から行ったよ、痛そぉ……大丈夫?」

 ケビンは特に追い討ちをするでもなく、頭の後ろで手を組み呑気に感想をこぼす。起き上がった選手がその姿を見てさらに激昴する。

「ふざけやがってえぇぇぇ!」

 そのような中で、リングサイドではシーラへ声をかける者がいた。

「シーラ、先程の威圧はキツかったですわよ。時と場所を考えてくださいまし。あと、手加減も」

「あれくらいどうということはないでしょ? それよりもこっちに来たの?」

 またしてもリングサイドへ乱入者が現れ、Fクラスの代表選手たちは明らかに上級生である女子生徒にビビりまくる。

「貴女がいないのに1人で見ててもつまらないでしょ? それよりケビン君はやはり規格外ですのね。たとえ余波だとしても貴女の威圧に平然としてましたし」

「ケビンは母さんと模擬戦してたからあれくらいじゃ何とも思わないわ」

「貴女の家族は本当にとんでもないですわね。ケビン君に至っては武器も持たずに戦っていますし」

「本気を出さないって言ってたから武器なんて必要ないんでしょ。開始早々に転げさせているし」

「ですわね。武器を持たず試合に出る生徒なんて初めてなんじゃないかしら? 拳闘士でもナックルぐらいはつけますから。素手ですわよ、貴女の弟さんは」

「それだけ実力差があるのよ」

「兎にも角にも、戦うところが見れて良かったですわ。本気じゃない以上、実力は未知数ですが」

 リング上では掌で転がされるように遊ばれている選手が、文字通り転がっていた。

「てめぇ、攻撃ぐらいしてきやがれ!」

「してるだろ? 現にさっきからお前はコケてばっかりだろ」

「ふざけるなっ! てめぇは頭の後ろで手を組んだままじゃねーか! 真面目にしやがれ!」

「真面目にしてるさ。掌で転がせないから真面目に考えた結果、リング上で転がしてるんだよ。俺の掌はこんなに小さいからな、お前を転がしてやれないんだよ。すまないな」

 ケビンはそう言って、相手選手へ掌を見せて煽る。

「あれは、酷いですわね。相手に同情致しますわ」

「ケビンに喧嘩を売るのが悪いのよ。当然の報いだわ」

 完全に“舐めプ”と言われても過言ではないケビンの戦い方に、観客からは相手選手に同情の視線が向く。

「くそっ! 《原初の炎よ 球体となりて 我が敵を燃やせ ファイアボール》」

 ケビンに向けて火球が飛来するが、当然難なく避けてしまう。

「ほいっと。当たらないねぇ?」

「くそっ! くそっ! くそっ!」

 それからも火球は飛来するが、全て避け切ってしまう。

「おっと、あらよっと、もういっちょ、ついでにほいさっ」

「はぁはぁはぁ……」

「もう撃たないのかな? 魔力切れかな? んー?」

『マスター、完全に舐めプですね。相手に同情しますよ』

『俺としては出なくても良かった試合に出ている時点で、ストレスを発散させたいんだよ。姉さんはいつの間にかいるし、相手選手には悪いが』

『悪いと思ってるならさっさと終わらせてやるべきですよ』

『さっさと終わらせたらストレス溜まったまんまだろ。使える展開は使っとかないとな』

「まだ、休憩が必要かな? 存分に休んでいいよ。俺は疲れてないし」

 ケビンからの問いかけに相手選手はまだ息が整わず、返答する気力さえなかった。

「ねぇ、あれは終わらせてあげられませんの? トラウマものですわよ」

「終わらせるの? ケビンの勇姿を?」

「勇姿って……避けて転ばせて煽ってるぐらいにしか見えませんわよ。それに、闘技場の空気が悪いですわ。このままではケビン君が悪者になってしまいますわよ?」

「ケビンを悪く言う奴らなんか、片っ端から消してしまえばいいのよ」

「浅慮ですわよ。そんなことしたら貴女まで悪者になりますわ。ケビン君が今後も楽しく学院生活を送るためにも、そろそろ決着をつけた方がいいですわよ。貴女だってケビン君が陰口を叩かれるのは嫌でしょ?」

「それは腹が立つわね。でも私が言ったからってケビンがやるとは限らないわ。あの子は基本的に縛られるのを好まず、自由を謳歌したいのだから」

「それでもですわよ。言ってみるだけ言ってみて下さらない?」

「仕方ないわね。これは1つ貸しよ」

「わかりましたわ」

 そのような中でリング上ではへろへろになりながらも懸命に戦っている生徒と、明らかに舐めプをしているケビンの姿が見て取れた。

「ふぅ……ケビン、お姉ちゃんはもういっぱいケビンを見れて満足したからこの試合終わらせていいわ。そんな雑魚をいつまでも相手にしててもつまらないでしょ?」

 試合の最中にシーラの声が届くと、ケビンがリングサイドに視線を向ける。

「終わらせるの? これを?」

「そうよ。お姉ちゃんからのお願いよ」

(どうするかな? このまま続けてもいいんだけど後で姉さんにこのことで絡まれるのは勘弁して欲しいし、満足したって言ってるからすぐ帰ってくれるかな? てか、隣の人誰だ? 友達か? 姉さんにも友達がいたんだな)

 ケビンが考えている間も相手の攻撃は続いているので、どうせだからと考えているポーズを取ったまま、ケビンは見もしないで避けていく。

 これによりさらに相手はムキになるのだが、一向に当たらないので絶賛舐めプ継続中である。

 ケビンは避けつつもリングサイドにいるシーラの隣に佇んでいる女子生徒に視線を向けると、その女子生徒にニコリと微笑まれる。

(可愛い……)

「ねぇ、姉さん。隣の人は友達?」

「そうよ。それがどうしたの?」

「名前は何て言うの?」

「ターニャ・シルバレンですわ。以後お見知りおきを」

「ケビン・カロトバウンです。お初にお目にかかります」

 ターニャがカーテシーをしたのに対して、ケビンは手を胸に当ててお辞儀を返す。当然計算されたお辞儀で、腰を曲げた頭上を相手選手の魔法が素通りしていく。

 ケビンの背中の方で相手選手が何か言っているようだったが、全く気にせず見向きもしなかった。

「知っていますわ。シーラがいつも自慢してくるんですもの」

「姉がいつもお世話になっております。ところでターニャさんも終わらせた方がいいと思いますか?」

「そうですわね。さすがに相手選手が可愛そうですわ」

「それなら終わらせます。ということで名も知らぬ君、今までご苦労さま。いい暇つぶしにはなったかな。君も疲れただろうし、お礼に終わらせてあげるよ」

 ようやく振り返ったと思いきや、いきなりの終わらせてあげる宣言に相手選手も憤りを感じるのだが、如何せん今までの疲労が蓄積していた。

「ふざ……ぜぇぜぇ……けるなよ、そう簡単に……終わらせられると……思うのか?」

「君も大概だね。負けず嫌いなところだけは認めてあげるよ。それに免じて右腕1本だけで終わらせてあげる。右腕の動きを注意して見てなよ。見失わないようにね」

 そして、ケビンがバックステップで距離を取ると合図を出す。

「じゃー行くよー」

 相手選手は疲れていながらも右腕を注視していたが、次の瞬間にはケビンの姿を見失う。

「……見失ったね?」

 ゾクリとするその声を耳にすると、首に衝撃が走りそこで意識が途切れたのだった。

『やっと終わりましたね』

『いやー、前から漫画みたく首トンしてみたかったんだよねー成功して良かった』

「審判さん、判定は?」

 直立不動のまま固まった審判の時間が動き出す。4回戦と同様で選手の動きが見えてなかったのだ。

「サドンデス戦、勝者ケビン!」

 勝者が発表されたにも関わらず闘技場内は静かだった。それもそのはず、散々舐めプで派手な攻撃を避けていたにも関わらず、最後は目で追えぬほどの速さで首トンして終わったのだ。

「シーラ、今の見えてまして?」

「見えないわよ。それよりもどうしてあなたの意見をケビンが聞くのかしら? 私に隠れてケビンに何したの?」

「何もしてませんわよ。貴女を敵に回すほど愚かではありませんわ」
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