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第2章 王立フェブリア学院 ~ 1年生編 ~

第52話 闘技大会 ~総員戦~ ②

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 ケビンの不安を他所に、Eクラスとの試合がとうとう始まってしまった。

「よし、まずは作戦通り斥候と遊撃の混合チームで敵の動きを探ってくれ。攻撃隊は周囲を警戒しつつ前進だ」

 作戦? そんなものあったのか?

「なぁ、作戦通りって言ってるけどいつ作戦会議したんだ?」

「今日の朝、ケビン君がやる気なく寝ている時によ」

「それなら聞いてないのも納得だな。で、守備隊の作戦は?」

「最初にケビン君が言った通りよ。敵を見つけたら迎え撃てって言ったでしょ? あれがそのまま採用されたの。それ以外やりようがないし」

「そうか」

 しかし思ってた以上に暇だな。他の隊はどんどん進んでいって見えなくなったし。

「俺は寝るから後はよろしく頼む」

「えっ!? 試合中も寝るの?」

「敵がいないんだからすることないだろ? ボケっと立っとくのも暇だしな。ちょうどいい背もたれもあるし」

 カトレアに対してそう伝えたら、俺は旗を背もたれにして座り込む。旗は意外と頑丈にできてるみたいで背もたれにしたくらいじゃ倒れそうにない。

「相変わらずマイペースよね。敵が来たらどうするの?」

「迎え撃て。それ以外ない」

「いっぱい来たら起きて手伝ってよ。旗を壊されたら終わりなんだから」

「そうだな。旗を壊されたら俺の睡眠が終わってしまうから、壊されないようにするよ」

「旗を守る趣旨が変わってるよ!?」

 そんなカトレアのツッコミを他所に、俺は心地よく眠るのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 一方その頃、対戦相手のEクラスでは格下相手ということもあり、気負いもなく普段通りの動きをしていた。

「最初の対戦相手はFクラスだ。格下だからDクラスと戦う前の調整にせいぜい使ってやろうぜ」

「そうだな。連携の練習相手にでもするか? 弱すぎて練習にもならないかもしれないが」

「そんなこと言っては可哀想よ。相手だって必死になるんだから油断してはダメよ」

「とりあえず見つけたら魔法の的にでもするか? 動く的に対しての練習にはもってこいだろ?」

「1発でお寝んねしない様に手加減しないとな。それで終わったら練習にもなりゃしねぇ」

「それもそうね。魔法の練習をしながら避けてきた人は近接で排除するようにしましょう。そうしたら近接専門の人も連携の練習できるでしょ?」

「よし、方針は決まったな。それじゃあ攻めに行くか。旗の防衛は無意味だと思うけど、念のために10名残ってくれ。それ以外で攻め込むことにして長引くのも面倒だし、2グループに分かれて挟撃するぞ。では、出撃だ!」

 Eクラスの攻撃側に回った生徒たちは、左右に分かれて森の中へと進んで行くのだった。

 時を同じくして、Fクラスでは斥候が早くも敵の動きを掴んだら攻撃隊へ報告に向かった。

「敵は2グループに分かれてこちらに来ている。多分、挟撃狙いだろう。人数から見て斥候とか使ってないようだ。格下と思って舐めてるみたいだし、どうする?」

「そうだな。ここでこちらも2グループに分かれたら、戦力差で負けるかもしれないな。だから攻撃隊で1グループを相手取り、残りの1グループは斥候と遊撃で相手取ってくれ。それなら人数的な差はだいたい埋まるだろう」

「俺達はどう動けばいい?」

「遊撃を前面に出して斥候は死角からの奇襲を行ってくれ。それで幾らかは均衡が保てるはずだ。こちらは全力で残りの1グループを迎え撃つ」

「わかった。各チームに通達して1グループを引き受けるよ。負けるなよ」

「そっちもな。あっさり負けるんじゃないぞ」

 それからしばらくして両クラスは戦闘へと入るのだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ところ変わって、某教室のモニターには初等部1年の試合の様子が映し出されていた。

「なぁ、何でつまらない野戦なんて映してんだ? しかも1年の。おままごとにしかならねぇだろ。代表戦を見ようぜ」

「知らないわよ。この期間は授業免除なんだし、さっき私も来たところなんだから」

「んじゃあ、代表戦に変えるぞ。あっちの方が断然面白いからな」

 他の生徒にも一応の了解を得るため聞こえるように言い放った男子生徒がモニターを操作しようとした瞬間、凍える様な威圧が教室を包み込んだ。

「「「!!」」」

「あなた、いったい今から何をするつもりなのかしら?」

「い……いや、だ、代表戦を見ようかと……」

「そんなもの見なくていいわ。私はそれが見たいのよ」

「わ、わかったから、威圧を解いてくれ!」

 威圧が解かれると男子生徒はすごすごと自分の席へと戻っていき、先程会話をしていた女子生徒にヒソヒソと話し始めた。

(おい、シーラさんが見ていたなら言ってくれよ! 殺されるかと思ったぞ。寿命が10年は縮んだ気がする)

(知らないわよ、さっき来たばかりって言ったでしょ! 私だって巻き添えくってチビりそうになったんだから)

(それにしても何で1年の試合なんて見てるんだ? Sクラスでもないだろ? 今日は落ちこぼれのFクラスとEクラスの試合のはずだ)

(本人に聞いてみればいいでしょ?)

(あんな威圧くらった後に聞けるかよ!)

 そこへまた1人、教室へ入ってきた者がいた。

「さっきシーラの威圧を感じたのだけれど、あなたたち何かしたのかしら? 教室の外にまで漏れていましたわよ?」

「その、モニターを代表戦に変えようとしたら……」

 先程モニターを触ろうとしていた男子生徒がバツの悪そうに答えると、女子生徒は得心のいった表情で言葉を返すのだった。

「モニター? あぁ、野戦を見ていますのね。それは怒りますわよ」

「えっ、何で!?」

「知らないんですの? あそこに映っている旗にもたれて寝ている子……シーラの弟ですのよ」

「「「!!」」」

 誰も知り得なかった衝撃の新事実に、教室内は愕然とした。

「それにしても前代未聞ですわね。試合中に寝る子なんて初めて見ましたわ。さすがは貴女の弟ですわね、肝が座っていますわ」

 教室へ入ってきた女子生徒は、モニターを食い入るように見ているケビンの姉に話しかけながら近づいて行く。

「ケビンにしてみたらつまらないのよ。そこの男子が言ったようにおままごとにしかならないから」

「そこまで強いんですの? なら何故Fクラスにいるのかしら?」

「ダラダラしたいからだそうよ。あの子はのんびりと過ごすのが好きだから。首席入学を蹴ってFクラスで入学したの」

「そんなことが可能ですの?」

「去年の秋頃に事件があったでしょ? 闘技場を封鎖した」

「そんなこともありましたわね。担当官だったAランク冒険者が好き勝手した挙句、誰かに襲われて再起不能になったあの話ですわね?」

「それをやったのがケビンよ。無謀にもケビンに襲いかかったのよ。その場にいたら私が殺してたんだけど。あの子は優しいから殺さなかったのよ」

「そこの部分だけ聞くと物騒ですわね。殺すだの、殺さないだのと。にしても、仮にもAランク冒険者を相手取ってよく勝てましたわね」

「それすらもあの子にとっては児戯に等しいのよ。実力差があり過ぎて無傷な上、返り血すら浴びなかったのよ? 汚れるのが嫌だからって。私でもそんな芸当無理だわ。魔法で倒すなら可能だけどケビンがやったのは近接戦闘で、魔法を使って倒したわけじゃないのよ」

「つまり貴女より強いということですの?」

「そうね。ケビンに勝てるのはお母様くらいじゃないかしら? それでもケビンが本気を出したらどうなるかわからないわ。あの子はお母様相手でも手加減して怪我させないように戦うから」

「異常ですわね。貴女のお母様相手に手加減ですの?」

「そう。多分、私も模擬戦をしたら手加減して負けてくれるわ」

「それで、どうしてFクラスで入学できたのかしら? 強いだけじゃ無理なはずですけど」

「筆記試験は全て満点。これだけでも前代未聞。さらにAランク冒険者の悪事を暴き、単独撃破な上に相手の無力化。生徒を危険に晒したってことで学院長が家に謝りに来たそうよ」

「学院長自らですの!?」

「そう。その時にお母様がイタズラをしたらしいんだけど、ケビンに諌められてね。お母様も唯一ケビンの言うことは聞くのよ。そこで交渉したらしいわ。入学することに対する対価みたいなものね。ケビンは学院に興味がなかったから入学しなくてもよかったのよ」

「凄い弟さんですわね。そこまで強いなら代表戦にも出てるんじゃなくて?」

「多分出るでしょうけどわざと負けるんじゃない? 残りの4人の内3人が勝てばクラスとしては勝ったことになるんだから」

「もし、2勝2敗で縺れ込んだら?」

「その時の気分によるでしょうね。目立たずにラッキーで勝てたっていう感じの作戦が思いつけば勝ちにいくと思うわよ。とにかく目立たずダラダラ過ごすのが好きだから」

「変なところで努力する方ですのね。そのお陰で今の実力があるのかしら?」

「それはわからないわ。ずっと一緒に過ごしてたのはお母様しかいないから」

「羨ましい限りですわね。それだけの強さがあれば卒業後は引く手数多ですわね」

「それらも全て断るでしょうね。あの子は1人でも生きていけると思うし」

 お互いに喋りながらもモニターからは片時も視線を外さないのだった。シーラは然ること乍ら話し相手の女子生徒すらも、ケビンの隠された実力を聞いてしまっては目を離せずにいた。

(私の大事なケビン……闘技大会はつまらないでしょうけどいっぱい楽しんでね)

 シーラが極度のブラコンであることは仲のいい女子生徒以外知る由もないことだった。

 シーラ自体仲のいい女子生徒がごく僅かしかいないのだが、その僅かな知り合いの中では有名な話である。

 そのような中、試合の中では事態が動きつつあったのだった。
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