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第九話「サークル」
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「なあ! 白月―」
「え、あ、永崎くん。どうしたの?」
仲が良い教授から頼まれた書類を資料室に運んでいる途中で、同じサークルの永崎くんから声をかけられた。
僕はアニメ・漫画研究会というサークルに属している。
僕がサークルの人以外と関わらないからか、大学ではアニメが好きとかいう理由で省かれることはあまりなくて、サークルという箱庭で平穏に過ごしていた。
大学では男の陰キャは空気に扱われることが多い。
女の子の陰キャならお持ち帰りしやすい、と馬鹿な男が盛るのだが、男となると至極どうでもいい人種に見えるらしい。
陰キャの女の子であろうとみんな垢抜けていて、僕みたいな根暗オーラを出して高校から一つも変わっていない人間には誰も関わってこなくなる。
僕としてはホッとしていた。
高校みたいに変に絡まれることもないからだ。
でもそんな僕にもサークルの勧誘が来て、アニメ・漫画研究会に入ったら結構歓迎された。
新入生歓迎会として居酒屋で好きなアニメや漫画も語れたし、他の男子もそこまでオタクに見えないのに好きなアニメの話になった途端早口で喋るものだから、安心した。
永崎くんが僕の瞳と僕が持っている資料を交互に見つめる。
「またあのおじいちゃん教授からこき使われてんの? 俺も持とうか?」
「いや、そこまで重くないからいいよ。それより、どうしたの? サークルの話?」
「そうそう。二年生の人で新しい人が入ってくるらしいんだよ。サッカーサークルと俺たちのサークルかけもちしたいんだって。来週から入ってくるらしくてさ」
「サッカーサークルの人が? 珍しいね」
「だろ? なんでも友達と一緒に見たアニメが盛大なバッドエンドで、それからアニメにすごく惹かれたんだってさ」
なるほど。バドエンが好きな人か。
「だから、白月来週サークル顔出してくんない?」
「うん、わかった。バイトのシフト重なってないときに、行くね」
「助かる! ありがと!」
永崎くんは元気な声で礼を言って、去っていく。
僕はバイトのシフトの関係もあって、夕方くらいまで好きなアニメを語るサークルにはあまり顔を出せていなかった。
バイトのシフト、というのは表向きの理由だ。
本当は、サークルにいるうちにみんなのアニメの話を聞くのが辛くなってきたから。
――なあ、こないだの成り上がり系のあれ、見た!? ヒロインのユキちゃんが可愛くてさ~。
――ほんとな! ユキちゃんの猫耳マジで可愛い~。
――えー、俺はマリちゃん派だけどな。
――お前は巨乳好きだからな。
――いいじゃん、別に。お風呂シーンとか百回見たわ。
みんなの『推し』は、『女の子』だった。
このサークルは女の子は誰も入っていなくて、ラウンジの窓際の隅っこの席がいつもの僕たちが駄弁っている場所だが、そこだけアニメを語る男子の熱気で暑苦しい。
女の子ばかり出てくるアニメも見ているけど、推しという推しはいない。
僕はストーリーを楽しむ派だ。
……BLアニメを観ているだなんて知ったら、引くだろうな。
僕が男の人に片想いをして女装して近づいているなんて知ったら、ドン引きどころの話ではないだろう。
それから、あまりサークルに足を踏み出そうと思えなくなってしまった。
「……はぁ」
そんな身勝手な理由で新しく入ってくる人の歓迎会に参加しないわけにもいかない。
俯いて歩いていると、誰かにドン、と肩がぶつかってしまった。
「あ、すみませ……っ!」
前を向いて、息が止まった。
高校の頃よりピアスを多くつけた壱城くんが、すぐ目の前にいる。
「え、あ、永崎くん。どうしたの?」
仲が良い教授から頼まれた書類を資料室に運んでいる途中で、同じサークルの永崎くんから声をかけられた。
僕はアニメ・漫画研究会というサークルに属している。
僕がサークルの人以外と関わらないからか、大学ではアニメが好きとかいう理由で省かれることはあまりなくて、サークルという箱庭で平穏に過ごしていた。
大学では男の陰キャは空気に扱われることが多い。
女の子の陰キャならお持ち帰りしやすい、と馬鹿な男が盛るのだが、男となると至極どうでもいい人種に見えるらしい。
陰キャの女の子であろうとみんな垢抜けていて、僕みたいな根暗オーラを出して高校から一つも変わっていない人間には誰も関わってこなくなる。
僕としてはホッとしていた。
高校みたいに変に絡まれることもないからだ。
でもそんな僕にもサークルの勧誘が来て、アニメ・漫画研究会に入ったら結構歓迎された。
新入生歓迎会として居酒屋で好きなアニメや漫画も語れたし、他の男子もそこまでオタクに見えないのに好きなアニメの話になった途端早口で喋るものだから、安心した。
永崎くんが僕の瞳と僕が持っている資料を交互に見つめる。
「またあのおじいちゃん教授からこき使われてんの? 俺も持とうか?」
「いや、そこまで重くないからいいよ。それより、どうしたの? サークルの話?」
「そうそう。二年生の人で新しい人が入ってくるらしいんだよ。サッカーサークルと俺たちのサークルかけもちしたいんだって。来週から入ってくるらしくてさ」
「サッカーサークルの人が? 珍しいね」
「だろ? なんでも友達と一緒に見たアニメが盛大なバッドエンドで、それからアニメにすごく惹かれたんだってさ」
なるほど。バドエンが好きな人か。
「だから、白月来週サークル顔出してくんない?」
「うん、わかった。バイトのシフト重なってないときに、行くね」
「助かる! ありがと!」
永崎くんは元気な声で礼を言って、去っていく。
僕はバイトのシフトの関係もあって、夕方くらいまで好きなアニメを語るサークルにはあまり顔を出せていなかった。
バイトのシフト、というのは表向きの理由だ。
本当は、サークルにいるうちにみんなのアニメの話を聞くのが辛くなってきたから。
――なあ、こないだの成り上がり系のあれ、見た!? ヒロインのユキちゃんが可愛くてさ~。
――ほんとな! ユキちゃんの猫耳マジで可愛い~。
――えー、俺はマリちゃん派だけどな。
――お前は巨乳好きだからな。
――いいじゃん、別に。お風呂シーンとか百回見たわ。
みんなの『推し』は、『女の子』だった。
このサークルは女の子は誰も入っていなくて、ラウンジの窓際の隅っこの席がいつもの僕たちが駄弁っている場所だが、そこだけアニメを語る男子の熱気で暑苦しい。
女の子ばかり出てくるアニメも見ているけど、推しという推しはいない。
僕はストーリーを楽しむ派だ。
……BLアニメを観ているだなんて知ったら、引くだろうな。
僕が男の人に片想いをして女装して近づいているなんて知ったら、ドン引きどころの話ではないだろう。
それから、あまりサークルに足を踏み出そうと思えなくなってしまった。
「……はぁ」
そんな身勝手な理由で新しく入ってくる人の歓迎会に参加しないわけにもいかない。
俯いて歩いていると、誰かにドン、と肩がぶつかってしまった。
「あ、すみませ……っ!」
前を向いて、息が止まった。
高校の頃よりピアスを多くつけた壱城くんが、すぐ目の前にいる。
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