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第25話 一方その頃殿下たちは……
しおりを挟む王都にある巨大な王宮。
王家や関係者以外は絶対に立ち入ることのできない巨大な城で、一人の女の怒鳴り声が響き渡っていた。
「殿下! また今日もこのドレスを着ないといけませんの!? もう飽きましたわ!」
ネグリジェ姿の女が、片手でドレスを鷲掴みにし、もう片方の手でガシャン! と部屋に置いてある花瓶を投げ捨てる。
水が絨毯に染みを作り、飾られていた薔薇も無残に散っていった。
それを見た男——ターメルクがおろおろと女に近づく。
「お、落ち着いてくれベルローズ。ドレスは昨日もあげただろう」
ターメルクに宥められた女、ベルローズは怒りをあらわにしてターメルクに掴みかかった。
「今日の分のドレスを貰っていませんわ! わたくしは毎日別のドレスを着て、別のジュエリーを身につけて王宮で過ごしたいと言いましたわよね!? 学院に通っている間に仕立て屋に作れと言いましたわ!」
「ベ、ベルローズ、聞いてくれ。ドレスはそんなにすぐできるものじゃないんだ。近くのドレスが売っている店に一緒に行ったが、オーダーメイドじゃないと嫌なんだろう? でもドレスは一日でできるものじゃない。今まで一日ごとにあげていたのは家にあるものと仕立て屋から作ってもらったものでなんとかしていたが、少しだけ我慢できないか?」
ベルローズはドン! と壁を殴った。
「どうして王太子妃のわたくしが我慢などしなければなりませんの!? 学院でも殿下はわたくしより他の方とお話しておりますし、本当にわたくしのことを愛しておりますの!?」
「愛してるよベルローズ。君は運命の相手だ。……そうだ、たまには外で羽根を伸ばさないか? 王都の隣街に、大きな広いテーマパークがあるんだ」
「……テーマパーク?」
「ああ。魔法を使ったアトラクションがたくさんある。俺たちくらいの年齢でも十分に遊べるところだ。入場料が高いから、富裕層しか行かない。ああ、近くの高級宿に泊まるのもどうだ? 私のお祖父様も泊まったところだ。そこに泊まってテーマパークを楽しもう。王宮とは全然違う内装をしているから、刺激を受けると思う。長期宿泊でもいい。行かないか?」
「……富裕層が行くテーマパークに、高級宿、ですか……」
ベルローズは顎に手を添え、しばらく黙る。
ターメルクは冷や汗を垂らしながら、じっとベルローズを見つめていた。
やがて、ベルローズがにこっと笑みを見せた。
「いいですわ! 行きましょう! 宿は、一番良い部屋にしてくださいね?」
「ああ……! 行こう!」
ベルローズは着替えてくるのか、鼻歌を歌いながら部屋を出て行った。
ドアを閉める音が聞こえ、ベルローズの足音がなくなってからはぁ、とターメルクが安堵のため息を吐く。
一部始終を見ていた侍女がターメルクを憐れな瞳で見つめている。
「大変ですね、殿下も」
「ああ、少しな……」
侍女はベルローズが投げ捨てた花瓶の破片と薔薇を片付け始めた。
破片を一つ一つ広い、ゴミ袋に捨てていく。
「ベルローズ様も、少しは恥じらいというものを知っておいた方がいいと思いますが……。ネグリジェ姿で殿下の部屋に突撃するなんて、私も驚きました」
「そうだな……」
侍女とターメルクは、二人で同時にはぁ、とため息を吐いていた。
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