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ルナデドロップと滝の秘密

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「ココは、本当に魔の森なのか・・・」
「綺麗でしょ、でも見かけと違って、毒花もたくさん咲いているの。スウが言ってたわ。毒花も量を間違えなければ、薬になるそうよ。」

咲き誇る花々も鮮やかに、滝からゆったり流れ落ちる水音も耳に心地よい深緑の滝壺を背景に、小さな野原は森の鬱蒼とした暗さに比べ、うってかわって小さな楽園のようだ。
さっき塗ってもらった傷薬もここで採取できる魔草種の一つからスウが作ったものだ、と感心しているレイに教える。

大霊山脈からの雪解け水が滝になって流れ落ち、そのまま湖に流れ込んでいる小川はくねくねしているので真っ直ぐ直線コースを歩いてきたが、一番最初にここを訪れた時は湖からの川沿いを登ってきた。
この小さな野原は珍しい魔草種の宝庫だ。野原には木が生えておらず、視界がひらけている。

そして、コレが、巧妙な罠になっている。

魅せられた様に森から野原へ足を踏み出そうとしたレイを、ティアは慌てて止める。

「待って! レイ、野原に入れば狙われるわ。いい? ここにこんないい水飲み場があるのに、野原が魔物に踏みにじられた形跡がないでしょ? 彼らは知っているのよ、野原に入れば上から狙われるって。ここを縄張りにしている魔物は、再生能力が凄くって、弱点の首を落としても四日後には復活するのよ。多分本体ではないんだと思うわ。」

確かに、野原の奥には幅の大きな滝が流れ、滝壺から浅い河原、穏やかな流れの小川へと続き、魔物や動物の水飲み場としては絶好な場所だ。しかし、色とりどりの花が咲き乱れるこの野原には生き物の気配がまるでしない・・・

「デスバードって私達は呼んでるけど、空の魔物よ。水や炎の魔法は効かないわ。弓か剣での物理攻撃が効くんだけどこいつ素早くって。羽がナイフのようでいっぺんに放ってくるから、バリアを張ってやり過ごして。それからツノは要注意よ。」
「俺の縄は有効か?」
「そうだ!レイは縄の魔法が使えるのよね。多分有効よ!」
「ならば簡単だ。俺は視界に入ったその魔物を拘束する。そこをティアが攻撃してくれ。」
「わかった。やってみる。」
「まず、俺が行く。」

レイは空を警戒しながら、野原に一歩踏み出す。そして、そのままいつでも動けるよう中腰で、そろそろと滝の方へ移動した。

ガア、と鳴く声がして大きなロック鳥が翼を広げて、夕焼けに染まりはじめた空に姿を現わす。レイを見つけると、どういう仕組みか音を立てず急降下してくる。だが、弓を警戒してか、ある一定の距離からは近付いて来ず、羽根を羽ばたかせるとナイフのような羽が雨のように降ってきた。
防御バリアで防ぐものの、ナイフの雨の後はバリアもボロボロでパチン、と消えてしまう。

「使い捨て状態か、これは魔力が相当ないと、もたないな。ではこちらから行くか。」

レイは足掛かりを空中に氷で作ると、トントンと身軽に登って行く。目指すはロック鳥だ。獲物が向かって来ると思わなかったのか、ロック鳥は横に飛んで素早く移動した。

「ちょこまかと・・・」

それでもレイは素早く方向転換して距離を縮めるが、するとまたナイフの嵐だ。そしてレイがバリアでやり過ごす間に、ロック鳥は今度は下のティアに急降下して近づき、ナイフの嵐をお見舞いする。

「クッソ、なかなか近づけないな。」
「レイ、挟み撃ちにしましょ!」

二人で連携して追い込めば・・・・・

いつもスウとジンがやっているような息の合った連携、レイと私なら、きっと出来る!

ティアが同じように氷の階段を駆け上がって来る。

「滑るなよ!」
「大丈夫、靴に細工してある。」

もう一つの獲物も空中に上がってってきたので、ロック鳥は下にいるティアにナイフ嵐を降らせ、尖った額のツノを槍のようにレイに突っ込んできた。

「レイ!」
「好都合だ、くらえ。」

レイが縄でロック鳥を拘束する。が、次々と羽根に当たると縄が切れてしまう。

「ダメだ、羽根が鋭すぎて拘束できん。では、接近戦だな。」
「レイ、羽根に触れたら大怪我するから!」

こいつは体そのものが大きなナイフのようなモノなのだ。近づくと体で滅多斬りにされる!

大丈夫、レイの腕なら。 そうよ、彼はジンにも劣らない戦士なんだから、たとえ相手がデスバードでもきっと・・・

「水も炎もダメ、か。では氷はどうだ?」
「氷もあの羽根には効かないわ!」
「違う、氷漬け拘束だ!」
「えっ?」

レイが手をロック鳥にかざすと、あっという間に大きな鳥がアイスブロックの中に氷漬けに閉じ込められる。魔力の消費が半端でない巨大なアイスブロックをレイは空中で固定せず、そのまま羽を拘束されたロック鳥はアイスごと地面に落ちて叩きつけられた。

よし、今だ! ティアがチャンス、とそのまま地面に飛び降りると、割れた氷からロック鳥がヨロヨロと立ち上がる。

「もう一回!」

レイが今度は頭を残してロック鳥の体を氷漬けにした。動けない鳥は、向かってくるティアに頭のツノで応戦しようとふらっと向き直る。
ティアが距離を測りながらレイピアを構え、えいっ、とツノを横薙ぎに叩きつけると、ポキン、と軽い音がしてツノがあっけなく折れた。

ええっバカな?!

一瞬あっけにとられたティアに鳥が噛み付こうと大きな口を開いた瞬間、シュン、と剣の風圧音が耳に響いた。
ロック鳥の姿がサラサラ、と霧のように消えていく・・・。

「ボーッとするな!」
「あ、ありがとう。」

首を切り終えたレイがティアに怒鳴った。

うっそー、デスバードのツノは、一回剣を交えれば、剣が刃こぼれし、三回で折れてしまうのに・・・・・この剣どんだけ丈夫なの?

思わず、まじまじとジンから渡されたレイピアを見てしまう。

「どうした? これであいつは四日は再生しないんだろう?」
「うん、そう。あの、実はこの剣、初めて実戦で使ったんだけど、あまりの切れ味に、驚いちゃって・・・・」
「何? どれ、見せてみろ。」

ティアが剣を渡すと、レイは剣をじっとみて柄を確かめ、ため息をついた。

「ティア、君、これを一体どこで手に入れた?」
「えっ、これはシア・・えっと我が家の家宝よ。」
「ああ・・・・そうなのか。これは俺の剣と同じ材質でできている。我が家でも家宝だ。無くすなよ。」
「・・うん、わかった。」

そうか、やっぱり父上が持ち出しただけはある・・・他家でも家宝扱いされてるんだ。大事にしないと・・・・・

ティアは剣を振って汚れを落とすと、丁寧に腰に収めた。

「さて、魔物の気配は、感じられないな。どれがルナデドロップなんだ?」
「花が咲く夜まで待った方がいいわ。似たような葉っぱがいっぱいあるから。」
「もう日も暮れる、今夜はここで野宿だな。」
「デスバードさえ始末すれば、他の魔物はあいつを恐れてここに近づかないから、まあ、比較的安全よ。こっちに来て。私たちがいつも寝泊まりする場所があるわ。」

レイを見通しが良い平らな場所に案内して火を起こすと、ティアは早速夕食に取り掛かる。レイはちょっと食料を調達してくる、と言って今度はリンゴを抱えて帰ってきた。

「今日はワニのステーキか、美味しそうだな。」
「それにリンゴソースをかけて召し上がれ。薬草サラダもあるわよ。」
「この森は美味しいものの宝庫だな。」
「ふふ、ちょっと腕に覚えがないと、生きて出られないけど。」
「確かに。」

魔物よけの浄化火が二人の顔を優しく照らし、星が空に瞬き始めた。

「暗くなると花が咲きだすわ。私はそれまでちょっと、薬草を採取する。この陽が落ちる時にしか咲かない薬草が傷薬の原料なの。」
「俺も手伝おう。」
「じゃあ、一緒に来て。」

昼に咲いた花は萎み、夜型の花が咲き始める。

陽も落ちて、うっすら残る夕焼けに染まる空は水色から徐々に暗い濃紺に変わってゆく黄昏時。何処からともなく魔物の遠吠えと鳥達が巣に帰る羽ばたきが風に乗って運ばれてくる。

さあ、魔の森の夜の始まりだ。

レイと二人で野原に座り込み、急速に薄暗くなる陽の下、ティアの目当ての薬草を懸命に探す。

「これが、トワイト草、葉っぱはこんな感じ。」
「おっ、これか?」
「違う!花の形がまるっきり!」
「そうか?」
「これが見本、あげるから持って見比べて見なさいよ。」
「どれも同じように見えるが・・・・」
「もう、邪魔するなら、そこで見てて!」

とうとうティアに追い出され、レイはちょっと手持ちぶたさだ。
ゴロンと横になって夜空を眺めだしたレイを横目に、ティアはせっせと薬草を採集する。

こんなものかな・・・・あんまり取りすぎると、次に来た時、期待できないし。

どこかで狼の遠吠えが聞こえ、いつの間にか暗くなった夜空を見て、そろそろね・・・レイの注意を促した。

「レイ、ルナデドロップが咲き始めるわよ。」
「ん? わかった、どんな感じの花だ?」
「珍しい魔草だけど群生しているはず・・・」

黄色で、ベル型の花、と特徴を簡潔に述べると魔法で手元に灯りをつけて、野原を二人で丹念に探す。ないわねえ・・・前回見たときは確かこの辺に・・・・

「ティア、あっちに何かちょっと光ってる花があるぞ。」
「あっ、それよ!月の光を浴びると僅かに光る花よ。」

ほんの一握りほどの花の集まりは滝に近い所にあった。

「お手柄よ、レイ、役立たず、と思ったこと、謝るわ。」
「おい、そんなこと、考えていたのか。」
「あっ、二つ以上取っちゃダメ! 貴重な花でなかなか増えないんだから。」
「わかったよ。」

レイは丁寧に花を小さな小箱に入れると首に吊るしたペンダントの様なものに仕舞い込む。

(あれ?・・・あれってモチの収納箱?・・貴重だと聞いていたけど、さすが騎士様ね。)

レイが大事にルナデドロップを仕舞い込むのを確認したティアは、ゆっくりと立ち上がった。

さあてと、これで任務完了!

やっと肩の荷が下りた、うーん、と両手を広げて大きく身体を伸ばす。

あ、ボキッて、音が・・・肩、凝ってるのかな?
こんなうら若くて、か弱い乙女に、魔の森の案内なんかさせるから。

「レイ、もう寝ましょう、明日も早いし。」
「ああ、俺はちょっと水浴びしてくる。あっちに湯が湧いてるようだし。」

な、な、何! お湯が湧いている?!

「レイ! それってどこ?」
「滝の裏側だ。」

そう言って、レイはいきなり服を脱ぎだした。

「きゃあ、何するのよ。」
「水浴びだ。」

海の男達にも見劣りしないレイの逞しく鍛えられた上半身が月明かりに晒されて、ティアは真っ赤になって叫ぶと、くるりと後ろを向く。
だが、ざぶん、という音が聞こえた途端、お湯、かあ、ちょっとだけ・・・好奇心に勝てず、そうっと振り返ってみた。
真っ裸で浅瀬からズブズブと水に入って深い所で水に飛び込んだレイの後ろ姿が、月明かりの中、滝の奥へ忽然と消える。

えっ、どうしよ? まさか魔物が水に? でも気配はまるで感じない・・・

「レーイ、どこー? 大丈夫なのー?」

不安げに呼んでみるが返事がない。ここはデスバードの存在のせいで水の精もおらず、ティアはオロオロしてしまう。どうしよ、やっぱり探しに・・・

「レーイ、返事してー!」
「ああ、大丈夫だ、湯が湧いててちょっと熱めだが風呂には丁度いい。ティアもどうだ? 気持ちいいぞ。」
「わ、私は、レイが出た後に入ってみる!」
「そうか。」

お風呂!入りたい!!お湯のお風呂入りたいです~!・・・でも、まさか一緒に入る訳にはいかない。仕方ない、ここでチョット待ってよう。

声が聞こえた滝の右を睨んで、しばらく待ってみる。

まだ~? なんでこんな長風呂なの? ジンなんかあっという間に出ちゃうのに、その分スウが長いけど・・・・家にも風呂があるが、貴重な清水を大っぴらには無駄に出来ず、小さな樽風呂だ。

ああ、昔、城にあった大きなお風呂、入りたいなあ・・・城の風呂は流石に大人が2-3人入れるぐらいの大きさだった・・と懐かしく思い出す・・・

「レーイ、まだ~?」
「まだだ。俺は長風呂なんだ。ティアも入ってくればいいだろ。」

え~、無理無理! お嫁に行けなく・・・どっちみち行けないか・・・

ティアも、流石にもう自分が普通に結婚できる、とは思っていなかった。

父上はまだ健在でマリス公国を取り戻す為ゲリラ戦状態、自分はマリス大公惣領姫。小さかった弟が生きていればいいが、何かあった場合、シアン家の跡取り問題は自分に降り掛かってくる。村の男を夫にする事は出来ない。

はあ・・レイみたいな人が夫になってくれれば・・・・と考えて、ドキンと心臓が大きく鳴る。

えっ、どうしてここで、レイ?
 
確かに最初は、嫌な奴、と毛嫌いしていたので、話してみると思ったほど悪い男ではない、と見直したけど。
優しい目で見られて、ちょっとドキッと胸が高鳴っちゃったりもしたけど。
凄く強いし、頼りにはなる。・・・あれだけの若さで騎士という事は家柄もいい・・・はず。

(喋ってても、楽しいし、貴族にしては格式張ってない。魔法も規格外だし、こんな魔の森の中でも食べ物を見つけてくれるぐらい機知にも富んでいる・・・)

・・・・・レイってもしかして、私にとって理想のひと

待って待って、でもでも・・・あれ? 何も反論がない! 見た目も超好み、どこか品があって立ち姿もカッコいいし、ジンと同レベルの剣の戦士、私より上の魔法士。育ちはいいはずなのに、ちゃんと仕事に責任を持って遂行する行動力があって、家族ぐらいは養えるぐらいの収入もありそう・・・・・・・・・・・

あっ、気づいてしまった、私、彼のこと嫌いじゃない。人柄というか、人として好きだ。忠誠心や国を思う心は尊敬できる。時々チョット、強引で、失礼だけど・・・

「ティアー? 来ないのか?」
「あっ、今いく。」

えっ、あっ、私今行くって勝手に口が動いちゃった!

「あぅ、待って、待って・・・」
「どうした?ここは十分広いぞ、湯も気持ちいい。」
「・・・・・」

ええい、さっきもう裸に近い姿見られたじゃない! 女は度胸と愛嬌よ!

お湯の誘惑に勝てず、風呂入りたさに決心すると、さっさと服を脱いで剣と靴を共に腕輪に仕舞う。
浅瀬をぱちゃぱちゃと歩き水の色が深緑に変わると光源を手元から頭の上に移してザブンと滝壷に飛び込んだ。
勘を頼りに滝に向かって泳ぐ。

あっ、岩の隙間から裏に入れる! 流れる水の合間に見つけた間道を泳いで行くと、驚いた事に滝の裏は洞窟になっていた。

顔に当たる空気が暖かい。暖かい水の流れを肌で感じる。頭の上の光源が、少し奥に顔だけお湯から出ているレイの姿を映し出す。

「こっちだティア、左側は熱めの湯だがこっちは丁度いい。岩を削って腰掛を作ったから、こっちに来い。」

なんか長風呂だと思ったら、魔法でそんな事してたのね・・・・

光源を薄暗くして、レイの指差した隣に座ったが、流石に恥ずかしくてキョロキョロと周りを見渡す。

確かに洞窟の入口は狭いが滝ほぼ全体の広さが奥にあり奥行きも広い。光源を天井に投げると大きな一枚板のような岩でできた入り口の右奥にまた穴が空いていて、月明かりにもそこからも水が流れ落ちて、洞窟の中に小さな小川が流れているのが見て取れる。
自分たちは、水が汲みやすい川辺にいつも野宿をするから気がつかなかった。滝壺は上から落ちてくる水で普通の水温だったし。

「わあ、これは自然のお風呂ね。キッモチイいー。中も広いし。どうやって見つけたの? 長年ここで野宿してるけど、こんなところがあるなんて知らなかった。」
「手を洗いに来たら、熱い湯を感じたんだ。だからちょっと探って見た。」

恥ずかしいのを誤魔化したいのに、のぼせたように顔中が熱くなり、はしゃいだ声がついつい上ずってしまう。
レイは、気にした様子もなく平常運転だ。

ううっ・・・なんで、私だけこんなに焦ってるの? レイは全然平気そうなのに・・・落ち着くのよティア・・・

「これは本当、気持ちいい・・・」
「だろう、疲れが取れるぞ。」

それほど熱くないし、ちょっと潜っても・・・誘惑に勝てず照れ隠し半分で、ざぶん、と頭から湯に浸かって手足を伸ばす。

はあ~気持ちいい。

そのままユラユラとお湯に潜って楽しむ・・・こんなことできるの、小さい時の宮殿のお風呂以来だ。

水の加護を持つティアは長い間水の中に潜ることが出来る。
この、水の中独特の、シン、とした感じとバシャバシャという滝の音、ん、最高・・・・

存分に池のような大きなお風呂を楽しんで、ぷは、と顔を出しておずおずと元の棚に座ると、レイが腰に手を伸ばしてティアをひょいっと彼の膝に乗せた。
裸のお尻に逞しいレイの肌を感じて、二人とも裸だという事を急に意識してしまう。

えっ、何? 何?

焦ったティアはレイの方を振り向くと心配そうな瞳がティアを見つめ返す。そのまま、ぎゅっと腰を抱かれてレイが額を合わせて言った。

「あんまり心配させるな。どれだけ潜っているつもりだ。」

あっ、そうか・・・

自分では普通のつもりだったが、普通の人ならとっくに溺れてしまう時間が経っている。

心配してくれたんだ・・・・

「ごめんなさい、ちょっとはしゃいじゃって・・・・」
「水の加護持ちだから、大丈夫だ、とは思ったが、流石に少し焦ったぞ。」

額を合わせて言い聞かせるように、鼻の頭を擦り付けてくるレイに、急に愛しい気持ちがティアの中に溢れてきた。
レイの自信に溢れた瞳が、少し揺れてじっとティアを見つめてくる。
自らも鼻の頭を擦り付けて、素直に、心配かけてごめんね、と目で謝る。

「はあ、全く、俺の心配した時間を返せ。どうせ潜って楽しんでたんだろ?」

うっ、はい、そうです、思いっきり楽しんでました・・・・しおらしく素直に頷いた。

「こんなにじりじりとあせらされたの、久しぶりだ。罰だ、受け取れ。」
「んっ・・」

いきなり噛みつくように唇が合わさり、えっ、と驚いたティアの口内に熱い舌が侵入してきた。ん、んんっ、息、息が出来ない!

息苦しくて、ドンドン、とレイの胸を叩くと、レイは、唇を離してゼイゼイと苦しそうに息をしているティアを見て、やがて笑い出した。

「ティア、君・・・ははは」
「何よ、いきなり口塞ぐから、息できないじゃないの!」
「あっはは・・・」
「何よ、何がそんなに可笑しいのよ?」
「はは・・・、いや、すまん。おいちょっと、ティア、俺の真似をしてみろ。」
「えっ?」

ティアの頭の後ろにレイの大きな手が添えられ、顔が近づいてくる。

「ティア、目を瞑れ。」

命令し慣れたレイの声に何故か逆らえず、ティアはドキドキしながら素直に目を閉じた。

チュッと軽く二人の唇が合わさって、ティアの唇が吸われたのを感じて、ビクッと身体が動いてしまう・・・なんだ、キスよね、これ・・・これくらいもちろん真似できるわよ・・・えっと、こう? 
チュッとレイの唇を吸い返す。

ティアだって、頬にキスをされたことは何度もあったし、恋人や夫婦がキスをするのも見ている。
胸の高鳴りが一層高くなる。

ドキン、ドキン・・・

レイの熱い息が頬にかかって、チュウ、と今度は少し強めに吸われた。チュウ、ちゅ、繰り返しているうちになんとなくコツがわかってくる。

あっ、鼻で息をするのね、なるほど・・・頭の角度や唇の位置をずらして口と鼻で息をしながら、ちゅ、チュウ、とリズムに乗って唇を吸い合っていると、今度はレイが唇をぺろ、と舐めてきた。
ん・・、レイの唇をぺろ、と舐め返す。次にレイがティアの唇に沿って舐めてくると、知らず知らず口を開いてしまう。

「んんっ・・・・」

レイの熱い舌がゆっくりティアの口の中に入ってくる。

今度はうまく呼吸ができて、息苦しく感じることはない。

レイの柔らかい舌がティアの舌を見つけて、そっと押し付けるように舌を合わせると、ティアも舌を合わせて押し返す。舌が巻きついてきてジュッと吸われる。ティアも同じようにと繰り返していると、だんだんいい気持ちになって、いつの間にかレイの舌を味わうように積極的に絡め、強く吸い上げる。
溢れ出す唾液を、ごくん、と飲み干し、んっ、んっと長い間唾液の交換を続ける。

なんだか、身体が熱くなってきちゃった・・・でも、なんかこれ、ヤメられない・・・

やがて、ボーとして来たティアの溢れた唾液をレイが舌で追って、そのまま顎の下、うなじ、と熱い舌が辿り、肌を舐められ、時々強く吸われる。

んんっ・・・はあ、気持ちいい・・レイ・・・

鎖骨を唇で探られながら、大きなレイの暖かい手が背中を撫でて脇をくすぐる。

あん・・なんかこそばゆい・・・もっとちゃんと撫でて・・・

のぼせてきた頭で、ボーとしながらも身体は正直で、鎖骨からだんだん胸の膨らみに向かって下がってくるレイの唇に、もっと・・と裸の自分の身体を自然に押し付けている。

レイが、片手をティアのお尻の下に入れ、グイッとティアの上半身を持ち上げた。

ちょっとお湯より冷たい空気は、お湯から出たティアの、のぼせた身体に気持ちいい。
乳首の周りを丹念に柔らかいレイの舌で舐められ、フッと乳首に息が吹きかけられる。

ひゃん・・・なんか身体がぞわぞわする・・・

「あ・・んっ」

たまらず、ティアが手を伸ばして、ググッとレイの頭を胸に近づけると、そのままレイは逆らわず、ティアの疼く胸の中心のピンと立った尖りをカプっと口に含んだ。

「ああっん・・・」

お湯がバシャバシャ跳ねる音がする、暖かい霧雨が降ってくるが構ってられない。
ちゅく、ジュルと、レイの熱い口に含まれた尖りから送られてくる快感に、のぼせたティアの頭はぼんやりと、これってもしかして、普通恋人同士がする行為なのでは・・・と思い当たるが、身体は素直に反応する。

疼く身体をキモチいい・・と大胆にレイに押し付けると、レイは胸を強く吸ったり、手で撫ぜたり、と益々ティアを可愛がる。

「ん、ティア、もっと欲しいか?」

あん・・そんなとこで喋っちゃ、ヤダ、なにこの疼く感覚・・・もっと・・あっ・・ダメ・・くる・なんかくる・・・あああっ・・・

のぼせたティアはふらっとよろめき、突然視界が暗くなって、パチン、とティアの思考は途切れた。

ぱちゃん、と水が大きく跳ね、お湯が一瞬二人に降り注ぎ、クタっとティアの身体から力が抜ける。
レイはギュっとティアの柔らかな身体を抱きしめた。

「ティア? ティア? どうした?・・・・・」

ティアが気を失った事に気付いたレイは、ざばっ、とお湯からティアの身体を抱えたまま立ち上がると、そっとその裸身を岩の上に横たえる。

「なんて、美しんだ、ティア・・・」

僅かに入り込む月の光のもと、暗闇に透けるキラキラひかるプラチナブロンドの長い髪。
優美なアーチ状の眉、瞑った目を縁取る長い睫毛にキスで赤みの差した可愛らしいさくらんぼ色の唇、膨らんだ女性らしい胸にしなやかなすらりとした裸体。

「こんな身体で・・・・」

元気一杯に動くティアの身体はこうしてみると、とても儚く見える。

濡れたティアの身体をレイは胸にぶら下がるペンダントから取り出したタオルで優しく拭き取りながら、レイが可愛がった鎖骨や胸の薄っすら桃色に染まった肌をじっと見つめる。

所有の証のようなそれらの印をゆっくり手でなぞり、しばらく熟考していたレイは、やがて、深い笑みを浮かべて頷くと立ち上がった。

洞窟の奥まった乾いた場所にペンダントの中から敷物などを取り出し、その上に、マットレスを敷いて、ティアの裸体をそっとその上に横たえる。
見えない何かに向かって話しかけ、レイもそのまま横になって、最後に二人の身体に掛けた毛布の下でそっと柔らかいティアの裸身を抱きしめた。

そして、滝や洞窟に流れる水の音以外は外の音も聞こえない、二人、外の世界から取り残されたような空間で、レイはティアを抱きしめながら共に深い眠りについた。
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 男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。  ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。  全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?! ※結構ふざけたラブコメです。 恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。 ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。 前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。 ※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。

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