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三国会議 2
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翌朝。
イザベルは身支度を済ませると、泊めてもらったお礼に寝台の上に魔法の粉を振りまいた。すると意外にも同室になった女性が声をかけてくる。
「あのぉ、何をしてるの?」
若い侍女はいかにも恐る恐るといった感じで、キラキラ光る粉をじっと見ている。
「ーー”春のまどろみ”で、寝具を清めていますわ」
「とっても芳しいわぁ……素敵な匂いがするのね。ひょっとして今までになく気持ちよく眠れたのも、魔法の粉のおかげかしら?」
土魔法が得意なイザベルは、メローズ邸で育てた魔草のお気に入りを常に持ち歩いている。
「”春のまどろみ”は、防臭や匂い取り、快眠などの効果がありますわ。よかったら使ってみますか?」
昨夜は怯えるようにそそくさと部屋を出ていって名乗り返さなかった侍女に、大して期待もせず勧めてみる。ところが、彼女は「いいの?」と目を輝かせた。
「たくさんありますから、どうぞ」
王宮の侍女は貴族の娘ばかりだ。はつらつとした桃色の髪が美しい娘は好奇心旺盛らしく、差し出された緑とピンクが混じった粉から漂ってくる香りを吸い込んで、はにかむように笑った。
「私はレティシア・ドルムス。メローズさんて、見た目よりずっと話しやすいわ。噂なんて真に受けて…私ってば、馬鹿みたい」
ドルムス……? もしかして、辺境伯の縁者だろうか。
「……赤い魔女に近づいたら呪われるーーとかですか?」
「それとね、気に入らないと毒薬の被験者にされたり、妖しい大蛇をけしかけられたり……あとは、媚薬で恋人を誘惑されるとかだったかしら……」
はぁぁ~~。知らない間に噂は膨らんで、みごとな尾ひれがふりふりについている。
「ーー毒や呪詛は解毒薬などの研究に必要な知識ですわ。大蛇との従魔契約は切れましたし。媚薬は作れますけど……効果は限定的ですわね」
淡々と述べたイザベルにレティシアは目をパチクリ。
「あはっ! ぅふふふ、そうなのね」
そんなにおかしかっただろうか? お腹を抱えて笑うほど……
「ーー戦闘系魔導士ばかりをみてきたから……イザベルはいかにも正統派ね。あ、イザベルって呼んでもいい? せっかく同室になったのだから、仲良くしたいわ。私のことは、レティシアって呼んでね」
物怖じしない性格なのか、レティシアはどんどん話しかけてくる。
昨夜から180°転換した態度にイザベルは内心うろたえた。ファリラ以外にこんな感じで接してくる女性は今までいなかった。
「ねえねえ、教えてくださる? 媚薬って、どんな効果があるのかしら?」
戸惑いつつもイザベルは普段通り淡白に対応するが、気がつけばレティシアになぜか今夜もまた同室になる約束をさせられていた。当の本人は笑顔で手を振って、「時間だわ、また後で」と王宮侍女らしい淑かな所作で部屋を出ていく。
ーー連泊する予定はなかったけど……着替えは用意があるのだし。知り合いが増えたのは快挙よね……?
今日から会談がいよいよ本格的に始まる。気を引き締めて仕事に取りかからなければ。
イグナスには絶対、会いたくない。でも一目会いたくてしかたない。
そんな狂わしい恋心を押しやって、イザベルも執務室へと向かった。
だけどその憂いを嘲笑うように、彼とは鉢合わせさえしない。昼過ぎには気を張った反動か、すでに疲れ気味で心のガードが緩んできた。午後の会議が始まる時刻に廊下を歩いていると、不意に見知らぬ男が前に立ち塞がった。
「……ほう、実に見目良いな。そのローブは魔導士か。宮廷に仕える者だな?」
円柱の影から現れたシルタニア帝国の貴族を見た途端、イザベルの心にアラームが鳴る。くすんだ金髪の男は笑顔で何気に行く手を遮ろうとするが、イザベルは危なっかしくも毅然としてその横をすり抜けた。
「おっしゃる通りですわ。何かお困りですか?」
整った容姿の男からは女性が喜びそうなコロンが漂ってくる。その顔が少し意外そうにひきつった。
「そうだ。’卯の花の広間’へ案内を頼みたい」
「ーーどうぞこちらへ、今なら午後の再議に間に合いますわ」
スタスタと歩き出したイザベルを「おい待て」と男は追ってくる。小さく舌打ちしたのをイザベルは聞き逃さなかった。
見た目はいいが、まるで作り物の笑顔。関わらない方がいい。そんな気持ちがどんどん強くなる。
「カラートの魔導士は粒揃いで大層優秀だそうじゃないか。こんな接待などつまらないだろう?」
呼び止めておいて案内しろと言った男の言い草に、内心で呆れた。
「微力ながら、協議発展のお役に立てて光栄ですわ」
そして男が見ていない隙に、「それでは少し、失礼します」と風魔法で身体を包む。もちろん、お褒めに預かったシルタニア貴族もだ。男は驚き、警備の騎士も風に運ばれていくイザベルたちを見て呆気にとられた。が、この魔法は時々使われるので騒ぎはしない。
「おいっ、どうなって……」
「あら? マイダス卿ではありませんか」
目的地に着いたタイミングで、前方の広間の扉が開いてファリラが出てきた。
「体調がすぐれないと退室なされたそうで、様子をお伺いしようとそちらに向かうところでしたわ。回復されたのですね、何よりです」
「あ、ああ」
「ーー開始時刻に間に合うよう、お連れしましたわ」
イザベルの言葉に「ご苦労さま」と軽く頷いたファリラの瞳は、面白そうに輝いている。
「それでは、どうぞこちらへ」と先導された男は、一瞬顔をしかめるが、ファリラはそしらぬ顔。男が部屋に入るやにこやかに失礼しますと扉を閉めた。
「イジィ、もしかして何かされた? あの方とは夜会で話したけど、要注意ね。カリッサ殿下との温度差を感じるわ」
「やはりそうですか。値踏みするような目で見られました。遠回しに仕事に不満はないかとも聞かれましたし」
執務室でファリラと二人きりになると、さっそく情報交換だ。
「……どこかで、イジィの噂を聞きつけたのね。何が目的かわからないけど不穏な気がしてならないわ」
赤い魔女と呼ばれるイザベルにわざわざ近づいてきた……暗にそう述べるファリラに、イザベルも頷いた。
「あの様子ではまた接触してくるかもしれません。少し探ってみましょうか?」
「……貴女なら、うまくあしらえると思うけど……賛成できないわ」
「危ないと思ったら、即逃げますわ」
「うーん、分かったわ。許可しましょう。けど、深追いはしないと約束して」
イザベルの動じない態度にファリラが折れた。
毒や呪詛を扱う噂のある魔導士に近づいてきたシルタニア貴族だ。それ以上に男運ゼロだからこそ、どうも引っかかる。いざとなれば魔導具を使えば逃げ切れる自信はある。
不審者から逃げる目的で渡されたのに、わざわざ近づくためにこの魔導具を頼るなんて皮肉なものだ。一波乱ありそうな会談だけど、絶対に成功を目指すとイザベルはファリラと頷き合った。
その後もーー個人的な問題を除けば、初日、二日目と何事もなく過ぎて、会談も三日目に入ると全体に落ち着いてきた。
イザベルは直接カリッサ皇女と謁見する機会はないけれど、それはイグナスとも会わないということ。ニアミスは何度かあったが、いまだ彼とは挨拶のカーテシー意外は言葉さえ交わさないし目も合わさない。
だから廊下を歩いていて突然、「ベル」と聞こえたのも空耳だと思った。
「ベルっ、待てっ」
え?
信じられない思いで振り返ると、こちらに向かってイグナスがツカツカと歩いてくる。目をまん丸にしたイザベルに手を伸ばしたように見えたが、突然動きが止まった。訝しんだイザベルが視線を追うと庭園でレティシアが手を振っている。
「イザベルーー、ちょうどよかったわ~~! 一緒にお昼をーー……」
固まっていたイザベルの横を、イグナスは何事もなかったように通り過ぎた。
「あ、呼び止めてごめんなさい。もしかしてまだ、お仕事中だった?」
「いえ、休憩に入るところだわ」
ーーなんだったのっ⁉︎ 今のは…………
心臓がまだドキドキしている。脈も速い。けれどイザベルは努めて冷静に新しくできた知り合いに向き直った。
「レティシア、何かあったの?」
「用事じゃないのよ。ご一緒してもいいかしら。私も今から休憩なの」
天気がいいから外でと、案内された先では見知らぬ侍女が二人くつろいでいた。
「レティ、こっちよ! あら、そちらはどなた……?」
「イザベル・メローズ嬢よ。”春のまどろみ”をくれた魔導士さん」
後退りこそしなかったものの、「ひっ」と大きく息を吸い込んだ侍女たちにレティシアは面白そうに続ける。
「王宮の警備が物々しくって、一人では心細かったから無理を言ってずっと宿舎に泊まってもらっているの。貴女たちも魔法の粉を気に入っていたし、お昼を一緒にどうかなって声をかけちゃった」
……いやもう、慣れている。珍獣を見るような恐々とした視線には。
臆せず紺碧の瞳で見返したイザベルと、最初は一定の距離を置いたものの。レティシア主導で談話を交わすうちに侍女二人も次第に打ち解けてきた。
「そうだわ! イザベルの紹介で忘れていたわ。聞いてちょうだい、”麗しの貴公子”様をさっきお見かけしたの! イザベルって、もしかして彼とお知り合いなの?」
意気込んだレティシアと目の色を変えた二人に、イザベルは内心でたじろいだ。でも、こんな乙女な会話ができるのはちょっぴり嬉しい。
「……麗しの貴公子って……?」
「カリッサ皇女殿下の側近、イグナス・ビストルジュ様よ! 気づいてなかったの? さっき貴女の後ろを歩いてらっしゃったわ」
王族付き侍女であろう、立派な身なりの令嬢たちは羨ましそうに両手を合わせた。
「うそうそっ! そんな近くにいらっしゃったの? あの麗しいお顔を拝むだけでも尊いのにぃ。メローズさんったら、もったいない~~!」
「そうよねえ。私ってば、晩餐会での接客募集がかかった時に手を挙げなかったのよお。シルタニアって聞いただけで怖気づいちゃって。今思うと、悔やんでも悔やみ切れないわ~~!」
「皆、そう思っているわよ。とっても紳士でお優しいと評判ですもの」
会談が始まる前と今では、王宮内の風が変わってきた。イザベルはそう感じていた。
この侍女たちと同じく貴族の間でもシルタニアへの見解が徐々に変わりつつある。一戦交えるのを主張していた愛国派もしかり、静観を決め込む保守派もだ。
シルタニアの穏健派が擁立するカリッサ皇女が、わざわざ交渉に出向いて来た。その目的はカラートとアルバンから協力を取り付けるためだ。共存共和を目指す彼女が女帝になれば、不可侵条約の成立はもちろん、経済や文化の交流の促進などなど様々なメリットがある。
ファリラがこっそり教えてくれたシルタニア事情をすべて鵜呑みにはできないが、第一皇子派の強行姿勢より明らかに歓迎できる。故に、三国会談は早い段階から大きく進展しつつあった。
「イザベルも近くで見たら、超美人さんだし。喋ってみたら普通の令嬢だし。もう、ほんっと噂なんてあてにならないわぁ」
「そうよねえ、シルタニアの貴族は鼻持ちならないって、聞いてたけど。いろんな方がいらっしゃるのねえ」
目配せを交わす令嬢たちが思い浮かべているのは、誰なのだろうか。夜会に参加しないイザベルには見当もつかない。
「カリッサ皇女殿下も、それはそれはお美しい方じゃない? ビストルジュ様と並ぶと美麗なカップリングで眼福だわ~~」
「素敵! お二人は親密そうだものね。絶対にお似合いよ。一緒に踊っていらっしゃると見惚れてしまって、ステップを忘れそうになるわ」
絶妙なタイミングのレティシアのコメントに四人全員が憧れのため息をついた。イザベルも憧れと諦めが混じったモヤモヤを押し隠しつつまつ毛を伏せる。
「晩餐会も、”麗しの貴公子”様とお話できる絶好のチャンスよ。絶対に出席するわ!」
婚約者のいるレティシアが「神がかりな美形なんですもの」と目を輝かせると笑いが広がった。
「この間の夜会でもーー」
ますます盛り上がりをみせる空気にはさすがに耐えられなくて、イザベルは仕事に戻ると言い訳をしてその場から立ち去った。心に刺さったトゲがチクチク痛い。
ーーベル。その呼びかけは懐かしく、言葉で言い表せないほど嬉しかった。でも、次の瞬間には総スルーだったけど。
……今は、晩餐会の段取り確認をしないと。
警備の騎士たちに軽く礼をして、イザベルは毅然と割り当てられた区間に入る。と、ぞわっと悪寒が走った。自然と気が引き締まったところに、向かい側から金髪のマイダス卿が近づいてきた。
「宮廷魔道士殿ーーメローズ嬢だったか、確か」
名乗ってもいないのにこちらを知っているし。また待ち伏せしていたところを見ると、やはり何かあるのだろう。
「先日は、失礼しました」
「ちょうどよかった、質問がある」
「……どのような御用向きでしょうか?」
男は近くの部屋へ誘い込もうとするが、その場から動かないイザベルにスッと壁に手をついて整った顔を近づけてきた。
「ふん、まあいい。毒に詳しいと聞いたが、それは本当か? それに先日の風魔法…属性は風か?」
呆れた。宮廷魔導士ともあろうものがそんなことをペラペラと話すわけなどない。
魔力を含んだ気障ったいコロンも鼻につくと目を細めたイザベルを見て、マイダスはたじろいだ。
「私は由緒ある侯爵家の嫡男だ。次期皇帝の覚えもめでたい。どうだ、我が侯爵家のお抱えとして仕える気はないか? ただの魔導士にしておくにはもったいない美貌、色々と興味をそそられる」
まるで品定めするように顎を持ち上げられて、背中に虫唾が走る。
どれだけたくさんの女性を口説いてきたのか知らないが、見掛け倒しの男ばかり寄ってくる体質のイザベルには通じない。微笑みが薄笑いに見えるし、瞳からギラギラの欲望も感じる。
……これはひょっとして、魅了魔法だわ……?
他国の王宮でこんな魔法を使用するなんて、信じられない。でも、イザベルの立場では礼に反する振る舞いはできない。振り払えないなら、せめて距離を取ろうと何気なく半歩遠ざかった。
「申し訳ありませんが、急いでおります。晩餐会のことでカリッサ皇女殿下へ至急お知らせがございますので、通していただけませんか」
態度を崩さず淡々と応答したイザベルに驚いた顔をした男は、皇女の名を出すと怯んだ。
その隙に、廊下に飾ってある花瓶をこっそり魔法で揺らし音を立てる。マイダスが気を取られている間に「失礼いたします」とイザベルは眉一つ動かさず歩き出した。
その場を離れても、まだねちっこい視線を背中に感じる。……どうやらまた、ロクでもない男にロックオンされてしまったらしい。
絶好調な自分の男運のなさに嫌気がさすが、受難はこれだけではなかった。
「……晩餐会でのお席ですがーー……」
ーーどうしてここに、イグナスがいるの……?
控えの侍女に言付けるだけの要件だったのに。なぜか、その場に居合わせた彼に直接報告するはめになった。
まともに向き合って顔をあわせるのはこれで二回目。ナーバスなイザベルに対し、イグナスは落ち着き払っている。
おまけに、物腰は丁寧だし一見穏やかだが、そのマリンブルーの目は少しも笑っていない。
昼にすれ違っただけなのに、何か気に触ることをしただろうか? 不機嫌の原因に覚えがない。顔を合わせたくないにしても、こちらも仕事だし。
「他にご用向きなど、ございますか?」
「……いや、ない」
「それでは、これで失礼いたします」
「……ご苦労」
そんなに睨まないで欲しい。イザベルは手早く一礼して直ちに扉を閉めた。報告に訪れただけなのにと、地味に傷つく。
そういえば……大蛇のイグナスと一緒に過ごした日々の中で、彼があんな目つきをしたのは野盗に襲われた時ぐらいだった。自分は犯罪者と同じくらい彼を不愉快にさせるらしい。
確かにイザベルの身分であれば、王宮に出入りすることはそうそうない。彼のような雲の上の人に会うはずもないのに、それがほぼ毎日顔を合わせるのだから、職務とはいえ苦々しく思われても仕方ない。
イザベルは足を止めず歩きだすが、ホントもう泣きそうだ。けれど、警備に当たっている騎士や廊下を行き交うメイドの目もある。肩を落とすような真似はしない。
意思の力だけで背筋を伸ばし、イザベルは歩き続けた。
イザベルは身支度を済ませると、泊めてもらったお礼に寝台の上に魔法の粉を振りまいた。すると意外にも同室になった女性が声をかけてくる。
「あのぉ、何をしてるの?」
若い侍女はいかにも恐る恐るといった感じで、キラキラ光る粉をじっと見ている。
「ーー”春のまどろみ”で、寝具を清めていますわ」
「とっても芳しいわぁ……素敵な匂いがするのね。ひょっとして今までになく気持ちよく眠れたのも、魔法の粉のおかげかしら?」
土魔法が得意なイザベルは、メローズ邸で育てた魔草のお気に入りを常に持ち歩いている。
「”春のまどろみ”は、防臭や匂い取り、快眠などの効果がありますわ。よかったら使ってみますか?」
昨夜は怯えるようにそそくさと部屋を出ていって名乗り返さなかった侍女に、大して期待もせず勧めてみる。ところが、彼女は「いいの?」と目を輝かせた。
「たくさんありますから、どうぞ」
王宮の侍女は貴族の娘ばかりだ。はつらつとした桃色の髪が美しい娘は好奇心旺盛らしく、差し出された緑とピンクが混じった粉から漂ってくる香りを吸い込んで、はにかむように笑った。
「私はレティシア・ドルムス。メローズさんて、見た目よりずっと話しやすいわ。噂なんて真に受けて…私ってば、馬鹿みたい」
ドルムス……? もしかして、辺境伯の縁者だろうか。
「……赤い魔女に近づいたら呪われるーーとかですか?」
「それとね、気に入らないと毒薬の被験者にされたり、妖しい大蛇をけしかけられたり……あとは、媚薬で恋人を誘惑されるとかだったかしら……」
はぁぁ~~。知らない間に噂は膨らんで、みごとな尾ひれがふりふりについている。
「ーー毒や呪詛は解毒薬などの研究に必要な知識ですわ。大蛇との従魔契約は切れましたし。媚薬は作れますけど……効果は限定的ですわね」
淡々と述べたイザベルにレティシアは目をパチクリ。
「あはっ! ぅふふふ、そうなのね」
そんなにおかしかっただろうか? お腹を抱えて笑うほど……
「ーー戦闘系魔導士ばかりをみてきたから……イザベルはいかにも正統派ね。あ、イザベルって呼んでもいい? せっかく同室になったのだから、仲良くしたいわ。私のことは、レティシアって呼んでね」
物怖じしない性格なのか、レティシアはどんどん話しかけてくる。
昨夜から180°転換した態度にイザベルは内心うろたえた。ファリラ以外にこんな感じで接してくる女性は今までいなかった。
「ねえねえ、教えてくださる? 媚薬って、どんな効果があるのかしら?」
戸惑いつつもイザベルは普段通り淡白に対応するが、気がつけばレティシアになぜか今夜もまた同室になる約束をさせられていた。当の本人は笑顔で手を振って、「時間だわ、また後で」と王宮侍女らしい淑かな所作で部屋を出ていく。
ーー連泊する予定はなかったけど……着替えは用意があるのだし。知り合いが増えたのは快挙よね……?
今日から会談がいよいよ本格的に始まる。気を引き締めて仕事に取りかからなければ。
イグナスには絶対、会いたくない。でも一目会いたくてしかたない。
そんな狂わしい恋心を押しやって、イザベルも執務室へと向かった。
だけどその憂いを嘲笑うように、彼とは鉢合わせさえしない。昼過ぎには気を張った反動か、すでに疲れ気味で心のガードが緩んできた。午後の会議が始まる時刻に廊下を歩いていると、不意に見知らぬ男が前に立ち塞がった。
「……ほう、実に見目良いな。そのローブは魔導士か。宮廷に仕える者だな?」
円柱の影から現れたシルタニア帝国の貴族を見た途端、イザベルの心にアラームが鳴る。くすんだ金髪の男は笑顔で何気に行く手を遮ろうとするが、イザベルは危なっかしくも毅然としてその横をすり抜けた。
「おっしゃる通りですわ。何かお困りですか?」
整った容姿の男からは女性が喜びそうなコロンが漂ってくる。その顔が少し意外そうにひきつった。
「そうだ。’卯の花の広間’へ案内を頼みたい」
「ーーどうぞこちらへ、今なら午後の再議に間に合いますわ」
スタスタと歩き出したイザベルを「おい待て」と男は追ってくる。小さく舌打ちしたのをイザベルは聞き逃さなかった。
見た目はいいが、まるで作り物の笑顔。関わらない方がいい。そんな気持ちがどんどん強くなる。
「カラートの魔導士は粒揃いで大層優秀だそうじゃないか。こんな接待などつまらないだろう?」
呼び止めておいて案内しろと言った男の言い草に、内心で呆れた。
「微力ながら、協議発展のお役に立てて光栄ですわ」
そして男が見ていない隙に、「それでは少し、失礼します」と風魔法で身体を包む。もちろん、お褒めに預かったシルタニア貴族もだ。男は驚き、警備の騎士も風に運ばれていくイザベルたちを見て呆気にとられた。が、この魔法は時々使われるので騒ぎはしない。
「おいっ、どうなって……」
「あら? マイダス卿ではありませんか」
目的地に着いたタイミングで、前方の広間の扉が開いてファリラが出てきた。
「体調がすぐれないと退室なされたそうで、様子をお伺いしようとそちらに向かうところでしたわ。回復されたのですね、何よりです」
「あ、ああ」
「ーー開始時刻に間に合うよう、お連れしましたわ」
イザベルの言葉に「ご苦労さま」と軽く頷いたファリラの瞳は、面白そうに輝いている。
「それでは、どうぞこちらへ」と先導された男は、一瞬顔をしかめるが、ファリラはそしらぬ顔。男が部屋に入るやにこやかに失礼しますと扉を閉めた。
「イジィ、もしかして何かされた? あの方とは夜会で話したけど、要注意ね。カリッサ殿下との温度差を感じるわ」
「やはりそうですか。値踏みするような目で見られました。遠回しに仕事に不満はないかとも聞かれましたし」
執務室でファリラと二人きりになると、さっそく情報交換だ。
「……どこかで、イジィの噂を聞きつけたのね。何が目的かわからないけど不穏な気がしてならないわ」
赤い魔女と呼ばれるイザベルにわざわざ近づいてきた……暗にそう述べるファリラに、イザベルも頷いた。
「あの様子ではまた接触してくるかもしれません。少し探ってみましょうか?」
「……貴女なら、うまくあしらえると思うけど……賛成できないわ」
「危ないと思ったら、即逃げますわ」
「うーん、分かったわ。許可しましょう。けど、深追いはしないと約束して」
イザベルの動じない態度にファリラが折れた。
毒や呪詛を扱う噂のある魔導士に近づいてきたシルタニア貴族だ。それ以上に男運ゼロだからこそ、どうも引っかかる。いざとなれば魔導具を使えば逃げ切れる自信はある。
不審者から逃げる目的で渡されたのに、わざわざ近づくためにこの魔導具を頼るなんて皮肉なものだ。一波乱ありそうな会談だけど、絶対に成功を目指すとイザベルはファリラと頷き合った。
その後もーー個人的な問題を除けば、初日、二日目と何事もなく過ぎて、会談も三日目に入ると全体に落ち着いてきた。
イザベルは直接カリッサ皇女と謁見する機会はないけれど、それはイグナスとも会わないということ。ニアミスは何度かあったが、いまだ彼とは挨拶のカーテシー意外は言葉さえ交わさないし目も合わさない。
だから廊下を歩いていて突然、「ベル」と聞こえたのも空耳だと思った。
「ベルっ、待てっ」
え?
信じられない思いで振り返ると、こちらに向かってイグナスがツカツカと歩いてくる。目をまん丸にしたイザベルに手を伸ばしたように見えたが、突然動きが止まった。訝しんだイザベルが視線を追うと庭園でレティシアが手を振っている。
「イザベルーー、ちょうどよかったわ~~! 一緒にお昼をーー……」
固まっていたイザベルの横を、イグナスは何事もなかったように通り過ぎた。
「あ、呼び止めてごめんなさい。もしかしてまだ、お仕事中だった?」
「いえ、休憩に入るところだわ」
ーーなんだったのっ⁉︎ 今のは…………
心臓がまだドキドキしている。脈も速い。けれどイザベルは努めて冷静に新しくできた知り合いに向き直った。
「レティシア、何かあったの?」
「用事じゃないのよ。ご一緒してもいいかしら。私も今から休憩なの」
天気がいいから外でと、案内された先では見知らぬ侍女が二人くつろいでいた。
「レティ、こっちよ! あら、そちらはどなた……?」
「イザベル・メローズ嬢よ。”春のまどろみ”をくれた魔導士さん」
後退りこそしなかったものの、「ひっ」と大きく息を吸い込んだ侍女たちにレティシアは面白そうに続ける。
「王宮の警備が物々しくって、一人では心細かったから無理を言ってずっと宿舎に泊まってもらっているの。貴女たちも魔法の粉を気に入っていたし、お昼を一緒にどうかなって声をかけちゃった」
……いやもう、慣れている。珍獣を見るような恐々とした視線には。
臆せず紺碧の瞳で見返したイザベルと、最初は一定の距離を置いたものの。レティシア主導で談話を交わすうちに侍女二人も次第に打ち解けてきた。
「そうだわ! イザベルの紹介で忘れていたわ。聞いてちょうだい、”麗しの貴公子”様をさっきお見かけしたの! イザベルって、もしかして彼とお知り合いなの?」
意気込んだレティシアと目の色を変えた二人に、イザベルは内心でたじろいだ。でも、こんな乙女な会話ができるのはちょっぴり嬉しい。
「……麗しの貴公子って……?」
「カリッサ皇女殿下の側近、イグナス・ビストルジュ様よ! 気づいてなかったの? さっき貴女の後ろを歩いてらっしゃったわ」
王族付き侍女であろう、立派な身なりの令嬢たちは羨ましそうに両手を合わせた。
「うそうそっ! そんな近くにいらっしゃったの? あの麗しいお顔を拝むだけでも尊いのにぃ。メローズさんったら、もったいない~~!」
「そうよねえ。私ってば、晩餐会での接客募集がかかった時に手を挙げなかったのよお。シルタニアって聞いただけで怖気づいちゃって。今思うと、悔やんでも悔やみ切れないわ~~!」
「皆、そう思っているわよ。とっても紳士でお優しいと評判ですもの」
会談が始まる前と今では、王宮内の風が変わってきた。イザベルはそう感じていた。
この侍女たちと同じく貴族の間でもシルタニアへの見解が徐々に変わりつつある。一戦交えるのを主張していた愛国派もしかり、静観を決め込む保守派もだ。
シルタニアの穏健派が擁立するカリッサ皇女が、わざわざ交渉に出向いて来た。その目的はカラートとアルバンから協力を取り付けるためだ。共存共和を目指す彼女が女帝になれば、不可侵条約の成立はもちろん、経済や文化の交流の促進などなど様々なメリットがある。
ファリラがこっそり教えてくれたシルタニア事情をすべて鵜呑みにはできないが、第一皇子派の強行姿勢より明らかに歓迎できる。故に、三国会談は早い段階から大きく進展しつつあった。
「イザベルも近くで見たら、超美人さんだし。喋ってみたら普通の令嬢だし。もう、ほんっと噂なんてあてにならないわぁ」
「そうよねえ、シルタニアの貴族は鼻持ちならないって、聞いてたけど。いろんな方がいらっしゃるのねえ」
目配せを交わす令嬢たちが思い浮かべているのは、誰なのだろうか。夜会に参加しないイザベルには見当もつかない。
「カリッサ皇女殿下も、それはそれはお美しい方じゃない? ビストルジュ様と並ぶと美麗なカップリングで眼福だわ~~」
「素敵! お二人は親密そうだものね。絶対にお似合いよ。一緒に踊っていらっしゃると見惚れてしまって、ステップを忘れそうになるわ」
絶妙なタイミングのレティシアのコメントに四人全員が憧れのため息をついた。イザベルも憧れと諦めが混じったモヤモヤを押し隠しつつまつ毛を伏せる。
「晩餐会も、”麗しの貴公子”様とお話できる絶好のチャンスよ。絶対に出席するわ!」
婚約者のいるレティシアが「神がかりな美形なんですもの」と目を輝かせると笑いが広がった。
「この間の夜会でもーー」
ますます盛り上がりをみせる空気にはさすがに耐えられなくて、イザベルは仕事に戻ると言い訳をしてその場から立ち去った。心に刺さったトゲがチクチク痛い。
ーーベル。その呼びかけは懐かしく、言葉で言い表せないほど嬉しかった。でも、次の瞬間には総スルーだったけど。
……今は、晩餐会の段取り確認をしないと。
警備の騎士たちに軽く礼をして、イザベルは毅然と割り当てられた区間に入る。と、ぞわっと悪寒が走った。自然と気が引き締まったところに、向かい側から金髪のマイダス卿が近づいてきた。
「宮廷魔道士殿ーーメローズ嬢だったか、確か」
名乗ってもいないのにこちらを知っているし。また待ち伏せしていたところを見ると、やはり何かあるのだろう。
「先日は、失礼しました」
「ちょうどよかった、質問がある」
「……どのような御用向きでしょうか?」
男は近くの部屋へ誘い込もうとするが、その場から動かないイザベルにスッと壁に手をついて整った顔を近づけてきた。
「ふん、まあいい。毒に詳しいと聞いたが、それは本当か? それに先日の風魔法…属性は風か?」
呆れた。宮廷魔導士ともあろうものがそんなことをペラペラと話すわけなどない。
魔力を含んだ気障ったいコロンも鼻につくと目を細めたイザベルを見て、マイダスはたじろいだ。
「私は由緒ある侯爵家の嫡男だ。次期皇帝の覚えもめでたい。どうだ、我が侯爵家のお抱えとして仕える気はないか? ただの魔導士にしておくにはもったいない美貌、色々と興味をそそられる」
まるで品定めするように顎を持ち上げられて、背中に虫唾が走る。
どれだけたくさんの女性を口説いてきたのか知らないが、見掛け倒しの男ばかり寄ってくる体質のイザベルには通じない。微笑みが薄笑いに見えるし、瞳からギラギラの欲望も感じる。
……これはひょっとして、魅了魔法だわ……?
他国の王宮でこんな魔法を使用するなんて、信じられない。でも、イザベルの立場では礼に反する振る舞いはできない。振り払えないなら、せめて距離を取ろうと何気なく半歩遠ざかった。
「申し訳ありませんが、急いでおります。晩餐会のことでカリッサ皇女殿下へ至急お知らせがございますので、通していただけませんか」
態度を崩さず淡々と応答したイザベルに驚いた顔をした男は、皇女の名を出すと怯んだ。
その隙に、廊下に飾ってある花瓶をこっそり魔法で揺らし音を立てる。マイダスが気を取られている間に「失礼いたします」とイザベルは眉一つ動かさず歩き出した。
その場を離れても、まだねちっこい視線を背中に感じる。……どうやらまた、ロクでもない男にロックオンされてしまったらしい。
絶好調な自分の男運のなさに嫌気がさすが、受難はこれだけではなかった。
「……晩餐会でのお席ですがーー……」
ーーどうしてここに、イグナスがいるの……?
控えの侍女に言付けるだけの要件だったのに。なぜか、その場に居合わせた彼に直接報告するはめになった。
まともに向き合って顔をあわせるのはこれで二回目。ナーバスなイザベルに対し、イグナスは落ち着き払っている。
おまけに、物腰は丁寧だし一見穏やかだが、そのマリンブルーの目は少しも笑っていない。
昼にすれ違っただけなのに、何か気に触ることをしただろうか? 不機嫌の原因に覚えがない。顔を合わせたくないにしても、こちらも仕事だし。
「他にご用向きなど、ございますか?」
「……いや、ない」
「それでは、これで失礼いたします」
「……ご苦労」
そんなに睨まないで欲しい。イザベルは手早く一礼して直ちに扉を閉めた。報告に訪れただけなのにと、地味に傷つく。
そういえば……大蛇のイグナスと一緒に過ごした日々の中で、彼があんな目つきをしたのは野盗に襲われた時ぐらいだった。自分は犯罪者と同じくらい彼を不愉快にさせるらしい。
確かにイザベルの身分であれば、王宮に出入りすることはそうそうない。彼のような雲の上の人に会うはずもないのに、それがほぼ毎日顔を合わせるのだから、職務とはいえ苦々しく思われても仕方ない。
イザベルは足を止めず歩きだすが、ホントもう泣きそうだ。けれど、警備に当たっている騎士や廊下を行き交うメイドの目もある。肩を落とすような真似はしない。
意思の力だけで背筋を伸ばし、イザベルは歩き続けた。
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