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愛しい人は、誰でしょう?

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「……で、どうするんです? それで…」
「取り敢えずは、ウェディングドレスを買わなくちゃ」
「本当に、いいんですか? そんな簡単に人生決めてしまって」

「やはり微妙です。スンナリ納得出来ません」とブツブツ言いながらも、テンは白いドレスのショッピングに付き合ってくれた。
テンは、リナがどれだけ幼い頃からローリーとの手紙のやり取りを楽しみにしていたのかを、知っている。
だからこそ、突然一方的に婚約破棄されて、カンカンに怒ったのだ。
「…この状況は気に入りません、が、人の心ばかりは理屈じゃあないことも分かっています」そう言って、盛大なため息をついている。文句を言いながらも、「リナがそれで幸せになるなら、私は黙って応援するだけです」とリナの意思を尊重してくれているのだ。

「ありがとう、テン。私もこの結婚が自分の望んでいたものなのかは、まだわからないわ。だけど今は国の将来を優先すべきなのよ。王女の立場からすればローリーの申し込みは渡りに船だわ」

そう、ある意味、知らない男を婿に迎えるよりかは全然いいような気がしている。

「今までお告げが悪い結果を招いたことはないわ。それに悪い予感もしないしね」
「そうなんですよね、私も納得はできないんですけど、これでいいような気がするのは何故でしょうか……」

苦い薬を無理やり飲み込んだような顔のテンを見ていると、どこまでも味方でいてくれるのね…と感謝の気持ちが溢れてくる。

(ローリーは二人だけの結婚式だと言ったけど、テンには、出席してもらいたい……)

「テン、明日の結婚式には、あなたも出席してほしいわ」
「もちろんですとも。こうなったら、最後まできっちり見届けてやろうじゃあ、ないですか」

こうして二人で微妙に揺れる気持ちを割り切り、サッサと買い物を済ませた。
憧れていたロマンチックな式ではないかも知れないが、一歩大きな前進である。
夜になると髪も念入りにチェックをして、ドレスも新品の中では一番お気に入りの淡い水色と白の混じった少し大胆な勝負服を纏った。この服は縫取り線が巧くデザインされていて、腰が細く見えるので、その分、胸が大きく見える錯覚現象を起こしてくれる逸品だ。

(よし、これで上手くいけば、明日には結婚式でその後は城に堂々と帰れるわ!)

外に出ると夜のひんやりと感じられる風が少し冷たい、と肩をさすった。
夜道をいつも通りに王家の森へ、テクテクと歩いていく。
暗い夜の森を月明かりだけを頼りに、若い女性が大した明かりも持たずに出歩くなんて、普通では考えられないことである。けれどもリナはなぜか少しも、怖い、とは感じなかった。

(だって、こんな森での野宿なんて、もう慣れちゃったし……)

と考えてから思考の行方に、は? 私ってば何を考えてるの? と呆れてしまった。
これまでずっと城の塔と教会で過ごしてきた。野宿なぞ、生まれてこの方した事がないというのに……

(やっぱり、少しナーバスになってるせいかしら? こんな途方もない事を考えてしまうのは…)

少し緊張しながらも、青白く照らされた花野に、ふうっと腰をおろした。
途端に、ガサガサ、と草を踏み鳴らす足音が聞こえてくる。
あら? 今日は随分早いのね…とのろのろと立ち上がってローリーを迎える。

「リナ、良かった、来てくれたんだね?」
「どうしたの? ローリー、なんだか様子が…」

心持ち前かがみ気味に歩いてきた姿を見て、具合でも悪いのかしら?、と彼に歩み寄る。

「多分だけど、媚薬を盛られた。あのワイン、味がおかしいと思ったんだ。メラニーの時と同じだ、絶対ワインに何か仕込まれた」

(え? ワインに媚薬を仕込まれた?)

驚くリナに、ローリーは自嘲気味に薄っすら笑いかけてくる。

「そうなんだ、メラニーの時もワインを勧められて乾杯をした途端、頭がぼんやりしてきた」
「うそっ、だって、貴方がメラニーの誘惑に負けたって…」
「まあ、そういう事にもなるよね、だってこんな風になってしまった状態で裸でくっつかれたら、よっぽど自制心のある男じゃなきゃ…」

そう言いながら、よろっと一瞬よろめき、その場に座り込んだ。

「ローリー、貴方大丈夫なの?」
「はあ、まったく、参ったよ。やんわり拒絶した途端、こんな手でくるなんて」
「お水でも、飲む?」
「僕、断るのって苦手だし、争いたくないんだ」

疲れたように手で顔を覆っている。
そんな様子を見て、これは、大変、と急いで収納魔法の扉を開いて水を取り出した。

(あれ? こんな所に…私のこの剣…)

見覚えがないのに自分の物だ、とすぐに分かった剣が扉のすぐ横に横たわっている。

「うっ、ふぅ…」
「あ、ごめんなさい、はいお水」
「ありがとう、リナ」

水を飲んだローリーは、少し落ち着いた様子だった。

「ねえリナ、結婚式のこと考えてくれた?」
「考えたわ、今日は花嫁衣装を買ってきたの」
「嬉しいよ! じゃあ、明日は教会で会えるね?」 

嬉しそうなローリーが、リナと囁きながら唇を重ねてくる。

(あ……)

予想外に早々に触れてくる雰囲気に驚きはした。でも、抵抗はしない。
この肩を抱いてくる目の前の男性は、明日には自分の夫になる人なのだ。
だが呆気ないキスが終わると、そのままそっと草むらに押し倒されてしまった。

「リナ、ごめん、まだちょっと効果が残ってるみたいだ」
「え?  ちょっと、ローリー?」
「色っぽいね、この服、リナの白い肌がよく映えるよ」

のしかかってくるローリーの前が少し膨らんでいる。

(あ、まだこんな状態ってことは…)

身の危険は感じている。けれども、ここで拒絶してしまっていいのだろうか? 
いずれはこうなるのだから、と思う理性と、何だか思っていた経過と違う、と強く感じる感情に、心がせめぎあいを始める。

男性にしては繊細そうな綺麗な手が、そっとリナのドレスの肩をずらしてきた。

「…リナ、今日はなんだかいつもと違うね、はあ、何だか凄くそそられる…」

そう言ってむき出しなった素肌に軽く唇を寄せてくる。

(あ、やっぱりこの感覚、覚えてる!、……でも、違うわ……)

こんな風に素肌に触れてくる唇を『冷たい』と感じた事はなかった。
戸惑い動けないながらも、強くそう思ってしまう。

「あれ? ここ、何か虫に刺されたんだね?」

素肌に赤い印を見つけたローリーは、指で胸の膨らみを、そっと撫でている。

(え? 虫刺され? そんな物あったかしら?)

「ほら、ここにも、ここにも」

だんだんと服が下にずらされるにつれて、心が焦ってきた。
一体何の事? と頭を少し持ち上げてローリーの指が辿った素肌を、ジッと見つめる。

今日ドレスを着た時は、そんな痕はまったくなかった。

けれども、月明かりに照らされた青白く少し寒い素肌には、はっきりと赤い印が浮かび上がって見える。
点点と肌に広がる、まるで刻印のような跡。

(あ、これは……)

突然、頭にローリーのものとは明らかに違う、低いセクシーな美声が響き渡った。

『俺のものだという印だ。俺以外の男には、決して見せるなよ……』

(えぇっ? 誰?)
 
リナの頭の中で低い美声は、何度もエコーする。
その間にも纏っていたドレスは器用なローリに、胸の下までズラされていた。
恥ずかしい秘密のブラ姿が、月光の下に晒し出されている。

(あ、そんなっ?! やっぱりダメっーー!)

咄嗟に手で胸を覆った。だが、ローリーは信じられない馬鹿力で、グググ、とその手を退けてきて、ブラ越しの膨らみを口に含まれる。

ぞわりっ……

全身が嫌悪感で震えた途端、耳鳴りがキーンとした。

『リナ、愛している』

脳裏に焼きついた愛しい顔が、不意に頭に浮かんでくるっ!

「いやっいやよっ! シンっ! シンディオン・ダイモーンっ、どうしてあなたがここに居ないのっ!」

幼馴染をとっさに蹴り飛ばそうとした自分を自制はしたが、自然とその名を口にした叫び声に驚いたのか、金髪の繊細な顔が胸から顔を上げ目を見開いて見下ろしてきた。

(違う! 違う、あなたじゃあ、ない!)

心がはっきり否定した途端、記憶が一瞬で蘇ってきた!
一旦満たされた記憶に押し流されるかのごとく、言葉が次々と溢れ出る。

「シンっ、あなたの番いの貞操の危機なのよーっ‼︎ 私をこんな男に奪われちゃって、いいわけーーっ⁈」

思わず悲痛な叫びを、記憶にある冷たい美貌に向かってあげていた。

「いいわけ、あるか!」

間髪を入れず低い美声が応えたかと思うと、身体にのしかかっていた体重がフッと消えた!

(あ……!)

香しい芳香が辺りに溢れかえると、代わりに逞しい腕が身体を包み込むように巻きついてきた。
そしてそのまま地面から、軽くふんわりと持ち上げられる。

「リナの全ては俺のものだ、他の男になど絶対許さん!」

夜空に溶け込むかのような漆黒の髪、紺碧の瞳の金色の瞳孔がキラキラと瞬いて、こちらを軽く睨んでいる。氷の美貌が目に映った途端、自然と目尻から涙が一筋流れ落ちていった。

(シン、私のシンだ、私の愛しい大事なシンディオン……)

「シン! もう、このばかっ、今までどこに行ってたのっ?」
「すまない、俺もメフィの魔法で、記憶を一時的に封印されていたらしい」

けれどもリナの涙を見た途端、慌てた表情で謝ってきた。

「私のことは覚えてるわよね? リナよ、あなたの番いのカトリアーナよ! 忘れたなんて言ったら、この手でナニを握りつぶしてやるわ!」
「おいおい、噛むのも握りつぶすのも、勘弁してくれ、と言ったはずだ」

堰を切ったように罵ってしまうものの、懐かしい胸にすっぽり包まれると、ほわんとした安心感が全身に広がってゆく。心の中が満たされ、夜風で冷えた身体が、ホカホカとしてきた。

(もう、大丈夫だわ……)

暖かい温もりと、トクン、トクンと聞こえてくる力強い胸の鼓動。
こらえきれない涙が次々と溢れては、頬を伝って流れていく。

この愛しい存在を、もう二度と、忘れたりはしない……

大きな胸の中で大泣きに泣きながら、「馬鹿、ばか!」と涙に濡れたひどい顔にも構わず、ひたすら罵ってしまう。愛しさや安心感に怨みつらみがごちゃごちゃになって、今は何も考えられなかった。
だけどすぐに罵りは小さくなって、泣きじゃくりながら、ぎゅうと懐かしい匂いの黒髪に手を回すと、もう離さないとばかりに勢いよく抱きついてしまう。

「シン、シン、会いたかったわ」
「俺もだ、リナ、愛しいカトリアーナ。愛しているよ」
「私も愛しているわ、シンディオン」

(あぁ、懐かしい、夜空の星のような瞳、癖のある柔らかな漆黒の髪…)

シンも、ジッと見つめてきては、頬や額、果ては目尻や髪にまで愛おしげに何度もキスをしてくれる。
身体は暖かい唇が触れてくる度に喜びで小さく震えた。
手を伸ばして愛しい顔をひきよせ、鼻先を優しく擦りつけあうと、大好き、と幸せな気持ちがふつふつと湧き上がってくる。

(そう、私はこんな気持ちにさせてくれる人を、今度の旅で見つけたかったのよ……)

愛する人と一緒にこの国を治めていく、そんな日常に憧れて旅に出る決心をした。
出会った人は、予想もしなかったほんの少し平凡でない人だけれど、心から愛していると思える素敵な人でもあった……

二人で何度もお互いを確かめるようなキスを交わした後、忘れていた存在を、フッと思い出した。

(……平凡といえば、あれ?) 

「あ…ねえ、そう言えば、ローリーはどうしたの?」
「ああ、あのけしからん男なら、そこに気絶させてあるが?」

服を直しながら指し示された先を見下ろせば、数メートル下の地面に男が転がっていた。
リナはその時初めて、自分達が地面から浮いていることに気づいた。

(あ、シンの翼が…)

愛しい顔を見上げれば、真っ黒な天使の翼が夜空に浮かび上がっていた。

(うん、やっぱりシンには翼がよく似合う)

その優雅な姿を眺めて、にっこり笑ったものの……

「…あんなところに転がしておいたら、風邪を引いちゃうわ、明日は大事な結婚式なのに」
「おいこら、今なんと言った? 誰と誰の結婚式だって?」
「私とローリーの結婚式よ…違うのっ、もちろんフリをするだけよっ!」

珍しくも無言で背中の剣に片手を伸ばしかけたシンに、慌てて言葉を付け足す。

「ダメよ、早まらないでっ! あなたが本気で斬ったら…もしかしてその剣って、存在ごと全部消しちゃうんでしょ?!」

眉間に皺を寄せたシンはだいぶ内心で葛藤している様子だったが、遂に重い溜息をついて頷いた。

「……わかった。で、なんで俺の番いが他の男と結婚式をあげるのを、この俺が黙って見てなきゃいけないんだ? いくらフリとはいえ、不愉快なことこの上ない!」

紺碧の瞳に灯る金色の光が、今は炎のように、メラメラと瞬いている。

(うわあ、凄い……)

シンの身体から、ものすごく途方もない魔力がうねり始めたのを感じる。
珍しくも魔力制御が危うくなっているようだ。
衝動に駆られたその姿に、落ち着いて、と頬に心を込めてキスをすると、瞬く間に瞳の業火は収まっていった。

「確かに、俺はこの世界の結婚式がどんなものかは知らないが、リハーサルなら俺とすればいいだろう?」と今度は珍しく拗ね顔のシンを見て、思わず可愛い、と吹き出してしまった。

「違うのよ、私にもよく分からないんだけど、お告げで見たビジョンでは、私とローリーが教会にいたのよ。私はウェディングドレスを着ていたわ」
「俺との結婚式の間違いじゃないのか?」

分かったとは言いながらも、ここで呑むのはあくまで不本意にだ!と冷たい美貌にはハッキリ書いてある。

「ローリーが新郎姿だったのよ」
「…バッドエンドの予知では?」
「ないわ、私を信じて」

真剣な顔で大丈夫だから、と頷くと、はあー、とシンは諦めのため息をまた大きくついた。

「分かった、で、俺はどうすればいい?」
「ローリーは自分に何が起こったかの分からないまま気絶したのよね? だったらこのまま城に連れて帰ればいいわ。あなたの姿も見ていないのだから、気が付いたら明日は結婚式のために教会に来るはずよ」

「明日には目を覚ますわよね?」と念のために聞いてみると、シンは「わかった、ちょっと待ってろ」と足元の暗い花野に、そっと身体を降ろしてくれた。

そしていかにも嫌そうに軽々と片腕でローリーの身体を狩った獲物のように抱えると、足元に魔法陣が光って、シュンと一瞬でその姿が見えなくなった、と思ったらすぐにまた同じ場所にその姿を現した。

「お疲れ様、一体どこにローリーを置いてきたの?」
「城のキッチンだ、あそこなら、朝になれば誰かがあいつを起こすだろう?」
「確かにそうね…ってシン? 一体何を…」

また長い腕が伸びてきて、そのままヒョイ、とお姫様抱っこされてしまった。

「この俺が黙って、番いを明日の結婚式に寄こすと思うのか? リナは俺のものだ。フリとはいえ、忘れないようしっかり刻んでやるから、今夜は覚悟しろ」
「へ? あ、ちょっと、シン?」

足元の魔法陣が光ると一瞬感じる浮遊感、そして周りの景色が見覚えのある砂浜に変わっていた。

「あ、ここは……」
「そうだ、初めてリナを移動魔法で連れてきた場所だ。ここには、この世界での俺の家があるんだ」
「家?」

シンはリナを抱えたまま、サクサク、と砂浜を歩いてビーチを横切ってゆく。
甘い香りが匂い立つ南国の花や木々を通り過ぎると、目の前には木材で作られた大きなテラスのついたログハウスが見えてきた。

「この島はちょうど東大陸の南の果てにある島でな、代々この世界に派遣される警備人が最初に転移してくる場所だ」
「転移?」
「移動魔法のようなものだ、着いたぞ」
「わあ、素敵! 木で出来たお家なのね」
「ああ、東大陸にいた時、古い家をそのままもらい受けてそれをここに移築したんだ」

そう言って、大きな海を見晴らすテラスの階段を登ると、ドアを開けてそのまま二階の寝室にどんどん入っていく。

「記憶がない間は、メフィに休暇だと言われてな、退屈だったからこの家をかなり改良したんだが」

そう言うなり、大きなベッドの上に、ポンと寝かされた。

「なるほどな、何かが足りないと思って色々買い足したんだが、物ではなくてリナが足りなかったんだな」

そう言って、顔を覗き込むように見つめてくる紺碧の瞳には、金色の粒子が、キラキラと光っている。
ほんとに綺麗、夜空に瞬く星のよう…と見惚れていると、頬に長い指が愛おしそうに触れてきた。
そう言われれば、自分も同じだった…ベッドに横になる度に、「何かが足りない」と手を宙に彷徨わせた。

(何を探しているのかも分からなくて、しょっちゅう夜中に泣いてしまったわ……)

辛い夜の記憶を拭うように、暖かい手のひらに頬をそっと擦りつけて甘えるてみる。その温もりに自分の居場所に戻ってきた…そんな気持ちがこみ上げてきて、胸の奥が安らぎで、ジーンと震えた。
ここ何日かは喪失感を抑えつつも、王女としての使命感に駆られての心の強行軍だった。
自分の半身をなくしてしまったような、苦しい胸の潰れるような日々を思い出すと悲しみに引きずられそうで、だからこそ、無理やり前向きな使命感で納得させたのだ。
もう二度とあんな思いはしたくない。
そう思ったら思わず、ため息が漏れてしまっていた。

「シン、大好きよ、愛しているわ、もうどこにも行かないでね」
「大丈夫だ、メフィの魔法が敗れたからには、俺たちの誓約書は一層確たる効力を持ったものになったからな」
「は? え? 誓約書って、あの血判を押した?」
「そうだ。これで、たとえ女神と言えども俺たちを引き裂くことはできなくなったぞ、ほらな」

二人の頭上にまたまた、パッと現れた知らない言語で書かれた一枚の魔法陣のように光る紙が現れる。
見ると確かに前に押した血判の下に、知らない文字の羅列が継ぎ足されている。

「これで本人同士に加えて立会人の署名が付された書類になった。後はリナが俺と結婚すれば、俺はずっとこの世界に制約を受けずに留まっていられる」

結婚っ! もちろんですとも。
ぜひともしましょう。

「異議申し立ては天魔界が相手だ」
「…ねえ、これって、なんて書いてあるの?」
「簡単に言うと、結婚届けだな。リナを俺の番いにする婚姻誓約書だ。俺の一族は一夫多妻ありなんだが、俺はその慣習を捨ててリナを唯一の伴侶にするという…まあ要するにだな、リナ一筋だと誓ったわけだ。生涯リナ以外の人には触れない。それと引き換えに、異世界に滞在する俺に付属してくる制約は、全て無効になると言う内容だ」

(ま! そんな内容だったのね。そうよね、シン達天魔人から見たら、この世界が異世界なんだわ……)

「ここ最近俺たちの世界では結婚しない、とか、子供がいない方が気楽だ、と言う風潮が顕著になってきてしまってな。どんどん出生率が落ちてきている。このままでは、と危機感を抱いた上からのお達しで結婚や出産は奨励されている。ちょっと生まれた世界が違うくらいでは、ガタガタ言われないだろうし、言わせないから安心しろ」

シンは不敵に笑うと、ポンと誓約書が消えた。

「…そうだったの、でも、それならどうしてあの時、教えてくれなかったの?」
「あの時点でいきなり『俺は異世界人で、正体をバラしたらこの世界にいられない、だから今すぐ俺と結婚しろ』はないだろう?」

覗き込んでくる端正な顔に、そんな事ないわよ、と答えられない正直な自分が恨めしい……
ふっと笑ったシンは「せっかくの二人の夜を台無しにしたくなかったんだ」と言って、胸に顔をグリグリと押し付けてくる。

「幾ら強引な俺でも無茶な要求だ、と分かっていたからな。だが、俺はどうしてもリナを俺のものにしたかった」

顔を上げると目を細めて「こんなに捕らわれたように欲しいと思ったことは、生まれて初めてだ」と優しくチュッと唇にキスをしてくれる。

「俺は本気でリナと結婚するつもりだったから、浮気などしないとテンにも納得させたかった」
「テン?」
「ああ、あの人はメフィとの事で、天魔人にいい印象持ってなかったからなぁ、娘のように可愛がっているリナに気軽に手を出したりなんかしたら、問答無用で俺の魂は一回は消滅させられる」

…まあ、あの朝のテンの剣幕を思い出せば、十分考えられることではある。一夫多妻の一族だということだし…。確かに、とてつもなく眩しき光る門のようなものが、あの日の部屋の中には出現していた。

(あれ? でも今、一回って言った? 魂って消滅したら永遠に無くなるはずじゃあ…)

などと考えていると、シンが突然ここ一番の重大事実を、サックリと告げてきた。

「この誓約書は、リナが俺以外の人と結婚をすれば無効になる」

(なっ! うわぁ危なかった! 今夜記憶が戻らずにローリーと結婚していれば、永遠にシンを失うところだったのね……)

どれだけ危ない橋を渡っていたのか……
今更その事実に気づくと、思わず身震いで身体が小さく震えてきた。
だがすぐに暖かい腕が伸びてきて、大丈夫だ、と安心させるように大きな手に髪を優しく撫でられる。
水色の髪がシンの指に絡めとられ、紺碧の瞳が、ジッと見つめてくる。
魂まで吸い込まれそうなその色に見とれていると、金色の粒子がキラリと光った。

「リナ、俺の可愛いカトリアーナ、俺は君が愛しくてしょうがないんだ。そのけがれない魂も可愛らしい唇から溢れる言葉も、吐息さえも愛して止まない……」

(ふわあ、シンって嬉しい言葉を、結構どんどんくれるのよね、でも…これだけは譲れないわ)

真っ赤になりながらも、こういう事はハッキリさせとかないと、最初が肝心よ、とその大きな手を握って、紺碧の瞳を、じっと見つめた。

「…シン、嬉しい! もちろんあなたと喜んで結婚するわ、けど! 浮気は絶対認めないわよ、愛人も駄目。いいこと? シンディオン・ダイモーン、あなたはすごくモテるし、これからも誘惑やお誘いが数えきれないほどあるでしょう?」

忘れもしないタルのギルドの一件。シンが女性受けするのは、分かっているのだから。
目を見張った顔を軽く睨んで、本気だからね、と言い募る。

「もしも言い寄られて浮気をする気になったら、私のためにも先に離婚して頂戴。私、愛に関しては白黒ハッキリしていないと嫌なの。仮面夫婦なんてぜっーーったいに認めませんから」

「でもまあ心変りだけは、仕方ないわ…」と真剣に言い放った途端、紺碧の瞳が煌めいてシンは盛大に笑い出した。

「はは、ほんと、リナには俺のチャームが通じないな。人が折角盛大に求愛しているのに…」
「え? 魅惑魔法チャーム?」

(うそーっ!? そんなの全然感じなかったけど……)

「ああ、一族の性でな、本気で口説きたい時は、時々無意識で混じってしまう。リナに通じたことはないがな」
「通じた事ないって、でも前に身体が勝手に動いた覚えが…」
「本気で嫌だったか?」
「本気で?」

思い返せば、はじめからビックリはしても嫌だと思ったことはない。
「ううん、それはなかったわ…だって本当に嫌だったら、多分身体はあんな反応しない…」と言ってから、そっと心の中で付け足す。

(…どころか、絶対蹴りが入ってるわよ)

最後の部分は声には出さず首を横に振ったら、分かっている、とシンは頷いた。

「ほらな、リナが大人しいままの訳がない」
「うーん、でも初めの頃は確かに動けなかったし、明らかに魅惑魔法チャームの効果を感じたわ。今は、そんなの感じられないけど?」
「心が嫌がってないのだから、頭で考えても身体は動かないさ。今は無意識ではじいているんだろう、俺の言った言葉で意識がモヤっとしたりしないだろう?」
「…ないわ、シンにあれこれされると、感じちゃうのはしょっちゅうだけど…」

シンはそれを聞くと、ニヤリと満足そうに笑った。
突然シンの纏っていた服が消えて、逞しい身体がいきなりのしかかってくる。

「それは確かに魔法ではないな」
「あ…」

や、そんな突然に、と一瞬頭に浮かんだ言葉は、たちまち月明かりに晒された逞しい身体に目が釘つけになり、遠い思考の彼方へポーンと飛んで行く。

(う、わあ、なんて……)

久しぶりに見るシンの身体は、相変わらず見事に引き締まっている。滑らかでしなやかな筋肉がついている姿は、優美ですらりとしていて神がかりな美しさである。
美しく研ぎ澄まされたような肉体は男らしさを主張していて、キレイに割れた腹筋や引き締まった腰、適度に筋肉質の上腕などは見ているだけで胸が、ドキドキと高鳴ってくる。

(やっぱり男の人の身体って、全然違う……)

思わず両手を伸ばすと、その逞しい腕のラインを優しくなぞった。暖かい人肌を指先に感じると、切ないほど胸が、キュンとなり全身が熱くなる。

「残念だがな、俺はリナと違って心変りは絶対に認めん。相手の命はないものと思え」

低い美声に顔を上げると、紺碧の中で金色の粒子が踊った。冷酷な言葉にシンの本気度が伝わってくる。
さすがもと悪魔の一族である。
無慈悲で非情な態度が、氷の美貌に怖いほど似合いすぎだ。
しかしながらそんな寒気を覚えるほどの態度にも恐怖は湧かず、目の前の男をますます愛しく想ってしまうのはいけない事なのだろうか?

このひとが欲しい。

そう思った途端、全身が、ぞくぞくと騒めきだした。

(あ…いやん、私ったら……)

すでに濡れて、ジワリと蜜が溢れてきたのを痛いほど意識してしまう。

「今日は普通の服なんだな」
「ん…シンはこんな服、好き?」

大きな手に胸を柔らかく掴まれて、無意識に、もっと触って? と誘うように腰を揺らして胸をそらしている。愛してもいない男を誘惑する為に、わざわざ新調した、と話す気にはなれない。だけど、シンの好みを知るいい機会かもとも思う。

「俺か? 服についてはよく分からんが、よく似合っているとは思うぞ。脱がせにくいのが難点だがな」

ドレスに手をかけられたと思ったら、「ややこしいな」と留めのリボンを緩められる。

「いつもの服なら、こんな手間暇かけずに済む」

ところがスッと手を伸ばしてきたかと思うと、緩められたリボン留めを長い指がなぞってゆく。瞬く間に結び目が、パラパラと剣で切ったように上から下まで引き裂かれた。

(……これからは、絶対テンの羽で作ったドレスを着よう……)

結構お値段が高かった新品のドレスを、シンは我関さず、とばかりに引き裂いて投げ捨てている。

「ちょっと、ま、待って。これだけは今後の参考のために…」

この秘密兵器だけは……
後でじっくりと観察して、再現できるようにしなければと焦って、一緒に引き裂かれたら大変っとばかりに必死でパラっと脱いだ下着をベッドの下に避難させる。

「ん? なんだ、ストリップか? 積極的だな」

それを見ていたシンの瞳が、キラキラと金色に輝き出した。

「もっと、見せてくれ」
「え? は? 自分で脱ぐの?」

慌てていたから、自分の取った行動がどんなに大胆なものに見えたかは頭になかった。
今更だが、頭の中で今の場面を巻き戻してみる。

前留めを外して、ぷるんと飛び出した胸を、背中の部分を脱ぐため思いっきり反らした。
尖ったピンクの蕾を誘うように突出しさらした挙句、片手で胸を押さえながら、もう片方の手に持った下着をシンの目の前に掲げた。
そして、これはダメっとばかりに、それをシンの方に見せつけて、パサっとベッドの下に落とした。

(…挑発の行為だと取られても仕方ない、かも…)

改めて一連の行動をビジュアル付きで考えてみると、羞恥心を覚えて、わなわなだ。
「いやあ」と、恥ずかしくて潤んだ目を伏せると、慌てて胸を両手で隠してしまった。
シンは構わず馬乗りの体勢から起き上がると、膝立ちで見下ろしてきた。

「ふうむ、そそられるな、ほら、これで脱ぎやすいだろう?」
「っ…」

(いやいや、そんなキラキラした目で期待されても……)

思ってる先から、自分の手は胸から離れて大胆にもショーツの端に伸びていく。

「きゃあ、バカあ、こんな時に魅惑魔法チャームなんて、使わないでよ!」
「こんな時こそ、使わなくてどうする?」

(ああぁ、私のばか、馬鹿ぁ、何でそんな従順なのよぉ!)

身体中が興奮して、痛いほどシンの目を意識してしまう。
じわじわと高まる緊張感に神経が研ぎ澄まされ、ドキンドキンと心臓が強くなり出した。

(ふわあ、脱がされるのも恥ずかしいけど、自分で脱ぐのも、ものすっごく恥ずかしいんですけど…)

そんなことを考えていると、耳が砂浜に打ち寄せる、サラーと静かな波音を不意に捉えた。
波打ち際に寄せては引いていく穏やかな水音が、妙に高ぶった気持ちを、ふうわり、と和らげてくれる。

(うん、大丈夫、落ち着いて……)

せっかくのシンからのリクエストなのだ。
できる事なら期待に応えたい。
紺碧の瞳を見つめながらゆっくりと焦らすように、身体をくねらせ下着をズラしていく。
すると、不意にシンが心を落ち着けるように、ふう~と大きく呼吸をした。

「ダメだな、我慢なんて性に合わん」
「え、やーーっ?」

一大決心して膝下まで脱いだ下着は、大きな手にアッサリ引き千切られた。
直後に、膝を押し広げて逞しい身体が足の間に割り込んでくる!
チュっと胸のピンク蕾にキスをされると、びくうと身体が反応した。
強引な振る舞いへの驚きさえも、一瞬で切ない疼きに流されてゆく。

(シン、シンもっと私に触って……)

両手を大きな背中に回して温かい体温を確かめると、全身で素肌と素肌が触れあった。
その感触が滑らかで暖かくて、すべてがとっても気持ちいい。
唇から始まった愛しむようなキスは、頬、首筋、鎖骨や胸の膨らみを辿って、腕の内側や脇、腰、太ももへと降りていった。足の付け根を優しく手のひらで撫でられ、濡れた舌で膝や足首まで辿られる。
足の爪先までたどり着いた唇が、チュッと可愛い濡れたを音を立てると、擽ったい感じがして軽やかな笑いが喉から漏れた。

「ふふふ、くすぐったいわ」
「ん、リナは本当に甘い味がする。いつ味わっても堪らなくなる」

爪先をしゃぶられてとうとう笑い出したリナに、満足そうな低い声が、そうっと告げてくる。
やっと身体を起こしたシンは、可笑しそうに笑ったせいで開いた唇を、狙って屈みこんできた。
味わうように、ペロリと舐め上げると、突如、激しい貪るようなキスをしてくる。

「ふ…んん」

その奪うような性急さを伴うキスに応えるように、逞しい腕を、そろっと撫であげる。
その感触を楽しむと同時に首に両手を回した。

(あ、お腹に…)

シンはあたかも挑発するように、柔らかい腹部に熱くて硬い屹立をワザと擦りつけてくる。
腹部で感じる灼熱の猛りの感触に、ゾクゾクと痺れるような不思議な快感が湧き上がった。
唇を舐めあうようなキスをすると、堪らなく気持ちいい。
まるで魔力の代わりに、魂を吸い込まれそうな甘いキスだ。

(あ、ああ…こんな、何かに落ちてゆきそう…)

背中が、なわな細かく震えて、甘い痺れが背筋を這い上がってきた。
同時に足の間が疼き、思わず逞しい背中に手を伸ばすと爪を立てるように指先に、ぎゅうと力が入ってしまった。

(あぁ、シンがここにいる、私の腕の中に……)

力の入った抱擁に応えるように首筋に噛みつくようなキスをされ、ピリッと僅かな痛みが走る。
そのまま彼の唇にピンクの蕾が含まれると、全身がぞくっと震えて力が抜けてゆく。

(頭が、のぼせそう……)

幾度も肌に柔らかく噛みつかれ、わざと跡を残すように強く吸われる。
そこから生まれる甘い痺れはやがて身体の奥と繋がって、全身が、トロンと蕩けてゆく。
のしかかってくる逞しい重みさえも、シンの存在感が感じられて深い安堵を覚える。
はぁ、と目を閉じて、安らぎの溜息をついた。
こんな風に肌の合わさる感触や身体の重みにさえ心が酔いしれてしまうのは、あんなことがあったせいなのだろうか……

「リナ…」

我慢できない大きな手が秘所を弄ってきて、チュプと指先を挿れられすでにトロトロに濡れていることを知られてしまった。

「はあ、シンお願い……」
「まだだ、まずは気持ちよくなれ」

間髪を入れず、膝が大きく広げられて漆黒の頭が足の間に強引に割り込んだ。
いきなり花弁を指で広げられる。

「ャ、ぁん…」

そのまま膨らんだ花芽の中心を指先で押し出すように晒され、敏感な膨れを、ちゅるんと吸い上げられた。

「んんーーーーっ」

久しぶりに感じる不意打ちの強烈な刺激に、まぶたの奥がチカチカする。

(やぁ…ダメ…そんな…)

そのまま繰り返し強弱のリズムをつけ舌で転がされ、しゃぶられてしまって、あっという間に身体は敏感になり、太ももがピンと張って、ピクピクとそこは震えだしてくる。

「んん…ぁ…んっ…」

無意識に快感を逃そうと腰をよがり出していたが、ガッチリ押さえ込まれていてうまく動けない。

(もう、もう、ダメ……)

溢れてくる蜜は太ももを滴って、秘所はぐっしょり濡れている。
身体の奥から熱い蜜がまた湧き上がってきて、思わず腰を浮かしかけたところに、ピリリ、と鋭い快感が身体中を走り抜けた。

「ンンンーーっっ!」

ヒクつく膨らみに尖った歯先を当てられ、カリリ、と甘噛みされたのだ。
ギュウ、と身体を突っ張るように力が入ると、蜜口から暖かい愛蜜が、どっと溢れ出てきた。
トロントロンに蕩けながらも彼を求める気持ちが強すぎて、痛い程だった。
弛緩した足を広げられて、逞しい腰があっという間に入ってくる。
猛り立った屹立を熱く濡れた蜜壺にあてがわれると、太ももが震えてきた。

「カトリアーナ…」

シンはリナの腰を抱えてゆっくり、慎重に傷つけないよう小刻みに揺らして慣らすように押し入ってきた。
時々揺れを止めては確かめるように、引いては挿入いれを繰り返す。
そして途中でこちらを見つめては、大丈夫か、というように薔薇色に染まった頬を片手でそうっと撫でてくる。平気だからもっと…と頷いて笑顔を見せると、緩んだ身体にゆっくり侵入を再開した。

「ん…はぁぁ」

少しづつやっと慣れてきたと思うと途中から、一気に奥まで貫かれた。

「あぁ~~ーーっ…」

熱い、まるで灼熱の塊のようだ……

シンが全てを収めきると、やはりすごい圧迫感を感じる……

(でも…また一つになれた……)

ああ、このピッタリくる至福感…まるで自分の身体が自分のものではないような……
知らず知らずのうちに、ポトン、と目尻から柔らかい涙が溢れていた。

「リナ? どうした、痛いのか?」

シンが腰を浮かして抜こうとする気配に、背中に回した手で逞しい身体をぎゅうと強く抱きしめて抗議する。

「ダメ、大丈夫なの、それよりもっと、きて…」

途端に強く抱き締め返された。一つに繋がった喜びが全身から溢れてくる……
もっと奥まで、と自ら腰を揺らし動いてみる。

「っ…まったく、そんなに煽られたら、さすがの俺も自制が」
「いやよ…そのままきて…」

自制なんてして欲しくない、そんな気持ちでいたら紺碧の瞳は、嬉しそうに輝いた。

「…わかった」

ズン、と腰が突き出され、感じる奥まで突き入れられる……

「ぁあっ…あ…んっ…っ…」

シンが大きくそのまま腰を、グリグリとグラインドさせると、身体に稲妻のような快感が走り抜けた。
待ち望んでいた、身体の奥まで繋がってゆく感じがしてくる……

「シン……」

掠れた声で愛しい名前を呼ぶ。

(あっ、ダメ、出て行かないで…)

ギリギリまで引かれると、彼を引き留めるように膣中なかが纏わりついてゆく。
すると再び一気に貫かれた…… 
熱い屹立がゆっくり前後に擦れ律動を再開すると、自然と彼の動きに腰を合わせ視界が揺らめく。
リズミカルな動きで突き上げられると甘い悦楽が全身に広がって、気持ち、いい、と堪らず身をよじった。
身体の中心から揺さぶられるような快感に、手が自然とシーツをつかんでいる。
トロトロに蕩けた身体が、熱くて堪らない。
繋がったところから蜜が滴り落ちて、シーツの上で何度も身体をよじった。

「あ…あぁ…ぁ…んん~~ーーっ」

熱い屹立で貫かれて、そのまま奥にキスされる度に愉悦の声が洩れる。

「くっ…」

低く呟く声が聞こえ、律動を送り続けているシンは何かに耐えるように綺麗な眉を寄せている。
脈打つような大きさと熱量が身体の中で、徐々に硬度を増していった。
そして欲しくて堪らない中心を容赦なく、力強く的確に突き上げられる。
やがて芯が揺さぶられるような激しさの中で、一際大きく、ずんと突き上げられると同時に、堪らないとばかりに深い口づけを奪われた。

「んん~~ーーっ!」

浅い呼吸で急速に追い上げられた激しい極まりに、全身が襲われる。
ビクンビクンと震えは止まらず、うねるように膣中なかのシンをきゅうんと締めつけた。

(あ、離れないで……)

唇を離れないよう必死で舌を絡ませ、首に手を回す。

「っ…」

身体に腕が巻きつきしっかり固く抱きしめられ、腰がグッと深く押し付けられた。

(ぁっ……)

身体の奥に熱い奔流がほとばしる。
暖かい精が注ぎ込まれるとその濡らされた奥から、快感が波状に広がってゆく。

(ぁん…も…ダメ…)

暖かいワインが身体に染み入るように、ふわふわっとした酩酊感に酔ってしまいそうだ。

「リナ…リナ…」

何度も名前を呼ばれ酔った心が、一段と極まり陶酔感に浸っている。
達した後も固く抱き締められたまま、腕の力は緩まない。
後の余韻を楽しむように中に居座ったまま、うなじや耳朶、まぶたや眦に何度もキスが落ちてくる。
気持ちよくて目を閉じて感じ入ったように、荒い息の中、ホゥーと長い満足の溜息をついた。

「リナ、愛してる、全てが片付いたら結婚式をあげるぞ」

鼻先をくっつけ合い熱い吐息をつきながら、シンは低く押し殺したような声で囁いてきた。
二人は未だに深く繋がっていて、どこからどこまでが自分で、どこからがシンなのか、ぼうっとのぼせた頭では、はっきりと分からない。シンの体温を感じる心臓は、まだばくばくと激しく鳴っていた。
空気を求めて荒い息継ぎをしながらも、はっきり頷いた。

「愛してるわ、シン」
「リナ…」

(あぁっ、嘘っ!)

根元まで入ったままだったシンが、早々に硬さを取り戻していたっ。

「あっ、ぁ…ん…あぁ~~っ」

片足を持ち上げられ、位置を変えて今一度ゆったり抜き差しして挿入れ直されると、シンは奥の奥までまた入ってくる。
瞬く間に、ズンと力強く突き上げられ、同時にまた深く口づけられた。

「ん…んっ…っ」

そのまま先程よりゆったりとしたペースで突き上げられ、身体を揺さぶられて、甘美で強すぎる快楽に意識が朦朧となってくる。

(シン、シン…私も愛してる……)

奥に突き入れられるたびに、愛してる、とシンの美声で脳裏に優しく囁かれているようだった。
そんな切々と訴えるような動きに心が震えて、中にいるシンを、きゅううんと何度も締め付ける。
するとより一層大きくなった昂りに、感じる奥まで繰り返し、ズン、ズンとひと突き、ひと突きを味わい尽くすようにゆっくりじっくり腰を回すように挿し入れされる。

(そこは、だめ~、あぁん…こんな…感じて……)

「あ…ぁん…も…んん~っ」

先ほどより緩慢な動きでゆったりと愛されているのに、身体はもう、ビクビクと痙攣しっぱなしだ。
またもや、追い詰められるような絶頂感が、じわじわとすでに上り詰めてきている。
はぁん…と、盛大に淫らな声をひときわ高く上げると、ふわふわの陶酔感が頭を襲ってきたのだった。



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