薮原劇場1 図書室編

真田奈依

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5 どこか可怪しい女

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 同じ内容の日誌を二枚書いていたことがあった。意味が分からない。
 どうでもいいことにこだわって、なんでもかんでもメモをして、人にもメモをしろと強いる。もしかしたら薮原さんは物覚えがよくないのかもしれない。私が教えたことを忘れていることが多かった。だからメモにこだわるのか。だが、メモを取って安心してしまい、頭に何も入ってない気もする。
 電話してきたり、どうでもいいことで来るのは、攻撃の口実を見つけるためもあるけど、本当にわからないことがあるからかも。
 意味不明なことはほかにもいろいろある。本をクリーニングする洗浄剤を分けてほしいと頼んだ時は、「そっちで買え」と断ったくせに、数日後に洗浄剤の在庫があるかと聞いてきたり、頼みもしないのに予約の雑誌を届けに来て、その翌日には「貸出しないなら戻せ」と電話してきたり。
 予約資料は届いてから1週間は取り置き期間があるというのに。しかもその雑誌の予約者には届いた時点で連絡をしていた。予約者は連絡すればいつも翌日には借りに来る人だし、実際、薮原さんの電話のすぐ後に借りに来た。勝手に届けておいて、丸一日もたっていないのに戻せとはおかしな話だ。
 話が回りくどくて一方的。日誌はどうでもいいことまで事細かにごちゃごちゃ書きすぎてわかりにくくしている。そうすることで自分が一番頭がよくて仕事ができると思われたいのだろう。
 薮原さんは物事を煩雑はんざつにしている。パソコンの起動のしかたもそうだ。簡単なことを難しくして樋口さんに教えていた。
Shiftキーを押しながらパスワードを入力し、Shiftキーから指をはなして数字を入力すれば済むことなのに、NumLockキーを押して数字を入力して、またNumLockキーを押して、という余計な手間を増やしたやり方を、パソコンに不慣れな樋口さんにさせている。
 使う必要のないNumLockを使わせ、ややこしくしている。しかもパソコンに不慣れな人がNumLockキーを押してしまうと、キーボード操作ができなくなるトラブルにもなる。
 薮原さんは決してパソコンができるわけではない。私が教えたから、業務で使えるようになった。停電の時はあらかじめパソコンをシャットダウンしておかなければならないことも知らなかったほどだ。それなのに何を知ったかぶって、使う必要のない、それどころかトラブルを引き起こしかねないNumLockを使うのか。
 自分のほうが賢くて正しいと思って偉そうにしているのだろう。変なことにこだわって単純なことを複雑にしている。
 そうやって自分のやり方を人に押しつけて、混乱を生じさせミスを誘発している。 



 木製のキャビネットの扉や引き出しに、独断でテプラを貼って表示して得意になっていた。中に何が入っているかわかるようにして、合理的にしたつもりなのだろうが、たくさん貼りすぎて見栄えは悪いし、かえってわかりにくい。非効率的。
 しかも書体の明朝体とゴシック体の区別ができていないようで、ごちゃまぜの書体のテプラを、ベタベタ貼っている。汚いと思わないのだろうか。すべてこまごまと表示しなくとも、一目でわかるようにざっくりでいいのに。
 物の定位置を決めて、少しでも戻すのが遅れたり、間違えると責めるが、そもそも定位置の決め方に問題があって、よく使う物の定位置を離れた場所に決めるものだから、出すにもしまうにも手間がかかるし、間違いやすかった。ミスを誘発した。
 まるで疫病神。そんなことをするから、職を転々としなければならなかったのだろう。
 あの女はどこか可怪おかしい。
 だが、他罰的で、自分の異常性に気づいていない。
 私が声をかけなければ、今も無職か職を転々としていることだろう。
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