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13日の金曜日に来た女

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 明日は休みだ。特別な用事はないが気分がはずむ♪♪♪
 そんな平和な昼下がり。令明図書室に、どうでもいいことで曽根図書室で働く薮原恵巳やぶはらえみがわざわざ来た。
 元々やせていて、蛇のように細長い薮原だが、今日も元気だ。

 異様なほどに愛想がよかった薮原が、私の職場の領域にどんどん踏み込んで、司書資格もなく実務経験も浅いのに、人の仕事に口出しをしてくるようになった。
「それは、こうすべきでしょう」
 などと、見当違いの自分流を押しつけてくる。
 やせこけて、骨ばって、ひょろ長い女が、文字通り上から目線で見下ろし、まくし立てるようになった。
 巳年みどし生まれの薮原は執拗に、私のする事にいちいち口出しし、否定し、批判してきた。物理的、精神的に領域を侵害してきた。

 私は薮原と距離を置くことにした。攻撃の口実を与えないように、必要最低限に関わることした。やぶをつついて蛇を出すことはしないようにした。
 それなのに、蛇のような女はつつかなくとも出てきた。私が距離を置いても、向こうから関わろうとしてくる。
 予約本など、何も薮原が届けなくてもいいような物を、しょっちゅう届けに令和図書室に来た。本当はそれはやってはいけないと言われている事だった。薮原が、わからないわけはなかった。布由ちゃんが令和図書室の本を、曽根図書室に届けた際、「それはやってはいけないことだ」と、薮原は布由ちゃんをさんざん責めたことがあった。それなのに、自分は平気でやって、しょっちゅう令和図書室に来る。

 今日も、本を届けに来た。
 攻撃のきっかけを得ようとして、関わってくるのだろう。どうでもいいことで令明図書室に来ては、攻撃の材料を見つけ陰湿に難癖なんくせをつけていた。

 薮原がコンタクトレンズを落とした。あんまり目を見開いて虎視眈々こしたんたん粗探あらさがしをしたからだろう。関わりたくなかったが、早く帰ってほしいから見つけてやった。
 薮原は、私が見つけてやったコンタクトレンズをつけて、帰って行った。
 薮原が来る前は楽しい気分だったのに、一変した。今では気分が悪いほどだ。

 今日は13日の金曜日だった。13日の金曜日は、縁起が悪いとか不吉とか言われている。
 人を嫌な気分にする女は、冗談抜きで13日の金曜日に来た。


 ふと〈エネルギー・バンパイア〉というワードが浮かんだ。調べてみると、エネルギー・バンパイアというは、相手のエネルギーを吸い取ってしまう人のこと。相手を批判したり、罪悪感を抱かせてダメージを与えて、相手が失ったエネルギーを自分のものにする。愛想もいいらしい。薮原そのものだ。




 エネルギーを奪われたようだ。薮原が私とどうでもいいことででも関わろうとするのは、エネルギーを奪うためなのだろう。
 薮原が、市立図書館にしょっちゅう人を試すような電話をしている、と聞いたこともあった。


 薮原がいつも元気なのは、人のエネルギーを奪っているからなのだ。
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