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エミイには自分の勉強をしながら、小さい子たちの勉強を見てもらうことになっていた。それなのに、ほとんど授業に来ることがなかった。そのことを確認するとエミイは、コックにお使いを頼まれたため、授業に行けなかったと言う。
コックに確認するとコックは、お使いなんか頼んでいないと言う。
「ツイスター嬢に、買い物がないかと聞かれたことはありましたが、頼んだことは一度もありませんよ。とんでもないです。生徒さんにお使いを頼むなんて、そんな」
にもかかわらず、いつもひどい天気のときに限って、昼でも夜でも出歩いていた。
学園に来た当初は、不自然なほど人当たりのいいエミイだったが、ある時期から傲慢さが感じられるようになった。
そんなある日、隣に住む紳士の訪問があった。エミイは頻繁に隣の紳士と話をしていた感じだった。エミイは授業に出ないで、隣に行っていたのか。
紳士は私にエミイに親切ではないと言う。
私はエミイに新しい温かい服を着せてあげた。それなのにエミイはそれを石畳の上で踏みつけて古着のようにして、裾を切って短くして着ていた。まるで粗末な服しか与えられないかのように。
靴だってそう。新しい靴に穴をあけ、ぼろ靴にして履いていた。
寝心地のいいベッドの部屋があるのに、かまどの中で服を着たまま灰にまみれて寝起きしていた。
そんなことはやめてほしいと言っても、きかなかった。
しかも、いくら食べても太らない体質でもあったため、充分な食事も与えていたにもかかわらず、そうでないことにもされた。
私は、みなしごになったかわいそうな娘を無慈悲にいじめ、こき使っている、残酷で自分勝手で浅ましい女ということになっていた。
私なりに精一杯面倒をみていた。だが、エミイにしてみれば、それが充分ではないのかもしれない。私に至らないところがあるのだろう。
エミイはその後もみすぼらしい恰好で寒い日や天気の悪い日に出歩いて、私からひどい扱い受けていると、いろんな人にアピールしていた。
外ではかわいそうな使用人としてふるまっているエミイだが、学園ではまるで王女気取りで尊大にふるまっていた。
エミイは生徒たちをメイドのように自分の身の周りの世話をさせていた。
「自分が落としたものは、自分で拾いなさい」
手袋を年上のサラに拾わせていたので私は注意した。するとエミイは、
「隣の紳士にあんたにいじめられているって言ってやる。あたしがひどい目にあっているって学園の悪い噂を立ててやる。そうして、生徒がいなくなるようにしてやる」
脅してきた。これがエミイ本性なのだ。私はエミイの面倒を見てきた。いじめたことなんかなかった。
エミイが嘘をついて私を悪者にしていることが、これではっきりした。
隣の紳士もエミイの嘘を真に受けて、私をよく思っていない。
エミイは自分が父親に捨てられた事がわかっているのだろうか。
孤児院でのみなしごの扱いがわからないから、私がどれだけよくしてやっているかわからないのだろうか。
あまりにも悪者され、善意を踏みにじられるので、エミイを孤児院に引き取ってもらおうかと考えるようになった。
♠
エミイは毎日のように訪ねてきた。わしたちは本を読んだり、話をして過ごした。
わしの椅子の隣のクッションつきの足台に座り、わしの話に優しく耳を傾けている。相槌を打ったり、喜んだり、うっとりしたりする。エミイがいるだけで、部屋が明るくなった。楽しかった。ずっとこうしていたかった。学園に帰っていくエミイの姿がいつも痛々しかった。
(帰らないでくれ───。外は冷たい雨が降っているよ)
わしはエミイに向かって身を乗り出し、優しくたずねた。
「わしの《ちっちゃな奥様》になってくれるかい」
かわいそうなエミイを、助けてやりたいと思った。
「エミイ、君は今から私の養女だ。ここで安心して暮らしなさい。」
隣に住む紳士の養女になったエミイ。うまく取り入ったのだろう。
身寄りのないエミイの面倒を見たのに、エミイは養女になるために私を悪者にしていた。わざとみすぼらしい恰好をして。
そのエミイが今、レース地の美しいドレスを着ている。人々は物語のお姫様のようだと言って祝福した。
そして後ろ足で砂をかけるようにして、学園を出ていった。
♠
エミイは王女のように贅沢に暮らしている。
誰もが憧れるフランド製のブーツや手袋。高価な毛皮の飾りがついたベルベットのドレス、刺繍をほどこしたドレス、柔らかで大きな駝鳥の羽根を飾った帽子、白テンのコートとマフも持っている。
「身の周りのことをするフランド人のメイドを付けて!」
「フランド語ができないと、フランド人のメイドを雇っても身の周りのことをしてもらえないよ、エミイ」
「あたしのことは、プリンセスって呼べって言ったよね?
だったら、通訳も雇えばいいでしょ。気が利かないわね。
金持ちのくせにあんたが独り者なのは、だからなの」
怒りをあらわにした瞬間から、エミイは人格が変わったのかと思うほど悪態をつくようになった。
「んもーっ! これじゃないったら! 絹の靴下を買ってこいって言ったよね! 取り替えてきて!!」
怒鳴り声が家の中に響く。もう優しく頭をなでてくれることも、話をしたり、本を読んでくれることもなかった。
王女様気取りで、偉そうに指図して、わしをまるで召使のようにこき使う。
エミイはブライト学園の先生にいじめられていると言っていたが、本当だろうか。
気に入らないことがあると癇癪を起こし、手に負えなかった。不平不満ばかり言って、感謝することがない。
なんという豹変ぶり。これが本来の姿なのだろう。学園にもどりたくないと言って、かわいそうな少女を演じていたのだ。
気立ての優しい、かわいそうな娘だと思って私が迎えた養女は、とんでもない娘だった。
ぞっとするほど嫌な娘だ。
非常に激しやすい気短な性格だった。そして嘘つき。私はエミイの嘘を真に受けて、養女にしてしまった。
かわいそうな娘を助けたくて養女にした。見返りがほしいわけではない。だが、感謝の言葉の代りに、悪態をつく娘に財産を遺したいとは思わない。
私は一人で暖炉のそばの肘掛け椅子に座って、部屋着をはおり、額を押さえて、絶望的な気持ちで火を見つめた。私の体調は以前よりさらに悪くなった。
私の学園は、悪評を立てられたため生徒が親元に引き取られていったが、やはりブライト学園はよかったと言われ、ほとんどの生徒が戻ってきた。
私を悪者に仕立て上げて、隣の紳士の同情を引き出していたエミイ。私がエミイをいじめているという嘘を真に受けて、私を責めた紳士。二人は今どうしているだろう………。
END
コックに確認するとコックは、お使いなんか頼んでいないと言う。
「ツイスター嬢に、買い物がないかと聞かれたことはありましたが、頼んだことは一度もありませんよ。とんでもないです。生徒さんにお使いを頼むなんて、そんな」
にもかかわらず、いつもひどい天気のときに限って、昼でも夜でも出歩いていた。
学園に来た当初は、不自然なほど人当たりのいいエミイだったが、ある時期から傲慢さが感じられるようになった。
そんなある日、隣に住む紳士の訪問があった。エミイは頻繁に隣の紳士と話をしていた感じだった。エミイは授業に出ないで、隣に行っていたのか。
紳士は私にエミイに親切ではないと言う。
私はエミイに新しい温かい服を着せてあげた。それなのにエミイはそれを石畳の上で踏みつけて古着のようにして、裾を切って短くして着ていた。まるで粗末な服しか与えられないかのように。
靴だってそう。新しい靴に穴をあけ、ぼろ靴にして履いていた。
寝心地のいいベッドの部屋があるのに、かまどの中で服を着たまま灰にまみれて寝起きしていた。
そんなことはやめてほしいと言っても、きかなかった。
しかも、いくら食べても太らない体質でもあったため、充分な食事も与えていたにもかかわらず、そうでないことにもされた。
私は、みなしごになったかわいそうな娘を無慈悲にいじめ、こき使っている、残酷で自分勝手で浅ましい女ということになっていた。
私なりに精一杯面倒をみていた。だが、エミイにしてみれば、それが充分ではないのかもしれない。私に至らないところがあるのだろう。
エミイはその後もみすぼらしい恰好で寒い日や天気の悪い日に出歩いて、私からひどい扱い受けていると、いろんな人にアピールしていた。
外ではかわいそうな使用人としてふるまっているエミイだが、学園ではまるで王女気取りで尊大にふるまっていた。
エミイは生徒たちをメイドのように自分の身の周りの世話をさせていた。
「自分が落としたものは、自分で拾いなさい」
手袋を年上のサラに拾わせていたので私は注意した。するとエミイは、
「隣の紳士にあんたにいじめられているって言ってやる。あたしがひどい目にあっているって学園の悪い噂を立ててやる。そうして、生徒がいなくなるようにしてやる」
脅してきた。これがエミイ本性なのだ。私はエミイの面倒を見てきた。いじめたことなんかなかった。
エミイが嘘をついて私を悪者にしていることが、これではっきりした。
隣の紳士もエミイの嘘を真に受けて、私をよく思っていない。
エミイは自分が父親に捨てられた事がわかっているのだろうか。
孤児院でのみなしごの扱いがわからないから、私がどれだけよくしてやっているかわからないのだろうか。
あまりにも悪者され、善意を踏みにじられるので、エミイを孤児院に引き取ってもらおうかと考えるようになった。
♠
エミイは毎日のように訪ねてきた。わしたちは本を読んだり、話をして過ごした。
わしの椅子の隣のクッションつきの足台に座り、わしの話に優しく耳を傾けている。相槌を打ったり、喜んだり、うっとりしたりする。エミイがいるだけで、部屋が明るくなった。楽しかった。ずっとこうしていたかった。学園に帰っていくエミイの姿がいつも痛々しかった。
(帰らないでくれ───。外は冷たい雨が降っているよ)
わしはエミイに向かって身を乗り出し、優しくたずねた。
「わしの《ちっちゃな奥様》になってくれるかい」
かわいそうなエミイを、助けてやりたいと思った。
「エミイ、君は今から私の養女だ。ここで安心して暮らしなさい。」
隣に住む紳士の養女になったエミイ。うまく取り入ったのだろう。
身寄りのないエミイの面倒を見たのに、エミイは養女になるために私を悪者にしていた。わざとみすぼらしい恰好をして。
そのエミイが今、レース地の美しいドレスを着ている。人々は物語のお姫様のようだと言って祝福した。
そして後ろ足で砂をかけるようにして、学園を出ていった。
♠
エミイは王女のように贅沢に暮らしている。
誰もが憧れるフランド製のブーツや手袋。高価な毛皮の飾りがついたベルベットのドレス、刺繍をほどこしたドレス、柔らかで大きな駝鳥の羽根を飾った帽子、白テンのコートとマフも持っている。
「身の周りのことをするフランド人のメイドを付けて!」
「フランド語ができないと、フランド人のメイドを雇っても身の周りのことをしてもらえないよ、エミイ」
「あたしのことは、プリンセスって呼べって言ったよね?
だったら、通訳も雇えばいいでしょ。気が利かないわね。
金持ちのくせにあんたが独り者なのは、だからなの」
怒りをあらわにした瞬間から、エミイは人格が変わったのかと思うほど悪態をつくようになった。
「んもーっ! これじゃないったら! 絹の靴下を買ってこいって言ったよね! 取り替えてきて!!」
怒鳴り声が家の中に響く。もう優しく頭をなでてくれることも、話をしたり、本を読んでくれることもなかった。
王女様気取りで、偉そうに指図して、わしをまるで召使のようにこき使う。
エミイはブライト学園の先生にいじめられていると言っていたが、本当だろうか。
気に入らないことがあると癇癪を起こし、手に負えなかった。不平不満ばかり言って、感謝することがない。
なんという豹変ぶり。これが本来の姿なのだろう。学園にもどりたくないと言って、かわいそうな少女を演じていたのだ。
気立ての優しい、かわいそうな娘だと思って私が迎えた養女は、とんでもない娘だった。
ぞっとするほど嫌な娘だ。
非常に激しやすい気短な性格だった。そして嘘つき。私はエミイの嘘を真に受けて、養女にしてしまった。
かわいそうな娘を助けたくて養女にした。見返りがほしいわけではない。だが、感謝の言葉の代りに、悪態をつく娘に財産を遺したいとは思わない。
私は一人で暖炉のそばの肘掛け椅子に座って、部屋着をはおり、額を押さえて、絶望的な気持ちで火を見つめた。私の体調は以前よりさらに悪くなった。
私の学園は、悪評を立てられたため生徒が親元に引き取られていったが、やはりブライト学園はよかったと言われ、ほとんどの生徒が戻ってきた。
私を悪者に仕立て上げて、隣の紳士の同情を引き出していたエミイ。私がエミイをいじめているという嘘を真に受けて、私を責めた紳士。二人は今どうしているだろう………。
END
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