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極悪令嬢に堕ちる

傷面の令嬢

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 メグルは腰に剣を携えて集合場所で一人、考えていた。別の学園は今通っている学園よりも大きく、白い建物が城のように立ち、騎士が直々に警備していた。騎士が睨み付け、名家名門上級貴族が通い、視線に去らされる中で過去を思い出していた。

 顔を傷付けられたのは小さいころに小等学園の時であり。既に子供の世界でも派閥はあった。その派閥での苛めの延長線で顔に傷を付けられてしまったのだ。それをメグルは何度も夢を見る。その日には体を鍛えて忘れるように無我夢中で鍛えていた。昔の言葉によって。

「もしやと思っていたが。姉貴の助言だったわけだな……」

 メグルはこの前に昔に会ったことがあるとエルヴィスから教えてもらっていた。メグルももしやと心の底で思っていたのだがそれが本当だったことを知り。恩師に出会えた奇跡を喜ぶ。過去よりも、今の状況に喜びがあった。

「おはよう、メグルちゃん。お早いわね」

「あっ、おはようございます姉貴!!」

「ふふ、えらい妹分ね。私より先に来て待ってるんだから」

「ありがとうございます!!」

 エルヴィスはクスクスと笑う。そして……周りを見渡し扇子をヒラヒラとして騎士を呼び寄せた。

「おはようございます。なんでしょうか?」

「おはようございます。騎士様。エルヴィス・ヴェニスです。聞いてませんか?」

「聞いております。ご案内させていただきますのでこちらへどうぞ」

「ありがとう」

 エルヴィスはニコッと返し。同じようにメグルもニコッとするが……メグル的に照れが出てしまい。顔を伏せてしまう。エルヴィスはそんな愛らしい妹を連れ、騎士に従い。学園へと足を踏み入れた。メグルはピリッとした空気を感じ、ふと鎧を着た騎士が兜も付けている事に気がついた。臭う汗に……なにか緊張感を感じとる。

「姉貴、警戒されてますね」

「ふふ、気付いたのやっと。か弱い令嬢に物々しいわね。本当に」

「エルヴィス姉貴。笑う所ですか?」

「もちろん。事を起こすのは馬鹿のすることよ。ですから……騎士様もご安心くださいませ」

 エルヴィスは堂々と騎士の後をついていく。鎧の内から伝わる緊張感は全く薄れることなく。学園内を歩く。

「綺麗な場所だ。姉貴もここに入れたんじゃ?」

「手入れにも金をかけてますからね。国最大の権威。入学できるのは上の上。国王に関わる者でしょうか。教会は別にありますね。商売人では無理ですよ。あなたなら入れたでしょうね」

「私からお断りです姉貴。なら、何故『聖女』はここに入れ無かったのですか?」

「憶測の粋を出ませんが。教会側、国王側ではやはり……そうそう折り合いがつかなかったのでしょう。結果、2流。または理由ありの子が通う学園になった。ギスギスしてるのも肌で後がないことを感じてたのでしょうね。上に上がれるチャンスの場所ですから」

「では、何故に私たちの学園に? 他にもございます」

「『聖女』の兄上が居たからでしょう。本当にそれだけで決めたようです。これは確定ですね」

「結局、姉貴は『聖女』に人生を狂わされた訳か……あの女」

「私の変わりに怒るのは変よ。その怒りは本来、私が持つべき物。やめなさい」

「姉貴、すいません」

「わかればよろしい。ですが……別にもう……怒ってもいないのですけどね。変な話です」

「えっ、姉貴? 何故? 想い人と一緒になれる筈だったのに?」

「運命とはわからない物。失くした物に得た者もございます。非常に大きい者をね」

「姉貴、それは名誉でしょうか? 『老人会』『魔女の夜の老女』ですか?」

「ハズレも遠からず。答えはかわいいかわいい私の妹分達よ。ね? かわいいメグルちゃん」

「姉貴!!」

 エルヴィスはニコニコとして語り。メグルは嬉しい表情でエルヴィスの後をついてくる。悶えながらも、甘い言葉に何度も反芻し、心に閉じ込める。

「到着しました。この部屋でお待ちください。なお、武器はお預かりします」

「武器は飾りよ。それだけは覚えておきなさい」

 メグルが剣を渡し、エルヴィスは何もないことを示す。騎士達が二人に焦りながらも用意した待合室、面会室に案内される。豪華なカーペットに金の飾りなど金目の物しかない部屋にエルヴィスは品が無さすぎでしょと感想を述べる。香りもあり、少し甘い匂いが二人を包む。

「うわぁ、すごい部屋だ」

「壊さないでよ、メグルちゃん。金のインゴットを渡さないといけなくなるから。先に座りなさい」

「精進します」

 メグルが大人しく用意されたソファーに座る。エルヴィスも隣に座ると使用人が現れ紅茶を淹れて立ち去り……入れ変わりである金髪の令嬢が現れた。金色の髪は染めておらず輝かしいほどに綺麗であり、本物の貴族だと言うのが見て取れた。エルヴィスは彼女の姿に『びくつかない、少し胆力がある令嬢』と評価する。

「ようこそ、王立学園へ。私がロア・アウルムライトです。はじめまして」

 はじめてなのはエルヴィスだけである。

「はじめまして、エルヴィス・ヴェニスです。こちらがメグル・ジゴクです」

「メグル・ジゴクです。お久しぶりですね」

「……お久しぶり」

 ロアと言った令嬢の眉が少し歪む。そして……二人は気が付く。香りがきついことを。香水の量を間違えていることを。薔薇の匂い、厳しい。ピリッとした空気にエルヴィスは笑みで話を切り出す。

「今回、大切なお時間を用意してくださりありがとうございます。そして旧友同士。積もる話もあるでしょう。私は部屋の外で待たせてもらいます」

 そう言い、エルヴィスが立ち去る。扉を開けると騎士が立っており。エルヴィスは扉の前で仁王立つ、その姿を部屋の二人は確認し、メグルはエルヴィスがしっかりと任せると言う意思を感じ取った。騎士に邪魔されないと言うことだ。逆にロアは手の甲を握りしめる。ゆっくり扉を閉める音が部屋に響いた。その瞬間、メグルが口を開く。

「ロアさん、本当にお久しぶりですね」

「ええ」

「先月、お世話になりました。しらを切られてもいいですが我々は既に尻尾をつかんでおります。逃げることも隠れることも今は出来ません」

「……なによ。復讐に来たってわけ?」

「……」

 ロアは強い言葉で牽制するが目は泳いでおり、震えた瞳を見せる。メグルはあまりにも痛々しい弱い姿に目を閉じ、見えないようにする。泣かれても困ると感じながら。

「少し談笑しましょう。復讐の絶好の機会でしょう。今、同じようにここであなたの顔を傷つけるのは容易い」

「……つ!! してみなさい!! どうなるか!! どうなるか!! わかってる!! 我が家に敵うわけがないわ」

「……裏で交渉終わってると姉貴から聞いてます。死ぬか娘を捧げるかの二択でどっちを選んだかは聞いてないですが」

「くっ……」

 ロアの狼狽え方にメグルは家で何があったかを察する事しかできない。二択に関してはメグルは知っており、黙る事にしていた。ロアの震えが増え、ポロポロと涙を流し始める。メグルはすすり泣く声に罪悪感が湧き出す。被害者はメグル自身だが……

「本当に今、復讐の下地は出来あがっており。顔を裂くのも容易いです。ロアどの」

「うぅ、うぅ」

 恐怖で我慢ができなくなった彼女。逃げる事も出来ず、昔の無邪気な苛めの報いを受ける。

「ですが、今回。その話で来た訳じゃない。ロアどのハンカチをどうぞ」

「……えっ」

 メグルは目を開け、ハンカチを取り出し机に置く。ロアはそのハンカチを眺める事しか出来なかった。

「納得して、話を聞いてください。もう、私とあなたは全く何も無かった事にしましょう。手打ちです。復讐もしません、変わりにあなたも私にちょっかいをかけない事を。敵意はもうない」

「どうして……そんな傷だらけの顔」

「そんなことよりも失礼」

 ロアがハンカチを取らずポロポロとなき続けるため、メグルは痺れを切らし、ハンカチをとって涙を拭う。そのまま頬に手をやり……そのままハンカチを握らせる。

「泣き止むまで待ちます」

「どうして……」

「……」

 ロアがゆっくりと涙が引いていく。引ききったとメグルが考えてゆっくりと話を始める。メグルは小指にはまるピンクゴールドの指輪を大切に撫でた。

「本当最近まで。そう、数ヶ月前はあなたをずっと恨んでました」

「……」

「そんな折に私はエルヴィス姉貴と出会った。復讐のために鍛えた体だったがいとも容易く負けました。エルヴィス姉貴は復讐の機会を出汁にしましたが私は偉そうなことを言い断り怒らせました。そしてそんな粗相をしながらも助けてくれました。ロアの雇った人から命をです」

「エルヴィス・ヴェニスは……恐ろしい人です」

「ええ、ですが。誰よりも身内の情に甘く。かっこいい方です。助けて貰ったあと私のこの顔を『特徴があってかわいい。傷持ちの顔も好き』と言ってくださいました。私はついて行きながらお世辞ではない事を確信しましたよ。姉貴の元で頑張りたいと……救って貰った命。今まで生きてきた意味は姉貴のためだとね」

 メグルの言葉に熱が籠る。扉の外ではケホケホとエルヴィスがむせた咳をした。

「エルヴィス・ヴェニスは危ないの……」

「そうですね。強い。警戒されても仕方がない。ですが、誰よりも力の怖さを知り。誰よりも力の正しい使い方を知る方と思います。残念ながら私は姉貴の足元にも及ばない弱さなのですが。それでも、姉貴についていきます。それに、今。エルヴィス姉貴は扉の前で私を値踏みしているでしょうね」

「値踏み? なんで? どうして……? わからない……そこまでそこまで……」

「ロア。昔馴染みで言いますが。エルヴィス姉貴は近くに居ればわかる。そういう方です。なのでかわいい妹分である私は姉貴のように振る舞いたいと思います。姉貴は家族外の個人の復讐みたいなちっぽけな物なんか興味がない筈です。自身の目標のみ興味があるでしょう」

「……」

 ロアが沈黙し、色々と複雑な表情を見せる。綺麗な顔をしており、メグルは余裕を持って微笑む。

「それに、この傷の顔。今はこれが『私』である特徴として胸を張れるので気に入ってるんですよ。私だけの特徴なのでわざわざ。あなたの顔に傷をつけるなんて勿体ないわ。私のよ『傷面の令嬢』と言う肩書きは」

 メグルは満足し、立ち上がる。もう抵抗も何もないだろうとロアの様子で納得しその場を去ろうとしたのだ。扉の前に来たときにロアは立ち上がり、大きく叫んだ。

「納得出来ません!! そんな!! そんな心!! ありえない!! ありえるわけがない!! おかしい!! あなたの女でしょ、令嬢でしょう!!」

 ロアの言葉は変な話だった。復讐されるのを怖がっていた令嬢が復讐されない事を安堵せずに言い返す事に。ロアの心情は全く意味のわからない事に焦りを持っていた。彼女は学園で高い地位にあり、泥々の勢力争いを子供の頃からやってきていた。故に復讐しないと言う物が理解出来なかったのだ。

「大変な環境で育ってますね」

 メグルは扉のノブに手をかけ、振り向かずに答える。

「ロア『さん』、あなたは弱い。私が手にかけるには弱いもの苛めに過ぎませんよ。もう、十分エルヴィス姉貴の恐怖で弱った。私には流石に追い討ちは恥ずかしい事ですよ」

「弱い!? 私が!? この私が!?」

「……ええ、かわいい綺麗な顔と髪の令嬢です。そんな綺麗な人を傷をつけるなんて勿体ないでしょう。姉貴には私から言っておきます。今日はありがとうございました。ロア『さん』」

 ドアノブを下ろし、メグルは部屋を後にする。エルヴィスは壁を背にして騎士と睨み合い不敵な笑みで彼らを怖がらせていた。メグルは『生きたここちがしなかっただろうなぁ』と感想を漏らす。

「終わったかしら? メグルちゃん」

「はい、姉貴。お待たせしました。これで憂いはなくなりスッキリしました」

「よかったよかった。では行きましょう」

「はい、姉貴。場を設けていただき。ありがとうございました」

「いいえ、何か戦いがあるのだから悔いを残さないで欲しかっただけよ」

 メグルは騎士から剣を奪い。騎士の護衛と言う監視の元で学園を後にする。学園の外に出た瞬間メグルは腕を組んで頷いた。

「いやぁ。姉貴のようにかっこつけてみたんですけどどうでしたか?」

「ちょっと騎士と戯れが楽しくてちょっとしかみれてないけど。露骨だったわりにかっこよかったんじゃない」

「よかった。姉貴これからのお時間は?」

「ふふふ、あなたとデートよ」

「ご褒美ですか?」

「残念、あなたを私がコーディネートして楽しむだけよ」

「姉貴……私はあまりお洒落は」

「顔の傷を言い訳にして逃げようたって無理よ。お洒落しましょ」

「……私はかっこよくなりたいのに」

 この後、メグルは多くの服、下着のモデルをさせられ、衣類作成をする男性達の目線に晒されるのだった。



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