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極悪令嬢に堕ちる
面傷のトラウマ
しおりを挟む喫茶店は個室を用意してくれた。個室なのかと思ったがどうやら自身の店らしい。奥には魔法使い用の商品販売店もあると教えて貰った。店員がお嬢様と言う所から本当に令嬢なのだと伺える。
だが……学園の令嬢と一線を越えていた。足取りは何処か令嬢の細い歩みはなく。堂々とし、背中は同じ女性と思えないほどに大きく見える。雰囲気も薔薇の香る園ではない、何処か得体のしれない雰囲気を持ち。
そして……一人で生きていける。学園で学ぶ事なぞないだろうと思える方だった。
「商談用の部屋です。好きに暴れてください」
「はぁ……」
「緊張する?」
「……する」
エルヴィス嬢はその問いにニコニコし、『かわいいわぁ』と漏らす。そろそろ私もその言葉に慣れてきた頃だ。
「紅茶飲みながら、話をしましょ」
そういうとカップとポットが飛んでくる。『ありがとう』とエルヴィスは言い、一緒に持ってきたクッキーを地面に落とした。落としたクッキーは中に浮きふよふよと何処かへ行く。不思議な光景にそれが霊の仕業だと思う。
「ああ、えっと。そうだな……なんで私なんかを目にかける?」
「それはもちろん。私の戦力になると思ったからです。鍛えてますね。それに身のこなしもなかなかです。私一人で教えるのは苦労するのですよ」
戦力……私をそう評する。
「褒めてくださりありがとうございます。目的は……教える事ですか?」
「ええ、実はね。私は私だけのクラスを立ち上げたんです。そこで武術系、そうですね。剣など扱える令嬢は居ませんでした。ただ振るだけです」
「剣は振るだけでいいです。怖じけづかずに」
この人。何を……
「……それも出来ない子がおおいので教えてあげれるお姉さんが必要だったんです」
「そんな事して何か……やるんですか?」
そう、学園にそんな戦うために必要なのだろうか?
「弟を取り戻したい一心です。そこからはご想像してもらえると幸いね。長いもん……予定が……教えてもいいですけど……ちょっと私もわからない部分なんです」
はぐらかしているような気もするが私にはわからない。
「納得出来てなさそうですね。じゃ、私から……その力どうして?」
私は拳を握った。そして……ボソボソと答える。
「……これは『復讐』のためです」
「ん?」
令嬢で初めて聞かれたので私は答える。
「違う学園外で……昔、私は顔にナイフを突き立てられて苛められたんです。それから私は鍛えるようになった」
「後ろに立たれるのを嫌うのもそういうこと?」
「……後ろから掴まれて押し倒された。そのまま両手両足を掴まれてこの顔です。綺麗な顔だったんですよ……だけど刻まれた」
「何て酷い事を……んん……武術訓練かと思いました」
「……自分で自分の顔を傷つけた時期があったんです。醜くて。まぁ一人の男の子に救われて今はそんな事はしませんけどね」
「いい男の子ですね」
「ええ、知らない男の子でしたけどね。鍛えたら何とかなると教えてくださったわ」
「……どんな子だった?」
「名前はわからないですけど……」
「色とか覚えてない?」
「……赤だったような気もします。ううん、ピンクだったかも。短い髪でした」
そう、覚えてない。ただ、道で苛めを止めてくれたのだ。その後に私に助言をして何処かへ行ってしまった。その助言後に私は苛められなくなった。そして今もである。
「うぅ……ん、そう。まぁその子に感謝ね。うん」
「おう、復讐出来る力くれたからね」
「復讐ねぇ……令嬢は誰か覚えてる?」
「ああ、覚えてるさ……なんだい? 手伝ってくれるのかい?」
「……いいえ。今は何も言えません」
「ちっ……でも。あんた強そうだ。それで仲間になってもいいかもな」
聞けば学園内で強い令嬢との噂が流れている。どこまで強いかを知らない。
「じゃぁ……いっちょ喧嘩売ってみっか? ああん? あんた強えんだろ。こいよ」
「はぁ、可愛いのに……粗暴。でも、じゃぁ負けたら何する?」
「負けたら仲間にでもなんでもなってやるよ」
「……覚悟いい?」
「おうよ。表へ出ようぜ」
「はぁ、全く」
エルヴィス嬢がため息を吐いた瞬間だった。目の前の机が飛び、カップやポットなどが割れて個室に散らばる。そして……恐るべき速さで足が絡め捉えれて倒れた。背中に重さが感じ悶えようとするがザクっとナイフが目の前の床に刺さる。
「あが!? 卑怯な!!」
「覚悟はいいかと聞いた。あなたは少し『目上』の人ってものを測るのが下手くそね。イキり散らしてんじゃないわよ!! それでどうやって復讐するつもりよ!! 護衛もなにもかも居るのよ!! わかってる!!」
「くっ!! うっせ!! 卑怯が」
「……はぁ、威勢いいのはいいけど。喧嘩売る相手を選べ」
「エルヴィスお嬢様!? 何事ですか!?」
店の店員が騒ぎに気が付き現れる。
「喧嘩売られたから買ったの。剣持ってこい!!」
「ただちに!!」
「おい何を!?」
私は暴れる。しかし、何かの力で全く動けない。手も足も出ず。まるで縛られているようだった。離れて私をまじまじとエルヴィス嬢は観察する。
「ホルダーの中から拘束の魔法陣のカードを使っただけよ。無知識だとそうなるわ。外し方は魔法使いにしかわからない」
「エルヴィス!! 解け!!」
「威勢がいいわね」
「くっ……」
身体中から嫌な汗がで続ける。噂以上に私はヤバい者をつついてしまった。怒らせてしまった。
「お持ちしました」
「ありがとう」
店員に剣を借り、その鞘を抜き私に近づいてくる。
「メグルちゃん。おいたがすぎましたね」
「……ひ」
怖い、身動きが取れず。私は震えるしか出来なくなる。
「……ねぇ、指って何本あるか知ってる? 何回悲鳴あげれると思う? 答えは11回、指の最後は体だから」
「……ご、ごめんなさい」
動けない私の目の前で剣が小指に触れる。ピリッとした痛みとともに血が出始める。そのあまりの怖さに私は涙を流す。死んじゃうと思ってしまったのだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「……小指からいきます。せーの!!」
「あああああああああああああ!!」
カランカラン
「ひぃ、ひぃ」
剣は投げ捨てられ。エルヴィスはそのまま椅子を掴み。立て直して座る。
「復讐するってこれぐらいの事をするのでしょう。なにビビってるの。拘束解いた。立てるわ」
小指は繋がっていた。しかし、私は立てない。立った時が怖いのだ。
「さぁ、あなたは負けた。傷、癒してあげるけど……何か言いたいなら。今、聞くわよ」
もう、私は何も言えず。震えるだけだった。
*
私は家に帰り、そのままベッドに転がった。あの後にエルヴィス嬢に連れられて家に帰って来れたのだ。私は……世間を知ったような気がした。一人よがりでイキり散らして。強者と思っていたのにも関わらず。呆気なく負けて醜態を晒したのだ。
騎士に言えば……どうなる事もない騎士より強い。きっと裏で揉み消されるだろう。
「……」
私は……現実を見せられた気がしたまま。目を閉じる。明日……もう一回謝ろうと考える。そして……逆に私は彼女にお願いしてみようと思う。
復讐を手伝って欲しいと。
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