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極悪令嬢に堕ちる

微笑む錬金術師

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 私が通されたのは彼のお店。飲食店でありながら簡単に酒が飲める場所。そう酒場。多くの人が立ち寄る場所であり、お金が生まれる場所でもある。

 お酒はいい。作れば作っただけ売れるもの。味がよければずっとお客が買っていく。

「私は未成年ですが?」

「未成年が弟居なくなった後に睡眠薬の代わりとして溺れるのはどうかと思いますが?」

「買った店が違いますのに……わかるのかしら?」

「仕入れ先は私の持つ農場からです」

「あら、農場もお持ちで」

「肩書きを貸してるだけですがね」

「では、今度からそちらから入れさしていただきます」

 私は談笑しながら、個室に入って椅子に座る。すると彼が机にある呼びベルを鳴らし店員を呼ぶ。アントニオさんは笑顔で店員に伝える。

「彼女にそうですね。年代物で今の時期で良いものを」

「アントニオさん……朝から飲むなんて。それに年代物……」

「いいのです。私のお金です」

「……それでしたら。早飲みの葡萄酒をお願いします」

「わかりました。好みが違うのですね。では昨年取れた物がまだ残っているようですから」

「でも、いいんですか? お酒を飲める適齢期ではございませんよ?」

「お屋敷に寝かせていたお酒のコルクを机にどれぐらい並べましたか? 隠さなくてもよろしいです。私は『大人の女性』として対応しております」

「あら、嬉しい。そうね……10ぐらいかしら」

「なかなか、お強い。お店のがなくなってしまう」

「ふふ、そんなに飲んだらお腹大きくなっちゃいます」

 やけ酒のように飲み出してしまった私はちょっと自制しなければと顔を落として照れ隠しをしながら反省。本当によくない。昔の私に見せたら軽蔑されるだろうと思う。そうこうしているうちに葡萄酒とグラス、つまみが用意されてグラスに注がれた葡萄酒を口に含み一息ついたのちに話を始める。

「ふぅ、で……アントニオさん。何か用意できたのかしら?」

「ええ、依頼された『魔法使いとして強くなる方法』などをご用意しました」

「よかった~無理難題だったかと思いました」

「いえいえ、これでも魔法使いの端くれですから」

「魔法使い? だったの?」

「ええ、『錬金術師』です。まぁ金を生むというよりは貰うと言うのを目指してますがね」

 私は驚く素振りは見せない。どことなくそんな気がしていたのだ。どこか浮き世離れしていた雰囲気が何故だったかを理解する。

「魔法使いとなると……こう。色んな人に『実は』と言って貰えたわ。しっかりと隠してるのね」

「決まりではないですがね。魔法使い以外の生活があるんですよ。ああ、商人の場合は嫌われてますね。色々あって」

「魔法使いって何でしょうね」

「生まれもった力ですよ。ただの……まぁ、そんなことはいいです。試験があるのでしょうお嬢様」

「ええ、すぐにね。魔法使いの力は何処まで理由出来るかしらね」

「それはお嬢様次第でしょう。それと……これを」

 机に四角い箱のようなものを置き、私はそれを受け取ってボタンを外す。すると中には数枚のトランプがあり、それ一枚を抜くと小さな魔方陣が描かれていた。読み解くと『氷の槍』と言う魔法が使えるらしい。

「簡易魔法を札に詰め。ホルダーに入れたものです。使い方はわかりますか?」

「ええ、わかります。ホルダーから抜いて使用するのですね。一回使いきりの魔法を生む」

「流石です。杖を使い詠唱までを省ける即効性が売りです。まぁ、全く売れませんでしたけどね。そんなのは魔法ではないや。色々とプライドでバカにされました」

「古い魔法使いではそうでしょうね。ですが、私は今まで何もやってこなかったので頼ろうと思います。ありがとう……教えてくれて」

 机の上にあるホルダーを私は手持ちのカバンに納めた。利用出来るなら利用しなければいけない。そういう心持ちである。

「ええ、お買い上げありがとうございます。あと、もうひとつ……これを」

 アントニオさんが今度は一冊の本を机に置く。綺麗な背表紙と刺繍が施されたそれに私は魔導書なのではと考える。

「魔導書ですか?」

「いいえ、物語。ただの冒険譚です」

「冒険譚?」

「はい。冒険譚です。不思議そうな顔をしていますがこれも魔導書になるかもしれないのです」

「どういうこと? 説明が欲しい」

 私は葡萄酒を含んで話を聞き続ける。

「魔導書は簡単に言えば魔法の説明書、取扱や方法を書いてる物。しかし、中には神話だけの本もございます。それらは魔法で再現するための物にございます。無から生むのは大変ですのでそういった場合は冒険譚は有能なのです。神話を実現させる魔法として。なお、それは『奇跡』とも言われますでしょう」

「……本は読むのが好きだけど。冒険譚なんて。それに誰の冒険譚ですか?」

「それは口に出すのが憚れる方の冒険譚……いいえ禁書になりそうですね。ですが、強くなりたいと申すならばこれぐらいは実現しなくては無理難題と思います。力こそ全てです」

「……これを読めば強くなれると思ったのですね」

「ええ、そう私は考えます。それも……お嬢様に非常に合うと思いました。生き方など類似がございますし、何よりも目的が近いものがございます」

「わかりました。ありがとう……」

「いえいえ、投資でございます」

 彼は笑みを溢してそう言うが。私は知っている。人懐っこい方なのだと。寂しがり屋な匂いがする。私と一緒で。

「ふぅ……ヒナトが居ないと寂しいですね」

「そうでしょうね。ずっと見てきましたから……非常に心中お察しします」

「ふふ。お子さんは?」

「残念ながら、いい人と言える方がおりません。忙しい身であり、悲しい事に縁もございません」

「『嘘』と額に書いてます」

「言い方を変えましょう。エルヴィス嬢のような立派な方に会っていないだけです」

「あら、お世辞がお上手」

「そうですね」

「そこは否定してよね」

 私は手を押さえてクスクスと笑い。続けて銀髪の美少女魔法薬剤師からの依頼で商談をする。昨日出会った女性のお店の商品を数個鞄から出して使用感などを話し合い。そして、私が使う事で私の生の声で評価を載せる必要があると教えて貰う。商品には実績が一番であるとのことだ。もちろん今日から既に使用しておりベタつきがなく。水のような使用感は好印象であった。

「あと、一つだけ……その方は確か。家出されている方だった筈」

「そうですが?」

「あまりいい噂を聞きません。関わるべきではないでしょう」

「ヒナトが残した縁です。切るかは私が決めます」

「……わかりました。ただひとつ。その方は多額な借金がございます。皆があなたの父上のように穏やかな貸屋ではございません」

「ご忠告ありがとうございます。少し、深く深く話を聞いてみます」

 私が腕を組んで唸る。良縁かを判断しなくてはいけないと……出てくる朝食の匂いに我に変えるまで深く深く悩む。

「エルヴィスお嬢様。朝食が出てきました」

「ええ、いただきます」

 朝食の食パンとシチューに舌鼓をうちながら私は思う。

「……朝食おいしい。朝食専用店いいんじゃない」

「一店舗だけ出してみるよう教育もやってみます」

 我々はやっぱり商売人である。


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