27 / 59
彼女の話2ー3
退院の日
しおりを挟む
私は、退院の日を迎えていた。磯辺葵は、まだ目覚めていなかった。
「こんにちは!お金払いますから」
「はい」
私は、旦那に今日退院だと話さなかった。
会計で診察券を千秋は通してくれる。その料金が表示されたのを見て、躊躇うことなくクレジットカードで支払った。
「じゃあ、送ります」
「はい」
私は、そう言われて千秋と並んで歩き出す。毛玉だらけの服に便所のスリッパ…。千秋と並ぶとみすぼらしい。千秋の軽自動車に乗り込んだ。二人で選んだ軽自動車だ。内装は、私が好きなピンクだ!涙が流れてくる。
「いつか、忘れるの?葵」
千秋は、車に乗り込んだ瞬間、太ももに置いた私の手をしっかり握りしめてきた。
「多分、そうかもね」
「銀行に行って、お金を下ろすから…。ちゃんと葵の通帳持ってきたから」
「ありがとう、信じてくれて」
千秋は、もどかしさを抱えながらも手を離してくれる。
「じゃあ、出発するね」
「うん」
車が走り出して流れる景色を見つめる。
「千秋、一回だけ家に帰りたい」
「どこの?」
「私達の…」
「わかった」
千秋は、病院の駐車場を出て行くと二人の家の方に進んでいく。暫くして、緑の屋根のお家が現れてきた。
懐かしさに涙が溢れる。私が捨てたお家だ!
車から降りる。煉瓦色の階段を上がっていく。
千秋は、家の鍵を開けてくれる。
「おかえり」
「ただいま」
玄関に入った瞬間、我慢していたのか千秋は私を抱き締めてきた。
「どうしたの?」
「葵、葵、何で?知らない人になったの?何で?」
「そんなのわからないよ」
千秋は、ボロボロと泣き出している。抱き締める力を少し強める。私、本当に此処に居たかった。
「葵、昨日は駄目だとか言ったけど…。やっぱり、無理だよ」
「えっ?」
千秋は、そう言うと私を二階の部屋に連れてくる。もしもの子供部屋。わざわざ、可愛い壁紙まで選んだ。
「千秋?」
「床でごめんね」
そう言って、千秋は優しいキスをしてきた。あの男とは違う。
「ちゃんとお金は払うから」
「千秋、いらないよ」
「母乳を買うから二万でしょ?約束だから」
千秋はニコッと笑ってくれる。他人に見せる笑顔じゃなかった。
「客用の毛布あったよね」
「うん!そのクローゼットに…」
「それを敷いてあげる」
私は、千秋を見つめながら泣いていた。千秋は、毛布を敷いてくれる。その上に私を座らせた。
「葵、愛してる」
ボロボロと涙が溢れ落ちる。ここが居たかった場所だったのを忘れていた。
「千秋、愛してるよ」
私は、千秋の頬の涙を拭ってあげる。
「ごめんな!何もしてあげれなくて」
千秋の言葉に首を横に振った。
「こんにちは!お金払いますから」
「はい」
私は、旦那に今日退院だと話さなかった。
会計で診察券を千秋は通してくれる。その料金が表示されたのを見て、躊躇うことなくクレジットカードで支払った。
「じゃあ、送ります」
「はい」
私は、そう言われて千秋と並んで歩き出す。毛玉だらけの服に便所のスリッパ…。千秋と並ぶとみすぼらしい。千秋の軽自動車に乗り込んだ。二人で選んだ軽自動車だ。内装は、私が好きなピンクだ!涙が流れてくる。
「いつか、忘れるの?葵」
千秋は、車に乗り込んだ瞬間、太ももに置いた私の手をしっかり握りしめてきた。
「多分、そうかもね」
「銀行に行って、お金を下ろすから…。ちゃんと葵の通帳持ってきたから」
「ありがとう、信じてくれて」
千秋は、もどかしさを抱えながらも手を離してくれる。
「じゃあ、出発するね」
「うん」
車が走り出して流れる景色を見つめる。
「千秋、一回だけ家に帰りたい」
「どこの?」
「私達の…」
「わかった」
千秋は、病院の駐車場を出て行くと二人の家の方に進んでいく。暫くして、緑の屋根のお家が現れてきた。
懐かしさに涙が溢れる。私が捨てたお家だ!
車から降りる。煉瓦色の階段を上がっていく。
千秋は、家の鍵を開けてくれる。
「おかえり」
「ただいま」
玄関に入った瞬間、我慢していたのか千秋は私を抱き締めてきた。
「どうしたの?」
「葵、葵、何で?知らない人になったの?何で?」
「そんなのわからないよ」
千秋は、ボロボロと泣き出している。抱き締める力を少し強める。私、本当に此処に居たかった。
「葵、昨日は駄目だとか言ったけど…。やっぱり、無理だよ」
「えっ?」
千秋は、そう言うと私を二階の部屋に連れてくる。もしもの子供部屋。わざわざ、可愛い壁紙まで選んだ。
「千秋?」
「床でごめんね」
そう言って、千秋は優しいキスをしてきた。あの男とは違う。
「ちゃんとお金は払うから」
「千秋、いらないよ」
「母乳を買うから二万でしょ?約束だから」
千秋はニコッと笑ってくれる。他人に見せる笑顔じゃなかった。
「客用の毛布あったよね」
「うん!そのクローゼットに…」
「それを敷いてあげる」
私は、千秋を見つめながら泣いていた。千秋は、毛布を敷いてくれる。その上に私を座らせた。
「葵、愛してる」
ボロボロと涙が溢れ落ちる。ここが居たかった場所だったのを忘れていた。
「千秋、愛してるよ」
私は、千秋の頬の涙を拭ってあげる。
「ごめんな!何もしてあげれなくて」
千秋の言葉に首を横に振った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる