上 下
11 / 65
救えなかった恋

上條陸、五木結斗

しおりを挟む
俺は、病院から見える桜の木を見つめていた。

上條かみじょう、またボッーとしてるね」

伊納いのうか、いや、看護婦長と呼ぶべきだよな」

「なに、それ?別にいらないし」

「なあー。俺が、医者目指したきっかけの話し覚えてる。」

「忘れないよ。あの日々は…」

「あの日も、こんな風に咲いてたよな」

「懐かしいね」

「伊納は、あがり?」

「そっちは?」

「俺もうあがる」

「じゃあ、久々に肉食べに行かない?」

「いいねー」

俺と伊納は、幼馴染みだった。

「彼氏に言っとけよ」

「そっちもな」

「じゃあ、着替えたら桜の木の下にいるから」

「了解」

服を着替えて俺は、凌平にメッセージを送った。

桜の木の下につくと伊納が居た。

「あれは、伊納のせいじゃないって、絶対」

「どうだろうね」

俺は、伊納と並んで歩く。

焼き肉【パンちゃん】は、俺と伊納の行きつけだった。

「今日は、呼び出しない?」

「今日は、全くない」

「じゃあ、ビールだすよ」

「出してください」

店長は、もう何も言わなくても食べるものを出してくれる。

「いただきまーす。乾杯」

「乾杯」

ジョッキをカチンと合わせて、ゴクッゴクッとビールを飲んだ。

「プハー。あったまった所で、贖罪を捧げますか」

「そうだね」

俺と伊納は、この季節になるとあの日の話をする。

それが、贖罪だって思っているからだ。

そうあれは、俺が13歳の頃の話。

今から、32年前の出来事だ。

キーンコーンカーンコーン

入学して、三日目。

派手に転んだ俺は、保健室に来ていた。

ガラガラ

「先生、すみません」

「あらら、凄く痛そうね。座って」

保健室の優しい篠浦先生は、俺を椅子に座らせた。

消毒をされていた俺の前に、天使が現れたのをハッキリと見た。

「先生、やっぱり帰ります」

「あら、五木君。親御さんにかけるまで寝てなさい」

「はい」

色が白くて、透き通ってるみたいだった。

「はい、出来た。先生、ちょっと電話してくるから、上條君は、教室戻りなさいよ」

「はい」

ガラガラ

先生が、出ていった後、俺は、引き寄せらるように五木君のベッドのカーテンを開けた。

シャー

「何?」

「綺麗だね」

初めて恋をした。

俺は、自分が同性愛者だとこの瞬間に気づいた。

「プッ、そんなの言うやつ初めてだよ。」

「そうなの…。ごめん」

「あー。ごめん。僕、五木結斗いつきゆいと。二年、よろしくね」

「よろしく。俺は、上條陸かみじょうりく。一年」

華奢な白い手と、握手をした。

チュッ

「えっ?」

「あっ、ごめん。挨拶かな?って」

「そうなの?」

「そうかな?って」

「じゃあ、俺もするよ」

チュッ

「ハハハ、よろしくね」

笑った顔も、綺麗で息がつまる程美しかった。

「よろしく」

「いつも、ここにいるの?」

「うん、いるよ」

「また、きてもいい?」

「いいよ、おいで。待ってるから」

そう言って、五木君は笑った。

俺は、名残惜しく手を離した。

「また、明日ね」

「うん、バイバイ」

手の甲に残る天使の唇の感触が、気持ちよくて、俺は、保健室を出ながら、手の甲にキスをしていた。

ガラガラ

「上條、手当てしてもらったか?」

「はい、すみませんでした。」

「気を付けろよ」

俺は、教室に戻った。

授業中も、ずっと天使の事ばかり考えていた。

キーンコーンカーンコーン

授業が終わり、窓の外を覗きに行く。

五木君が、お母さんに連れられて帰って行っていた。

バイバイ

俺は、心の中で呟いていた。

その日の授業は、何一つ身が入らなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

【完結】悪女のなみだ

じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」 双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。 カレン、私の妹。 私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。 一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。 「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」 私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。 「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」 罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。 本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。

ままならないのが恋心

桃井すもも
恋愛
ままならないのが恋心。 自分の意志では変えられない。 こんな機会でもなければ。 ある日ミレーユは高熱に見舞われた。 意識が混濁するミレーユに、記憶の喪失と誤解した周囲。 見舞いに訪れた婚約者の表情にミレーユは決意する。 「偶然なんてそんなもの」 「アダムとイヴ」に連なります。 いつまでこの流れ、繋がるのでしょう。 昭和のネタが入るのはご勘弁。 ❇相変わらずの100%妄想の産物です。 ❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた、妄想スイマーによる寝物語です。 疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。 ❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく激しい微修正が入ります。 「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

処理中です...