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待てを言われた僕達は…。

【待てを言われた僕達は…】⑦

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洗面所でうずくまって泣いていた海斗。

凛音が、何かをしている気がしていた。

玄関の音がした。

凛音が、出て行ったのを感じた。

「凛音、凛音」

触(ふ)れられない事

いなくなった事

絶望しかなかった。

凛音が、いない世界は考えられなかった。

最悪で、最低だ。

「幸せって、何で壊れるの」

凛音に触(ふ)れた指先が腫れて熱をもつ。

「もう、待つのは嫌だよ」

凛音の血に触(ふ)れた指先が腫れてる。

「犬じゃないんだ。俺は、人だ。お預けばっかり、食らうのはたくさんだ。」

凛音に触(ふ)れたい。

涙が、ボタボタ流れてくる。

「海斗、してあげるよ」

初めて、凛音が自分のに触(ふ)れてくれた日を思い出した海斗。

目を閉じて、自分のに触(ふ)れる。
.
.
.
.

「海斗、してあげるよ」

「凛音、そんなのいらないから」

本当は、したかった。

でも、怖かった。

自分が死ぬ事よりも、凛音が死ぬ事が何より怖かった。

「大丈夫だよ。手だけだから…」

「凛音、駄目だよ」

「大丈夫だから」

ソファーに座った俺の足の間に、正座をして座る。

凛音は、ゆっくりとベルトをはずした。

「恥ずかしいから、やめて」

「じゃあ、僕の顔見てて」

そう言って、凛音の顔が近づいてきた。

息づかいに、キス、手の動かしかた。

愛してる人が、してくれる行為はとても幸せだった。

汚(きたな)いって思っていた性行為を、初めて汚(きたな)くないと思えた。

凛音と、身体を重ねてしまいたい。

凛音の口に…。

あの日、母がしてたように…。

「やめて、凛音。はっ」

「よかった。イケなかったらって思ったら悲しかった。」

凛音は、ポロポロと泣いていた。

「凛音、ありがとう」

涙を拭ってあげた。

「ううん。」

「駄目、汚(きたな)いから拭かなきゃ」

その言葉も聞かずに、凛音は俺のを…。

なんだろう。

嬉しくて、涙が出た。

俺から出たそれを愛しそうに大切に扱った。

「気持ち悪くない?」

「大丈夫」

凛音は、そう言ってくれた。

凛音といたい。

「凛音、させて」

「海斗、いいよ。しなくて」

「やりたいんだ。」

「いいって」

「やらせてよ。でも、その」

「これは、しなくていいから」

「ごめんね。その」

「お母さんのせいでしょ?」

「うん。でも、手でしてあげたいんだ。」

本当は、怖かった。

ウイルスのせいで、どうなるかわからない身体が…。

「海斗、もう無理だよ」

「いいよ」

「はっ、あっ」

「よかった。イケて」

「海斗、手拭いて」

凛音は、ティッシュで俺の手を綺麗に拭いてくれた。

「いいのに…」

「駄目だよ」

「凛音、愛してるよ」

「僕も、愛してる。海斗」

抱き合った温もりが、身体中に広がって…。

凛音に触(ふ)れる喜びが、身体中に広がって…。

目を開けた海斗。

凛音はいない。

代わりに、ベタベタな右手を感じた。

身体中が、凛音のものだ。

凛音を想像するだけで、そうなれるのだ。

「凛音、凛音。」

涙が流れてくる。

血を広げた床にズボンに手を突っ込んで、丸まって泣いてる自分。

ダサくて、惨めな自分。

凛音が、いない世界はいらない。

凛音に…。

「凛音、どこ行ったの?」

海斗は、起き上がって洗面所で手を洗った。

自分への嫌悪と苛立ちが沸いてくる。

ペタペタと音をたてながら、リビングにやってきた。

凛音がいれてくれたカレーが、ダイニングテーブルにちょこんと置かれている。

スプーンをつかんで、口に運んだ。

「ニガッ、焦がしたな。なぁ?凛音」

いつも、ソファーにいる凛音に声をかけた。

いるわけないの、わかってるくせに、わざと大きな声を出した。

「ニガッ」

一口食べる度に、そう言った。

飲み込むように食べ終わった皿をシンクに下げにいく。

ガタンっ………。

凛音が、二度と帰ってこないと思った瞬間、眩暈がした。

それと、同時にお皿がシンクに落ちたのだ。

「凛音、凛音」

キッチンの床に泣きながら崩れ落ちる。

胸が潰れる程、痛くて堪らない。

凛音がいない世界は、いらない。

「なー、凛音。俺の隣でスマホ触(さわ)るの怒らないから、出てこいよ。隠れてるなよ」

そう言いながら、涙が止まらなかった。

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