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【それが、運命(さだめ)ならば…。】

【それが、運命ならば…】①

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僕は、学校の噂の木を見つめていた。

『興味あるの?僕に…』

生気のない目が、僕を見つめる。

「綺麗だね」

ニコッと微笑んで見せた。

『何をもって、綺麗だと言うのだ!』

怒り狂った顔をしていた。

「凄く綺麗だよ」

僕は、もう一度笑って見せた。

『ならば、僕を愛せるのか?』

「うん。愛せるよ」

『軽々しく、言うな』

「そうだろうか?僕は、愛せるよ。きちんと、君を愛せる」

そう言うと、彼は僕を引き寄せて抱き締めた。

『ならば、愛して』

「うん」

僕は、彼の唇にキスをしようとした。

「きっしょ!遠藤」

「イタッ」

石を投げつけられた。

「一人言、喋ってんなよ!」

「本当、気持ち悪い」

『僕が…』

「やめろ!せんでいい」

「何がじゃ、遠藤」

「きしょいねん。マジで死ねよ」

「ほっといてくれたらいいだろ」

「ほっとけるか、気持ち悪い」

胸ぐらを掴まれて、殴られた。

ドサッ…。

「きしょいねん。帰れー」

「帰れ、帰れ」

「帰れ、帰れ」

「何してるん!そんなんやったら、ダメだろ!」

南方(みなかた)君だけが、唯一の味方だった。

「大丈夫?遠藤」

ドクン…。

差し伸べられた手を掴んでしまった。

【遠藤って、マジで気持ち悪いわ!先生に褒められなかったら、こんな事してないわ!小指の爪が黒くてキモいし】

はっ!!!

「ありがとう」

「教室、行く?」

「お腹痛いから、帰るわ」

「そっか。先生に言っとくよ」

「ありがとう、南方君」

「うん、気をつけてね」

誰も去ったのを見届けて、さっきの人に近づいた。

「君と僕は、同じやね」

『十季(じゅうき)、大丈夫?』

「うん、大丈夫」

『僕は、ここから…』

「動けないんだろ?いつか、動けたらいいね」

『そうだね。ごめんね』

血の通わない冷たい手が、僕の涙を拭ってくれる。

南方君の手よりも、暖かく感じた。

『十季、大丈夫だから…。』

「うん、ありがとう」

『今は、辛くてもいつか幸せになるから』

「うん、ありがとう」

涙を拭ってくれる。

十季は、生まれつきのこの能力が大嫌いだった。

人ならざる者と話せる自分、誰かの言葉を聞ける自分。

だから、教室は大嫌いな空間だった。

先生は、可哀想だから話してあげないといけないと言っていたし、クラスの子達は、気持ち悪いと言っていた。

それは、自分にだけ聞ける言葉で…。

毎日、毎日、胸が押し潰されそうになった。

そんなある日、彼を見つけた。

美しいと思った、引き寄せられるように話しかけた。

彼の怒りや悲しみや苦しみが、自分に流れてきた。

似ている気がした。

これが、恋なのかどうかはわからなかった。

『十季、明日もおいで。話し相手になってあげるから』

「うん、わかった」

愛斗と言う名だと聞いた。

彼の優しさが、嬉しかった。

この学校に、僕を好きな人間は一人もいない。

愛斗以外、一人もいない。

『十季、気をつけてね』

「うん、帰るね」

『わかった』

「また、明日」

『バイバイ』

僕は、愛斗に手を振って歩き出す。

何で、僕ばっかりこんな目に合わないけないのだろうか…。

普通になりたかった。

それやのに…。

皆にバレたのは、美術室で絵を描(か)いてる時だった。

『へー。下手くそやな』

「誰が、下手くそや!」

「何?遠藤君」

「遠藤、一人言、きもいねんけど…。」

僕は、誰かに話しかけられたんだと思った。

小学生の時と違って、少しはコントロール出来るようになっていたと思っていただけにショックだった。

「遠藤、きもいよな」

「トイレで、一人言、言うてたで」

それから、学校の幽霊達に話しかけられるようになってしまったのだ。

【成仏させるのが、遠藤の家の役目ですよ】

そう言われていたから、僕は仕方なしに話していた。

それを、よりによってさっきの奴等に見られてるとは…。

最悪だった。

さっさと中学を卒業したくて仕方なかった。

どうか、早く学校を卒業できますように…。
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