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【心だけが、繋がらない。】

【心だけが繋がらない】⑩

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朝目が覚めて、冬がいる事にホッとした夏。

ベッドから、ゆっくりと降りる。

パンツ一枚で、洗面台に向かった。

好きが、繋がらない。

冬がいなくなって悲しいのか、セックスが出来なくなるのが悲しいのか、もうわからない。

顔を洗って、歯を磨いて、水道の蛇口を捻って水を飲む。

ソファーに膝を抱えて座る。

机の上に置いてある冬の煙草を触(さわ)っていた。

冬を手放せてしまう自分が、まだ存在している。

夏は、心を冬に捧げられない事を苦しんでいた。

昨日出会った春のそっくりさんを思い出していた。

ダメダメ。あの人は、知らない人だ。

ブンブンと首を振る夏。

変わって、冬。

夏が、ベッドにいないのに気づいていた。

昨日の秋に似た人を思い出していた。

あの人は、秋ではない。

でも、もしまた会ってしまったら自分は秋への気持ちを押さえられるのだろうか?

夏の形が残った毛布を手繰り寄せて抱き締める。

夏が、別の人を好きになったら…

やっぱり、自分はいいよって言えてしまうのだ。

ゆっくりとベッドから起き上がった。

ソファーに座る夏を見て、冬は同じだと思った。

「おはよ、夏」

「おはよー、冬」

「用意せなな!顔洗ってくるわ」

「うん」

冬は、顔を洗って歯磨きをした。

キッチンの水道を捻って、水を飲んだ。

浄水器、外さないといけないな。

「引っ越しの挨拶に何買ってくん?」

「洗剤とか?」

「布巾にしようや!」

「夏が、気に入ってるとこの?」

「うん」

「じゃあ、それ買って行くか」

「うん」

冬と夏は、用意して家を出た。

取り敢えず、冬はスーツケース2台を車に積めた。

途中、夏が好きな雑貨屋さんで、布巾を買った。

「何個部屋あったっけ?」

「全部で、10ぐらいやろ?」

適当に買っておいた。

引っ越すアパートについて、下の階の人に挨拶をした。

二階の階の人にも挨拶をして。

残りは、両隣やった。

ピンポーン

ガチャ

今にも死にそうな顔をした女の人が出てきた。

「あの隣に引っ越してきました。成瀬です。」

「三上です。」

女の人は、ボロボロ泣き出した。

「えっと…。」

「私は、篠宮美弥です。」

「美弥、誰?」

「お隣さんだって」

「渡辺作太です。」

「今日から、引っ越してきました。成瀬です。」

「三上です。大丈夫ですか?」

「おおきに」

渡辺さんは、冬の手を握りしめた。

「えっ?なに?」

「俺達、死のうとしててん。」

「どういう事?」

「死のうかって言ってたら、二人がきたんよ。何か、ありがとう。命の恩人やわ」

手を握られる、冬と夏。

何かわからないけど、よかったと思った。

「じゃあ、また」

「はい」

二人は、部屋に入っていった。

反対の部屋のインターホンを鳴らした。

ピンポーン 

「おらんのかな?」

「かもな」

ピンポーン

二回鳴らしたけど、出なかった。

「月曜日やし、仕事やんな」

「そりゃ、そうやわ」

去って行こうとする夏と冬

「あの、家(うち)に何か用ですか?」

「春……。」

「えっ?」

「あっ!隣に越してきた成瀬です。こっちは、三上って言います。」

「そうなんですね。里山和人です。もう一人住んでます。今日は、仕事なんですけど…」

「これ、よかったら」

「ありがとう。仲良くして下さいね。」

「はい、こちらこそ」

そう言って、里山さんはお辞儀をして部屋に入って行く。

「夏、大丈夫か?部屋はいっとき」

「大丈夫。わかった」

冬は、車にスーツケースを取りに行く。

クーラーも付け替えてもらわな死ぬよな。後、冷蔵庫やろ!

やっぱり、明日引っ越業者頼むか。

冬は、引っ越しの事を考えながら部屋に行く。

ドアを開けると、何もない部屋の真ん中で、夏が体育座りをしていた。

俺達、終わるのかな…

冬は、その姿を見てそう思った。

春、そう言った夏の言葉が頭を過った。

春が現れたら、冬に勝ち目なんてないのだ。

そもそも、身体しか繋がっていない関係の冬と夏にとって…。

心を奪った相手、そっくりな相手が現れた時点で、もう終わるのだ。

どうぞって言える気がしていた冬

なのに、奪われた相手が死んだはずの春に似た人間だと知って、涙が流れてくる。

この涙は、きっと執着心なのだと思う。

そして、セックスをしてる間は、春の存在を消せていたと思っていた自分自身の自惚れだ。

「冬、大丈夫?」

「何か、飲みもん買(こ)うてくるわ」

「待って、冬」

ガチャ…

「お隣さんですか?」

「秋………。」

「冬」

夏もまた終わると思った。

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