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命と朝陽

聞きたくない

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「夕陽」

聞きたくない

「スゥー、スゥー」

寝言だったのがわかった。

どこから寝言で、いつから寝言で…

わからないけど、ずっと桜賀さんの寝息が聞こえてる。

それを聞いてると、だんだん眠たくなってきた。

.
.
.
.
.

「朝陽君」

「桜賀さん」

両親がいなくて、夕陽と俺と桜賀さんしか家にいなかった。

はだけたシャツで、トイレから出てきた桜賀さんに会った。

「俺も、トイレだから」

腕を掴まれた。

「漏れるから…」

付き合いたての頃だった。

「何?」

突然、抱き締められた。

「朝陽君、ごめんね」

「何が?」

「ごめんね、朝陽君」

「何が?」

どういう意味で言われてるのかわからなかった。

「ごめん、離して。トイレ漏れるから」

桜賀さんは、離してくれた。

トイレから出ても、まだいた。

「宿題教えてあげようか?」

「いらないよ、兄ちゃんは?」

「眠ってる」

「そっか!戻りなよ」

「少しだけ話そうか!ほら、今度のレシピの事とか駄目かな?」

「えっ、あっ。わかった」

はだけたシャツから、蚊に刺されたみたいな痕が見えてた。

「朝陽君の部屋ってこんなんなんだね」

「うん」

「ほら、やっぱり宿題してたんでしょ」

「あっ、うん」

桜賀さんは、隣に座った。

「レシピって何?」

「えっとね、ノート借りていい」

「あっ、ちょっと待ってメモあるから」

俺は、鞄からメモを取り出す。

「それと、これ」

「これ、何?」

「痒いだろ?蚊に食われてるから、そこ」

その言葉に桜賀さんは、困った顔で笑った。

「気づかなかったよ。ほんとだ!蚊に噛まれてた。ありがとう」

そう言って笑った。

「はい、メモ」

「ありがとう」

「にんじんのレシピ?」

「そうだよ」

顔が近くて、ドキドキした。

ギュッって、また抱き締められた。

「どうしたの?」

「朝陽君が、大人だったら俺…」

「何?どういう意味?」

「大人だったら、お酒飲めたのにね。ごめん」

「抱き締められるの何でかよくわかんないんだけど。兄ちゃんと喧嘩したの?」

桜賀さんは、ポロポロ泣き出した。

「大丈夫?」

「朝陽君は、優しいね。優しすぎるよ」

そう言って、また抱き締められた。

桜賀さんが、何を思ってそうしたのか俺は知らなかった。

目が覚めたら、向き合っていた。

桜賀さんに、俺は抱き締められていた。

涙が、頬を濡らしていた。

「あの日、兄ちゃんと三回目だったんだよな。それで、俺の事まだ好きだったんだよな。罪悪感だったの?何度もごめんねって言って抱き締めてきて…。俺、あの頃の桜賀さんの気持ち知りたくなかったよ」

唇を優しく撫でる。

あの頃の気持ちを知りたくなかった。

俺を好きだった気持ちなんか知りたくなかった。

だって、今さら聞かされたって過去(そこ)に戻れないだろ?

ただ、ただ、辛さと悲しみが増えただけじゃないかよ

あの時、俺が桜賀さんに愛してるって言ってキスでもしとけばよかったのか?

わからないよ

俺は、桜賀さんの頬を撫でる。

「夕陽」

そう言って、唇が動いた。

何で、夕陽(あいつ)なんだよ

もう、俺にしてくれてもよくないか…

それでも、俺は桜賀さんの唇に触れる

「夕陽、愛してるよ」

どんな夢を見てるの?

俺は、夕陽を呼ばれないように桜賀さんの唇にキスをした。

「ちょっと待って」

キスを返された。

「起きてるの?」

「今、起きたよ。夕陽」

ほら、代わりを望んだだろ

うまくやれよ

唇を重ねられる、ねっとりと濃厚に舌を絡ませられる。

「夕陽、愛してるよ」

パジャマのボタンがはずされていく。

「桜賀」

「していい?」

「欲しいんだろ?」

「うん」

頭が割れそうに痛い、胸が潰れそうに痛い、望んだ事なのに、押し潰されていく。

俺が、踏み潰されていく。

「桜賀」

「夕陽」

目を閉じて、俺は桜賀さんを見ないようにする。

夕陽に感じてる桜賀(あなた)を見たくない。

もう、壊れそうだよ

三輪、命、日下部、俺を助けて

この場所から、救い出して

神様、愛され方を教えてくれるなら何だってしますから、許して下さい


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