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命と朝陽

条件

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私は、神の言葉に神を睨み付けた。

「悪いな!怒ってないから」

そう言って、煙草に火をつける。

「命は、しんどいのか?」

「はあ?」

「だから、命はしんどいのかって聞いてんだよ」

「しんどいって言ったら、解放すんのかよ」

「するわけないじゃん」

「だったら、何で…」

「言ったろ?俺達、夫婦には命が必要だって」

神は、煙草の煙を吐き出しながらそう言った。

必要って何なのだ…

「跡取りを早く作れよ」

「じゃあ、また見ててくれる?」

煙草を消して、神が私の腕を掴んだ。

「ふざけんな」

私は、手を振りほどいた。

「沙羅とすんの無理なんだよ。最後まで、いけないんだわ」

神は、そう言ってまた煙草に火をつけた。

「だけど、命が見た日はいけたよ。沙羅もめちゃくちゃ興奮してたし」

「変態」

「かもな」

フッと笑って、私を見つめた。

「跡取り頑張れ」

「不妊治療しようと思ってる」

「はあ?病院を私物化するつもりか?」

「人工受精だよ。さっきも、言ったろ?俺は、沙羅じゃいけないんだ」

「だからって…」

「じゃあ、お前が俺達がしてるの見るのか?」

あれを妊娠するまでずっとと思うだけで、足がガクガク震えそうになる。

「無理だろ?だから、人工受精するよ」

不妊で悩んでる人に謝れ!お前は、その人達を全員敵に回した。

愛人とはいけて、妻ではいけないから、人工受精をする?

お前の考え方は、間違ってる。

そう言えないもどかしさが広がっていく。

「沙羅には、近いうちに了承をとるよ」

「何て言ってだよ」

「勃起不全って事にしておく」

「はあ?」

「その方が、沙羅も幸せになれるだろ?」

「どういう意味だよ」

「愛人とも出来ないんだねって納得してくれるだろ」

そう言って、ニヤリと笑ってまた煙草に火をつけた。

「診断書は?」

「あー、村瀬に書いてもらうから心配するな」

村瀬とは、不妊治療外来のお医者さんで兄の研修医時代からの知人だ。

「最低だな」

「最低か…。そうかもな!でも、俺は命と違って献上(プレゼント)しなくちゃいけないんだよ。わかるか?このプレッシャーと苛立ちが!ガキの頃から、ずっと跡取りをといわれ続けた子供の気持ちが」

そう言って、神は煙草を足で消して私の胸ぐらを掴んできた。

「文句言うなら、お前が跡取り産めよ」

その目に睨み付けられて、全身が震えそうになる。

「レズには、出来ないだろ?」

そう言って、離された。

「神」

「呼び捨てか」

「ごめん」

「お前に俺を責める権利はないんだよ。じゃあな」

そう言って、兄さんは家に入っていった。

私は、忘れていた事を思い出した。

いつからか、兄さんはこうなった。

そのいつからかは、二人目が女の子だったせいだと思う。

玄関を開けると母がいた。

「命、レズって何?」

「誰が…」

私は、嘘をつくように部屋に入った。

「今、神が言ってたでしょ?命がレズだって」

「そんなわけあるわけないじゃん」

「じゃあ、彼氏は?朝陽君以外にお母さん会った事ないよ」

私は、無視するように着替える。

「ねえー。命、聞いてるの」

「うるさいな!今日は、朝から仕事なのよ」

「じゃあ、連れてきなさい」

「はい?」

「今週の日曜日に、お付き合いしてる人を連れてきなさい」

「どうしてよ」

「レズじゃないって言うなら、連れてきなさい」

「もし、連れてこれなかったら?」

「村松さんとお見合いしてもらいます」

「また、それ…」

「言ったでしょ?あの人は、命を気に入ってるの」

「母さん」

「もしも、レズならお見合いして子供を産みなさい!それが、出来ないのなら…」

「出来ないのなら?」

「私と一緒に死にましょう」

その目と言葉に、本心なのがわかった。

「恥をさらすぐらいなら、死にましょう」

恥なの……

「わかった」

私は、部屋を出て行った。

無条件に私を愛してくれた母は、大人になるにつれていなくなった。

生きているだけでいいと言われていた幼い頃は、すぐに過ぎ去り…

ちゃんとしなさい、一番をとりなさい、100点をとりなさい、きちんとしなさい、じっとしなさい。

差し出された条件をクリアしないと愛をもらえなくなった。
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