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命と朝陽

わかりますよ

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三輪がテーブルに食べ物を並べていた。

「いただきます」

「どうぞ」

「甘っ!!!」

「砂糖いれすぎた?」

ピーマンの肉詰めを食べてる。

「あー、失敗。捨てる」

「いいよ」

「食べるの?」

「全部、食べる」

自分だけに作られた料理、俺だけを思ってくれた料理。

「甘いよ」

「大丈夫だって」

「朝陽」

「煌人が作ったもんは、食べるよ。ほら、米にピッタリだわ」

俺は、三輪の手料理を平らげた。

「ごちそうさま」

「朝陽ぃぃ」

大袈裟な程に泣いて抱きついてきた。

愛されるのは、幸せだった。

桜賀さんといるのは、空腹で死にかけてるのに紙に書いた料理を渡されている感覚だった。

どこまで、いっても俺は偽物を差し出されて…。

腹は満たせないまま、死んでいくんだ。

でも、三輪は違う。

ちゃんと食べ物を差し出してくれる。

でも、俺は毒が入ってると騒ぎ立てて食べないんだ。

でも、いつか俺が少しでも三輪を愛せば空腹は満たされる。

なのに、俺は桜賀さんへの愛を捨てられなかった。

「朝陽、どうしたの?」

「ううん」

「明日の夜も行くんだろ?」

「うん」

「俺を愛せたらいいのに」

「本当だな」

俺は、三輪に後ろから抱き締められていた。

三輪を愛する事が出来れば、この苦しみはとまる事を知っていた。

俺は、三輪と一緒に朝を迎えた。

「朝陽、俺バイトだから」

「うん」

「朝陽は?」

「昼から」

「そっか、じゃあ行くね」

そう言って、俺を抱き締めた。

「待って」

「うん?」

「これ、いつでも来ていいから」

俺は、三輪に合鍵を渡した。

「ありがとう」

三輪は、ニコニコと鍵を握りしめた。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

三輪が、出て行った姿をずっと見ていた。

俺は、部屋に入った。

スマホを見つめる。

桜賀さんから、メッセージなんてなかった。

桜賀さんにとっての俺は、夕陽の代わりなんだ。

結局、昼までゴロゴロしてコンビニバイトに行った。

夜の9時過ぎに終わった俺を日下部が待っていた。

「お疲れ様です。五十嵐パイセン」

「あ、三輪は?」

「今日は、もう一つのバイトもあるから遅いんです」

「そっか」

日下部に話があると昼間にメッセージを送っていた。

自転車を押しながら、並んで歩く。

「日下部、ごめんな」

「何で、謝るんですか!」

「俺のせいで、三輪をとってしまったから…」

「僕は、そんな事思ってないですよ!煌人が、五十嵐パイセンとまたそうなれて喜んでますよ」

「嘘だろ?」

「嘘じゃないです」

「日下部は、強いね」

「強いわけじゃないです。煌人が向き合ってくれてるのを感じられるから…。頑張れるんですよ」

そう言って、日下部は笑っていた。

「五十嵐パイセンは、辛くて仕方ないんですね」

「そうかもな」

「それは、煌人や僕が遥か昔に通ってきた場所(きもち)ですね」

「その時は、辛かった?」

「辛かったですよ!何で、煌人は僕を愛さないのに抱くんだって!何度も思ってました」

「そっか…」

「でもね、その愛を失う事は耐え難い苦痛と悲しみなんですよ。それだけは、煌人も僕も同じ気持ちだった」

「どういう意味?」

「煌人は、僕からの愛がなかったら生きていけなかったし、僕は煌人を愛さないと生きていけなかった。不思議ですよね。五十嵐パイセン」

日下部は、そう言うと公園に入っていく。

公園の中にある自販機で、コーヒーを買って俺にくれた。

「五十嵐パイセンも、今そうなんでしょ?」

自転車を停めて、俺と日下部はベンチに腰かけた。

「どうだろうか?」

「曖昧にしようとしてますか?僕は、そこを通ってきたからわかりますよ!五十嵐パイセンには、三輪煌人の愛がなかったら生きていけないって…。そして、五十嵐パイセンの愛してる人も同じです。そして、五十嵐パイセンはその人を愛さないと生きていけない。上手く行かないですよね!すぐ傍にある手を掴んで歩けば幸せだってわかっていても、遥か遠くにある手を掴みたくなるなんてね」

日下部は、そう言って笑いながらコーヒーを飲んだ。


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