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命と朝陽

利用する

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「電気消しながら、飲みましょう」

俺の提案に、桜賀(おうが)さんはまだいいと言った。

「朝陽と飲むよ」

そう言って、笑ってくれた。

「ビール買ってきてます」

「店の残りもの、つまみにしようか?」

「はい」

せっかくしまった、タッパーを出してきた。

「座ってて、レンジで温めるよ」

「はい」

俺は、桜賀(おうが)さんが気持ちいいなら自分が気持ちよくならなくてもいいんだよ。

でも、さすがにショックだったな。

やっぱり、桜賀(おうが)さんは俺じゃたたないんだよな。

タッパーの中身を皿にうつして、桜賀さんは持ってきた。

「乾杯」

ビールをグラスに注いでる。

「いただきます」

桜賀さんの料理は、すごくうまいよ。

「朝陽、俺はね。夕陽にもう会いたくないんだよ」

「何でだよ」

「実は、10年前に一度だけ夕陽に再会したんだ」 

「そう」

俺は、桜賀(おうが)さんの顔を見れなかった。

「もちろん、そうなった」

「へー」

「だけど、夕陽は落としたい誰かがいるみたいでね。その人を落とせないから俺を抱いたみたいだった」

それは、もしかして、三輪か?

「そっ」

「怖かったんだ。あの夕陽の目も、無茶苦茶にされる事も、無理やりくわえさせられるのも、身体中に痕をつけられた。爪で引っ掛かれたり、キスマークや、歯形。最後の夕陽とのエッチは、狂っていた。今までで一番、怖くておぞましかった」

「それでも、夕陽にしか感じないだろ?」

「朝陽、そんな自分が気持ち悪いってわかるか?」

俺は、何も言えなかった。

「朝陽を好きなままいれたら、きっと幸せだっただろうな」

桜賀さんは、柿の種を食べてる。

「上書きしたいのか?俺で」

「そうかもしれないね。優しい夕陽を覚えていたいのかも知れないね」

「いいよ、俺。桜賀(おうが)さんの為ならいくらでもやるよ」

「朝陽をこれ以上、傷つけたくない」

桜賀(おうが)さんは、俺の頬を撫でる。

「傷つけていいよ。俺の事なんて気にしないでよ」

「朝陽の優しさに甘えてしまう。そんな自分が嫌なんだ」

「甘えていいんだよ。桜賀(おうが)さん。俺は、気にしないよ」

「朝陽、俺はまだ夕陽を忘れられない。それに、朝陽をまだ愛せない。さっき、わかっただろ?」

「それでも、俺は…」

「朝陽、俺は、朝陽をやっぱり愛せない。だけど、夕陽を感じさせて!それで、朝陽には朝陽を愛してくれる誰かといて欲しい」

「それでも、桜賀さんはいいって事?」

「朝陽の心が壊れないなら、そうして欲しい。でも、夕陽を感じさせて欲しい」

パチン……。

立ち上がった桜賀さんは、電気を消した。

「桜賀」

「朝陽、ごめんね。ごめんね、利用させて、夕陽」

そう言って桜賀さんは、俺をソファーに押し倒した。

玉のように涙が流れていく。

カチャカチャとベルトをはずされる。

「夕陽、凄いね」

「桜賀、これが欲しいんだろ?」

言葉に体にくだらなさに、涙が出る。

だけど、萎えさせたら終わるから…。

俺は、夕陽を演じる。

「夕陽、凄いね。愛してる」

「もっと、欲しがれよ!桜賀」

夕陽(あいつ)と同じ血が、体の中に流れてると思うと吐き気がする。

桜賀さんは、俺の上に乗る。

俺の左手を口に含んだ。

「夕陽ッ、夕陽、愛してるよ」

「はっ、んんっ」

俺は、反対の手で口を押さえる。

嗚咽が出ないようにする。

「夕陽ッッ、ハァー、ハァー」

体が、ビクンとお互いに波打ったのがわかった。

「愛してるよ、夕陽」

俺の胸に、そのまま顔を埋めた。

まだ、繋がったままなのに…。

桜賀さんは、寝てしまった。

「泣いてるじゃん。桜賀さんも」

俺は、頬の涙を拭ってあげた。

俺は、器用にゆっくりと桜賀さんから離れた。

ソファーに寝かせる。

ティッシュで、丁寧に綺麗にしてあげた。

「桜賀さん、夕陽を愛してるんだな」

涙が、ポトリポトリと流れてくる。

俺は、三輪に言われた通りだった。

俺には、この日々を耐えられない。

服を着て、桜賀さんをベッドに寝かせに行った。


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