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幸せなら嬉しいよ

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栞の一日が、終わった。

麻ちゃんは、二階の部屋に閉じこもってしまった。

「麻美にまで、ご飯ありがとね」

「ううん。今までで一番口聞いてくれなかった。」

「座りな」栞は瓶ビールを俺のグラスに注ぐ。俺も栞に注いだ。

「お見合いって言われたからだよな?」

「多分ね。いただきます。」栞は俺が作った煮物を食べる。

「前に付き合ってた人、DVだったよね?」

「うん。だから、助けてあげた。ちょうどその頃、僕も結婚話でてたけど子宮全摘だったでしょ?だから、結婚やめたくて…。ずっと居た麻美にちょっかいかけたってやつよ。」

ビールを飲み干した、俺は、すかさずつぐ。

「栞みたいに前向きになれるのってすげーな。」

「だって、子供の夢キラキラ語ってる婚約者に私、子宮なくなりますなんて言えないから…ハハハ」

「相手は、何も知らなかったんだよな。栞の事」

「治療も全部知ってたのは、麻美だけだったから…。月には、会って話したでしょ?」

「俺は、栞が生きてるのがすごい嬉しいよ。俺にとって栞は、大切な人だから」

「この話したら、すぐ月が泣くから嫌なんだって…。やめやめ。」

そう言って栞は、ビールをついでくれた。

「麻ちゃんと栞が、うまくいけばいいって俺はずっと思ってるよ。」

俺も煮物を食べた。

「月は、いつ彼女に話すつもり?」

「ここから、帰る日にいうつもり」

「殴られてもいいの?言う必要ないよね?あんな話。」

「馬鹿げてるからか?」

「うん。」

「栞に話した時言ってたな。冗談でしょ?馬鹿げてるって…。俺も、夢ならいいのにってずっと思ってたよ。」

「そんなの親のエゴだよ。」

「俺、おかしいんだけど…。あの日、本当は、あの人達に親孝行できて嬉しかったんだ。」

「そんなの、親孝行じゃないよ」

栞が、泣いてる。

「わかってるよ。違うのなんて。やるって決めたのは、俺だから」

「彼女にその話しなくていいよ。罵(ののし)られたらどうすんの?気持ち悪いって言われたらどうすんの?」

「受け入れるよ。俺が、彼女の五年を奪ったのは事実だから…」

「なに、それ」そう言って栞が泣いている。

「もう、この話は終わり。栞がいつも泣くから」俺は、栞の頭を撫でた。

「やめろ、ガキじゃない。」

そう言って手を振りはらわれた。

「ビール持ってくる」俺は、ビールを取りに行く。

鞄のスケッチブックをとって持って行く。

「はい、ビール。それとこれ、最後のページ見て」

栞は、ビールを取ってスケッチブックも取ってくれた。

「懐かしい、月の山の子だな。月の本気の恋。」

そう言ってスケッチブックをめくる。

最後のページを見て栞が手を止めた。

「再会したのか?」

「うん。」

「いつ」

「休み取った初日」

栞の顔が、明るくなる。

「すごいな。12年ぶりだろ?結婚は?綺麗になってたか?どんな女の子だった?」

沢山質問をしてきた。

「結婚はしてない。マンションの隣の部屋に越してきた。綺麗だったよ。それと、男だった。」

栞が、目をパチクリパチクリさせてる。

「男だったの?」

「あぁ、うん。」

栞は、笑い出した。

「そりゃあ、月の山に通ったって会えないよな。ハハハ」

「初めて見た時に、心臓がドキドキしてビックリした。男が好きな自分を受け入れられなかった。」

栞は、不思議そうな顔をしながら

「好きなら、何でもいいよ。男や女なんて器の話だから」

「器って、絵描(か)く人は違うな」

「僕には、見た目なんてほとんど見えてないけどね。麻美は、頬から首にかけての火傷の痕を気にしてるけどね。僕には、気にならないから…」

「昔からだよな。栞は、心の中が見えてるんだよな。」

「月の親の絵描(か)いたら、ヤバイ化け物産まれたよな。ハハハ」

「そうそう。家族ってくれた絵。すごい不気味だったわ。俺以外化け物で。」

「ハハハ、今度僕にも会わせてよ。この人」

「うん。」

「月が、幸せなら。僕は、すごく嬉しいよ。」

「うん、幸せだよ。」

「よかった。」

そう言って栞は俺の頭をワシャワシャ撫でる。

栞が、描(えが)く絵が好きだ。

栞が居てくれたから生きてこれた。

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