上 下
15 / 250

ありがとう

しおりを挟む
俺は、星(ひかる)の涙を拭った。

嘘だろ?その気持ち。

でも、それ以上突っ込む事は出来なかった。

最後なら、描(えが)きたかった。

僅(わず)かでも、楽しかったから…。

明日からは、ただの隣人なんだ。

気持ちを伝えたら、あっけなく終わりをむかえた。

言わなかったら、よかった。

恋とか言わなかったらよかった。

俺は、いつも女の子を助けてた。

学校でも、外でも…。

あの日、月の星(つきのほし)公園で女の子が蹴られているのを見た。

月の星公園は、月の山町と星の森町の真ん中にある公園だ。

栞が、あの公園の景色が大好きだった。

あの公園で描く、親子連れやカップルやサラリーマンが大好きだった。

だから、俺は栞に連れられてよく行ってたんだ。

俺は、必死で嘘をついて女の子を助けた。

警察ってだして殴られたら、栞に本当に警察を呼んでもらう約束だったから…。

男は去ってくれて、女の子を助けられた。

顔を見た時にトクンと胸が鳴った。

手を掴んでくれた時に、またトクンって鳴った。

最後にティシュを渡したら、心臓が爆発しそうなぐらいドキドキを刻んでいた。

俺は、栞に呼ばれて行った。

もっと、早くに会ってたら何か変わっていたかな?

名前聞かなかった俺が悪いよな。

「宝物にするから」

俺は、笑って星の頭を撫でた。

もう、これだけで充分だよ。

「もっとしてもいいよ。最後になるなら」

何、言ってるの?

「いいよ。」

「もう、終わりならもっとしたいって思わないの?」

だから、何言ってるの?

「いいよ。」

「大丈夫だよ。もう大人だから、そんな事気にしないよ。」

「いいって言ってるだろ」

大きい声が、でてしまった。

星は、ビクッてした。

「ごめん。もう隣からも居なくなるみたいな言い方されてつい。」

「それは、引っ越すでしょ。」

「何で、そんな必要あるの?」

「だって、それは」

「大丈夫だよ。俺が、明日からしばらく栞の家に行くから」

「どうして?」

「ちょうど、休み明けから一週間は来てくれって言われてるから。1日早く行くだけだから…気にしないで」

そう言って、俺は笑った。

「わかった。」

悲しい顔するなよ。

期待するだろ。

「だから、気にしないでよ。彼女や彼氏と、そういう事するのもさ」

「……わかった。」

何で、目を伏せるんだろう?

俺の事、好きなの?

期待しちゃうよ。

「嫌いでいいから、せっかく会えたんだから…しばらくは、隣人でいてよ。」

俺の言葉に星が、俺を見た。

「ごめん。会釈するだけで充分だから…」

「考えてみる。」

「うん、いない間に考えてみて。どうしても無理なら止めないから」

「わかった。」

何かちょっとホッとした。

俺は、やっぱり星が好きなんだ。

初めて会った時に、ドキドキしたのは星のこの瞳(め)を覚えてたからなんだ。

もっと早く、見つけてあげたかった。

でも、時間は巻きもどらないから

進むしかないから…。

先の未来で、笑ってたらよかったけど…。

それも、無理かもしれないな。

引っ越ししちゃうよな。

注がれたワインを星は、飲み干した。

「ごちそうさま」

立ち上がろうとした腕を掴んでしまった。

「なに?」

「まだ、ワイン残ってるから」グラスに注いでしまった。

「わかった。」

そう言って一気に飲もうとする手を止めた。

「味わって、最後の一杯だから」

星の目が、俺を無言で見る。

「ごめん。でも、これ飲んだら全くの他人になるわけだから…。最後ぐらいゆっくり味わってよ。ねっ!」そう言って星の、唇についたワインを指で拭った。

その指で、自分の唇をなぞる。

キスをしたら、終わる。

星に少しでも俺をつけたら、終わる。

ハッキリとそれがわかる。

だから、何もしたくない。

星は、ずっと俺の指を見てた。

それでも、何も言わなかった。

ゆっくり時間をかけて、ワインを飲んでくれてる。

星の口に生ハムチーズをいれた。食べてくれた。

いれた時に少し唇に指が触れた。

また、唇に触れてしまった。

ドキドキ…ドキドキ…

こんなに思ってるのにもどかしい。

「ありがとう。」俺は、笑ってそういうのが精一杯だった。

星は、ワインを飲み干して部屋を出て行った。

サヨナラは、いいたくなかった。

俺は、布団に寝転がって泣いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

処理中です...