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わかるよね?[安西の視点]

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晴海が、眠ったのを確認して僕は病室を出た。

全員、青ざめた顔で立っていた。

「晴海は、寝たかな?」

美咲さんに言われて、頷いた。

「宇宙(そら)さん、お久しぶりです。」

「美矢君、もう両手がちゃんと使えるんだね」

「はい、お陰さまで」

「晴海さんと付き合ってるの?」

「あ、はい。」

「じゃあ、美矢君。やるべき事、わかるよね?」

宇宙(そら)さんに言われて、ハッキリとわかった。

「美咲さん、晴海は料理が作れなくなるのですか?」

僕の言葉に、美咲さんは頷いた。

「絶対ではないとお話しましたよ。皆さんが、そんな顔をしていたら晴海さんが落ち込みますよ。美矢君、どれくらいかかった?」

「そうですね。一年ほどでよくなりました。」

「晴海さんも、また料理を作れる。では、紹介状書きますから」

宇宙(そら)さんは、頭を下げて行った。

「何で、晴海なんだ。」

美咲さんは、泣いていた。

「僕に晴海さんを預けてもらえないですか?」

みんなは、泣いてる。

僕を見つめてる。

「晴海の気持ちがわかるんですね」

華君にそう言われた。

「僕は、利き手ではないのですが、絵を描(えが)くのに両手が必要でした。左手に痺れや違和感が残っていました。あのリハビリの日々を思い出すと今でも辛いです。ですが、また絵を描(えが)けるようになりました。晴海は、料理を作れなかったら生きていけないと僕に言いました。晴海に生きる希望を与えながら、また料理が作れるようにします。目まで失った、今…。」

「目まで、駄目になるのか?」

「知らなかったんですか…。」

僕は、口をおさえた。

「聞いていなかった。目まで、駄目になるって晴海が言ったのか?」

「はい、さっき言いました。右目がほとんど見えなくなると…。」

「そんな」

華君が、崩れ落ちた。

美咲さんも、崩れ落ちて床を叩いた。

「何で、何で、晴海が…」

「僕のせいです。すみません。」

「安西さんは、関係ありませんよ。」

「僕が、死神だから…。晴海の人生をやっぱり奪ってしまったのです。さっきの話は、なかった事にして下さい。僕が、晴海から離れれば晴海は幸せになります。」

僕が、頭を下げた。

「なるわけないだろ?」

「橘…」

「安西まで失ったら、晴海君は…。詩音や華君の前で言いたくないけど。俺は、死ぬと思う。」

その言葉に、膝の力が抜けた。

「それは、嫌だ。これ以上愛する人の命を奪いたくない。」

ボロボロと涙が、床に落ちる。

「安西さん、晴海を支えてやって欲しい。お願いします」

「僕からも、お願いします。」

華君と美咲さんにお願いされた。

「出来る限りやってみます。ただ、晴海には手の事は内緒にしていてもらえませんか?」

「わかった。言わないよ」

美咲さんは、そう言ってくれた。

「僕、もう一度だけ晴海に会ってきていいですか?」

「はい」

僕は、もう一度病室に入った。

晴海は、まだ眠っていた。

これから、大変になる。

これから、生きるのが辛くなるね。

晴海、僕が支えるから…。

絶対に、料理を作れるようになるから…。

大丈夫だから…。

僕は、晴海の頬を撫でる。

「美矢、まだいたんだね?」

「起こしちゃった?」

「うん」

晴海が、僕の手を握る。

「お水飲む?取ろうか」

「うん」

僕は、晴海にお水を渡した。

「美矢、いなくならないでね」

起き上がってお水を飲んだ晴海は、僕を見つめる。

「なるわけないよ」

「約束だよ」

晴海は、僕を抱き締める。

「右手に力が、まだはいらないんだ。」

「昨日の今日だから、まだだよ」

「美矢との約束までに、少しでも治るかな?」

「6日後、迎えにくるよ。治っていなくてもついてきて欲しい」

「もちろんだよ」

晴海は、右手を擦ってる。

「違和感がある?」

「うん、まだ感覚がない感じがする」

「ゆっくりだよ。大丈夫」

「海の華は、しばらく兄貴に手伝ってもらうしかないかな…。美矢に、またご飯を食べてもらいたい。」

「食べさせて、楽しみにしてる。」

「もう、帰る?」

「うん、帰るね。また、明日来るから」

「華にきてって伝えて」

「わかった」

僕は、晴海を抱き締めた。

「どうしたの?」

「ううん、僕を愛してくれてありがとう」

「急にどうしたの?」

「伝えたかったから…。晴海、愛してるよ。」

「うん、美矢がくれたの見てもいい?」

「僕が、いなくなってからにしてよ」

僕は、晴海の頬にキスをした。

「じゃあね」

「うん、また明日ね」

病室から出ると、みんなはまだ泣いていた。

「華さん、晴海が起きた。きて欲しいって言っていたよ」

「わかった。詩音、くぬりん一緒に行こう」

3人は、涙を拭って入っていった。

「安西、一緒に帰るか?」

「うん」

僕は、橘と星(ひかる)さんと並んで歩く。

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