狂態カンセン

小槻みしろ

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着ぐるみ

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 甘かった。
 奈緒は心のなかで、そう強く断じた。断じたのは初回の明子の奇行に対するおのれの対応に対してで、そして今まさに十一回目の奇行に遭遇していた。十一回目の奇行、それは初回とあまり変わってはいない。しかし、変わってはいないからと言って軽度ととられるべきではない――少なくとも奈緒はそう思っている――無論尚更酷くなっていくよりはましに思えるであろうが、明子が異様な様相であることに変わりはないのだ。
 その異様な様相を、毎度ぴたりと寸分たがわずされる、という心理的負担は中々のものであるらしく、奈緒は最近出がけにお腹が張るようになった。
 そして、尚悪いことは、明子は変わるまいが、季節は変わるということである。季節は若葉の色濃くなる、初夏に入っていた。
 もうもうと明子から立ち上る湯気が、会うたびに肥大していく。それは明子の自意識の膨大、明子自身の膨張であり、奈緒の体感でいうと明子は今力士よりも大きかった。
 隣に寄るだけで熱い。気温も暑くなってきたというのに、明子のそばはより熱いのだ。自ずと周囲が避けていく。避けていくだけならまだよいが、わかりやすく迷惑そうな顔を見せ、または気触れを見る目でこちらに視線を寄越す。その笑顔になりきらない、嘲笑や怖れの混じった顔を向けられるたびに、奈緒は自分のことではないというのに、奈緒の全身まで熱をもった。明子の膨張した己は、奈緒にまで及んでいるのだから仕方がないのかもしれない。
 また、同時に怒りもわいた。心情的には、彼等に共感するところが大いにあったというのに、不思議なことだ。だが、失敬だという義憤を友人のために抱ける自分でいられることにホッとした。



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