kill and kiss

小槻みしろ

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七話

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 二人でいるとき、互いにもたれ合うのがクセになっていた。意図したわけでもなくて、そうするのが何となくしっくり来る、そんな気がしていた。彼女の髪や肩がわたしのほおや肩、髪に触れる、血で濡れた腕を風に吹きさらしにして、――そうしていると、ひどく安らいだ。そうしているのが正しい。そう信じられた。

 好き。正しさを言い換えるならそうだった。

彼女に一度、強く抱き締められた事がある。セーラー服の分厚い布越しにも、彼女の体が放たれた弾丸みたいに熱の芯をもっているのがわかった。

 わたしは何も言えなかった。ただ、息をつめてそっと彼女の背を撫でた。

 あなたを愛してる。そう伝わるようにと思った。わたしは彼女を愛していた。彼女はしばらくして、振りほどくようにわたしを離し、追いやった。手の内が広々と寒々しいのを、わたしは夢心地で感じていた。

 言葉で悟る前に、その空気を悟った。その空気は柔らかで、優しくて、少しさみしく。とても貴いものだった。だから人はこの空気の名をそう悟り――また、そう形作るのだ。わたしは彼女を愛してる。

 愛。言葉にすると空気はより甘美に薫るようだった。やさしく美しい空気に満たされ、ふわふわとこの身を抱き締められているようだった。
 わたしは彼女に会うのがいっそう待ち遠しくなった。会えると嬉しくて、手を握りたいような、不思議な心地になった。彼女の手は冷たく湿っているときと、カサついているときの二通りあって、どちらにも熱を与えるように、わたしはその手を両手で包んだ。


 腕を切るのが、不意に悲しくなった。こんなに大切な空気に二人は包まれているのに、どうしてそれを切り裂かなくてはならないだろう。自分の腕はまだ我慢できた、それでも彼女を感じられたから。けれど彼女の腕、彼女の腕を切り裂くのがわたしにはとても苦痛に思え始めたのだった。
 それでも流れていく血の軌跡は止められなかった。また美しかった。それは、彼女との絆そのものな気がして、止めるということは、全てをそうすることだという、危うさもどこかで予感していた。

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