上 下
7 / 15

雨模様

しおりを挟む
「今日は少し雨が降ったが、何かあったのか? すぐに晴れたから駆けつけなかったが。夜都も美海もそなたを褒めていたが無理はするなよ」
「お帰り。ああ、ちょっと向こうのことを思い出しただけ。褒められるほどのことはしてないから心配しなくていいよ」

 自分のために文字を覚えて本を読んでいるだけだ。

「どれくらい文字を覚えたんだ? 見せて見ろ」

 陽王は暇を潰すために書いていた日記を取り上げた。

「おい、そういうの止めてくれよ」

 慌てて碧は陽王を非難した。
 別に日記に変なことは書いていない。食べたものと読んだ本の要約くらいだ。でも日記を勝手に読むのは酷いと思う。

「そういうの?」
「日記を勝手に読むことだよ!」

 取り返してバン! と閉じた。

「だが、食事と本の内容しか書いてないぞ」
「それでもだ」

 夜都には文字があっているかどうか見せているので今更だが、個人的なことを見られるようで陽王には見られたくない。

「わかった」

 陽王は偉い人で、傲慢に見えるが素直に碧の言うことを聞いてくれることもある。父とは違うんだなと思った。碧の父は、偉そうで傲慢で碧や母のことを下僕のように思っていたから。
 何故か碧は陽王と父を比べてしまって、それが不思議だった。比べて、違うことにホッと安堵しているような気がした。

「もう見ないなら、いいよ」
「そなたは怒っていてもすぐに許すのだな」

 馬鹿と言われたような気がした。

「どうせ、俺が怒っていても陽王は気にしないだろう!」

 相手が気にしていないのに怒りつづけてもむなしいだけだ。

「また怒らせてしまったか……。素直で人を許すことができることはそなたの美点だと思ったのだ。それに……私は気にしているぞ。雨が降り続いては作物も育たないからな」

 一瞬解れた心が、またカチカチに固まっていく。どうせ作物のためだろうよ。俺を抱くのも。俺に優しくしてくれるのも。激しく抱かれた日の朝、陽王は少しだけゆっくりしていく。碧の体調を気遣い、風呂に入れてくれたり食事を寝台まで運んで一緒に食べてくれたりする。新婚さんや熱々の恋人のように扱うのは全て雨のためだ。

「巫女(アメフラシ)……だもんな」

 きっと、代々の巫女(アメフラシ)達もこんな風にもてなされていたのだろう。祭司達は、たった、二、三年だけだ。我慢して機嫌をとればいいと思っているのだ。

「雨……?」

 ポツポツと降り始めた雨に、陽王が怪訝な顔をする。

「雨が降ってるから、今日は抱かなくていいだろ」

 香が焚かれているから、抱かれる日だったはずだ。

「碧、雨が降っても抱くぞ」
「あんたは雨を降らすために抱いているはずだ。それならもういいだろ!」

 碧の美点だと言われて嬉しいと思った気持ちが、今はどんよりした雨模様だ。心と同化して遠くからゴロゴロと雷の気配もする。

「駄目だ」
「どうして!」

 碧は近づいてくる陽王を睨みつけた。

「そなたを抱きたくて馬鹿みたいに積み上げられた執務をこなしているのだ。それを無に帰すつもりはない」
「抱きたい?」
「そうだ。この小さな唇に啄み、柔らかな髪を指先に絡め、中に挿りたい」

 王様のような顔をしてそんな言葉を碧に囁く。

「い、いや……だ」

 慣れてきた身体は簡単に燃え上がる。香が焚かれているせいだとは思うが、そっと口づけられて、腰を掴まれただけで吐息が漏れた。

「本当に嫌なら真剣に拒んでくれ」

 両腕を後ろにまわされて、抱き上げられた。

「嫌……だ」

 優しい愛撫も熱い視線も、ただ欲と義務なのだ。そう思うと雷が落ちた。
 雷をBGMにして交わるなんて、どうかしている。そう思うのに、身体は熱くなる。

「碧、碧!」

 打ち付けられる灼熱の棒は、もう痛みなどなく受け入れられるようになった。

「ひお……ぅ、そこ、駄目だっ」

 打ち付けられるだけでも駄目なのに、陽王は奥を突くタイミングで碧の胸を摘まむ。

「駄目なのは、胸か、それとも……」
「ああっ! ひっぅ……ア……」

 どっちも無理だ。気持ちが良すぎて頭の奥がジンッとしびれるような感覚がする。

「中が痙攣しているぞ」

 達っても陽王は加減などしてくれない。酷い男だと思う。こんなに酷いのに、どうして陽王の言葉で一喜一憂してしまうのだろう。

「ヒャッ! あぅ……ん……」

 ドクドクと精液が腹を満たす感覚に、碧は小さく悲鳴を上げた。陽王のものを一滴も逃すまいと身体が貪欲に搾り取ろうとするのも、満足げに碧を抱きしめる陽王の体温にも、碧は慣れたくないと目を瞑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。

柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。 そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。 すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。 「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」 そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。 魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。 甘々ハピエン。

童顔商人は聖騎士に見初められる

彩月野生
BL
美形騎士に捕まったお調子者の商人は誤って媚薬を飲んでしまい、騎士の巨根に翻弄される。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。

柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。 頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。 誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。 さくっと読める短編です。

処理中です...