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16 たこ焼き食べたかったな
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ぜいはぁ! やった! やったよ!
私は一年前に発売された乙女ゲーム『花咲き誇るフラワーガーデン物語』に嵌まった。その中でも特に推してるのは、炎の王太子アルフォンスと宰相の義理の息子、氷の貴公子サイラスだ。ヒロイン気分で何度も繰り返しゲームをやっていたけれど、ヒロインではなくこの二人のキャラクター同士の恋がみてみたくて、漫画を描き始めた。何を隠そう美術部だ。お絵描きは好きだけど漫画は描いたことがなかった。私が打ち明けると美術部の友人たちは『同人誌』というものを教えてくれた。
こんな世界があったとは――。
美術室にタブレットを持ち込んで描き方を教えてもらった。
16ページとはいえ、初心者には大変だった。まぁ、ゲームしながら一生懸命まねてたからね。満足できた。
硬く凍てついた氷が少しずつ溶けていくように、サイラスはアルフォンスの前に崩れ落ちた。
『私を捨てていけ――』
自嘲気味に笑みを浮かべたサイラスに、アルフォンスは無言で熱い口づけを与えた。
驚くサイラスに、威厳も何もかもを捨ててアルフォンスは乞う。
『お前のいない世界などくそくらえだ!』
アルフォンスらしくない言葉に意表を突かれたサイラスは笑いながら頬を伝う涙を袖で拭いた。
『なら、共に行こう』
二人は手を繋いで魔王に向かっていく。二人でなら死をも怖くない――。
「16pでよく書けたよ!」
自分を褒めて褒めて褒めまくっていたら、兄が帰ってきた。昨日で受験は終わったのに授業に出るとか、真面目か。そう、兄の御堂怜一は真面目なのだ。
「お兄ちゃん、お帰りなさい! お腹空いた」
両親は仕事人間で、私は幼い時から兄に育ててもらったようなものだ。
「ただいま。漫画描いてたのか」
「終わったの! できあがったの! 嬉しい~! アルサイ本だよ。私の愛が詰まってるよ」
「できあがったんなら見せてくれよ」
「……お兄ちゃん、人には見せてはいけないものがあってね。お兄ちゃんがエロサイト覗いてても私は気にしないから、私のことも気にしないで」
少し遠い目をしてから、兄は私の頭を撫でた。これも子供の時からの癖だ。
「人様に迷惑はかけないこと。わかったか?」
「かけないよ!」
「ならいい。じゃあ、お祝いにたこ焼き買いにいこうか。昨日からソースが恋しくてな」
私のお祝いにかこつけて、自分が食べたいだけのようだ。
「お腹一杯食べるよ!」
「好きにしろ」
呆れたような兄と連れだって駅前のたこ焼きやさんに並んだ。
「ちょっと待ってね、すぐあっついのできるからね」
たこ焼き屋のおじさんがそう言ってクルクルと千枚通しを回す。
「おっちゃん、沢山欲しいから後ろの子供に先に入れてやって」
たこ焼きを大人買いする気だ。兄の本気に驚きつつ、少年を前に通してあげた。
「おお、それならジュースをおまけにつけてあげるよ。ちょっとまってな~」
たこ焼き屋のおっちゃんがバックヤードに消えた瞬間、車がタイヤを軋ませながら突っ込んできた。
「澪!」
兄は私と少年を庇うように抱きしめた。けれど車の勢いは収まらず、私達は皆死んでしまったのだ。
「たこ焼き……食べたかったな」
三人の誰の言葉かわからないけれど、気持ちは一緒だった。
私は一年前に発売された乙女ゲーム『花咲き誇るフラワーガーデン物語』に嵌まった。その中でも特に推してるのは、炎の王太子アルフォンスと宰相の義理の息子、氷の貴公子サイラスだ。ヒロイン気分で何度も繰り返しゲームをやっていたけれど、ヒロインではなくこの二人のキャラクター同士の恋がみてみたくて、漫画を描き始めた。何を隠そう美術部だ。お絵描きは好きだけど漫画は描いたことがなかった。私が打ち明けると美術部の友人たちは『同人誌』というものを教えてくれた。
こんな世界があったとは――。
美術室にタブレットを持ち込んで描き方を教えてもらった。
16ページとはいえ、初心者には大変だった。まぁ、ゲームしながら一生懸命まねてたからね。満足できた。
硬く凍てついた氷が少しずつ溶けていくように、サイラスはアルフォンスの前に崩れ落ちた。
『私を捨てていけ――』
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驚くサイラスに、威厳も何もかもを捨ててアルフォンスは乞う。
『お前のいない世界などくそくらえだ!』
アルフォンスらしくない言葉に意表を突かれたサイラスは笑いながら頬を伝う涙を袖で拭いた。
『なら、共に行こう』
二人は手を繋いで魔王に向かっていく。二人でなら死をも怖くない――。
「16pでよく書けたよ!」
自分を褒めて褒めて褒めまくっていたら、兄が帰ってきた。昨日で受験は終わったのに授業に出るとか、真面目か。そう、兄の御堂怜一は真面目なのだ。
「お兄ちゃん、お帰りなさい! お腹空いた」
両親は仕事人間で、私は幼い時から兄に育ててもらったようなものだ。
「ただいま。漫画描いてたのか」
「終わったの! できあがったの! 嬉しい~! アルサイ本だよ。私の愛が詰まってるよ」
「できあがったんなら見せてくれよ」
「……お兄ちゃん、人には見せてはいけないものがあってね。お兄ちゃんがエロサイト覗いてても私は気にしないから、私のことも気にしないで」
少し遠い目をしてから、兄は私の頭を撫でた。これも子供の時からの癖だ。
「人様に迷惑はかけないこと。わかったか?」
「かけないよ!」
「ならいい。じゃあ、お祝いにたこ焼き買いにいこうか。昨日からソースが恋しくてな」
私のお祝いにかこつけて、自分が食べたいだけのようだ。
「お腹一杯食べるよ!」
「好きにしろ」
呆れたような兄と連れだって駅前のたこ焼きやさんに並んだ。
「ちょっと待ってね、すぐあっついのできるからね」
たこ焼き屋のおじさんがそう言ってクルクルと千枚通しを回す。
「おっちゃん、沢山欲しいから後ろの子供に先に入れてやって」
たこ焼きを大人買いする気だ。兄の本気に驚きつつ、少年を前に通してあげた。
「おお、それならジュースをおまけにつけてあげるよ。ちょっとまってな~」
たこ焼き屋のおっちゃんがバックヤードに消えた瞬間、車がタイヤを軋ませながら突っ込んできた。
「澪!」
兄は私と少年を庇うように抱きしめた。けれど車の勢いは収まらず、私達は皆死んでしまったのだ。
「たこ焼き……食べたかったな」
三人の誰の言葉かわからないけれど、気持ちは一緒だった。
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