攻略対象に転生した俺が何故か溺愛されています

東院さち

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5 魔法使いライファー

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「サイラス、入学おめでとう。三位ですってね。鼻が高いわ」

 在校生であるプリメリアが声を掛けてくれて、式が終わっていたことに気付いた。

「リア、ありがとう」
「本当は朝に言いたかったのだけど、式の準備を手伝うのに早くでなければならなかったから」
 
 在校生は新入生を迎える準備を手伝っていたようだ。

「サイラス、先に教室に戻るよ」
「ライファー、待って。俺の姉のプリメリアだ。紹介したかったんだ」

 プリメリアはお辞儀をして、ライファーに手を差し出した。

「お初にお目にかかります。ライファーと申します」
「サイラスに聞いております。とても優秀な魔法使いなのですってね。今後も弟のことよろしくお願いしますね」

 手袋の上を少し開けて、儀礼としてライファーは口づける仕草をする。様になっていて意外だった。

「もったいないお言葉です」

 ライファーはプリメリアへの挨拶をそつなくこなした。

「サイラス、私にも紹介してくれないか」

 まさかのアルフォンスまで来てしまった。さっさと講堂を去るべきだったと後悔しても遅い。非常に注目を浴びている。

「ライファー、王太子殿下だ。生徒会長として挨拶していただろう」

 もちろんライファーはアルフォンスのことを知っている。魔塔主催の祭りにアルフォンスも出席しているからだ。けれど、二人は初対面の挨拶をする。

「殿下、ライファーは魔塔の魔法使いで、私の友人なのです」
「サイラス、学園で殿下はよせ。アルフォンスだ、ライファー。そなたの名前は聞いている。優秀らしいな」
「もったないお言葉です」

 ライファーは本人が言うとおり魔法特化のようだ。褒められたら『もったいないお言葉です』という返事しかレパートリーがないのかもしれない。

「アルフォンス様、生徒会長はまだお仕事があるでしょう? いかなくてもよろしいのですか?」
「サイラス、私達は婚約者だ。いつものように話せ」

 人前であってもいつものようにというのは、結構ハードルが高い。アルフォンスは無茶ばかり言う。
 ライファーと聞き耳を立てていたらしい周りの生徒がポカンと口を開けて俺を見る。目立ちたくないのに。けれどアルフォンスの機嫌を損なうのも面倒だ。あまり無茶は言わない人だけど、友人に距離を置かれることが好きではないらしい。

「アル、まだ本決まりではありません」
「サイラス、お前を生徒会に勧誘に来たのだ」

 話を逸らされた。もういい、どうせすぐに婚約のことはバレるはずだ。

「……俺は生徒会には入りません」

 誘われるだろうなとは思っていた。

「駄目だ。副会長として私を助けて欲しい」

 首席をとらなかったから逃げられると思っていたのに、うまくいかない。だが、乙女ゲームと同じような役職などお断りだ。

「……お、お妃教育が……あるとかないとか……あるかもしれないので。姉のプリメリアを生徒会にいれてください」

 確かゲームの中でプリメリアはお妃教育のために生徒会には入らなかった。そして、気がついたら学園での居場所がなくなっていたはずだ。プリメリアには友人を沢山作って、居場所を作ってほしい。だから、プリメリアを生徒会に推した。

「お妃教育――、か。確かにな。サイラスの負担が大きいか」

 ガッカリしていて悪いとは思うが、納得はしてくれたようだ。ということはやはりあるのか、お妃教育。男の俺に務まるのだろうか。

「サイラス、私……」
「リアにも負担だと思うけれど、俺の為に頑張って欲しい」

 プリメリアは気が強そうな顔をしているけれど、自分から声を掛けたりできないし、流されやすい。友人である俺が大事にしている姉だからアルフォンスも無碍にしないはずだし、何か役職がつけば自然と人との交流が増えるはずだ。

「わかったわ……。できるかどうかわからないけれど」

 プリメリアは生徒会副会長へ、新入生の首席であるエリックが書記として勧誘されていった。

「サイ、殿下……、じゃなくて生徒会長と婚約だって?」
「ライファー、色々あるんだよ」
「大変そうだな。もし、どうしても嫌ならオレが協力してやるから安心しろ」

 魔塔の優秀な魔法使いであるライファーが王太子のアルフォンスに楯突いては大事だ。

「ありがとう。でも大丈夫だ。俺が望んだことだ。アルはいいやつだから」

 例えプリメリアの替わりだとしても、アルフォンスじゃなければ俺も提案に乗ったりしなかっただろう。
 ヒロインがアルフォンスを選ばなければ、悪役令嬢とは言ってもそれほど酷い結末にはならないんだ。ライファールートだと魔法で攻撃されて意識を失い記憶喪失になるけれど命に別状はない。

「そっか、それならよかった……」
「どうしたんだソワソワして。トイレか? 場所がわからないならついて行ってやろうか?」

 元気がなくなったライファーが「気のせいだ」というので、ポケットに入れていたキャンディを一つ口に入れてやった。

「レモンて失恋の味だったか……?」
「失恋? キスの味とかじゃなかったか?」

 たしかそんな話を聞いたことがあるような気がする。前世だったかな。

「そっか、甘酸っぱいんだな」

 ライファーはその日帰る時間まで、気力のない目をして空を見ていた。 

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