5 / 50
5 魔法使いライファー
しおりを挟む
「サイラス、入学おめでとう。三位ですってね。鼻が高いわ」
在校生であるプリメリアが声を掛けてくれて、式が終わっていたことに気付いた。
「リア、ありがとう」
「本当は朝に言いたかったのだけど、式の準備を手伝うのに早くでなければならなかったから」
在校生は新入生を迎える準備を手伝っていたようだ。
「サイラス、先に教室に戻るよ」
「ライファー、待って。俺の姉のプリメリアだ。紹介したかったんだ」
プリメリアはお辞儀をして、ライファーに手を差し出した。
「お初にお目にかかります。ライファーと申します」
「サイラスに聞いております。とても優秀な魔法使いなのですってね。今後も弟のことよろしくお願いしますね」
手袋の上を少し開けて、儀礼としてライファーは口づける仕草をする。様になっていて意外だった。
「もったいないお言葉です」
ライファーはプリメリアへの挨拶をそつなくこなした。
「サイラス、私にも紹介してくれないか」
まさかのアルフォンスまで来てしまった。さっさと講堂を去るべきだったと後悔しても遅い。非常に注目を浴びている。
「ライファー、王太子殿下だ。生徒会長として挨拶していただろう」
もちろんライファーはアルフォンスのことを知っている。魔塔主催の祭りにアルフォンスも出席しているからだ。けれど、二人は初対面の挨拶をする。
「殿下、ライファーは魔塔の魔法使いで、私の友人なのです」
「サイラス、学園で殿下はよせ。アルフォンスだ、ライファー。そなたの名前は聞いている。優秀らしいな」
「もったないお言葉です」
ライファーは本人が言うとおり魔法特化のようだ。褒められたら『もったいないお言葉です』という返事しかレパートリーがないのかもしれない。
「アルフォンス様、生徒会長はまだお仕事があるでしょう? いかなくてもよろしいのですか?」
「サイラス、私達は婚約者だ。いつものように話せ」
人前であってもいつものようにというのは、結構ハードルが高い。アルフォンスは無茶ばかり言う。
ライファーと聞き耳を立てていたらしい周りの生徒がポカンと口を開けて俺を見る。目立ちたくないのに。けれどアルフォンスの機嫌を損なうのも面倒だ。あまり無茶は言わない人だけど、友人に距離を置かれることが好きではないらしい。
「アル、まだ本決まりではありません」
「サイラス、お前を生徒会に勧誘に来たのだ」
話を逸らされた。もういい、どうせすぐに婚約のことはバレるはずだ。
「……俺は生徒会には入りません」
誘われるだろうなとは思っていた。
「駄目だ。副会長として私を助けて欲しい」
首席をとらなかったから逃げられると思っていたのに、うまくいかない。だが、乙女ゲームと同じような役職などお断りだ。
「……お、お妃教育が……あるとかないとか……あるかもしれないので。姉のプリメリアを生徒会にいれてください」
確かゲームの中でプリメリアはお妃教育のために生徒会には入らなかった。そして、気がついたら学園での居場所がなくなっていたはずだ。プリメリアには友人を沢山作って、居場所を作ってほしい。だから、プリメリアを生徒会に推した。
「お妃教育――、か。確かにな。サイラスの負担が大きいか」
ガッカリしていて悪いとは思うが、納得はしてくれたようだ。ということはやはりあるのか、お妃教育。男の俺に務まるのだろうか。
「サイラス、私……」
「リアにも負担だと思うけれど、俺の為に頑張って欲しい」
プリメリアは気が強そうな顔をしているけれど、自分から声を掛けたりできないし、流されやすい。友人である俺が大事にしている姉だからアルフォンスも無碍にしないはずだし、何か役職がつけば自然と人との交流が増えるはずだ。
「わかったわ……。できるかどうかわからないけれど」
プリメリアは生徒会副会長へ、新入生の首席であるエリックが書記として勧誘されていった。
「サイ、殿下……、じゃなくて生徒会長と婚約だって?」
「ライファー、色々あるんだよ」
「大変そうだな。もし、どうしても嫌ならオレが協力してやるから安心しろ」
魔塔の優秀な魔法使いであるライファーが王太子のアルフォンスに楯突いては大事だ。
「ありがとう。でも大丈夫だ。俺が望んだことだ。アルはいいやつだから」
例えプリメリアの替わりだとしても、アルフォンスじゃなければ俺も提案に乗ったりしなかっただろう。
ヒロインがアルフォンスを選ばなければ、悪役令嬢とは言ってもそれほど酷い結末にはならないんだ。ライファールートだと魔法で攻撃されて意識を失い記憶喪失になるけれど命に別状はない。
「そっか、それならよかった……」
「どうしたんだソワソワして。トイレか? 場所がわからないならついて行ってやろうか?」
元気がなくなったライファーが「気のせいだ」というので、ポケットに入れていたキャンディを一つ口に入れてやった。
「レモンて失恋の味だったか……?」
「失恋? キスの味とかじゃなかったか?」
たしかそんな話を聞いたことがあるような気がする。前世だったかな。
「そっか、甘酸っぱいんだな」
ライファーはその日帰る時間まで、気力のない目をして空を見ていた。
在校生であるプリメリアが声を掛けてくれて、式が終わっていたことに気付いた。
「リア、ありがとう」
「本当は朝に言いたかったのだけど、式の準備を手伝うのに早くでなければならなかったから」
在校生は新入生を迎える準備を手伝っていたようだ。
「サイラス、先に教室に戻るよ」
「ライファー、待って。俺の姉のプリメリアだ。紹介したかったんだ」
プリメリアはお辞儀をして、ライファーに手を差し出した。
「お初にお目にかかります。ライファーと申します」
「サイラスに聞いております。とても優秀な魔法使いなのですってね。今後も弟のことよろしくお願いしますね」
手袋の上を少し開けて、儀礼としてライファーは口づける仕草をする。様になっていて意外だった。
「もったいないお言葉です」
ライファーはプリメリアへの挨拶をそつなくこなした。
「サイラス、私にも紹介してくれないか」
まさかのアルフォンスまで来てしまった。さっさと講堂を去るべきだったと後悔しても遅い。非常に注目を浴びている。
「ライファー、王太子殿下だ。生徒会長として挨拶していただろう」
もちろんライファーはアルフォンスのことを知っている。魔塔主催の祭りにアルフォンスも出席しているからだ。けれど、二人は初対面の挨拶をする。
「殿下、ライファーは魔塔の魔法使いで、私の友人なのです」
「サイラス、学園で殿下はよせ。アルフォンスだ、ライファー。そなたの名前は聞いている。優秀らしいな」
「もったないお言葉です」
ライファーは本人が言うとおり魔法特化のようだ。褒められたら『もったいないお言葉です』という返事しかレパートリーがないのかもしれない。
「アルフォンス様、生徒会長はまだお仕事があるでしょう? いかなくてもよろしいのですか?」
「サイラス、私達は婚約者だ。いつものように話せ」
人前であってもいつものようにというのは、結構ハードルが高い。アルフォンスは無茶ばかり言う。
ライファーと聞き耳を立てていたらしい周りの生徒がポカンと口を開けて俺を見る。目立ちたくないのに。けれどアルフォンスの機嫌を損なうのも面倒だ。あまり無茶は言わない人だけど、友人に距離を置かれることが好きではないらしい。
「アル、まだ本決まりではありません」
「サイラス、お前を生徒会に勧誘に来たのだ」
話を逸らされた。もういい、どうせすぐに婚約のことはバレるはずだ。
「……俺は生徒会には入りません」
誘われるだろうなとは思っていた。
「駄目だ。副会長として私を助けて欲しい」
首席をとらなかったから逃げられると思っていたのに、うまくいかない。だが、乙女ゲームと同じような役職などお断りだ。
「……お、お妃教育が……あるとかないとか……あるかもしれないので。姉のプリメリアを生徒会にいれてください」
確かゲームの中でプリメリアはお妃教育のために生徒会には入らなかった。そして、気がついたら学園での居場所がなくなっていたはずだ。プリメリアには友人を沢山作って、居場所を作ってほしい。だから、プリメリアを生徒会に推した。
「お妃教育――、か。確かにな。サイラスの負担が大きいか」
ガッカリしていて悪いとは思うが、納得はしてくれたようだ。ということはやはりあるのか、お妃教育。男の俺に務まるのだろうか。
「サイラス、私……」
「リアにも負担だと思うけれど、俺の為に頑張って欲しい」
プリメリアは気が強そうな顔をしているけれど、自分から声を掛けたりできないし、流されやすい。友人である俺が大事にしている姉だからアルフォンスも無碍にしないはずだし、何か役職がつけば自然と人との交流が増えるはずだ。
「わかったわ……。できるかどうかわからないけれど」
プリメリアは生徒会副会長へ、新入生の首席であるエリックが書記として勧誘されていった。
「サイ、殿下……、じゃなくて生徒会長と婚約だって?」
「ライファー、色々あるんだよ」
「大変そうだな。もし、どうしても嫌ならオレが協力してやるから安心しろ」
魔塔の優秀な魔法使いであるライファーが王太子のアルフォンスに楯突いては大事だ。
「ありがとう。でも大丈夫だ。俺が望んだことだ。アルはいいやつだから」
例えプリメリアの替わりだとしても、アルフォンスじゃなければ俺も提案に乗ったりしなかっただろう。
ヒロインがアルフォンスを選ばなければ、悪役令嬢とは言ってもそれほど酷い結末にはならないんだ。ライファールートだと魔法で攻撃されて意識を失い記憶喪失になるけれど命に別状はない。
「そっか、それならよかった……」
「どうしたんだソワソワして。トイレか? 場所がわからないならついて行ってやろうか?」
元気がなくなったライファーが「気のせいだ」というので、ポケットに入れていたキャンディを一つ口に入れてやった。
「レモンて失恋の味だったか……?」
「失恋? キスの味とかじゃなかったか?」
たしかそんな話を聞いたことがあるような気がする。前世だったかな。
「そっか、甘酸っぱいんだな」
ライファーはその日帰る時間まで、気力のない目をして空を見ていた。
152
お気に入りに追加
250
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない
Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。
かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。
後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。
群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って……
冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。
表紙は友人絵師kouma.作です♪
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる