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学園生活
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セラフィはしばらく体調を崩していた。魔術師には時折起こるものだとカリナに言われた。身体の成長に合わせて増えていく魔力の量が急激に増えてバランスがとれなくなると、眠くなったり、怒りっぽくなったり、食欲が増したりと人やその時によって症状が違うものの不調になるらしい。セラフィはとにかく眠かった。食事をしていてもお風呂に入っていても眠ってしまうので、しばらくカリナが世話を焼いてくれた。微熱がつづいていたけれど、ほとんど眠ってたせいでそれはあまり気にならなかった。
「ごめんなさい、カリナ先生」
「セラフィ様、あ、いいえセラフィ。気にしなくていいの。本来兄や姉弟子が面倒をみるものなのよ、私達は姉弟弟子でしょ」
魔術学園に入学する時点で、セラフィは王族籍を抜けた。正式にはイーディア公爵と名乗ることになっているが、学園では身分はないものとして扱われるので敬称はつけないと言われている。
「でもカリナ先生は僕の師匠なのに」
カリナは頭を振った。
「本来師匠は一人だけ。あなたの師匠はエドアルド師匠だけよ。便宜上先生とか師匠とか呼んでもらっていたけど、ここではカリナ先生か、カリナ姉様ね」
笑いながら、カリナはセラフィの額に手を置いた。
「熱も下がってきたから、もう少しね。入学式に間に合わなかったけれど、あなたは三年生程度の基本魔術は学んでいるから気にしなくていいわ。人と慣れる練習を重視して一年生から始めてもらったけれど」
「せっかく離宮から出られたのに、ひと月も部屋の景色しか見られないなんて思ってなかったよ」
カリナも新学期から先生として忙しいのに、セラフィの面倒を見る羽目になって本当に申し訳なかった。
「ふふっ、そうね。二人でいたら離宮の中にいるのと変わらないわね」
無理をする様子もなく、カリナは楽しそうだ。
「本当だね」
そう言いながらセラフィは、もう一人を思い出していた。離宮で必ずセラフィの側にいた大事な人のことを。
「来週から教室に通うことになるから、しっかり体力をつけましょうね」
いつもより多めに盛られた食事にうんざりしながら、セラフィは頷いた。
食事の改善を求める! そう言いたいのを我慢する。食事をする時だけ離宮が恋しくなるセラフィだった。
「セラフィだ。今日から君たちの仲間になる。来てすぐに魔力成長による体調の悪さもあってひと月ほど皆から遅れてしまったが、仲良くするように」
そっと肩を押されて首を傾げると、「自己紹介して」と言われた。
「セラフィです。風の魔術を使います」
そう言うと、「なんだ風か、大したことねぇ」「結構可愛いのに風か」「仲間っていうか別じゃないの」と聞こえた。
「こら! 風とか水とか関係ないぞ」
若い先生がそう言うと、静かになったもののセラフィに向けられる視線は好意的なものではなかった。
セラフィはため息を隠さなかった。子供らしい素直な感情を吐き出している人をみるとどうしても自分と比べてしまう。人のために感情を抑制することが本当に大事な人や自分のためになるのかとひと月の間考えていたせいもある。
「何ため息ついてやがる!」
睨みつけられても、怒鳴られてもセラフィには怖い、哀しいという気持ちが沸いてこなかった。なんて自由なんだろう、人の目を気にせずに生きるということは。
「こらこら、ランス! いい加減にしないと反省室行きだぞ」
シンと、静かになったところを見ると、反省室というのはよほど行きたくないところなのだなと興味を引かれた。
「先生、僕の席はどこですか?」
「ああ、後ろになるが構わないかい?」
「はい、ありがとうございます」
「マリカ、本を見せてあげて」
机を二つくっつけてマリカという少女が「よろしく」と言った。返事を返すと、にこりと微笑まれた。風の魔術師だ。水しかいないということはないようでセラフィは安心した。窓際、木漏れ日がはいって気持ちのいい席だった。セラフィは、マリカの見せてくれる本をチラリと見て落胆した。三年生までは勉強済みだとカリナが言っていたことを思い出す。既に舐めるように読み込んだ本は、すっかり暗記してしまっていた。それでもここで眠ってしまうとカリナやエドアルドに迷惑がかかるとわかっていたので、時折本を眺めて授業に参加している振りをした。
何しに来たんだろう、こんなところまで――。
セラフィは窓の外を眺めて、アレクシスの瞳を思い出す。王都は遠いけれど、空は繋がっている。
「セラフィ! お前、風のくせに生意気だぞ!」
暇な授業が終わり、先生がいなくなると朝ブツブツと言っていた男子がセラフィの机の前に集まった。身体の成長が遅い家系のせいか、同い年の男子は皆セラフィより大きかった。五人に囲まれると圧にうんざりしてしまう。そのうちのひとり、一番偉そうな男子はたしかランスと呼ばれていた。
「やめなさいよ、セラフィは病み上がりなのよ」
マリカは声を震わせながらもセラフィを庇おうと横から声を上げた。
「勉強もできねぇし魔術もしょぼい風のくせに俺たちに意見する気か、マリカ」
「仲良くするように先生も言ったじゃない!」
「仲良く? 卒業したら俺たちは魔術師団か魔術研究所に就職するけど、お前みたいなできそこないは田舎にいって、呪い師にでもなるんだ。俺たちは同じじゃない」
呪い師は魔術学園を卒業していない魔術師の総称だと聞いたことがあった。つまりマリカは卒業できないと言われているのだ。
入学したばかりで何を言ってるんだかと、セラフィはため息を吐いた。
「馬鹿か? 魔術師団や研究所に入りたいなら、苛めじゃなく勉強しろ」
呆れたように忠告すると火に油を注いでしまったのかランスが乱暴に手を伸ばしてくる。触れる前にセラフィは立ち上がって避けた。
「あっ!」
バランスを崩したランスが机で顔を打って鼻血を出すと、周囲がいきり立つ。
恐ろしくどんくさいやつだとセラフィは驚いた。
「こいつ!」
「駄目! セラフィ逃げて」
鼻血を出したランスが魔力を集め始めたことにセラフィも気づいた。けれど、人に魔術を使ってはいけないと言われていたセラフィは他の学生が簡単に約束を破るなんて思っていなかった。
「水の玉よ。セラフィを覆え!」
ランスの声は明確に攻撃を命じた。
セラフィを守ろうとしたマリカの顔の周りに水球が現れて、彼女の顔を包み込んだ。まだ練度も低い魔術はセラフィでなくマリカを襲ってしまったようだ。
ギュッと顔を顰めて息を止めるマリカの様子に、攻撃されたのが初めてでないようだと気がついた。水が顔を覆えば、息ができなくなるから恐慌状態になってもおかしくない。それがなくて、息を止めていたからだ。
セラフィは、マリカの周囲を薄い風の膜で覆った。これで水が彼女の中に入ることを防げるはずだ。
「あっ! 息できる! なんで?」
涙なのか鼻水か水かわからないけれど顔をグチャグチャにしたマリカの声を聞いた瞬間、セラフィはその魔術を使っているランスの鳩尾に拳を叩き込んだ。
魔力と共に水は飛び散り、膝をついたランスは驚きと痛みに目を瞠る。反撃されると思っていなかったのだろう。
「こいつ!」
魔力を集めようとした二人を軽く蹴り飛ばして、セラフィはマリカにハンカチを手渡した。
残った二人が逃げようとしたので、セラフィは扉に風の障壁をかけた。見えない壁が現れたのに気づかなかった二人は、勢いよくぶつかって尻餅をついた。
「セラフィ!」
敵対していた男子達の顔色は悪く、恐ろしいものを前にしたようにガタガタと震えている。
「人に攻撃するときは、反撃されることを想定しないと……。相手を知らない時は、慎重に」
カリナに散々言われている言葉だった。
「詠唱してないのに!」
セラフィは首を傾げる。
「詠唱なんて必要ないだろう」
魔力を使うときは的確にイメージしなければ術が完成しないので、魔術を習い始めた初期は言葉にすると良いと本に書いていたけれど、セラフィはもう何年も魔術を習っているので今更言葉にする必要がなかった。
「なんで魔術師なのに腕っぷしまで強いんだよ!」
「魔術が痛みでいくらでも無効化できることくらい子供でも知っているだろう?」
敵に魔術で対応するより余程楽で効率的だから、エドアルドからの指示で体術や剣術、弓矢を習得するように命じられている。アレクシスが自分の時間を削ってまでセラフィに教えてくれたことだ。カリナも細い身体なのにセラフィより強かった。
「なんで……風の魔術師なのに――」
エドアルドが手伝って欲しいと言っていた一つが魔術師の意識改革だった。水の魔術師ばかりいるこの国は、他の魔術師が育たない、迫害されることが多いという。魔術学園でさえ、そうなのだから魔術師団も魔術研究所も想像に難くない。
「風の魔術が劣っているという認識は間違いなのよ。ただ単に水の魔術師が多いから上級魔術師になれる人が多いだけ。それなのに。……人に魔術を向けることは授業以外では禁止されているとわかっているわね」
いつの間に来たのか、カリナが立っていた。慌てて走ってきたからか息が荒い。
「それを言うならセラフィだって!」
「僕は、風の障壁を扉にかけただけだ。人には拳と蹴りしか使っていないよ」
「それはへりくつだ!」
「へりくつでも間違ってないのよ。大体、反撃されるなんてわかっているでしょうに。情けないわね」
教師としてはどうかと思うカリナの言葉に、マリカが笑う。
「マリカ、怖かったでしょう。大丈夫?」
「セラフィが助けてくれたから大丈夫です」
カリナはキビキビとセラフィを攻撃しようとしたランス達を引き連れて教室を出ていった。
「ケイトリン、あなたがカリナ先生を呼んでくれたんでしょう? ありがとう」
前の方の席に座っていた女子がにこりと笑う。
「だって、うっとおしかったんですもの。水だから凄い、水だから偉いって。いっつも」
ケイトリンからは火の魔力を感じた。セラフィは肩身の狭い思いをしていた二人と友達になった。
「反省室ってそんなに怖いところなの?」
「食事を二食抜かれて、ずっと本を読まされるの」
尋ねたセラフィは、首を傾げた。
「それだけ?」
セラフィにとっては大して苦痛ではないことが、年頃の男子にとってはとてつもなく辛いことらしい。
人それぞれ……とセラフィは人間関係の難しさを改めて感じたのだった。
「ごめんなさい、カリナ先生」
「セラフィ様、あ、いいえセラフィ。気にしなくていいの。本来兄や姉弟子が面倒をみるものなのよ、私達は姉弟弟子でしょ」
魔術学園に入学する時点で、セラフィは王族籍を抜けた。正式にはイーディア公爵と名乗ることになっているが、学園では身分はないものとして扱われるので敬称はつけないと言われている。
「でもカリナ先生は僕の師匠なのに」
カリナは頭を振った。
「本来師匠は一人だけ。あなたの師匠はエドアルド師匠だけよ。便宜上先生とか師匠とか呼んでもらっていたけど、ここではカリナ先生か、カリナ姉様ね」
笑いながら、カリナはセラフィの額に手を置いた。
「熱も下がってきたから、もう少しね。入学式に間に合わなかったけれど、あなたは三年生程度の基本魔術は学んでいるから気にしなくていいわ。人と慣れる練習を重視して一年生から始めてもらったけれど」
「せっかく離宮から出られたのに、ひと月も部屋の景色しか見られないなんて思ってなかったよ」
カリナも新学期から先生として忙しいのに、セラフィの面倒を見る羽目になって本当に申し訳なかった。
「ふふっ、そうね。二人でいたら離宮の中にいるのと変わらないわね」
無理をする様子もなく、カリナは楽しそうだ。
「本当だね」
そう言いながらセラフィは、もう一人を思い出していた。離宮で必ずセラフィの側にいた大事な人のことを。
「来週から教室に通うことになるから、しっかり体力をつけましょうね」
いつもより多めに盛られた食事にうんざりしながら、セラフィは頷いた。
食事の改善を求める! そう言いたいのを我慢する。食事をする時だけ離宮が恋しくなるセラフィだった。
「セラフィだ。今日から君たちの仲間になる。来てすぐに魔力成長による体調の悪さもあってひと月ほど皆から遅れてしまったが、仲良くするように」
そっと肩を押されて首を傾げると、「自己紹介して」と言われた。
「セラフィです。風の魔術を使います」
そう言うと、「なんだ風か、大したことねぇ」「結構可愛いのに風か」「仲間っていうか別じゃないの」と聞こえた。
「こら! 風とか水とか関係ないぞ」
若い先生がそう言うと、静かになったもののセラフィに向けられる視線は好意的なものではなかった。
セラフィはため息を隠さなかった。子供らしい素直な感情を吐き出している人をみるとどうしても自分と比べてしまう。人のために感情を抑制することが本当に大事な人や自分のためになるのかとひと月の間考えていたせいもある。
「何ため息ついてやがる!」
睨みつけられても、怒鳴られてもセラフィには怖い、哀しいという気持ちが沸いてこなかった。なんて自由なんだろう、人の目を気にせずに生きるということは。
「こらこら、ランス! いい加減にしないと反省室行きだぞ」
シンと、静かになったところを見ると、反省室というのはよほど行きたくないところなのだなと興味を引かれた。
「先生、僕の席はどこですか?」
「ああ、後ろになるが構わないかい?」
「はい、ありがとうございます」
「マリカ、本を見せてあげて」
机を二つくっつけてマリカという少女が「よろしく」と言った。返事を返すと、にこりと微笑まれた。風の魔術師だ。水しかいないということはないようでセラフィは安心した。窓際、木漏れ日がはいって気持ちのいい席だった。セラフィは、マリカの見せてくれる本をチラリと見て落胆した。三年生までは勉強済みだとカリナが言っていたことを思い出す。既に舐めるように読み込んだ本は、すっかり暗記してしまっていた。それでもここで眠ってしまうとカリナやエドアルドに迷惑がかかるとわかっていたので、時折本を眺めて授業に参加している振りをした。
何しに来たんだろう、こんなところまで――。
セラフィは窓の外を眺めて、アレクシスの瞳を思い出す。王都は遠いけれど、空は繋がっている。
「セラフィ! お前、風のくせに生意気だぞ!」
暇な授業が終わり、先生がいなくなると朝ブツブツと言っていた男子がセラフィの机の前に集まった。身体の成長が遅い家系のせいか、同い年の男子は皆セラフィより大きかった。五人に囲まれると圧にうんざりしてしまう。そのうちのひとり、一番偉そうな男子はたしかランスと呼ばれていた。
「やめなさいよ、セラフィは病み上がりなのよ」
マリカは声を震わせながらもセラフィを庇おうと横から声を上げた。
「勉強もできねぇし魔術もしょぼい風のくせに俺たちに意見する気か、マリカ」
「仲良くするように先生も言ったじゃない!」
「仲良く? 卒業したら俺たちは魔術師団か魔術研究所に就職するけど、お前みたいなできそこないは田舎にいって、呪い師にでもなるんだ。俺たちは同じじゃない」
呪い師は魔術学園を卒業していない魔術師の総称だと聞いたことがあった。つまりマリカは卒業できないと言われているのだ。
入学したばかりで何を言ってるんだかと、セラフィはため息を吐いた。
「馬鹿か? 魔術師団や研究所に入りたいなら、苛めじゃなく勉強しろ」
呆れたように忠告すると火に油を注いでしまったのかランスが乱暴に手を伸ばしてくる。触れる前にセラフィは立ち上がって避けた。
「あっ!」
バランスを崩したランスが机で顔を打って鼻血を出すと、周囲がいきり立つ。
恐ろしくどんくさいやつだとセラフィは驚いた。
「こいつ!」
「駄目! セラフィ逃げて」
鼻血を出したランスが魔力を集め始めたことにセラフィも気づいた。けれど、人に魔術を使ってはいけないと言われていたセラフィは他の学生が簡単に約束を破るなんて思っていなかった。
「水の玉よ。セラフィを覆え!」
ランスの声は明確に攻撃を命じた。
セラフィを守ろうとしたマリカの顔の周りに水球が現れて、彼女の顔を包み込んだ。まだ練度も低い魔術はセラフィでなくマリカを襲ってしまったようだ。
ギュッと顔を顰めて息を止めるマリカの様子に、攻撃されたのが初めてでないようだと気がついた。水が顔を覆えば、息ができなくなるから恐慌状態になってもおかしくない。それがなくて、息を止めていたからだ。
セラフィは、マリカの周囲を薄い風の膜で覆った。これで水が彼女の中に入ることを防げるはずだ。
「あっ! 息できる! なんで?」
涙なのか鼻水か水かわからないけれど顔をグチャグチャにしたマリカの声を聞いた瞬間、セラフィはその魔術を使っているランスの鳩尾に拳を叩き込んだ。
魔力と共に水は飛び散り、膝をついたランスは驚きと痛みに目を瞠る。反撃されると思っていなかったのだろう。
「こいつ!」
魔力を集めようとした二人を軽く蹴り飛ばして、セラフィはマリカにハンカチを手渡した。
残った二人が逃げようとしたので、セラフィは扉に風の障壁をかけた。見えない壁が現れたのに気づかなかった二人は、勢いよくぶつかって尻餅をついた。
「セラフィ!」
敵対していた男子達の顔色は悪く、恐ろしいものを前にしたようにガタガタと震えている。
「人に攻撃するときは、反撃されることを想定しないと……。相手を知らない時は、慎重に」
カリナに散々言われている言葉だった。
「詠唱してないのに!」
セラフィは首を傾げる。
「詠唱なんて必要ないだろう」
魔力を使うときは的確にイメージしなければ術が完成しないので、魔術を習い始めた初期は言葉にすると良いと本に書いていたけれど、セラフィはもう何年も魔術を習っているので今更言葉にする必要がなかった。
「なんで魔術師なのに腕っぷしまで強いんだよ!」
「魔術が痛みでいくらでも無効化できることくらい子供でも知っているだろう?」
敵に魔術で対応するより余程楽で効率的だから、エドアルドからの指示で体術や剣術、弓矢を習得するように命じられている。アレクシスが自分の時間を削ってまでセラフィに教えてくれたことだ。カリナも細い身体なのにセラフィより強かった。
「なんで……風の魔術師なのに――」
エドアルドが手伝って欲しいと言っていた一つが魔術師の意識改革だった。水の魔術師ばかりいるこの国は、他の魔術師が育たない、迫害されることが多いという。魔術学園でさえ、そうなのだから魔術師団も魔術研究所も想像に難くない。
「風の魔術が劣っているという認識は間違いなのよ。ただ単に水の魔術師が多いから上級魔術師になれる人が多いだけ。それなのに。……人に魔術を向けることは授業以外では禁止されているとわかっているわね」
いつの間に来たのか、カリナが立っていた。慌てて走ってきたからか息が荒い。
「それを言うならセラフィだって!」
「僕は、風の障壁を扉にかけただけだ。人には拳と蹴りしか使っていないよ」
「それはへりくつだ!」
「へりくつでも間違ってないのよ。大体、反撃されるなんてわかっているでしょうに。情けないわね」
教師としてはどうかと思うカリナの言葉に、マリカが笑う。
「マリカ、怖かったでしょう。大丈夫?」
「セラフィが助けてくれたから大丈夫です」
カリナはキビキビとセラフィを攻撃しようとしたランス達を引き連れて教室を出ていった。
「ケイトリン、あなたがカリナ先生を呼んでくれたんでしょう? ありがとう」
前の方の席に座っていた女子がにこりと笑う。
「だって、うっとおしかったんですもの。水だから凄い、水だから偉いって。いっつも」
ケイトリンからは火の魔力を感じた。セラフィは肩身の狭い思いをしていた二人と友達になった。
「反省室ってそんなに怖いところなの?」
「食事を二食抜かれて、ずっと本を読まされるの」
尋ねたセラフィは、首を傾げた。
「それだけ?」
セラフィにとっては大して苦痛ではないことが、年頃の男子にとってはとてつもなく辛いことらしい。
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