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初めては全部あなたがいい

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「おはようございます、セラフィ様」
「あれ? アレク……。もうお昼?」

 寝ぼけ眼をこすると、アレクシスが掌を額に置いた。

「まだ朝です。朝の訓練の前に寄ったら、夜に具合が悪くなって早くに眠ったと聞いて……、起こしてしまうけれど心配で――」
「こんな早くに訓練してるの?」

 よくよく時計を見れば、セラフィの起床時間の三時間も前だ。

「熱が下がっていて安心しました。もう一度眠ってください」
「うん、でも何か夢をみて……。痛い……」
「痛みが? 熱はないようですが、頭痛ですか?」

 頭痛じゃないけれど、こんな場所どうしてと、セラフィは上掛けをとった。

「腫れてる!」

 セラフィの股の間が膨れていて、痛みはそれだとわかった。寝るときは下履きをはかないから絹の上下のパジャマの下で腫れたペニスが見てわかった。

「え……、ああ!」

 納得したような声をだしたアレクシスにセラフィはどうしようと訴えた。

「病気かもしれない!」
「えっと、夢を見たんですか?」

 珍しく歯切れが悪いけれど、アレクシスは落ち着いていた。そんなに酷い病気じゃないのだと思って、セラフィは少しだけ安心した。

「うん、昨日アレクがキスしてたでしょ。あれを夢で見たんだ」
「昨日、見たんですか?」

 途端にうろたえたような顔をしたから、恋人のことは内緒にしておきたかったのかなと反省した。

「僕、ショックだった。アレクに恋人ができたら一番に教えてもらえるって勝手に思ってたから……」
「恋人じゃありません! 彼女は結婚して田舎に帰るそうです。ずっと情報を流してもらって……ではなくて、色々便宜を図ってもらっていたのでお礼をしようと思ったら、思い出にキスして欲しいといわれて……。見られてたなんて気づきませんでした」

 セラフィの視力は、カリナが驚くくらいなのだと言わなかった。何となく、のぞき見していたのが悪いことに思えたからだ。

「僕、夢の中であの子のかわりにアレクにキスされてた……」
「それで勃ったんですね。その、そこが腫れているのは病気ではないんです。セラフィ様の身体が、大人になってきた証拠です。そうなったら、出してあげないといけません」

 頭を撫で撫でされながら話を聞いた。

「何を出すの? おしっこ?」

 アレクシスは笑いながら、パジャマのズボンを下ろした。

「同じところからでますけどおしっこじゃないんです。触ってもいいですか? やり方を教えてさし上げますね。こういうのは同性の方がいいと思うので。嫌じゃないですか?」

 ドキドキするけれど、アレクシスになら任せていいとセラフィは頷いた。

「いい子です。ここをよしよししてあげるんですよ。自分の手で掴めますか? 全部私がやってもいいのですけど、こういうのは一人でするものなので」

 セラフィは小さな自分のペニスをそっと触った。

「なんだかいつもと違う」
「ここから子供を作るための子種がでてくるんです」
「子供ができちゃうの?」

 セラフィは驚いて手を離した。

「これを女の人の中に挿れて子種を撒くとできます。でもそのままにしていたら病気になるので出してあげないといけません」

 慌てて握ると、アレクシスがそれでいいというように頷いた。

「これでいい?」
「ええ、優しく上下に動かしてあげるんです」

 いつもより握りやすいけれど、上下に動かすのが難しい。

「滑りがいりますね。そうだ、夢を思い出してください」
「夢を? アレクはいつも夢を思い出すの?」
「夢というか……匂いを思い出したり……その、抱きしめた時の体温とか……」

 言い辛いことなのか、恥ずかしいのかどもるアレクシスの頬が赤くなっていた。

「体温? それならアレクが抱きしめてくれたら温かいと思う! そうだ、キスしたら夢と一緒だから……駄目かな?」

 いい案だと思ったのに、アレクシスは頭を振った。

「セラフィ様、キスは大事な人としなければいけません」
「でもさっき、侍女の子にはお礼でしたって言ってた……。本当は恋人なんでしょ? だから……」

 グイッと腕を引かれたと思ったら、セラフィは寝台の上でアレクシスに抱きしめられていた。

「違うって言ってるでしょう」

 いつもと違う硬い声に、セラフィは身体を竦めた。

「ごめんなさい……」
「私のキスなんて食事一回するのと変わらないけれど、あなたのキスはそんなものじゃない。大事にしてほしいんです」

 アレクシスは勝手だ。アレクシスのキスの価値はそんなものじゃない。きっとあの子も大事に思っていたからキスをねだったはずだ。アレクシスは自分のことをわかっていない。

「でも僕、アレクのこと大事だよ。アレクも僕のこと……大事にしてくれてるよね」
「私の命よりも大事です。キスは大人のキスですよ。我慢できますか?」

 キスに大人と子供があるのだと初めて知った。

「我慢じゃない、して欲しい」

 セラフィは目を閉じた。恥ずかしくてアレクシスの顔を見ていられなかったからだ。
 大きなため息が聞こえた。呆れられたと思ったけれど「少しお待ちください。騎士の服は硬いので、あなたの肌に傷がついてはいけませんから」と言って、アレクシスは一度離れた。
 目はそのまま閉じていた。剣を剣帯ごと抜いて、服の上着と一緒にサイドボードに掛けたような音がした。
 寝台が沈み、セラフィの身体は横を向いて抱き込まれた。アレクシスの身体は、セラフィが想像していたより硬かった。剣の稽古の後疲れておぶってもらったりしているときには気づかなかったけれど、大人の、男の身体なんだと改めて気づいた。

「すごい、ドキドキする」

 思わず口をついた感想に、アレクシスが「フフッ」と笑った。

「私もドキドキしてます。心臓が壊れてしまいそうです」

 そう言うから、アレクシスの胸に耳をつけて心臓の音を聞いてみた。セラフィと同じくらい、もしかしたらもっと速いリズムで鼓動が聞こえた。

「顔を上げて……」

 アレクシスは右腕で腕枕をしてくれて、左手が子猫を触るような柔らかいタッチで頬を撫でてくれた。
 まだ目を開けられなくて、閉じたまま上を向いた。

「ん……」

 プ二ッと押しつけられた唇が熱かった。
 キスだ、とくすぐったい気持ちでセラフィは笑った。家族以外とする初めてのキス。

「唇を開けて」

 力んでいた顎の力を抜くと、するりとアレクシスの舌が入り込んできた。

「あ……んぅ」

 気持ちいいのか悪いのかよくわからなかった。これが大人のキスなのだと思うと自分が一足飛びに成長したような気がした。
 アレクシスの舌は、セラフィの口の中を一杯にして、上顎から舌の奥まで入り込んできた。

「ん、んっ」

 セラフィは息ができなくて苦しくて、思わず風の力を集めてしまった。それに気づいたのかアレクシスが笑いながら口を離してくれた。

「は……あ……」

 大きく息をするのと同時に魔力が霧散した。

「離宮でも魔力を集められるようになってきましたね」

 そんなことを聞かれても初めてだからわからない。

「魔力が……」
「もう離宮では抑えられないかもしれません」

 ネグレスのような中級魔術師ならともかく、上級魔術師の資質のあるセラフィでは離宮は成人まで保たないだろうと言われてきた。それが明確になってしまった。

「いやだ、今はそんなことじゃなくて……」
「そうですね」

 セラフィの切ない訴えがアレクシスに届いた。

「ここ、痛い……」
「握って、上下に……」

 キスをしている間に水気が性器から溢れていた。それが潤滑剤となってセラフィは指を滑らかに動かすことができた。

「あ、あっ! や……アレク、キス」

 気持ちがいい。指の力をもっと入れたい。

「そんなに握らないで……。キスに集中して?」
「アッ、アッ! ああぅん……ん!」

 叫びそうになるのをアレクシスの唇が塞いでくれた。そうだ、あまり大きな声を出したら侍女が呼ばれたと勘違いして入ってくるかもしれない。

「ちゃんと達けましたね」

 よくできましたと髪の毛にアレクシスがご褒美のキスをしてくれた。誇らしいような恥ずかしいような不思議な気持ちで、セラフィはアレクシスの胸に顔を埋めた。
 掌に出したものはアレクシスが拭き取って綺麗にしてくれた。

「気持ちよかった……」

 目を開けると、アレクシスが真面目な顔をしていた。

「セラフィ様、これは秘め事です。家族にも師匠にも言わなくていいんです。これからは一人でできますね?」
「うん。……できるよ」

 本当は手伝って欲しい。ダンスの稽古のように、これもお願いしたらやってくれるものだと思っていた。アレクシスがわざわざ言うのだから、もう二度と大人のキスをすることも、彼の匂いに包まれながら達くこともないのだろう。
 セラフィはアレクシスを見送って、もう一度寝台に寝転がった。
 二日にわたるショックな出来事のせいか、セラフィはそれから三日間高熱がでて寝込んでしまった。
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