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城の温室に行きたい
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朝だけはフェリクスと一緒にご飯を食べることができる。早いときもあるけれど、それは前日に教えてもらえるので早く起きればいい。基本的に王城は昼からが本番のような雰囲気だ。前日が夜会だと特にその傾向は顕著なのだ。今は婚約者の姫がいらっしゃっているので特に歓迎の催し物が多いという。
「フェリクス様、おはようございます」
私はフェリクスよりも早くに寝ているせいもあって先に目覚めることが多い。できれば毎日そうであればいいと思っている。先に目が醒めれば、絶望的で圧倒的な寝相の悪さを見られなくてすむからだ。風邪をひかないようにとフェリクスは私をシーツで包み抱いて寝てくれているのだけど、今日は窓の下で目が醒めてしまった。寝台から窓までは遠い。どれだけ転がったのだろうか。
「おはよう、ミィ。キスは?」
おはようのキスをしてくれと言われているので、そっと頬にキスをした。少しだけ寝ぼけたような顔がフッと笑みをはく瞬間が私は好きだ。
昨日はいつ帰ってきていつ寝たのだろう? 目の下に隈ができている。婚約者の姫が来て嬉しいのはわかるけれど、あまり張り切りすぎたら過労で倒れたりしないのだろうかと心配になる。
「フェリクス様、たまには早く帰ってきて眠ってくださいね」
「ミィ、それは……誘っているの?」
髪を引っ張られてあっという間に寝台に寝転んでしまっていた。上から見下ろすフェリクスの目は、窺うように揺れている。
「い、いいえ……あの、身体の事が心配なのです」
はぁと大きなため息をついて、フェリクスは私の唇を舐めた。
「ありがとう。でもそこは誘ってくれていいんだよ?」
唇を割られて、フェリクスの舌が私の口の中に入ってくる。眠っていたからだろうか、彼の舌は熱かった。
「んぅ……っ。でもそんな時間……っ」
そう時間がないのだ。今日も彼は忙しい。それを曲がりなりにも私設秘書の私が追い打ちをかけてどうするのだ。
「ミィの可愛いお口は塞いでおこうか」
フェリクスは、クスクス笑って私にキスをした。
どうしよう、嬉しい。何日ぶりかの人肌はとても心地いい。婚約者がいる男性に対してそんなことを思ってはいけないと思っているのに。
「陛下! せっかく整えたミリアム様の髪を……」
寝室から戻ってこない私を心配してセリアが扉を開けて目を剥いた。
そう、私はもう髪までセットして、後は食事をとるだけだったのに、服は開けられているし髪は解けてしまっていた。
「フェリクス様……」
「ごめんねミィ。君を抱きしめて眠っていたらたまらなくなってしまったんだ。今日は早く戻ってくるから、夜は一緒に過ごそう」
寝台の上に胡座をかいて、困ったように笑うフェリクスに私は頷いた。
「早く……帰ってきてください」
それくらいは言ってもいいと思うのだ。例え愛人でも。
ここ何日間か執務室にフェリクスは来なかったから、余計に寂しかった。
そう、それだけ――。深い意味はない。
「え? 王城の温室に行きたい? 駄目駄目! 何を言ってるんだ」
先程までの甘い雰囲気はどこかへいってしまった。目に強い拒否を灯したフェリクスは、私のお願いを一刀両断で切ってしまった。
「あの……どうしても駄目ですか?」
「駄目に決まっている! 誰といくつもりなんだ!」
護衛騎士だけでいい。温室に何が生えているのか知りたいだけなのだから。
「今日でしたらセドリックとレオノラだと……」
「セドリックだと!」
いつもお上品に食べているフェリクスの口から白いものが飛んだ。玉子だろうか。
「レオノラも……」
「何をするつもりなんだ!」
反対に聞きたい。何をすると思っているのかと。
「リィモンの実もあると嬉しいんですけど……」
「それなら温室じゃなくて裏の果樹園だ。他には?」
「サルファは……」
「まだ花の季節ではないが庭に植えていたはずだ……。ミィ、本当に何をするつもりなんだ?」
「せっかく本に色々なことが書いているので試してみたいと思ったんです」
「……なるほど。温室には何の用だ?」
フェリクスはやっと人の話を聞くつもりになったらしい。鎮火してよかった。
「温室の花をみたいと思って……我が家の温室は薬草ばかりなので」
「……そういうことなら、しっかりと護衛と……本当は私が連れて行きたいくらいだが、セリアについてきてもらいなさい」
「でもセリアは忙しいのでしょう?」
「いや、大体のことは終わっている。セリア、ついて行ってもらえるか? 何かあったら大変だからな」
「温室なのに……」
危険などないはずだ。
「ミリアム様、温室は貴族が夜会のときにこっそりと秘密の逢瀬を楽しむ場所でもあるのですよ。気をつけてくださいね。邪な男に変な誤解をされては大変ですから」
邪な男、とフェリクスに視線を送りセリアは冷たく笑った。
邪な男、フェリクスは視線を逸らし、ゴホンと咳をした。
リィモンの実とサリファは手に入りそうで良かった。
「フェリクス様、おはようございます」
私はフェリクスよりも早くに寝ているせいもあって先に目覚めることが多い。できれば毎日そうであればいいと思っている。先に目が醒めれば、絶望的で圧倒的な寝相の悪さを見られなくてすむからだ。風邪をひかないようにとフェリクスは私をシーツで包み抱いて寝てくれているのだけど、今日は窓の下で目が醒めてしまった。寝台から窓までは遠い。どれだけ転がったのだろうか。
「おはよう、ミィ。キスは?」
おはようのキスをしてくれと言われているので、そっと頬にキスをした。少しだけ寝ぼけたような顔がフッと笑みをはく瞬間が私は好きだ。
昨日はいつ帰ってきていつ寝たのだろう? 目の下に隈ができている。婚約者の姫が来て嬉しいのはわかるけれど、あまり張り切りすぎたら過労で倒れたりしないのだろうかと心配になる。
「フェリクス様、たまには早く帰ってきて眠ってくださいね」
「ミィ、それは……誘っているの?」
髪を引っ張られてあっという間に寝台に寝転んでしまっていた。上から見下ろすフェリクスの目は、窺うように揺れている。
「い、いいえ……あの、身体の事が心配なのです」
はぁと大きなため息をついて、フェリクスは私の唇を舐めた。
「ありがとう。でもそこは誘ってくれていいんだよ?」
唇を割られて、フェリクスの舌が私の口の中に入ってくる。眠っていたからだろうか、彼の舌は熱かった。
「んぅ……っ。でもそんな時間……っ」
そう時間がないのだ。今日も彼は忙しい。それを曲がりなりにも私設秘書の私が追い打ちをかけてどうするのだ。
「ミィの可愛いお口は塞いでおこうか」
フェリクスは、クスクス笑って私にキスをした。
どうしよう、嬉しい。何日ぶりかの人肌はとても心地いい。婚約者がいる男性に対してそんなことを思ってはいけないと思っているのに。
「陛下! せっかく整えたミリアム様の髪を……」
寝室から戻ってこない私を心配してセリアが扉を開けて目を剥いた。
そう、私はもう髪までセットして、後は食事をとるだけだったのに、服は開けられているし髪は解けてしまっていた。
「フェリクス様……」
「ごめんねミィ。君を抱きしめて眠っていたらたまらなくなってしまったんだ。今日は早く戻ってくるから、夜は一緒に過ごそう」
寝台の上に胡座をかいて、困ったように笑うフェリクスに私は頷いた。
「早く……帰ってきてください」
それくらいは言ってもいいと思うのだ。例え愛人でも。
ここ何日間か執務室にフェリクスは来なかったから、余計に寂しかった。
そう、それだけ――。深い意味はない。
「え? 王城の温室に行きたい? 駄目駄目! 何を言ってるんだ」
先程までの甘い雰囲気はどこかへいってしまった。目に強い拒否を灯したフェリクスは、私のお願いを一刀両断で切ってしまった。
「あの……どうしても駄目ですか?」
「駄目に決まっている! 誰といくつもりなんだ!」
護衛騎士だけでいい。温室に何が生えているのか知りたいだけなのだから。
「今日でしたらセドリックとレオノラだと……」
「セドリックだと!」
いつもお上品に食べているフェリクスの口から白いものが飛んだ。玉子だろうか。
「レオノラも……」
「何をするつもりなんだ!」
反対に聞きたい。何をすると思っているのかと。
「リィモンの実もあると嬉しいんですけど……」
「それなら温室じゃなくて裏の果樹園だ。他には?」
「サルファは……」
「まだ花の季節ではないが庭に植えていたはずだ……。ミィ、本当に何をするつもりなんだ?」
「せっかく本に色々なことが書いているので試してみたいと思ったんです」
「……なるほど。温室には何の用だ?」
フェリクスはやっと人の話を聞くつもりになったらしい。鎮火してよかった。
「温室の花をみたいと思って……我が家の温室は薬草ばかりなので」
「……そういうことなら、しっかりと護衛と……本当は私が連れて行きたいくらいだが、セリアについてきてもらいなさい」
「でもセリアは忙しいのでしょう?」
「いや、大体のことは終わっている。セリア、ついて行ってもらえるか? 何かあったら大変だからな」
「温室なのに……」
危険などないはずだ。
「ミリアム様、温室は貴族が夜会のときにこっそりと秘密の逢瀬を楽しむ場所でもあるのですよ。気をつけてくださいね。邪な男に変な誤解をされては大変ですから」
邪な男、とフェリクスに視線を送りセリアは冷たく笑った。
邪な男、フェリクスは視線を逸らし、ゴホンと咳をした。
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