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まさか 4

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「ここだよ。ようこそアンリ」

 もう何回も来てるって――、と思いながら馬車から降りると……そこには異次元が広がっていました……。俺は思わずプロローグを始めそうになりながら仰け反った。

「ここっ」
「リスホード侯爵家。私の家だよ」

玄関の馬車つきにズラッと召し使いが並んでいる。そして一斉に「ようこそいらっしゃいました」と頭を下げられた。

「俺、ホテルに行くのかと思ってて――」

 クロードの膝の上が気持ちよくてついうたた寝してしまったのが失敗だった。侯爵家は王都の端に位置しているからちゃんと起きてたら気付いたはずなのに。

「家に招待するっていったでしょ。ここが私の育ったところだよ。ホテルの方が仕事場に近いからあっちで暮らしてるけど。家族に紹介しようと思ってね」

 そう言ってクロードは俺の手を引いた。

「紹介っ?」
「まぁ、ほとんど知ってると思うけどね」

 ハハッと軽やかに笑うクロードの歩きに合わせて玄関の扉が開かれた。

「はは……」

 から笑いが口から漏れた。
 会いたくない。そもそもどうして俺が、と顔を上げるとそこには十歳くらいの男の子と一緒にビアンカさんがドレス姿で立っていた。よかった、招待されてるのが俺だけじゃなくて。そう思ってホッとした。

「お母様! お兄様にこんなしょぼい男は似合いません!」

 しょぼい男が俺だってことは明白だが、誰だ。金の髪、緑の瞳……はクロードととてもよく似ている。お兄様が誰のことなのかすぐにわかった。

「アルフレッド。お兄様が選んだ人ですよ。そんな風に言ってはいけません。ごめんなさいね、アンリ」

 母親らしくたしなめながらビアンカさんが近寄ってきた。

「ビアンカさん?」

 もしかしてその子がクロードの弟なら……と気付く。

「聞いていないの? 家に連れてくるって張り切ってたから……。私のことは話をしたのだと思っていたわ」
「アンリ、ビアンカは私の父の恋人で……こっちが二人の子供のアルフレッドだ。可愛いだろう?」

 嬉しそうにアルフレッドはクロードの腰に抱きつき、抱っこしてほしいとねだる。それを「今日は駄目。私の手はアンリにを抱きしめるためにあけておかないと」と俺の腰を抱いた。
 凄い目で睨んでるんですけど。目力が凄い。

「俺はいいから弟を抱いてやれよ。それに ビアンカさんが侯爵閣下の恋人で……?」
「さっさと後妻に入ってくれるとありがたいんだが、仕事がしたいって――」

 アルフレッドはそう言った俺の言葉に満足したのか、俺を睨むのをやめた。
 仕事がしたい恋人ってビアンカさんだったのか――。

「お客様がお着きです」

 執事らしい男性が厳かに告げる。

「ほ……他にも?」
「楽しみにしてて」

 そう言われて楽しみだなって思えるほどおめでたくない。ビアンカさんが額を押してるのも気になる。

「お招きありがとうございます」
「ようこそ、ヒューゴ」

 もう俺はパニックをおこしてもいいと思う。先輩とレオナがなんで……というか、ここで俺は先輩を相手にするのか? ああ、訳がわからない。
 レオナはクロードを見つめている。少しの間でもクロードを見ていたいという気持ちが溢れているように見えた。物語のヒロインのような切なげな顔でクロードを見つめているのだ。

「アンリ、君も来てたんだね」

 先輩は場の微妙な空気を知ってか知らずか、なつっこい笑みをみせた。

「ヒューゴ、アンリに触るのは禁止だ」
「何を言ってるんですか。かわいい後輩なんですよ」
「アンリが可愛いのはわかっている。触れるな――」

 はぁとため息を吐いて、ヒューゴはレオナを押した。

「あなたは何のために私たちを招待してくれたんですか?」

 レオナは一言も喋っていない。クロードもヒューゴと俺の話をしながら一切レオナから視線を逸らさずにいるのに。

「アンリに紹介するためだ――」

 俺に? どうして。俺はレオナも先輩も知っているのに。

「なら、どうぞ」

 先輩は引いて、レオナの横に立った。

「アンリ、この子が……私の妹のレオナだ。そして、義弟のヒューゴだな……」

「「妹!」」

 一緒に驚いてくれるアルフレッドがいてくれてよかった。ビアンカさんは知っていたのだろう。顔に笑顔を貼り付けているが、物言いたいことを我慢してるときの顔だった。

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