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恋してる 5
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城は少し落ち着きを取り戻したように見えた。外から見える部分は。
「シン公使を引き渡すのですか?」
「そうなるだろうね。リン国と我が国で合同でことにあたっていたからね。こちらは我が国の情報を売っていたもの達を捕まえることが目的だった。違法な薬物の取り締まりも含めてね。薬物汚染というものは怖いものだ――。大事な人さえも売り渡すほどの中毒性があり、それによって沢山の人が被害にあっている」
「シン公使は何故そんなことをしたんでしょうね。王族の末端だと聞きましたが……」
「あの国は王族が多いからね。何代か前まで後宮があって、王の血筋は山のようにいるんだ。シン公使が実力でのし上がるまで随分苦労したんだろう。あまり裕福な家ではなかったようだから。それが人を弄んでいい理由にはならないが――」
チラッとクロードがこちらを見た。
「俺はもう大丈夫ですよ」
「アンリは……そうやってすぐに大丈夫だと言うけれど、そう見えないから私もビアンカも心配してるんだ」
「シン公使については大丈夫ですよ。本当に。クロード様が書き換えてくれたじゃないですか。ありがとうございます」
まだ職場だから言葉遣いは補佐官のまま、お礼を言った。
「アンリ!」
クロードは何故か、扉の鍵をかけた。
「クロード様?」
「アンリがそんな風に言ってくれるなんて思っていなかったから感激して――」
キスをしながら椅子に座っていた俺を立たせた。
「クロード様!」
「アンリが無事で本当によかった……。でないと私はシン公使も、アンリを売った財務の人間も……何より自分を許せなかったと思う」
切なげな声を耳の横で聞かされて、体温を感じれば身体が反応し始める。たった何回かで身体というものは変わるものなんだろうか。
「クロード様――」
「クロードって呼んで。もう今日の仕事は終わっただろう?」
唇が合わさって、舌が入り込んでくる。その舌を迎えて絡めると、さっき飲んだ珈琲の味がした。
「ん……んぅ――」
唇の端から流れる唾液を指ですくい取ったクロードの目が情欲にまみれている。
「クロード、あの……」
このまま抱かれてしまえという声が聞こえる。そして、一緒に寝ないって言ったのにって言う声も。それより大きな声は……、クロードを喜ばすためにリオナのことを言ってやれっていう声。どれも俺の声なんだよなと思いながら、クロードが外そうとしていたボタンの上を握った。
「どうしたの? やっぱり嫌だった?」
クロードも朝のやりとりは覚えていたようだ。残念そうな、おあずけされた犬のような顔に見えた。
「いや、先に教えてやろうと思って……。今週か来週の休日に俺とクロードで家に来ないかってヒューゴ先輩に誘われた――」
「え!」
それまでの色気をしたたらせていたクロードの目が、子供のように輝いた。
「そんなに……」
「アンリ、それってご招待? 私はリオナと会っていいの?」
そんなに嬉しいんだな。よかった。
元恋人を妻と会わせたいなんて思う旦那がいるだろうか。しかも……。
「リオナとクロードが……一緒の間、俺に相手をしてくれないかって。ははっ、恋してる間は相手にされなかったのにな、でも、俺が……と、虜にできたら……クロードは」
言いながら何をしてるんだと冷静な自分が問いかける。
でも俺がクロードのためにできることは、先輩を虜にして(できるとは思えないが……)リオナをクロードの元に走らせてやること……。結婚式で本当は連れて逃げるつもりだったクロードを引き留めたのは俺なんだから、それくらいしてやる。
覚悟を決めてクロードを見上げたら、もの凄い笑顔を湛えてこちらを見ていた。緑の瞳にあるのは喜びではなく、酷く冴えた月のような静寂だった。
「シン公使を引き渡すのですか?」
「そうなるだろうね。リン国と我が国で合同でことにあたっていたからね。こちらは我が国の情報を売っていたもの達を捕まえることが目的だった。違法な薬物の取り締まりも含めてね。薬物汚染というものは怖いものだ――。大事な人さえも売り渡すほどの中毒性があり、それによって沢山の人が被害にあっている」
「シン公使は何故そんなことをしたんでしょうね。王族の末端だと聞きましたが……」
「あの国は王族が多いからね。何代か前まで後宮があって、王の血筋は山のようにいるんだ。シン公使が実力でのし上がるまで随分苦労したんだろう。あまり裕福な家ではなかったようだから。それが人を弄んでいい理由にはならないが――」
チラッとクロードがこちらを見た。
「俺はもう大丈夫ですよ」
「アンリは……そうやってすぐに大丈夫だと言うけれど、そう見えないから私もビアンカも心配してるんだ」
「シン公使については大丈夫ですよ。本当に。クロード様が書き換えてくれたじゃないですか。ありがとうございます」
まだ職場だから言葉遣いは補佐官のまま、お礼を言った。
「アンリ!」
クロードは何故か、扉の鍵をかけた。
「クロード様?」
「アンリがそんな風に言ってくれるなんて思っていなかったから感激して――」
キスをしながら椅子に座っていた俺を立たせた。
「クロード様!」
「アンリが無事で本当によかった……。でないと私はシン公使も、アンリを売った財務の人間も……何より自分を許せなかったと思う」
切なげな声を耳の横で聞かされて、体温を感じれば身体が反応し始める。たった何回かで身体というものは変わるものなんだろうか。
「クロード様――」
「クロードって呼んで。もう今日の仕事は終わっただろう?」
唇が合わさって、舌が入り込んでくる。その舌を迎えて絡めると、さっき飲んだ珈琲の味がした。
「ん……んぅ――」
唇の端から流れる唾液を指ですくい取ったクロードの目が情欲にまみれている。
「クロード、あの……」
このまま抱かれてしまえという声が聞こえる。そして、一緒に寝ないって言ったのにって言う声も。それより大きな声は……、クロードを喜ばすためにリオナのことを言ってやれっていう声。どれも俺の声なんだよなと思いながら、クロードが外そうとしていたボタンの上を握った。
「どうしたの? やっぱり嫌だった?」
クロードも朝のやりとりは覚えていたようだ。残念そうな、おあずけされた犬のような顔に見えた。
「いや、先に教えてやろうと思って……。今週か来週の休日に俺とクロードで家に来ないかってヒューゴ先輩に誘われた――」
「え!」
それまでの色気をしたたらせていたクロードの目が、子供のように輝いた。
「そんなに……」
「アンリ、それってご招待? 私はリオナと会っていいの?」
そんなに嬉しいんだな。よかった。
元恋人を妻と会わせたいなんて思う旦那がいるだろうか。しかも……。
「リオナとクロードが……一緒の間、俺に相手をしてくれないかって。ははっ、恋してる間は相手にされなかったのにな、でも、俺が……と、虜にできたら……クロードは」
言いながら何をしてるんだと冷静な自分が問いかける。
でも俺がクロードのためにできることは、先輩を虜にして(できるとは思えないが……)リオナをクロードの元に走らせてやること……。結婚式で本当は連れて逃げるつもりだったクロードを引き留めたのは俺なんだから、それくらいしてやる。
覚悟を決めてクロードを見上げたら、もの凄い笑顔を湛えてこちらを見ていた。緑の瞳にあるのは喜びではなく、酷く冴えた月のような静寂だった。
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