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危機一髪 5

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 もどかしい……。キスされる度に身体から何かが溢れて溶け出しそうになる。

「んっあ……。もうっ」

 ホテルに入るとこんなおかしな格好だというのに部屋に通された。前回も前々回も通された部屋だった。
 そうだ、よな。最初は行きずりだったし、二回目は部下になった後だとはいえただのやるだけが目的で。今回は治療目的だ。別にホテルが嫌っていうわけじゃない。高級ホテルだし、食事は美味しい。
 ただ、何だかそういうことなんだなと思っただけで、嫌じゃない。

「変な感じだ。薬を使われて針を使われているのに、いつもの方が積極的だなんて――」
「うるさい、いつもは記憶ないんだから知らない」

 クスッと笑われて、腹が立つ。

「いつも……アンリは扇情的だったよ。初めての時も、気づかなかったくらいだ」

 身体はまだ自由にならないので寝台に転がった、まさに打ち上がった魚のような状態だ。扇情的とはほど遠いだろう。

「うるさい。女じゃあるまいし、最初を喜ぶなんてどうかしてる――」

 顔は動くからクロードの手を無視して顔を背けた。

「誰にも触らせたくないって思ったのは初めてだ――」

 俺の顔を戻し、クロードはペロッと俺の唇を舐めた。今まで抑えていた色気があふれ出したように感じた。
 期待したように腹の奥が疼く。

「そんなことっ」
「だから教えて――、何をされたの? とても素敵な格好だった。縄を打たれて、興奮した?」
「お前っ」
「羽ペンが落ちてたね――」

 カッと頭に血が上った。

「クロード!」
「全部教えて……。最初から全てを――。全部吐き出して……アンリの心を守るために――」

 そんなこと言えるわけない。

「歯をくいしばらないで……」
「いいからやれよ。さっさとやって終わりたい……」

 ギュッと抱きしめられて、泣き言を言った。

「アンリ……。このまま心の奥に秘めてはいけない。口に出すのもつらいかもしれないけれど……私を信じてほしい……。アンリがどんな格好でどんなことをされて、どうやって感じたか言って欲しい。私が全部書き換える」

 クロードの声に茶化す気配はなかった。
 言いたくないけれど、確かにあの記憶を一人で抱えていたくない。
 あれが、クロードだったら? 俺は悦しめたかもしれない。夢に見そうなほど恐ろしかった記憶をクロードが書き換える? そんなことできるんだろうか。
 疑心暗鬼に陥りながらも俺はクロードを信じたかったのか、ゆっくりと記憶を辿る」

「……お茶を飲んだんだ。その後で、身体が動かなくなって……服を脱がされた」

 クロードは俺の手を握り、「うん」と言った。
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