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出会い 3
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目が覚めると、誰もいない。カーテンが閉まっていてまっ暗な中、寝台も身体も綺麗にされて寝かされていた。
「そりゃそうだ」
一夜の相手が起きるのを待ってるなんてことあるわけがない。綺麗にしてくれただけマシだろう。
「帰ろう……。いや、ここのパンケーキは美味しいって言ってたな」
部屋に飾られた花の花瓶についてる紋章は、王都で貴族が使う高級ホテルのものだ。せっかくだから食べていこうと立とうとしてガクガクと震える脚に気づいた。
「うそ、マジで」
もう少しゆっくりしていこう。家に帰られるくらい復活するまで。
初めての情交は思いのほかハードだった。
「失恋に泣いて過ごすはずだったのに……ははっ」
乾いた笑いしかでなかった。初めて会った男とやってしまった。相手は誰かもわからないし、目覚めたらいない薄情な男だった。顔はいいけど。
「まぁいいや」
呼び鈴を鳴らしてホテルの人に頼んでパンケーキを運んでもらった。クリームと果実の沢山のったそれを胃がもたれる寸前まで食べて、馬車を呼んでもらった。
「メッセージカードをお忘れですよ」
ホテルの従業員が慌ててもってきてくれたけれど、断った。
「それ、ゴミです。捨ててください」
ニッコリと笑ってそう言うと、従業員は少し困ったように首を傾げてから頷いた。無理やり渡すわけにはいかないよな。
「酷いな、ゴミじゃない」
何故か馬車に乗りこんできたのはクロードだった。
「あんた!」
「挨拶に行ってくるから待ってて欲しいと書いてたんだが。読まなかったの?」
碌な事が書いてないだろうなと思ったから読まなかった。帰ってくるつもりだったのか、へぇ。
「挨拶?」
「久しぶりの故郷なんでね。昨日帰ってきたのがバレたあたりに色々と」
故郷を離れている間に彼女に振られたのか。それは自業自得というものだ。美形は三日で飽きるとか言うしな。
「パンケーキ美味しかったよ」
「そうか、良かった。一緒に食べたかった」
残念そうな顔をしているが、あまりパンケーキという顔ではない。シェフが厳選したフルコースを最高級のワインでいただきそうな男だ。
「ここでいい」
「ここで? 王宮まで送るよ。官舎に住んでいるんだろう?」
そんなことを話したのか、覚えてない。
「たまに家に顔を出せって言われているんだ」
王宮に近いのは金をもっている貴族の証。とはいえアンリの家はそれほど大きくないし、金もなかった。
「実家か、それは残念だ。付いていってもう一度と思っていたんだがな」
艶やかな微笑に似合わないほどの性欲。こんな男を彼氏にしていた女が先輩で物足りなくならないか心配になる。
「ばーか、もう一度はない。一度きりだ。俺のことは忘れろよ。俺も忘れる」
そう言って馬車を降りた。降りようとして、手を掴まれた。
「そうはいかない。次に会った時が楽しみだ。その身体、私を知って我慢できると思っているの?」
キスされた。まるで恋人が名残惜しむような甘くて腰が砕けそうになるキス。必死に足を踏ん張り口を拭いた。
人を淫乱みたいに言うな。お前なんか三日で忘れてやる。
「ばーか、ばーか、ばーか!」
酸素が足りなくなった頭は働かなくて、子供のように口汚く馬鹿を繰り返した。
「はははっ!」
やっぱり爽やかすぎる笑い声を響かせて、クロードは馬車へ戻っていった。
「もう二度と会いませんように!」
晴れた空に向かって、俺は祈った。
神様、いるのなら俺のことだけを好きになってくれる男でも女でもいいので出会わせてください。
「そりゃそうだ」
一夜の相手が起きるのを待ってるなんてことあるわけがない。綺麗にしてくれただけマシだろう。
「帰ろう……。いや、ここのパンケーキは美味しいって言ってたな」
部屋に飾られた花の花瓶についてる紋章は、王都で貴族が使う高級ホテルのものだ。せっかくだから食べていこうと立とうとしてガクガクと震える脚に気づいた。
「うそ、マジで」
もう少しゆっくりしていこう。家に帰られるくらい復活するまで。
初めての情交は思いのほかハードだった。
「失恋に泣いて過ごすはずだったのに……ははっ」
乾いた笑いしかでなかった。初めて会った男とやってしまった。相手は誰かもわからないし、目覚めたらいない薄情な男だった。顔はいいけど。
「まぁいいや」
呼び鈴を鳴らしてホテルの人に頼んでパンケーキを運んでもらった。クリームと果実の沢山のったそれを胃がもたれる寸前まで食べて、馬車を呼んでもらった。
「メッセージカードをお忘れですよ」
ホテルの従業員が慌ててもってきてくれたけれど、断った。
「それ、ゴミです。捨ててください」
ニッコリと笑ってそう言うと、従業員は少し困ったように首を傾げてから頷いた。無理やり渡すわけにはいかないよな。
「酷いな、ゴミじゃない」
何故か馬車に乗りこんできたのはクロードだった。
「あんた!」
「挨拶に行ってくるから待ってて欲しいと書いてたんだが。読まなかったの?」
碌な事が書いてないだろうなと思ったから読まなかった。帰ってくるつもりだったのか、へぇ。
「挨拶?」
「久しぶりの故郷なんでね。昨日帰ってきたのがバレたあたりに色々と」
故郷を離れている間に彼女に振られたのか。それは自業自得というものだ。美形は三日で飽きるとか言うしな。
「パンケーキ美味しかったよ」
「そうか、良かった。一緒に食べたかった」
残念そうな顔をしているが、あまりパンケーキという顔ではない。シェフが厳選したフルコースを最高級のワインでいただきそうな男だ。
「ここでいい」
「ここで? 王宮まで送るよ。官舎に住んでいるんだろう?」
そんなことを話したのか、覚えてない。
「たまに家に顔を出せって言われているんだ」
王宮に近いのは金をもっている貴族の証。とはいえアンリの家はそれほど大きくないし、金もなかった。
「実家か、それは残念だ。付いていってもう一度と思っていたんだがな」
艶やかな微笑に似合わないほどの性欲。こんな男を彼氏にしていた女が先輩で物足りなくならないか心配になる。
「ばーか、もう一度はない。一度きりだ。俺のことは忘れろよ。俺も忘れる」
そう言って馬車を降りた。降りようとして、手を掴まれた。
「そうはいかない。次に会った時が楽しみだ。その身体、私を知って我慢できると思っているの?」
キスされた。まるで恋人が名残惜しむような甘くて腰が砕けそうになるキス。必死に足を踏ん張り口を拭いた。
人を淫乱みたいに言うな。お前なんか三日で忘れてやる。
「ばーか、ばーか、ばーか!」
酸素が足りなくなった頭は働かなくて、子供のように口汚く馬鹿を繰り返した。
「はははっ!」
やっぱり爽やかすぎる笑い声を響かせて、クロードは馬車へ戻っていった。
「もう二度と会いませんように!」
晴れた空に向かって、俺は祈った。
神様、いるのなら俺のことだけを好きになってくれる男でも女でもいいので出会わせてください。
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