上 下
7 / 7

7.この異世界でわたくしは

しおりを挟む
 あの事件からもう一年も経っていた。取り巻く環境が目まぐるしく変化した一年だった。
 本日予定されていたメイテス殿下とわたくしの結婚式はつつがなく終わり。続いて婚姻のお披露目をするために、王宮のバルコニーへとやってきた。眼下の広場には民衆が詰めかけている。

「おめでとうございます!」
「メイテス殿下ー! 聖女様ー! 末永くお幸せにー!」

 口々に祝いの言葉が投げかけられた。
 多数の目撃者がいる中治癒能力を使ってしまったので。現在のわたくしは、王から“聖女”という特別な地位を与えられるまでになっていた。主に王族や貴族、そしてたまに一般市民の治療を行っている。……とりあえずおかしい奴めと即殺されなかったのはよかった。

 妹の状況について、殿下には包み隠さずご説明をしていた。彼は静かに耳を傾けてくださっていたが、話が終わると「わたしは、ラナとの婚約を反故にするつもりは微塵もない」とおっしゃった。
 本当は重責がのしかかる王族に、しかも未来の王の妃として嫁ぎたくはなかったのだけれど。あのまま殿下が亡くなれば一族郎党皆殺しになっていたかもしれないし、罪悪感も酷いしで。能力を使ってのこの結果はまあしようがないと一応の納得はしている。
 この座に就いてしまったからにはもう殿下に愛され続けるように努力して、嫌なしきたりに出会ったらその都度泣きついて変えてもらおう、という方針に転換していた。もちろん関係者と相談をした上で、だったが。
 殿下の人柄がお優しいこともあり。わたくしはここ異世界で。隣に立つこの御方を支えて生きていこうと思う。

「ラナ」

 わたくしの腰に手を回している殿下に、名を呼ばれた。

「はい、なんでございましょう?」

 振り向くと眼前に鮮やかな青い瞳が迫っている。わたくしたちの唇は数秒重なり合った。するとひときわ弾けるような歓声が耳に入る。
 しばらくして触れていたそれらはゆっくりと離れてゆく。照れくさくなり二人揃ってわずかに頬を赤くし、誤魔化すようにくすりと口元をほころばせるのだった。



 ルリーベラは、……妹は今日の式には参加しませんでした。
 メイテス殿下が昏睡から目覚めたのち、一通りの事情聴取が終わると。殿下の婚約者であるわたくしの肉親であり、妹自身も公爵の娘であることから。彼女には殿下への弁明の機会が与えられた。しかし、ルリーベラは。そのチャンスを上手く生かすことはできなかったようだった。

「なぜ、ラナを突き落とすような真似をした?」
「私のほうがっ、ラナ姉様と比ぶべくもないほどに可愛いからですわ! 私のほうが婚約者に相応しいと、そうお思いになりませんか?! メイテス殿下っ、目をお覚ましくださいませ!」
「はぁ……。姉であるラナへ、なにか謝罪はないのか?」
「わっ、私は悪くありませんわ! 勝手に殿下を盗っていったラナ姉様がいけないのです! どうかお考え直しくださいませ! 私のほうがっ、あなた様を愛しております!」
「――もう、いい。……連れていってくれ」

 そんな言葉を憧れの方と最後に交わし、大逆罪たいぎゃくざいとして妹は速やかに斬首された。



 空を見上げる。天候に恵まれた、雲一つない美しい青色。
 ルリーベラ。あなたにももし次があったなら。政略結婚などない穏やかな世界で、その頑固さまでもを愛してくれる人を、見つけられたらいいわね。
 しばしまぶたを閉じて、わたくしは亡き妹への祈りを捧げるのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

聖女は支配する!あら?どうして他の聖女の皆さんは気付かないのでしょうか?早く目を覚ましなさい!我々こそが支配者だと言う事に。

naturalsoft
恋愛
この短編は3部構成となっております。1話完結型です。 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★ オラクル聖王国の筆頭聖女であるシオンは疑問に思っていた。 癒やしを求めている民を後回しにして、たいした怪我や病気でもない貴族のみ癒やす仕事に。 そして、身体に負担が掛かる王国全体を覆う結界の維持に、当然だと言われて御礼すら言われない日々に。 「フフフッ、ある時気付いただけですわ♪」 ある時、白い紙にインクが滲むかの様に、黒く染まっていく聖女がそこにはいた。

【R15】婚約破棄イベントを無事終えたのに「婚約破棄はなかったことにしてくれ」と言われました

あんころもちです
恋愛
やり直しした人生で無事破滅フラグを回避し婚約破棄を終えた元悪役令嬢 しかし婚約破棄後、元婚約者が部屋を尋ねに来た。

聖水を作り続ける聖女 〜 婚約破棄しておきながら、今さら欲しいと言われても困ります!〜

手嶋ゆき
恋愛
 「ユリエ!! お前との婚約は破棄だ! 今すぐこの国から出て行け!」  バッド王太子殿下に突然婚約破棄されたユリエ。  さらにユリエの妹が、追い打ちをかける。  窮地に立たされるユリエだったが、彼女を救おうと抱きかかえる者がいた——。 ※一万文字以内の短編です。 ※小説家になろう様など他サイトにも投稿しています。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました

富士山のぼり
恋愛
何処にでもいる普通のOLである私は事故にあって異世界に転生した。 転生先は入り婿の駄目な父親と後妻である母とその娘にいびられている令嬢だった。 でも現代日本育ちの図太い神経で平然と生きていたらいつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。 別にそんな事望んでなかったんだけど……。 「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」 「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」 強気で物事にあまり動じない系女子の異世界転生話。 ※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。

処理中です...