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3.解放
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今日も今日とて、彼女は口にするだろう。
「――わたくしが聖女、代わりにして差しあげましょうか?」
馬鹿にしたように唇を歪めるモモ様。それに対しいつもの私なら「精進いたしますのでどうかお許しを」と頭を垂れるのだが。本日は違った。その言葉に呼応するように私の左中指にある継承の指輪が光り、あたりを照らす。
「え?」
「モモ様。お名前を……おっしゃってくださいませ。さあ」
素早く彼女の白く細い指に指輪をはめる。
「え? ……モモ、セイラード……」
溢れでた光は指輪へと収束する。継承の指輪はモモ様の指にていつもの輝きを取り戻していた。ふぅ、とため息を吐き、モモ様と視線を合わせる。
「――これで、次の聖女はモモ様になりました。私より上だという腕を存分に振るって、死者蘇生でもなんでも頑張ってください」
「は?」
「ちなみに継承の指輪は一人一回しかはめることができませんので、もう私には無理です。自信ももう、ありません……」
目を白黒させるモモ様――いえ、聖女様に最後に伝えるべく私は口を開いた。
「……これからは聖女としても、婚約者としても。キュハロス殿下のことをお支えしていってくださいね」
では地元へ帰らせてもらいます、と頭を下げ教会をあとにした。やはり王都は心細いし、私には聖女は荷が重すぎたのだ。これからは地元で、ただのいち治癒師として働こう。
私が聖女に選ばれていなかったら結婚する予定だった幼馴染。彼の婚約者がまだ決まっていなくてよかった! 「いつまででもフレイを待ってる」その言葉に応えられそうで、本当に……。さあ、故郷に帰りましょうか!
「――フレイになにをしたモモ! なぜ聖女が君に変わっている!!」
「えっっ……ごめんさいキュハロス……。でもわたくし、聖女に選ばれなかったことが悔しくて……。それで少し、意地悪を言ってしまっただけなのよ!?」
教会を訪れ、皆の前で怒鳴るキュハロスは「はぁ……」と重々しいため息を吐き出す。
「君が勉強したいというから許可したというのに……。言わせてもらうが君程度では絶対にフレイには敵わない」
「あっ待って! キュハロス……」
背を向けたキュハロスは歩き出したが、わたくしの呼びかけに足を止めた。
「ねえっ」
「……聖女に選ばれてしまったからには国に尽してくれ。聖女との婚約はもちろん白紙にする。――金輪際僕に親しげな口を利くことも禁ずる」
そう言うと彼は足音荒く部屋から出ていくのだった。
ガクッ。足の力が抜けてその場にくずおれる。
ああ……。キュハロス、待ってよ。どうしてこんなことに。わたくしがなにをしたっていうの? 全部全部あの女が悪いのに……。
近頃の王都で、いたるところから聞こえてくる言葉があった。
「前の聖女様は本当にお優しくて素晴らしかったのに、なんで変わってしまわれたのかね~」
「だな。今の聖女はいつもイライラしてるし治療が荒いし。モモ・セイラードは歴代で一番使えない聖女に違いないな!」
「――わたくしが聖女、代わりにして差しあげましょうか?」
馬鹿にしたように唇を歪めるモモ様。それに対しいつもの私なら「精進いたしますのでどうかお許しを」と頭を垂れるのだが。本日は違った。その言葉に呼応するように私の左中指にある継承の指輪が光り、あたりを照らす。
「え?」
「モモ様。お名前を……おっしゃってくださいませ。さあ」
素早く彼女の白く細い指に指輪をはめる。
「え? ……モモ、セイラード……」
溢れでた光は指輪へと収束する。継承の指輪はモモ様の指にていつもの輝きを取り戻していた。ふぅ、とため息を吐き、モモ様と視線を合わせる。
「――これで、次の聖女はモモ様になりました。私より上だという腕を存分に振るって、死者蘇生でもなんでも頑張ってください」
「は?」
「ちなみに継承の指輪は一人一回しかはめることができませんので、もう私には無理です。自信ももう、ありません……」
目を白黒させるモモ様――いえ、聖女様に最後に伝えるべく私は口を開いた。
「……これからは聖女としても、婚約者としても。キュハロス殿下のことをお支えしていってくださいね」
では地元へ帰らせてもらいます、と頭を下げ教会をあとにした。やはり王都は心細いし、私には聖女は荷が重すぎたのだ。これからは地元で、ただのいち治癒師として働こう。
私が聖女に選ばれていなかったら結婚する予定だった幼馴染。彼の婚約者がまだ決まっていなくてよかった! 「いつまででもフレイを待ってる」その言葉に応えられそうで、本当に……。さあ、故郷に帰りましょうか!
「――フレイになにをしたモモ! なぜ聖女が君に変わっている!!」
「えっっ……ごめんさいキュハロス……。でもわたくし、聖女に選ばれなかったことが悔しくて……。それで少し、意地悪を言ってしまっただけなのよ!?」
教会を訪れ、皆の前で怒鳴るキュハロスは「はぁ……」と重々しいため息を吐き出す。
「君が勉強したいというから許可したというのに……。言わせてもらうが君程度では絶対にフレイには敵わない」
「あっ待って! キュハロス……」
背を向けたキュハロスは歩き出したが、わたくしの呼びかけに足を止めた。
「ねえっ」
「……聖女に選ばれてしまったからには国に尽してくれ。聖女との婚約はもちろん白紙にする。――金輪際僕に親しげな口を利くことも禁ずる」
そう言うと彼は足音荒く部屋から出ていくのだった。
ガクッ。足の力が抜けてその場にくずおれる。
ああ……。キュハロス、待ってよ。どうしてこんなことに。わたくしがなにをしたっていうの? 全部全部あの女が悪いのに……。
近頃の王都で、いたるところから聞こえてくる言葉があった。
「前の聖女様は本当にお優しくて素晴らしかったのに、なんで変わってしまわれたのかね~」
「だな。今の聖女はいつもイライラしてるし治療が荒いし。モモ・セイラードは歴代で一番使えない聖女に違いないな!」
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