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前編

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「リッカ・ウィンターベル!貴様との婚約を破棄する!」
「あ、はい」
リッカがあっさりと承諾すると、思っていた反応とは違ったので殿下は困惑した。

それもそのはず。リッカは婚約者だった殿下に幼少期からぞっこんもぞっこんで、それ故に殿下に近寄る女を牽制し時には権力で蹴散らしていた。
殿下が気にかけている元平民の少女には取り巻きを使って苛めを行っていたのだから、その嫉妬深さと独占欲の強さは底知れない。
だからこそ、婚約破棄を突きつけられれば無様に泣き許しを乞い、縋りついてくるはずだ、と読んでいたのだが。

真っすぐに、翡翠の瞳が見つめる。
「あなたへの愛はとっくの昔に冷めておりますから、嫉妬のしようがありません」
殿下に浴びせられたのは、冷たい視線と言葉だった。

怯んだ殿下は思わず後ずさりかける。だがすんでのところで踏みとどまった。
彼には、守らねばならない人が居る。背が高いことを気にしており、平民であったがために学校でいびられ、いつも暗い表情で俯いている哀れな少女を。
そう決意し拳を握り締め、真向からリッカに対峙した。

「では何故スラーに手を出した!」
「私は何も。罪が明らかになることを恐れた方々が、私を元凶のように流布しているだけですわ」
証拠ならありますわよ、とリッカが告げると数人の令嬢が顔を青褪めさせた。彼女たちを逃がすはずもなく、いじめ主犯とその協力者の名前を読み上げ証拠を述べる。
「王家お抱えの鑑定士にも依頼しており、証拠の物品も既に確保されております。見苦しい抵抗はされないほうがよろしくてよ」
白銀の髪を翻し、氷のような眼差しが彼女たちに降り注いだ。忠告されたというのに脱兎のごとく逃げ出した令嬢はリッカの一言で衛兵に取り押さえられた。
その光景を見て、呆れたようにリッカは扇を開く。

「だから申し上げたのに……例え逃げ出したとしても、騎士団には顔が割れておりますので無駄ですが」
「そ、そんな……全てリッカ様の命令でしたことで!」
「私たちは権力に逆らえなくて」
「黙りなさい」
声をあげた令嬢は、蛙に睨まれた蛇のように竦みあがった。これ以上の口答えは無駄だと本能的に悟る。ここで素直に罪を認めるか、あくまで身の潔白を押し通すか。後者を選んだとしても、鑑定士を疑うということになり王家からの顰蹙を買ってしまう。
彼女たちは愚かだが、かろうじて阿呆ではなかった。私たちがやりました、許してくださいとリッカに泣きながら懇願する。蚊帳の外な殿下はなんか思っていた展開と違うと困惑しながらリッカの反応を伺った。
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