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後編:ここで除草剤を追加します
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扇で笑みを隠していると、呆然としていた殿下がふらふらとヒアの方へ歩き出しました。
「来ないでください、気持ち悪い」
ヒア、もう殿下の心は粉々ですわよ。
とどめと言わんばかりの一言で、殿下は崩れ落ちてしまいました。
あれ生きていらっしゃるのでしょうか。あら残念、まだ息はあるようです。
「わ、私は……騙されていたんだ……私は……悪くない……」
と思っていたら、ぶつぶつと自分を正当化し始めましたわね。
これにはヒア含め周囲全員がひいていますわ。あまりにも愚かな思考回路を持つ生物に対して理解が追いつかないのです。本当にわたくしたちと同じ人間かしら。
溜息をつきたいのを我慢しつつ、殿下が暴挙にでないか見守っていると、血走った目がこちらに向けられました。
あー、嫌な予感しかしませんわね。というか陛下から発言の許可が出ていないのですが。
「リン……聞いていただろう?全て私を騙した連中のせいなんだ。あまりにも大人数に言われるものだから正しいと思ってしまっていたが過ちだった。どうか許してくれないか?また私の婚約者に」
「その前に誠心誠意の謝罪が先やろがいこのすっとこどっこいがァ!!」
貴族の集まりに相応しくない荒々しい声をあげたのは、ヒア。
これまで身に着けてきた貴族としての振る舞いを全て投げ捨てて本気で怒っていますわね。……あそこまで怒り心頭なヒアは久しぶり見ましたわね。わたくしたちの乗っていた馬車が賊に襲われたとき以来でしてよ。
ヒアをなだめながら、陛下を見上げます。
「……陛下、発言してもよろしいでしょうか」
「ああ、許可する」
陛下の許しも得ましたことですし、私も元婚約者に言っておきましょうか。
「殿下。王族たるもの、周囲からの言葉の真偽を常に考えるべきですわ。多数が同じことを口にしているからといってそれが正しいとは限りません。
……というか、謝罪より先に責任転嫁をするあたり、殿下の『すっとこどっこい』ぶりがもう皆さんに知られ渡りましてよ。わたくし、そんな方と婚約だなんてお断りです。というか出会ったときから微塵もお慕い申し上げておりませんでした。さようなら」
殿下は糸の切れた人形のように、がっくりとうなだれました。少しは脳内のお花も枯れましたかね。
落ち込むということは彼の要望が叶う可能性があったと思っていたのでしょうか。ここまでくると恐怖を覚えますわ。
「リンちゃん、それだけでいいの……?わたし、まだまだ罵倒の在庫はあるけど」
「しまっておきなさい」
可愛い顔して狂犬なヒアを落ち着かせながら、さがります。
あとは陛下にお任せですわね。
さて、元婚約者は貴族社会から抹消されました。
散々騒ぎ立て愚かさが露呈し、陛下の言葉にも逆らいましたからね。
それに貴族や従者たちからこぞって「すっとこどっこい殿下」と陰口を叩かれるようになりましたから、居るだけ辛いでしょう。
数か月後、ヒアは故郷の幼馴染と挙式しましたわ。
もちろんわたくしも参列しましたとも。ヒアからの手紙にうっかり泣いてしまいましたが、そんな日があってもいいでしょう。
殿下……元殿下のこともあり、わたくしは恋愛や結婚に夢も期待も抱いておらず、家を継ぐつもりだったのですが。
花嫁からのブーケを運よく受け取ったので、何か出会いがあるかもしれませんわね。
それこそ、お互いに納得できる『真実の愛』に目覚めるような──
「来ないでください、気持ち悪い」
ヒア、もう殿下の心は粉々ですわよ。
とどめと言わんばかりの一言で、殿下は崩れ落ちてしまいました。
あれ生きていらっしゃるのでしょうか。あら残念、まだ息はあるようです。
「わ、私は……騙されていたんだ……私は……悪くない……」
と思っていたら、ぶつぶつと自分を正当化し始めましたわね。
これにはヒア含め周囲全員がひいていますわ。あまりにも愚かな思考回路を持つ生物に対して理解が追いつかないのです。本当にわたくしたちと同じ人間かしら。
溜息をつきたいのを我慢しつつ、殿下が暴挙にでないか見守っていると、血走った目がこちらに向けられました。
あー、嫌な予感しかしませんわね。というか陛下から発言の許可が出ていないのですが。
「リン……聞いていただろう?全て私を騙した連中のせいなんだ。あまりにも大人数に言われるものだから正しいと思ってしまっていたが過ちだった。どうか許してくれないか?また私の婚約者に」
「その前に誠心誠意の謝罪が先やろがいこのすっとこどっこいがァ!!」
貴族の集まりに相応しくない荒々しい声をあげたのは、ヒア。
これまで身に着けてきた貴族としての振る舞いを全て投げ捨てて本気で怒っていますわね。……あそこまで怒り心頭なヒアは久しぶり見ましたわね。わたくしたちの乗っていた馬車が賊に襲われたとき以来でしてよ。
ヒアをなだめながら、陛下を見上げます。
「……陛下、発言してもよろしいでしょうか」
「ああ、許可する」
陛下の許しも得ましたことですし、私も元婚約者に言っておきましょうか。
「殿下。王族たるもの、周囲からの言葉の真偽を常に考えるべきですわ。多数が同じことを口にしているからといってそれが正しいとは限りません。
……というか、謝罪より先に責任転嫁をするあたり、殿下の『すっとこどっこい』ぶりがもう皆さんに知られ渡りましてよ。わたくし、そんな方と婚約だなんてお断りです。というか出会ったときから微塵もお慕い申し上げておりませんでした。さようなら」
殿下は糸の切れた人形のように、がっくりとうなだれました。少しは脳内のお花も枯れましたかね。
落ち込むということは彼の要望が叶う可能性があったと思っていたのでしょうか。ここまでくると恐怖を覚えますわ。
「リンちゃん、それだけでいいの……?わたし、まだまだ罵倒の在庫はあるけど」
「しまっておきなさい」
可愛い顔して狂犬なヒアを落ち着かせながら、さがります。
あとは陛下にお任せですわね。
さて、元婚約者は貴族社会から抹消されました。
散々騒ぎ立て愚かさが露呈し、陛下の言葉にも逆らいましたからね。
それに貴族や従者たちからこぞって「すっとこどっこい殿下」と陰口を叩かれるようになりましたから、居るだけ辛いでしょう。
数か月後、ヒアは故郷の幼馴染と挙式しましたわ。
もちろんわたくしも参列しましたとも。ヒアからの手紙にうっかり泣いてしまいましたが、そんな日があってもいいでしょう。
殿下……元殿下のこともあり、わたくしは恋愛や結婚に夢も期待も抱いておらず、家を継ぐつもりだったのですが。
花嫁からのブーケを運よく受け取ったので、何か出会いがあるかもしれませんわね。
それこそ、お互いに納得できる『真実の愛』に目覚めるような──
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