1 / 2
前編
しおりを挟む
「ジェーン・ドゥ公爵令嬢!前に出ろ!」
祝いの席であるはずの卒業パーティーで、第二王子の怒鳴り声が響いた。
会場は水を打ったように一斉に静かになる。各々目を合わせて、困惑を表していた。
名を呼ばれたジェーン・ドゥ侯爵令嬢は第二王子の婚約者と言われている。あまり身分の高くない貴族でも知っている情報だ。
だが、この場で怒りを露わにした第二王子は、一体婚約者に何をするというのか。貴族たちの目に好奇心が宿る。
それに、第二王子の隣には元平民として名が知られている男爵令嬢が居た。恋人のように仲睦まじく、第二王子と手を繋いで。
おおよその状況を察した貴族たちは、さて今宵の酒に合う劇が見られるだろうかと胸を躍らせたのだった。
だが、第二王子が呼びかけてからしばらく経っても件のジェーン・ドゥ公爵令嬢は一向に名乗りを上げない。一体これはどうしたことか、と会場はざわめく。第二王子は苦い顔をしながら、「隠れてやり過ごすつもりか」と吐き捨てた。
「なら、いい。この場に居る皆に聞いていただこう!我が婚約者……と呼ぶのも悍ましい、ジェーン・ドゥの悪辣たる行為の数々を!」
高らかに宣言した第二王子は語る。
婚約者であるジェーン・ドゥが、第二王子と男爵令嬢の仲睦まじさに嫉妬し、男爵令嬢に対して醜い嫌がらせを行ったと。
男爵令嬢に対する嫌味や陰口、偶然を装ってぶつかる、持ち物を隠す或いは壊す。階段から突き落とす、などなど。
どうやら第二王子は、ジェーン・ドゥ公爵令嬢が後で証拠を隠滅しないよう数多の人間に証人となってもらうべく、この場で発表したらしい。
そして、ついには「ジェーン・ドゥ公爵令嬢との婚約を破棄する」とまで宣言し、周囲のざわめきは一層大きくなった。
「どうだ!ここまで言ってもまだ姿を見せないつもりか!今すぐに出て地面に平伏し謝罪すれば命だけは助けてやるぞ!」
まるで正義の英雄のように、第二王子は息巻く。その姿を男爵令嬢はうっとりと見つめていた。
悪事を並べられ、一方的な婚約破棄宣言。
屈辱の極みで、傍観者たる貴族たちはあの場の役者が自分でなくて良かったと心底安心する。
同時に、不思議に思うのだ。
何故ここまで言われて、ジェーン・ドゥ公爵令嬢は声を上げないのかと。
突然、会場の扉が開いた。
視線が一斉にそちらを向く。そこには国王陛下と王妃が居た。
慌てて礼をする貴族たちに目もくれず、陛下は真っすぐに第二王子のところへと向かった。
自分の行いが褒められると思ったのか、第二王子は「父上、母上」と笑みを浮かべる。
だが、陛下は厳めしい表情で第二王子と男爵令嬢を見やり、「話がある。ついてきなさい」とやや早口で言って二人を連れ出した。
王妃は「我が息子がお騒がせして申し訳ありません。どうぞ、パーティーの続きをお楽しみください」と全淑女の見本たる美しい微笑みを浮かべ、陛下たちの後を追ったのだった。
一体何だったのだろう、と頭上に疑問符を浮かべる貴族たちは、真相を知ることはない。
祝いの席であるはずの卒業パーティーで、第二王子の怒鳴り声が響いた。
会場は水を打ったように一斉に静かになる。各々目を合わせて、困惑を表していた。
名を呼ばれたジェーン・ドゥ侯爵令嬢は第二王子の婚約者と言われている。あまり身分の高くない貴族でも知っている情報だ。
だが、この場で怒りを露わにした第二王子は、一体婚約者に何をするというのか。貴族たちの目に好奇心が宿る。
それに、第二王子の隣には元平民として名が知られている男爵令嬢が居た。恋人のように仲睦まじく、第二王子と手を繋いで。
おおよその状況を察した貴族たちは、さて今宵の酒に合う劇が見られるだろうかと胸を躍らせたのだった。
だが、第二王子が呼びかけてからしばらく経っても件のジェーン・ドゥ公爵令嬢は一向に名乗りを上げない。一体これはどうしたことか、と会場はざわめく。第二王子は苦い顔をしながら、「隠れてやり過ごすつもりか」と吐き捨てた。
「なら、いい。この場に居る皆に聞いていただこう!我が婚約者……と呼ぶのも悍ましい、ジェーン・ドゥの悪辣たる行為の数々を!」
高らかに宣言した第二王子は語る。
婚約者であるジェーン・ドゥが、第二王子と男爵令嬢の仲睦まじさに嫉妬し、男爵令嬢に対して醜い嫌がらせを行ったと。
男爵令嬢に対する嫌味や陰口、偶然を装ってぶつかる、持ち物を隠す或いは壊す。階段から突き落とす、などなど。
どうやら第二王子は、ジェーン・ドゥ公爵令嬢が後で証拠を隠滅しないよう数多の人間に証人となってもらうべく、この場で発表したらしい。
そして、ついには「ジェーン・ドゥ公爵令嬢との婚約を破棄する」とまで宣言し、周囲のざわめきは一層大きくなった。
「どうだ!ここまで言ってもまだ姿を見せないつもりか!今すぐに出て地面に平伏し謝罪すれば命だけは助けてやるぞ!」
まるで正義の英雄のように、第二王子は息巻く。その姿を男爵令嬢はうっとりと見つめていた。
悪事を並べられ、一方的な婚約破棄宣言。
屈辱の極みで、傍観者たる貴族たちはあの場の役者が自分でなくて良かったと心底安心する。
同時に、不思議に思うのだ。
何故ここまで言われて、ジェーン・ドゥ公爵令嬢は声を上げないのかと。
突然、会場の扉が開いた。
視線が一斉にそちらを向く。そこには国王陛下と王妃が居た。
慌てて礼をする貴族たちに目もくれず、陛下は真っすぐに第二王子のところへと向かった。
自分の行いが褒められると思ったのか、第二王子は「父上、母上」と笑みを浮かべる。
だが、陛下は厳めしい表情で第二王子と男爵令嬢を見やり、「話がある。ついてきなさい」とやや早口で言って二人を連れ出した。
王妃は「我が息子がお騒がせして申し訳ありません。どうぞ、パーティーの続きをお楽しみください」と全淑女の見本たる美しい微笑みを浮かべ、陛下たちの後を追ったのだった。
一体何だったのだろう、と頭上に疑問符を浮かべる貴族たちは、真相を知ることはない。
345
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
婚約破棄しようがない
白羽鳥(扇つくも)
恋愛
「アンリエット、貴様との婚約を破棄する!私はリジョーヌとの愛を貫く!」
卒業式典のパーティーでばかでかい声を上げ、一人の男爵令嬢を抱き寄せるのは、信じたくはないがこの国の第一王子。
「あっそうですか、どうぞご自由に。と言うかわたくしたち、最初から婚約してませんけど」
そもそも婚約自体成立しないんですけどね…
勘違い系婚約破棄ものです。このパターンはまだなかったはず。
※「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載。
もう好きと思えない? ならおしまいにしましょう。あ、一応言っておきますけど。後からやり直したいとか言っても……無駄ですからね?
四季
恋愛
もう好きと思えない? ならおしまいにしましょう。あ、一応言っておきますけど。後からやり直したいとか言っても……無駄ですからね?
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
愛する彼には美しい愛人が居た…私と我が家を侮辱したからには、無事では済みませんよ?
coco
恋愛
私たちは仲の良い恋人同士。
そう思っていたのに、愛する彼には美しい愛人が…。
私と我が家を侮辱したからには、あなたは無事では済みませんよ─?
ご自分の病気が治ったら私は用無しですか…邪魔者となった私は、姿を消す事にします。
coco
恋愛
病気の婚約者の看病を、必死にしていた私。
ところが…病気が治った途端、彼は私を捨てた。
そして彼は、美しい愛人と結ばれるつもりだったが…?
みんながまるくおさまった
しゃーりん
恋愛
カレンは侯爵家の次女でもうすぐ婚約が結ばれるはずだった。
婚約者となるネイドを姉ナタリーに会わせなければ。
姉は侯爵家の跡継ぎで婚約者のアーサーもいる。
それなのに、姉はネイドに一目惚れをしてしまった。そしてネイドも。
もう好きにして。投げやりな気持ちで父が正しい判断をしてくれるのを期待した。
カレン、ナタリー、アーサー、ネイドがみんな満足する結果となったお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる