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第三部第二章 国奪りイベント(祭り本番)
セッション82 魔女
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「う……ううっ……」
「フフフ」
切り刻まれた忍が呻き声を上げる。六人中四人がダメージが大き過ぎて、地面から起き上がる事が出来なかった。そんな彼らを見下して則天がほくそ笑む。苦しんでいる人間を見て喜ぶとは、嗜虐症は相変わらずのようだ。
「そぉくてぇぇぇぇん――!」
そんな則天に理伏が飛び掛かった。手にした刀には螺旋状の風を纏っていた。忍術の一つ、『天津風』だ。削岩機の如き風刃が則天に迫る。
「五連『中級流水魔術』!」
対する則天は五つの魔法陣を展開した。魔法陣から水柱が迸る。一発目の水柱が『天津風』を砕き、二発目が理伏の刀を弾いた。三発目が理伏を強かに叩き、四発目五発目が追い打ちを掛ける。あっという間に十数メートル先まで吹き飛ばされてしまった。
斉唱魔術。
己則天には口が五つある。顔に一つ、左右の前腕に一つずつ、左右の上腕に一つずつだ。その口でそれぞれ詠唱する事で五種の魔術を一度に使う事が出来る。彼女が帝国最強の魔法使いと呼ばれる所以だ。
「熱烈な歓迎、感謝するヨ、おチビちゃん」
遠ざかった理伏を則天が嗤う。中級を三発も喰らった理伏はすぐには立ち上がる事は出来ない。
「てめぇは『五渾将』の! なんでこんな場所にいやがる!」
五右衛門が動揺混じりに則天を警戒する。彼らはイタチとシロワニの交渉を知らない。帝国の人間がこの現場に出てくるなど寝耳に水だろう。
「趣味を兼ねた仕事でネ。オマエら『貪る手の盗賊団』を殺しまくれって言われているのヨ。風魔忍軍も巻き添えにしても構わないという話でネ」
「なっ……!」
五右衛門が絶句し、次に歯軋りをする。その顔に先程まで風魔忍軍を相手にしていた時の余裕はない。今や見て取れる程に焦燥し、眉間にはしわを寄せていた。
「『カプリチオ・ハウス』への増援って訳か。風魔を巻き添えにしても良いってのが意味不明だが……冗談じゃねえぜ、『五渾将』を相手にしろだなんてよ」
「逃げても良いヨ。追い掛けて殺すだけだから」
「くそっ!」
悪態を吐く五右衛門。しかし、悪態では現状は変わらない。『五渾将』と戦わなくてはならない事実は変えられないのだ。
そんな五右衛門に則天はクッと口端を歪めると両腕を伸ばし、
「五連『上級大地魔術』――!」
魔術を放った。
重力の奔流が秩父山地を襲う。五方向に展開された加重力が重なって範囲を拡大し、直径五〇〇メートル内の全てを押し潰した。否、引き潰したというべきか。樹木も茂みも人間も一緒くたに地面に引き付けられ、ひしゃげる。たったの数秒で森が更地に均された。
「……アラ」
一際強い震動が起きて、足元の一帯が崩れた。土砂崩れだ。加重力により地盤が剥離したのだ。土と木の固まりが雪崩となって麓へと下る。則天は崩れる直前に気付いていたので跳躍して難を逃れたが、身動きの取れなかった四人の忍、そして下にいた盗賊団員達は土砂崩れに巻き込まれてしまった。幾人もの悲鳴が土の下に呑み込まれる。
「おおっと、危なかったネ。ワタシも巻き込まれる所だったヨ。フフフ、今ので何人死んだかネ?」
「てめぇ、よくも金を掛けて育ててきた部下を!」
五右衛門ががなる。彼もまた地面の震動に危機感を覚えて、急いで離脱していたのだ。それ以前に彼も加重力を受けていた筈だが、良く死ななかったものだ。またしても『悪食』で吸収してやり過ごしたか。
「どすこぉぉぉぉい!」
五右衛門が掌底を則天に突き出す。先刻丸太を粉砕してみせた一撃だ。無防備に喰らえば人間の骨など小枝のように折れる。だというのに、則天はそれを避けようともしなかった。掌底が則天の横っ面を叩く。
「なっ、ああ?」
「淑女の顔を叩くなんて躾のなっていない男ネ」
則天は僅かに揺らいだだけでビクともしなかった。まるで大木を叩いたかのような不動っぷりだ。五右衛門の掌には口があり、今も強く噛み付いている。なのに則天の血肉を喰い千切る事が出来ない。
困惑する五右衛門に則天が右手を柔らかく差し出す。
「五連『初級迅雷魔術』」
則天の掌から電流が迸る。眩い火花が夜闇を灼いた。
「ぐぅおおおおお――っ!」
絶叫を上げて地面に膝を突く五右衛門。初級とはいえ五連続も受けるのはさすがに効いた様子だ。
「はあ、はあ……くっ…………聞いた事がある。『五渾将』はそれぞれの分野で最強を誇るってな」
全身から焦げ臭い煙を上げながら五右衛門が則天を見上げる。則天の頬からは血が一筋流れていた。五右衛門の噛み付いた痕だ。だが、浅い。薄皮一枚しか破けていない。
「対人戦最強は『ナイ神父』ナイ・R・T・ホテップ。
対軍戦最強は『暗黒のファラオ』ネフレン=カ。
応用力最強は『狡知の神』ロキ。
攻撃力最強は『悪心影』織田信長。そして――」
「――そう。防御力最強こそがこのワタシ、『膨れ女』己則天ヨ」
則天が得意満面になる。
「ワタシの本来の体重は三〇〇キログラム。それを五〇キログラム以下の体型になるまで圧縮した。骨も肉も六倍以上の密度ネ。元よりこの身は混沌の怪物。それを圧縮して更に強くしたのがこの肉体。どんな攻撃も通さないヨ」
「この魔女め……!」
睨む五右衛門に嘲笑する則天。二人の視線が激しく交わる。
「則天!」
そこに理伏の恨み声が響いた。見れば、満身創痍の理伏がそれでも懸命に立っていた。たまたま土砂崩れの逆方向に飛ばされていたお陰で助かったようだ。彼女もまた加重力を喰らっていたのだが、則天が詠唱破棄したせいで威力が落ちていたのだろう。無論、日頃の鍛錬の賜物でもある。
あるいは復讐心故にか。己則天は理伏の両親の仇だ。恨み辛みの感情が彼女の体に鞭を打ったか。
則天の目が理伏に向けられた刹那、五右衛門が地面を蹴って則天から距離を取った。
「団長! 何が起きたんでさぁ!?」
「理伏、無事か!?」
騒ぎを聞きつけた風魔忍軍と盗賊団員達が集まってくる。双方共に戸惑いの表情を浮かべていたが、則天を視界に入れた瞬間に状況を理解した。経緯は不明だが、この女を先に倒さなくてはならないと。さもなくば自分達が殺されると。則天が放つ喜色の殺意を浴びてそう悟った。
「クソ! なんでさっきまで殺し合っていた奴らと手を組まなきゃいけねえんだ?」
「それはこちらの台詞で御座る。しかし、うだうだ言っている余裕はありますまい。あの女はこちらを纏めて血祭りにするつもりで御座る」
「畜生めが! もう滅茶苦茶だ!」
五右衛門が苛立つが、その態勢は既に則天へを向けられていた。
敵意の中心で則天が両手を広げる。五つの口が愉悦を堪え切れないとぎちぎちと歯軋りをする。
「さあ、派手に遊ぼうカ!」
血みどろの戦いが始まった。
「フフフ」
切り刻まれた忍が呻き声を上げる。六人中四人がダメージが大き過ぎて、地面から起き上がる事が出来なかった。そんな彼らを見下して則天がほくそ笑む。苦しんでいる人間を見て喜ぶとは、嗜虐症は相変わらずのようだ。
「そぉくてぇぇぇぇん――!」
そんな則天に理伏が飛び掛かった。手にした刀には螺旋状の風を纏っていた。忍術の一つ、『天津風』だ。削岩機の如き風刃が則天に迫る。
「五連『中級流水魔術』!」
対する則天は五つの魔法陣を展開した。魔法陣から水柱が迸る。一発目の水柱が『天津風』を砕き、二発目が理伏の刀を弾いた。三発目が理伏を強かに叩き、四発目五発目が追い打ちを掛ける。あっという間に十数メートル先まで吹き飛ばされてしまった。
斉唱魔術。
己則天には口が五つある。顔に一つ、左右の前腕に一つずつ、左右の上腕に一つずつだ。その口でそれぞれ詠唱する事で五種の魔術を一度に使う事が出来る。彼女が帝国最強の魔法使いと呼ばれる所以だ。
「熱烈な歓迎、感謝するヨ、おチビちゃん」
遠ざかった理伏を則天が嗤う。中級を三発も喰らった理伏はすぐには立ち上がる事は出来ない。
「てめぇは『五渾将』の! なんでこんな場所にいやがる!」
五右衛門が動揺混じりに則天を警戒する。彼らはイタチとシロワニの交渉を知らない。帝国の人間がこの現場に出てくるなど寝耳に水だろう。
「趣味を兼ねた仕事でネ。オマエら『貪る手の盗賊団』を殺しまくれって言われているのヨ。風魔忍軍も巻き添えにしても構わないという話でネ」
「なっ……!」
五右衛門が絶句し、次に歯軋りをする。その顔に先程まで風魔忍軍を相手にしていた時の余裕はない。今や見て取れる程に焦燥し、眉間にはしわを寄せていた。
「『カプリチオ・ハウス』への増援って訳か。風魔を巻き添えにしても良いってのが意味不明だが……冗談じゃねえぜ、『五渾将』を相手にしろだなんてよ」
「逃げても良いヨ。追い掛けて殺すだけだから」
「くそっ!」
悪態を吐く五右衛門。しかし、悪態では現状は変わらない。『五渾将』と戦わなくてはならない事実は変えられないのだ。
そんな五右衛門に則天はクッと口端を歪めると両腕を伸ばし、
「五連『上級大地魔術』――!」
魔術を放った。
重力の奔流が秩父山地を襲う。五方向に展開された加重力が重なって範囲を拡大し、直径五〇〇メートル内の全てを押し潰した。否、引き潰したというべきか。樹木も茂みも人間も一緒くたに地面に引き付けられ、ひしゃげる。たったの数秒で森が更地に均された。
「……アラ」
一際強い震動が起きて、足元の一帯が崩れた。土砂崩れだ。加重力により地盤が剥離したのだ。土と木の固まりが雪崩となって麓へと下る。則天は崩れる直前に気付いていたので跳躍して難を逃れたが、身動きの取れなかった四人の忍、そして下にいた盗賊団員達は土砂崩れに巻き込まれてしまった。幾人もの悲鳴が土の下に呑み込まれる。
「おおっと、危なかったネ。ワタシも巻き込まれる所だったヨ。フフフ、今ので何人死んだかネ?」
「てめぇ、よくも金を掛けて育ててきた部下を!」
五右衛門ががなる。彼もまた地面の震動に危機感を覚えて、急いで離脱していたのだ。それ以前に彼も加重力を受けていた筈だが、良く死ななかったものだ。またしても『悪食』で吸収してやり過ごしたか。
「どすこぉぉぉぉい!」
五右衛門が掌底を則天に突き出す。先刻丸太を粉砕してみせた一撃だ。無防備に喰らえば人間の骨など小枝のように折れる。だというのに、則天はそれを避けようともしなかった。掌底が則天の横っ面を叩く。
「なっ、ああ?」
「淑女の顔を叩くなんて躾のなっていない男ネ」
則天は僅かに揺らいだだけでビクともしなかった。まるで大木を叩いたかのような不動っぷりだ。五右衛門の掌には口があり、今も強く噛み付いている。なのに則天の血肉を喰い千切る事が出来ない。
困惑する五右衛門に則天が右手を柔らかく差し出す。
「五連『初級迅雷魔術』」
則天の掌から電流が迸る。眩い火花が夜闇を灼いた。
「ぐぅおおおおお――っ!」
絶叫を上げて地面に膝を突く五右衛門。初級とはいえ五連続も受けるのはさすがに効いた様子だ。
「はあ、はあ……くっ…………聞いた事がある。『五渾将』はそれぞれの分野で最強を誇るってな」
全身から焦げ臭い煙を上げながら五右衛門が則天を見上げる。則天の頬からは血が一筋流れていた。五右衛門の噛み付いた痕だ。だが、浅い。薄皮一枚しか破けていない。
「対人戦最強は『ナイ神父』ナイ・R・T・ホテップ。
対軍戦最強は『暗黒のファラオ』ネフレン=カ。
応用力最強は『狡知の神』ロキ。
攻撃力最強は『悪心影』織田信長。そして――」
「――そう。防御力最強こそがこのワタシ、『膨れ女』己則天ヨ」
則天が得意満面になる。
「ワタシの本来の体重は三〇〇キログラム。それを五〇キログラム以下の体型になるまで圧縮した。骨も肉も六倍以上の密度ネ。元よりこの身は混沌の怪物。それを圧縮して更に強くしたのがこの肉体。どんな攻撃も通さないヨ」
「この魔女め……!」
睨む五右衛門に嘲笑する則天。二人の視線が激しく交わる。
「則天!」
そこに理伏の恨み声が響いた。見れば、満身創痍の理伏がそれでも懸命に立っていた。たまたま土砂崩れの逆方向に飛ばされていたお陰で助かったようだ。彼女もまた加重力を喰らっていたのだが、則天が詠唱破棄したせいで威力が落ちていたのだろう。無論、日頃の鍛錬の賜物でもある。
あるいは復讐心故にか。己則天は理伏の両親の仇だ。恨み辛みの感情が彼女の体に鞭を打ったか。
則天の目が理伏に向けられた刹那、五右衛門が地面を蹴って則天から距離を取った。
「団長! 何が起きたんでさぁ!?」
「理伏、無事か!?」
騒ぎを聞きつけた風魔忍軍と盗賊団員達が集まってくる。双方共に戸惑いの表情を浮かべていたが、則天を視界に入れた瞬間に状況を理解した。経緯は不明だが、この女を先に倒さなくてはならないと。さもなくば自分達が殺されると。則天が放つ喜色の殺意を浴びてそう悟った。
「クソ! なんでさっきまで殺し合っていた奴らと手を組まなきゃいけねえんだ?」
「それはこちらの台詞で御座る。しかし、うだうだ言っている余裕はありますまい。あの女はこちらを纏めて血祭りにするつもりで御座る」
「畜生めが! もう滅茶苦茶だ!」
五右衛門が苛立つが、その態勢は既に則天へを向けられていた。
敵意の中心で則天が両手を広げる。五つの口が愉悦を堪え切れないとぎちぎちと歯軋りをする。
「さあ、派手に遊ぼうカ!」
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