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第二部第五章 クーデターイベント(後日談)

セッション64 決算

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 A級傭兵ギルド『ザウム戦士団』二七六名全員死亡。
 A級冒険者パーティー『蜘蛛の神足』八名全員死亡。
 B級冒険者パーティー『阿武馬』四〇名全員死亡。
 C級冒険者パーティー『ハオン・クラブ』六六名全員死亡。
 山岳連邦兵士一五三名が死亡。
 ――合計死亡者数、五四三名。山岳連邦で起きたクーデター、あの一日、あの場所だけで五〇〇人もの人間が死んだのだ。

 この内、死亡者には桜嵐玻璃を含んでいる。

 三護が調べた所、彼はゴーレムと不死者アンデッドの中間の存在となったらしい。ゴーレムというのは三護の器と同じ――生体式ゴーレムの事だ。死体を加工して細胞を活性化させ、擬似的に生きている状態にする。死者でありながら生者でもあるその肉体に、無念や怨念といった残留思念が宿ったのが今の彼だ。
 今の桜嵐は生前の桜嵐ではない。彼は間違いなく死んだのだ。


 桜嵐が死んだ一方で、僕達イタチ一派は全員が生き残った。だが、それは僕たちが強かったからではない。幸運だっただけだ。少しでも運が悪ければ、僕達も死んでいた。

 桜嵐が先にロキと戦って、ロキに致命傷を与えて戦闘力を半減させてくれていなければ、僕達に勝ち目はなかった。
 馬王スレイプニルが理伏とイタチを蛇王ヨルムンガンドからくれていなければ、二人とも蛇王の猛毒で死んでいた。
 イタチの矢が理伏の右肩ではなく胴体に命中していたら、理伏は死んでいた。
 三護が『不死否定魔術モルディギアン』を習得していなかったら、ゾンビの群れを突破出来なかった。ホールで散開する前にヘルが姿を現してくれていなければ、戦力不足で僕達も死んでいた。ヘルがロキからシュブ=ニグラスの事を聞いていなかったら、僕はとどめを刺されていた。ロキが己則天からシュブ=ニグラスの事を聞いていなかったら、僕は胴体を突き刺されて死んでいた。ロキが自身の回復ではなく逃走を優先していたら、捕まえる術はなかった。

 数々の幸運が積み重なった末に、僕達はロキ一家に勝利出来た。五〇〇人もの犠牲があったからこそ掴めた勝利だった。

 お陰でクーデターも成功した。
 ロキが正体を現すまで議会には反発と葛藤の空気が満ちていたが、ロキ登場後は全員が二荒王国との停戦とダーグアオン帝国への対策を優先する事を受け入れた。ロキが自分の工作活動を暴露した事で、王国との戦争に拘泥していられる場合ではないと理解したのだ。隣国との対立が帝国に唆されたものだと知って、ショックを受けた議員が多かった結果だ。ロキの襲撃が帝国の脅威を説くには絶好の機会となった訳だ。
 議長には浅間栄が就任し、最初から彼女に賛同していた赤城が副議長として栄をサポートする事になった。これには栄を唆したイタチもニッコリだ。


 余談だが、桜嵐は「姉は俺という戦力を手放したくなかっただけ」で、栄が桜嵐を本当は愛していないかの様な言い方をしていたが、実際はそうでもなかったんじゃないかと思う。栄にとって桜嵐は戦力以外にも意味はあったんじゃないかと。

 じゃなければ……弟の死体の前で、あんなにわんわんと泣き喚くものかよ。
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