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第1章 路上試合/チュートリアル
第2転 桃太郎の転生者
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異世界転生軍による決闘宣言より四日後。岡山県某所。
「嫌だっつってんじゃん!」
その少年――百地吉備之介は街中を疾走していた。
日本人だが、髪は黒色ではなく桃色だ。癖っ毛で、あちこちが跳ねている。顔つきはそれなりに整っている方だが、凛々しいというよりも可愛らしいと言った方が近い風貌だ。服装は何の変哲もない黒の学ランである。
そんな髪色以外はごく普通の学生といった容貌の少年が街中を逃げ回っていた。少年を追い掛けるのは五人の男だ。それぞれ鍛えられた肉体をスーツに包み込み、サングラスを掛けている。某逃走バラエティーのハンターを彷彿とさせる怪しさ抜群な出で立ちだ。
男達は息も絶え絶えになりながらも吉備之介の事をこう呼んだ。
「――お待ち下さい、『桃太郎』様!」と。
「待つ訳ねえだろ! お前ら、俺を何だと思ってやがる!?」
男達とは対照的に殆ど息を切らさず、吉備之介が怒鳴り返す。
「ただの高校生だぞ! それが何だ、急に決闘しろとか! しかも普通の人間じゃなくて剣と魔法の世界の住人が相手だと!? 意味不明にも程があるだろ展開! お前ら男子高校生に何を期待してやがんだ馬鹿か!」
「しっ、しししかしっ……! 貴方は『桃太郎』その人なのでは!?」
「それはっ……そうだけどよお」
男達の指摘に吉備之介は言い淀む。その間にも彼らの脚は止まらない。
「ああ、そうさ。確かに俺の前世『桃太郎』だ。それはもう思い出している。それを誤魔化すつもりはねえよ」
この少年――吉備之介は何を隠そう、『桃太郎』の輪廻転生者である。
日本屈指の大英雄。侍の象徴的存在。御伽噺の第一人者。それが桃太郎だ。前世を忘却して日本の一般家庭の子に転生し、学生として凡庸で貴重な青春を謳歌していた彼だったが、今は前世の記憶を取り戻していた。
否、神々によって取り戻させられたのだ。この魔王城から決闘宣言が流れるよりも少し前に、神々が彼を自分達の尖兵にせんが為に。だが、
「けどな、それで『桃太郎』そのものになった訳じゃねえんだよ。俺は俺、ただの高校生の餓鬼だ。高校生がいきなり殺し合いをしろって言われて、できると思うか? 思わねえだろ常識的に考えろ!」
戻ったのは記憶だけだ。人格まで『桃太郎』に戻った訳ではない。『桃太郎』としての自覚を持ちながら人格は吉備之介のままだったのだ。
並外れて感情移入する映画を見た後のようなものと言えば分かり易いだろうか。『桃太郎』としての経験を後天的に植え付けられただけだ。結果、「軍人としての覚悟がないまま戦場に連行されそうになっている天才少年兵」というのが彼の現状だ。
「嫌だっつってんじゃん!」
その少年――百地吉備之介は街中を疾走していた。
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男達は息も絶え絶えになりながらも吉備之介の事をこう呼んだ。
「――お待ち下さい、『桃太郎』様!」と。
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男達とは対照的に殆ど息を切らさず、吉備之介が怒鳴り返す。
「ただの高校生だぞ! それが何だ、急に決闘しろとか! しかも普通の人間じゃなくて剣と魔法の世界の住人が相手だと!? 意味不明にも程があるだろ展開! お前ら男子高校生に何を期待してやがんだ馬鹿か!」
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「それはっ……そうだけどよお」
男達の指摘に吉備之介は言い淀む。その間にも彼らの脚は止まらない。
「ああ、そうさ。確かに俺の前世『桃太郎』だ。それはもう思い出している。それを誤魔化すつもりはねえよ」
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